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第9章 推理編
火事 1
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「火事だと? 奥のどこが燃えてる? 火元は?」
「分からない。火が激しくて先に進めないんだ」
「消火してんのか?」
「今やってる最中だが水が足りない。ヴァーンも手伝ってくれ」
「いや、水ならコーキ、シア、ユーフィリアの魔法だろ」
「それは助かる!」
火勢にもよるが、確かに火魔法は有効だな。
「俺は長老に伝えてくるから頼んだぞ」
「おう」
しかし、エンノアで火事?
地下での火の災害は大惨事になる可能性が高いからと、彼らは火の扱いには細心の注意を払っていたのに?
「3人とも魔力に問題はねえよな?」
「ええ」
「平気」
「コーキは?」
「……問題ない」
「よし! 行くぞ」
「ちょっと待って、ヴァーン」
通路の奥へ足を進めようとするヴァーンを止めたのはシア。
「何だ?」
不満顔を隠せないヴァーンの傍ら。
シアが右手でヴァーンの腕を掴みながら、目だけをセレス様に向けている。
「セレス様、よろしいですか?」
「……ええ、今はエンノアの緊急事態です。私たちにできることがあれば手伝いましょう」
「分かりました」
「セレスさんの許可が出たんだ。3人とも急ぐぞ」
ヴァーンが早口で言葉を発し、走りだす。
シアとユーフィリアもその後ろを追って駆け出した。
こちらはというと……。
セレス様のもとに残ったまま。
「コーキさん?」
そんな俺に疑問の声。
アルもディアナも物言いたげな表情だ。
「私はセレス様の護衛を続けます」
「ここにはディアナとアルもいますので、コーキさんは消火を手伝う方が……?」
「セレス様の言う通り、おれとディアナさんがいれば十分だって。コーキさんは行ってくれよ」
「……」
平時なら俺もそうするだろう。が、今はセレス様の傍を離れる気になれない。特にこの火は犯人の仕掛けかもしれないのだから。
「我ら2人では足りぬ? 安心できぬというのか?」
「それは違う」
ディアナの思い違いだ。
「いや、コーキ殿は自分以外は信用できないのだろう?」
「コーキさん?」
だから、違う。
俺はディアナもアルも信じている。
ただ、この犯人は何をするか予測のつかない相手。
2人だけでは心許ないんだ。
「……」
けど、それはつまり……。
信用していない、と。
「……」
「……」
3人の間に気まずい沈黙が続く中。
「分かりました。では、私も向かいます」
見かねたのだろうセレス様が、通路の奥へと歩き出してしまった。
「まだ奥のようね」
セレス様が立ち止まったこの地点からも火の勢いは感じられる。
火元もそう遠くないはず。
「はい、先にある部屋辺りが火元かもしれません」
「先にあるというと、石牢?」
「その可能性が高そうです」
「だったら、レザンジュの捕虜たちが危ないのでは?」
「……」
石牢付近で火が出たということなら、牢内に閉じ込めておいた2人の命も保証はできない。彼女たちは今のワディンにとって切り札の1つになり得るのだが……。
「急ぎますよ」
小走りで進むセレス様を護りながら少し進むと、遠目に炎が見えてきた。
そろそろ危ないか?
と感じ始めたところで。
「セレス様、これ以上は危険です」
俺より先にセレス様を止めてくれたのはディアナ。
「まだ大丈夫」
「いえ、火を侮ってはいけません」
「おれもそう思います」
「ディアナ、アル……」
「分からない。火が激しくて先に進めないんだ」
「消火してんのか?」
「今やってる最中だが水が足りない。ヴァーンも手伝ってくれ」
「いや、水ならコーキ、シア、ユーフィリアの魔法だろ」
「それは助かる!」
火勢にもよるが、確かに火魔法は有効だな。
「俺は長老に伝えてくるから頼んだぞ」
「おう」
しかし、エンノアで火事?
地下での火の災害は大惨事になる可能性が高いからと、彼らは火の扱いには細心の注意を払っていたのに?
「3人とも魔力に問題はねえよな?」
「ええ」
「平気」
「コーキは?」
「……問題ない」
「よし! 行くぞ」
「ちょっと待って、ヴァーン」
通路の奥へ足を進めようとするヴァーンを止めたのはシア。
「何だ?」
不満顔を隠せないヴァーンの傍ら。
シアが右手でヴァーンの腕を掴みながら、目だけをセレス様に向けている。
「セレス様、よろしいですか?」
「……ええ、今はエンノアの緊急事態です。私たちにできることがあれば手伝いましょう」
「分かりました」
「セレスさんの許可が出たんだ。3人とも急ぐぞ」
ヴァーンが早口で言葉を発し、走りだす。
シアとユーフィリアもその後ろを追って駆け出した。
こちらはというと……。
セレス様のもとに残ったまま。
「コーキさん?」
そんな俺に疑問の声。
アルもディアナも物言いたげな表情だ。
「私はセレス様の護衛を続けます」
「ここにはディアナとアルもいますので、コーキさんは消火を手伝う方が……?」
「セレス様の言う通り、おれとディアナさんがいれば十分だって。コーキさんは行ってくれよ」
「……」
平時なら俺もそうするだろう。が、今はセレス様の傍を離れる気になれない。特にこの火は犯人の仕掛けかもしれないのだから。
「我ら2人では足りぬ? 安心できぬというのか?」
「それは違う」
ディアナの思い違いだ。
「いや、コーキ殿は自分以外は信用できないのだろう?」
「コーキさん?」
だから、違う。
俺はディアナもアルも信じている。
ただ、この犯人は何をするか予測のつかない相手。
2人だけでは心許ないんだ。
「……」
けど、それはつまり……。
信用していない、と。
「……」
「……」
3人の間に気まずい沈黙が続く中。
「分かりました。では、私も向かいます」
見かねたのだろうセレス様が、通路の奥へと歩き出してしまった。
「まだ奥のようね」
セレス様が立ち止まったこの地点からも火の勢いは感じられる。
火元もそう遠くないはず。
「はい、先にある部屋辺りが火元かもしれません」
「先にあるというと、石牢?」
「その可能性が高そうです」
「だったら、レザンジュの捕虜たちが危ないのでは?」
「……」
石牢付近で火が出たということなら、牢内に閉じ込めておいた2人の命も保証はできない。彼女たちは今のワディンにとって切り札の1つになり得るのだが……。
「急ぎますよ」
小走りで進むセレス様を護りながら少し進むと、遠目に炎が見えてきた。
そろそろ危ないか?
と感じ始めたところで。
「セレス様、これ以上は危険です」
俺より先にセレス様を止めてくれたのはディアナ。
「まだ大丈夫」
「いえ、火を侮ってはいけません」
「おれもそう思います」
「ディアナ、アル……」
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