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第8章 南部動乱編

異例

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<トゥオヴィ視点>



 身を横たえた石畳は無慈悲な牢獄のよう。
 ただ空虚に、ひんやりとした湿気だけを感じてしまう。
 いまだこの身の動揺はおさまらず、思考は千々に乱れているというのに。

「まだ口を割らぬか?」

「「……」」

「厚顔にも己らの悪行を忘れたようだな」

 私とリヒャルド様の前に立つのは、相変わらず傲慢な態度を崩そうともしないワディン騎士。その心情を慮れば理解できなくもないが……。

「とはいえ、この状況で態度を変えないとは」

「「……」」

「敵ながら大したものだ」

「「……」」

「年若い女性の身でその地位に就いただけのことはある、ということか」

 私もリヒャルド様もいまだ20代。
 今の地位は普通ではないと言える。

「それにしても、レザンジュ軍部としては珍しい人事だろ」

 この男の言う通り。
 私たちの抜擢が異例であることは間違いない。
 ただ、リヒャルド様は王国随一の公爵家の長女であり、私もまた王女であるエリシティア様に若い頃から目を掛けてもらっている。お互い程度に差はあれ、実績も積んでいる。
 つまり、抜擢にはそれなりの理由があるということだ。

「まっ、レザンジュの人事など今はどうでもいい」

「「……」」

「我々としても、ゆっくりしていられないのでな」

「協定に背いて、拷するつもりか?」

「何度も言っているように、協定など考慮するつもりはないぞ」

 いつまでも仁義に欠けることを言ってくれる。
 騎士の風上にも置けないやつだ。

「貴様らに何をしようとも問題などない」

「いや、問題はある。ワディナート戦が始まって3日目に故辺境伯が宣言したであろう。ワディンは独立するとな。であれば、此度の戦は異国間の争い。拷問などできるわけあるまい」

「リヒャルド様?」

 そんな宣言があったのか?

「トゥオヴィは知らぬであろうが、これは紛れもない事実だ。宣言書も領都に残っているからな」

 事実であるなら、協定が効果を発揮してくれる。
 無法な拷問にさらされることもなくなる。

「正式に独立を認められていないワディンに義務だけ強要するとは、さすが小賢しいレザンジュだ」

「「……」」

「が、まあいいだろう。今日のところは穏便に済ませてやる」

 とうことは、拷問はしないと?

「こちらには他にも強力な手があるのだよ」

 どんな術が?
 魔法か、魔道具か?
 まさか、宝具?

「だからな、さっさと吐いた方が身のためだぞ」

「「……」」

 愚かなことを。
 何があろうとも、我らから話すつもりなどないというのに。

「では、スぺリス殿、よろしくお願いします」

「了解しました」

 ワディン騎士の後ろに控えていた奇妙な風体の輩が近づいて来る。
 尋問するのは、ワディン騎士ではなく彼らなのか?

「ふむ……」

 ちょっと待て。
 どこまで近づく気だ?

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