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第8章 南部動乱編
黒都カーンゴルム 5
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※ コーキと別れたウィルはヴァルター、カロリナと共に黒都に残り、父であるレザンジュ王との面会を求めることに。ただ、その心中は穏やかではなく……。
************************
<ウィル視点>
朝から降り続いていた雨がやみ、ちょっとした日差しが埃の舞う部屋の中に差し込んでくる。
一条の光が照らし出すのは普段は目立たない僅かな染み跡。床に残る赤黒く変色したそれは、この部屋に滞在を始めた頃に私が汚してしまったものだ。コーキさんと一緒に部屋の中にいた時に、つい不注意で。
「……」
今はオルドウに帰ってしまったコーキさん。
あの時はまだこの宿にいたんだ。
「はぁ……」
オルドウを離れてもう何日が経っただろう。
まさかカーンゴルムに留まることになるなんて、こんなにも長い間オルドウに戻れないなんて。夕連亭を出発した時には想像もしていなかった。
もちろん、今は十分事情を理解している。
面会を求めている相手が普通ではないので、そう簡単に事が運ぶとも思ってはいない。それでもここまで長引くと、ちょっと……。
当初の予定ではキュベルリアでヴァルターとカロリナに話を聞いて、その後はオルドウに戻るつもりだったのに。
あの時、コーキさんを引き止めなくて良かった。
でも、もし引き止めていたら?
私に付き合ってくれたのかな?
どんなに長くなっても?
今、コーキさんが傍にいれば……。
ううん。
それは贅沢よね。
私にはヴァルターとカロリナがいる。
2人がいつも護ってくれている。
だから、そう。
これ以上を望むのは……。
ほんと、分不相応だ。
「けど、長いなぁ」
オルドウは変わりないかな?
夕連亭は大丈夫?
休暇が大幅に延びちゃって、ベリルさん怒ってるかも。
宿のみんなも……。
「早く帰りたい」
でも、もうすぐだ。
面会が済めば全てが終わる。
父には、一度会えれば十分。
他は何も望まないから。
きっと近い内に帰れる。
オルドウに、夕連亭に戻ることができる。
「5日後です。準備しておいてくださいね、お嬢」
5日後なんだ。
面会の日は。
「……」
あと5日。
長いような短いような。
それでも。
ついに父に会うことができる!
ようやく希望が叶う!
「ウィル様、良かったですね」
「ありがと、ヴァルター、カロリナ」
これも全てヴァルターが手を回してくれたおかげ。
私ひとりでカーンゴルムを訪れていたら、父に会うこともできなかったと思うから。
本当に2人のおかげだ。
ありがたい。
嬉しい。
嬉しい……?
ほんと?
私、嬉しいのかな?
「……」
幼い頃からずっと、父はいないと聞かされてきた。
ヨマリ母さんは私にそう言い続けてきた。
だから、父のことなんて気にもしていなかった。
それなのに、あの夜の事件で父の生存を知って。
こうしてカーンゴルムまでやって来て。
それは……。
父のことを知りたかったから。
私と亡くなったユマリ母さんのことを父がどう思っているのか?
事実を知りたかったから。
ただ、父に会うこと自体は……どうなんだろう?
嬉しい?
ちょっと違うような?
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<ウィル視点>
朝から降り続いていた雨がやみ、ちょっとした日差しが埃の舞う部屋の中に差し込んでくる。
一条の光が照らし出すのは普段は目立たない僅かな染み跡。床に残る赤黒く変色したそれは、この部屋に滞在を始めた頃に私が汚してしまったものだ。コーキさんと一緒に部屋の中にいた時に、つい不注意で。
「……」
今はオルドウに帰ってしまったコーキさん。
あの時はまだこの宿にいたんだ。
「はぁ……」
オルドウを離れてもう何日が経っただろう。
まさかカーンゴルムに留まることになるなんて、こんなにも長い間オルドウに戻れないなんて。夕連亭を出発した時には想像もしていなかった。
もちろん、今は十分事情を理解している。
面会を求めている相手が普通ではないので、そう簡単に事が運ぶとも思ってはいない。それでもここまで長引くと、ちょっと……。
当初の予定ではキュベルリアでヴァルターとカロリナに話を聞いて、その後はオルドウに戻るつもりだったのに。
あの時、コーキさんを引き止めなくて良かった。
でも、もし引き止めていたら?
私に付き合ってくれたのかな?
どんなに長くなっても?
今、コーキさんが傍にいれば……。
ううん。
それは贅沢よね。
私にはヴァルターとカロリナがいる。
2人がいつも護ってくれている。
だから、そう。
これ以上を望むのは……。
ほんと、分不相応だ。
「けど、長いなぁ」
オルドウは変わりないかな?
夕連亭は大丈夫?
休暇が大幅に延びちゃって、ベリルさん怒ってるかも。
宿のみんなも……。
「早く帰りたい」
でも、もうすぐだ。
面会が済めば全てが終わる。
父には、一度会えれば十分。
他は何も望まないから。
きっと近い内に帰れる。
オルドウに、夕連亭に戻ることができる。
「5日後です。準備しておいてくださいね、お嬢」
5日後なんだ。
面会の日は。
「……」
あと5日。
長いような短いような。
それでも。
ついに父に会うことができる!
ようやく希望が叶う!
「ウィル様、良かったですね」
「ありがと、ヴァルター、カロリナ」
これも全てヴァルターが手を回してくれたおかげ。
私ひとりでカーンゴルムを訪れていたら、父に会うこともできなかったと思うから。
本当に2人のおかげだ。
ありがたい。
嬉しい。
嬉しい……?
ほんと?
私、嬉しいのかな?
「……」
幼い頃からずっと、父はいないと聞かされてきた。
ヨマリ母さんは私にそう言い続けてきた。
だから、父のことなんて気にもしていなかった。
それなのに、あの夜の事件で父の生存を知って。
こうしてカーンゴルムまでやって来て。
それは……。
父のことを知りたかったから。
私と亡くなったユマリ母さんのことを父がどう思っているのか?
事実を知りたかったから。
ただ、父に会うこと自体は……どうなんだろう?
嬉しい?
ちょっと違うような?
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