上 下
568 / 1,157
第7章 南部編

確認

しおりを挟む
<ヴァーンベック視点>



 シアは役目を全うした。責任を果たした。
 それは間違いない。

「ヴァーン……」

「ただし、逃げなかったのは良くねえなぁ」

「うん……」

「まっ、セレスさんが留まると言い張ったんなら、仕方ねえか」

「……」

「それとよ、ありがとな」

「えっ?」

 おまえの気持ち、嬉しかったぜ。

「ヴァーン、何が?」

「……何でもねえよ」

「何でもって、そんな、何なの?」

「まあ、いいじゃねえか」

「……」

「っと、そんなことよりだ。ちっと行ってくるわ」

「行く?」

「ちょっと、コーキの様子を見にな」

「……」

「心配は要らねえぜ」

「危ないわ!」

「問題ねえって。あの怪物の気配を感じたら引き返すつもりだからよ」

 気配を感じ取れればな。

「止めても行くの?」

「……ああ」

「……」

「コーキを見捨てることなんて、できねえだろ」

 あいつには二度も命を救ってもらったんだぞ。
 それなのに、昨日の俺は……。

 今からじゃあ、遅いかもしれねえ。
 けど、それでも。

「わたしも行くわ」

「駄目だ」

「嫌よ。コーキ先生はわたしにとっても恩人なのよ。それに……あなたをひとりで……」

「……」

「もう、あんな心配したくないから」

「シア、おまえの気持ちはよく分かるし、ありがてえ」

 ほんと、俺にはもったいないくらいだよ。

「だったら、ヴァーン」

「シアは、セレスさんの傍にいるべきだ」

「……」

「数刻も離れちゃいけねえ」

「今、そんなこと言うなんて」

 ずるいよな。
 分かってる。
 それでも、ここは俺に任せてくれねえか。

「必ず無事に戻るから。なっ、シア」

「約束?」

「ああ、約束だ。コーキを連れて戻ってくるぜ」

「……あなたの今の心は1つ、2つ?」

「1つと言いたいところだが、それじゃあ嘘になっちまう」

「2つなのね」

「そうだな。ただし、シアを思う心が圧勝してるぜ」

「ほんと?」

「間違いねえな」

「……分かった。でも、圧勝はしなくていいから」

    シアらしい笑顔とはにかむ仕草。

「嬉しいけど……」

    これだから、まいっちまう。

「それで、わたしたちはどうすればいいの?」

「ん、ああ、皆が起きたら伝えてもらえるか?」

「出掛けたことを?」

「それと、もうひとつ。5刻、いや5刻半までここで待っていてほしい。で、その時間になっても俺が戻らねえようなら先に行ってくれ、と」

「ヴァーン!」

「だから、心配要らねえって。万が一の話だからよ」

「……」

「じゃあ、行ってくるぜ!」





「いねえ……か」

 急いで駆けつけた昨日の惨状の現場。
 そこには、生あるものなど何も存在していなかった。

 それどころか、あたりは惨たらしい亡骸ばかり。
 蹂躙された痕跡しか残っていない。

 気分がわりいな。
 こんな場所、さっさと立ち去りてえぜ。

 けどよ……。

 コーキは、どこに行っちまったんだ?
 気配のひとつも感じねえって、何だそれ?

「……」

 ついさっき。
 この現場に着く直前になっても、戦闘の気配は感じなかった。
 コーキも剣姫も、あの怪物の気配も感知できなかった。

 だから、分かっちゃいたが。

 コーキ?
 どこにいる?
    何してる?

 コーキを探すにしても、こっちは手掛かりなんてねえんだ。
 ここに来りゃあ、糸口が見つかると思ってたのに……。

 欠片ひとつ。
 気配も何も。

    見当たらねえ。感じやしねえ。
 この状態で、どうすれば?

「……」

 まさか、気配を消してる?
 その可能性もあるのか?

 あの怪物が俺たちの前に姿を現した時。
 気配を感じることなんて、まったくできなかった。
 あいつは気配を消せる竜の怪物。

 コーキも剣姫も同じことができるはず。
 なら……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

辺境で魔物から国を守っていたが、大丈夫になったので新婚旅行へ出掛けます!

naturalsoft
ファンタジー
王国の西の端にある魔物の森に隣接する領地で、日々魔物から国を守っているグリーンウッド辺境伯爵は、今日も魔物を狩っていた。王国が隣接する国から戦争になっても、王国が内乱になっても魔物を狩っていた。 うん?力を貸せ?無理だ! ここの兵力を他に貸し出せば、あっという間に国中が魔物に蹂躙されるが良いのか? いつもの常套句で、のらりくらりと相手の要求を避けるが、とある転機が訪れた。 えっ、ここを守らなくても大丈夫になった?よし、遅くなった新婚旅行でも行くか?はい♪あなた♪ ようやく、魔物退治以外にやる気になったグリーンウッド辺境伯の『家族』の下には、実は『英雄』と呼ばれる傑物達がゴロゴロと居たのだった。 この小説は、新婚旅行と称してあっちこっちを旅しながら、トラブルを解決して行き、大陸中で英雄と呼ばれる事になる一家のお話である! (けっこうゆるゆる設定です)

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

俺を追い出した元パーティメンバーが速攻で全滅したんですけど、これは魔王の仕業ですか?

ほーとどっぐ
ファンタジー
王国最強のS級冒険者パーティに所属していたユウマ・カザキリ。しかし、弓使いの彼は他のパーティメンバーのような強力な攻撃スキルは持っていなかった。罠の解除といったアイテムで代用可能な地味スキルばかりの彼は、ついに戦力外通告を受けて追い出されてしまう。 が、彼を追い出したせいでパーティはたった1日で全滅してしまったのだった。 元とはいえパーティメンバーの強さをよく知っているユウマは、迷宮内で魔王が復活したのではと勘違いしてしまう。幸か不幸か。なんと封印された魔王も時を同じくして復活してしまい、話はどんどんと拗れていく。 「やはり、魔王の仕業だったのか!」 「いや、身に覚えがないんだが?」

チートなかったからパーティー追い出されたけど、お金無限増殖バグで自由気ままに暮らします

寿司
ファンタジー
28才、彼女・友達なし、貧乏暮らしの桐山頼人(きりやま よりと)は剣と魔法のファンタジー世界に"ヨリ"という名前で魔王を倒す勇者として召喚される。 しかしそこでもギフトと呼ばれる所謂チート能力がなかったことから同じく召喚された仲間たちからは疎まれ、ついには置き去りにされてしまう。 「ま、良いけどね!」 ヨリはチート能力は持っていないが、お金無限増殖というバグ能力は持っていた。 大金を手にした彼は奴隷の美少女を買ったり、伝説の武具をコレクションしたり、金の力で無双したりと自由気ままに暮らすのだった。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...