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第7章 南部編
撤退
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幸奈を見つけたローンドルヌ河の中洲。
岸に上陸し、ユーフィリアと共に戦うイリアルが目に入ってきた時。
驚きで息を呑んだのを、はっきりと覚えている。
近くにウラハムがいるのじゃないか?
また魔眼で視られるのでは?
不安が瞬時に押し寄せてきたから。
その予感通り、ウラハムも中州にいた。
ただ、俺がその姿を確認したのは。
彼がこと切れた後だった。
「……」
もしも、ウラハムが無事だったら。
彼の眼から逃れ続ける必要があっただろう。
あるいは……。
けど、もう、そんな心配も無用。
露見を恐れることもない。
王軍から逃げる必要も……。
人の死に安心するなんて。
我ながら浅ましく、卑しく利己的なことだと思う。
20年前の潔癖な俺なら許容できなかったはず。
ただ、今の俺は多くの経験を積んでいる。
敵兵の死も、魔物の死も、何より大切な人の死も。
人の命が軽いこの厳しい世界で生きているんだ。
いつまでも潔癖ではいられない。
そう。
清濁を知る必要がある。
だから……。
本当に、今回は幸運だったと思う。
***********************
<イリアル視点>
「ワディナートまで撤退するんですか?」
「うむ。この状況では戻るしかあるまい」
「そうですけどねぇ」
「……すまない。私の責任だ」
「……」
あの日、中洲から脱出した後。
ローンドルヌ大橋に戻った時には、既に戦闘は終了していた。
まさかの敗戦で……。
それでも、指揮官であるトゥオヴィは生き残り、半数以上の部下も無事だったんだ。最悪の事態を免れることだけはできた。
そう思っていたのに。
トゥオヴィの落ち込む様子は、この世の終わりのよう。
まあな。
彼女が背負っているモノを考えれば、納得はできるけれど……。
「今回の仕掛けは完全に読み違いだった。己の幻術を過信していた」
「敵には恐ろしい従魔がいたんでしょ。それに予想外の高威力広範囲の攻撃魔法を使われ、さらには幻術まで破られて」
最初は驚いた敗戦も。
話を聞くと、やむなしって感じだろ。
「あのダブルヘッド……」
「俺はほとんど見てませんが、普通のダブルヘッドじゃなかったんですよね」
「ああ、おそろしい動きだった」
「攻撃魔法も」
「我らの魔法以上の威力があったな」
ほら。
負けてもおかしいことじゃない。
「今回は想定外が多すぎたってことです。トゥオヴィ様の責任ではないと思いますよ」
「いや、指揮官である私の責任だ。私のせいで多くの部下を……」
指揮官の責任って言やあ、戦闘なんて全てその通りなんだけどな。
「申し訳ない」
仕方ない面もあるんだ。
だからよ。
いい加減、その辛気臭い顔はやめてくれねえか。
ただでさえ、こっちは疲れてんのに。
「……」
激流の中、ウラハムを助けて。
中洲でマッドアリゲーターと戦って。
疲労した体で河を泳ぎ渡って、こっちに合流したんだぜ。
って、ウラハムは死んじまったか。
まっ、俺としちゃあ、魔眼を確保できたから問題ねえけど。
「ウラハムも亡くしてしまった。貴重な魔眼も……」
ウラハムの死は、あいつ自身の問題だぞ。
大橋から落ちたのは明らかにやつの失態だからな。
「ただ……イリアルが無事で良かった」
「いえ、俺がついていながらウラハムを亡くしてしまったので」
「それでもだ。君だけでも無事で本当に……」
「……」
そう言われて悪い気はしねえ。
が、微妙な気持ちになっちまう。
「もう魔眼には頼れないな」
岸に上陸し、ユーフィリアと共に戦うイリアルが目に入ってきた時。
驚きで息を呑んだのを、はっきりと覚えている。
近くにウラハムがいるのじゃないか?
また魔眼で視られるのでは?
不安が瞬時に押し寄せてきたから。
その予感通り、ウラハムも中州にいた。
ただ、俺がその姿を確認したのは。
彼がこと切れた後だった。
「……」
もしも、ウラハムが無事だったら。
彼の眼から逃れ続ける必要があっただろう。
あるいは……。
けど、もう、そんな心配も無用。
露見を恐れることもない。
王軍から逃げる必要も……。
人の死に安心するなんて。
我ながら浅ましく、卑しく利己的なことだと思う。
20年前の潔癖な俺なら許容できなかったはず。
ただ、今の俺は多くの経験を積んでいる。
敵兵の死も、魔物の死も、何より大切な人の死も。
人の命が軽いこの厳しい世界で生きているんだ。
いつまでも潔癖ではいられない。
そう。
清濁を知る必要がある。
だから……。
本当に、今回は幸運だったと思う。
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「ワディナートまで撤退するんですか?」
「うむ。この状況では戻るしかあるまい」
「そうですけどねぇ」
「……すまない。私の責任だ」
「……」
あの日、中洲から脱出した後。
ローンドルヌ大橋に戻った時には、既に戦闘は終了していた。
まさかの敗戦で……。
それでも、指揮官であるトゥオヴィは生き残り、半数以上の部下も無事だったんだ。最悪の事態を免れることだけはできた。
そう思っていたのに。
トゥオヴィの落ち込む様子は、この世の終わりのよう。
まあな。
彼女が背負っているモノを考えれば、納得はできるけれど……。
「今回の仕掛けは完全に読み違いだった。己の幻術を過信していた」
「敵には恐ろしい従魔がいたんでしょ。それに予想外の高威力広範囲の攻撃魔法を使われ、さらには幻術まで破られて」
最初は驚いた敗戦も。
話を聞くと、やむなしって感じだろ。
「あのダブルヘッド……」
「俺はほとんど見てませんが、普通のダブルヘッドじゃなかったんですよね」
「ああ、おそろしい動きだった」
「攻撃魔法も」
「我らの魔法以上の威力があったな」
ほら。
負けてもおかしいことじゃない。
「今回は想定外が多すぎたってことです。トゥオヴィ様の責任ではないと思いますよ」
「いや、指揮官である私の責任だ。私のせいで多くの部下を……」
指揮官の責任って言やあ、戦闘なんて全てその通りなんだけどな。
「申し訳ない」
仕方ない面もあるんだ。
だからよ。
いい加減、その辛気臭い顔はやめてくれねえか。
ただでさえ、こっちは疲れてんのに。
「……」
激流の中、ウラハムを助けて。
中洲でマッドアリゲーターと戦って。
疲労した体で河を泳ぎ渡って、こっちに合流したんだぜ。
って、ウラハムは死んじまったか。
まっ、俺としちゃあ、魔眼を確保できたから問題ねえけど。
「ウラハムも亡くしてしまった。貴重な魔眼も……」
ウラハムの死は、あいつ自身の問題だぞ。
大橋から落ちたのは明らかにやつの失態だからな。
「ただ……イリアルが無事で良かった」
「いえ、俺がついていながらウラハムを亡くしてしまったので」
「それでもだ。君だけでも無事で本当に……」
「……」
そう言われて悪い気はしねえ。
が、微妙な気持ちになっちまう。
「もう魔眼には頼れないな」
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