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第7章 南部編

不穏

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<セレスティーヌ視点(姿は和見幸奈)>



「……」

 幸奈さんは、私は、和見の家を出るべき。
 間違いなく、その方が安全だ。
 けど、今の私が家の外で暮らせるわけもなく……。

「まっ、父さんの客が姉さんに何かするとは思えないか」

 だから、和見家に残るしかない。
 私はここに留まって。
 父に諦めさせる!
 幸奈さんに酷いことなんてさせない!

「とはいえ、姉さんは病み上がりだし、記憶も曖昧だし」

「……」

「心配だからさ」

 武志君……。

「ありがと」

 ほんとは病気じゃないの、記憶も問題ないの。
 嘘ついて、心配させて、ごめんね。
 
「感謝されることじゃないよ。僕は何もできてないし……」

「そんなことないわ。武志く……武志には助けてもらってるから」

「そう、かな?」

「そうよ」

 コーキさんがいない今。
 この家に私の味方は武志君しかいない。
 でも、ひとりいるだけで違う。
 とっても心強い。

「なら、明日は僕も一緒に行こっか?」

「明日?」

「久々に大学に行くんだろ」

 そうだった。
 明日はこの身体で初めて大学に行く日。
 幸奈さんとして、初めて外で活動する日だ。

「……大丈夫。もう体は平気だから。それに、武志は高校でしょ」

「こっちは休みだって」

 そうなの?

 でも、明日はひとりで大学に行くわ。
 この世界で暮らすのに、ひとりで外に出れないようでは話にならない。

 そう……。
 まだ、しばらくは元に戻れそうにないから。

 あっちに行ったきり戻って来ないコーキさん。
 何かトラブルに巻き込まれているのかもしれない。
 思い当たる節は……多すぎる。




**********************




「今日こそ、あいつを倒す日です」

 この数日、急いで準備を進めてきた。
 あいつの次の進化前に決着をつけるため。
 倒すため。

 当然ながら、完璧な準備を終えたわけじゃない。
 それでも、今できることはやり終えた、そう思える程度の準備はしたつもりだ。

「うむ。決着をつけるか」

「作戦は予定通り」

「早めにあいつを地面に下ろし、首を攻める」

「その通りです」

 今回もエビルズマリス本体と分身である悪意の雫がやって来るはず。
 ここ数回の傾向から、分身を倒された後のあいつは空からの攻撃に転じる可能性が高い。

 とすると、まずは地上に引きずり下ろす必要がある。

「魔法は頼んだぞ」

「了解」

 地上に下ろした後は、首元への集中攻撃だ。
 依然として首元が弱点だという確証はないが、首元への攻撃を嫌厭していることだけは確か。なら、そこに賭ける価値はあるだろ。


「来る!」

 これまで同様、空間が歪み始めている。

「一応、これも試しておくか」

「そうですね」

「うむ。雷撃の後、私が斬ってみよう」

「では、いきます。雷撃!」

 歪んだ空間に紫電が炸裂するも。
 歪みに変化なし。
 そこに剣姫の一撃。
 魔力で内部から強化したドゥエリンガーでの剣撃だ。

 これまでも、あいつが登場する空間に向かって攻撃を仕掛けたことはある。
 ただし、成果は皆無。
 全く効果は見られなかった。

 が、今回の新生魔力剣ならどうだ?

 カシュッ!

 歪みを斬り裂くドゥエリンガー。
 音は軽い。

「……駄目だな」

 やはり効果なしか。



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