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第8章 南部動乱編

話が違う

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<メルビン視点>



「カーンゴルムで、んなことが起こってんのか?」

「ああ、間違いない。確かな筋からの情報だ」

「となると、まさか……黒都に戒厳令が?」

「大いにあり得るだろうな」

「大いにかよ……」

 現在、黒都カーンゴルムは第一王子アイスタージウスに抑えられている。
 その状況は極めて彼に有利なものだ。

 王軍の大半がワディナート、トゥレイズに駐留し、軍部の主だった者が王都を離れている現状。王子に対抗できるような大きな軍事勢力など黒都には存在しないのだから。

 つまり、すんなりと権力の移行が進む可能性は高い。
 戒厳令を敷く必要などないのかもしれない。
 ただ、不透明な部分もいくつか存在すると聞く。
 であるなら、ある程度の規制も十分考えられるだろう。

「あの糞王子! 最悪だわ」

「そうか? 善悪はどうあれ、大した行動力だと思うぞ」

 大事を実行する力に、この恵まれた状況。
 実力に加え、運も良いと言える。
 状況も含め、全ては王子の計画通りかもしれないがな。

「要らねえよ、そんな行動力なんざ」

「……」

「ったく、話が違うぜ」

「違うも何も、今初めて話したことだ」

「そうじゃねえ」

 そうじゃない?
 何が言いたい?

「戒厳令下でどうしろってんだ?」

「……自分の仕事をするだけだな」

「だから、そういうんじゃねえだろ」

「……」

「戒厳令下の黒都だぞ。夜を楽しめねえじゃねえか」

 イリアル……。

「やっと戻れると思ったら、規制中の王都ってよぉ」

 そうだな。
 おまえはそういう男だったよな。

「はあ~、俺の楽しみはどこいっちまった?」

 本当にどこまでも自分の欲望に忠実なやつだ。
 いっそ、羨ましく思えてしまうぞ。

「っとに、いつも俺だけ貧乏くじだぜ」

「……近い内に黒都も落ち着くだろ」

「近い内っていつだよ?」

「上手くいけば、おまえが黒都に到着する頃には規制が解かれているかもな。いや、そもそも戒厳令が出されない可能性だってある」

「上手くいかない時は?」

「……」

「戒厳令が続くか、下手すりゃ、また戦闘だぞ」

「すぐに武力衝突が起きる可能性は低い」

 第一王子の兵力と戦えるのはトゥレイズ、ワディナートの駐留軍くらいだが、音頭をとる者がいるとは考えがたい。対抗馬と目されていたエリシティア王女も子飼いの大隊から離れ白都に留まったまま。
 となれば、しばらくは戦闘が行われることもないはず。

「また可能性かよ」

「未来を断定などできん。可能性で語るのは当然だ」

「ちっ!」

「この状況で、すぐに動ける将軍がレザンジュにいると思うのか? 第一王子と敵対するだけの気骨を持った者が?」

 聞くまでもない。
 イリアルも十分理解していることだ。

「……いねえな」

「いないなら、問題はない。黒都も早晩落ち着く」

「……」

 敵対する者がおらず。
 既に様々な手を打っているであろう第一王子。
 話は早いに違いない。

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