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第10章 位相編

どこ?

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 幸奈と俺が同時に飛ばされた?
 そんなこと起こり得るのか?

「……」

 いや、さすがに違うな。
 あの異能者は対象に手を触れず転移させることなどできないんだ。

 それに、今も浴槽の中にいる幸奈が転移直後だとは思えない。
 何より、さっきまでの幸奈とは明らかに様子が異なっている。

「……」

 気味の悪い液体に体を沈めている幸奈の首から上。
 どう見ても雰囲気が違うだろ。
 さらに、髪形も。
 位相空間では肩の上までしかなかった髪がロングになって……。

 この幸奈は、位相空間にいた幸奈じゃない?
 だとしたら、いったい?


「っ! 功己!」

 ん?

「こっち見ないで! あっち向いてて」

「あっ、ああ、悪い」

 わけは分からないが、幸奈が浴槽に浸かっているのは事実。
 そんな姿をまじまじと見ちゃいけないよな。

「ねえ……」

 背中に幸奈の震える声が届いてくる。

「どうして……?」

 空間異能者の力や位相についてある程度理解している俺ですら混乱中なんだ。
 幸奈が動揺するのも当然だろう。

「どうして、こんな? 地下室に功己が……?」

「……」

 まだ、まともに会話できる状態じゃない。
 詳しい話は幸奈が落ち着いてからにすべき。
 なのだが、ひとつだけ。

「幸奈、今は……?」

 荒唐無稽な疑問を解消してほしい。

「今、何歳なんだ?」

「えっ? 何言ってるの?」

「いいから教えてくれ。何歳なんだ?」

「……15歳よ」

 なっ!?

「15歳?」

 ここにいる幸奈が15歳だって!
 そんな!!

 あり得ない。
 信じられない。

 けど確かに……。

 俺の後ろにいる幸奈は、ついさっき目にした幸奈は、20歳には見えなかった。

 この状況だから、しっかりと見たわけじゃない。
 それでも、若干幼い容姿にロングの髪形。

 今の幸奈ではなく、俺の記憶の中の15歳の幸奈と一致している。

「……」


「どうして年齢を聞いたの?」

「それは……」

 何て答えればいい?
 言葉がまったく浮かんでこない。

「別にいいけど」

「……」

「でも、功己はどうやって地下室に? ここは秘密の部屋なのよ。お父様が入室を許可するわけないし、鍵だってかかっているはずなのに?」

 そうだよな。
 戸惑ってしまうよな。

 いきなり俺が現れたんだから。
 しかも入り口からでなく、何もない空間から突然。

「どういうことなの?」

「……」

 俺にも分からない。
 どうして、15歳の幸奈と遭遇しているのか理解できない。

 分かっているのは、皆がいる位相空間から転送されたという事実だけ。
 だから、ここがあの地下室なら納得できる。

 けれど。
 俺の後ろには15歳の幸奈がいる。
 よく見れば、地下室の様子もさっきとは違う。

 ということは……。

 ここは、数分前まで俺がいた和見家の地下室じゃない?

 なら、どこだと?
 和見家の地下室であることに違いはないのに?

「……」

 まさか?

 いや、その前にあちらの様子の確認だ。
 皆は無事なのか?

 眼に魔力を集め、位相空間を視認……できない!?
 あの空間を知覚できない?

「っ!」

 どんなに魔力を眼に集めても意識を集中しても駄目。
 さっきは見えていた位相空間。
 見えるはずの空間が……視えない。

「……」

 皆のいる空間を知覚できない以上、さっき使った空間移動の利用も当然不可能だ。
 つまり、今の俺には皆のもとに戻る手段がない。
 そういうことになってしまう。



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