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第6章 移ろう魂編

蒼鱗の天魔 5

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 ヴァーンの愛剣を右手に持ち魔力を纏わせる。
 と同時に身体を魔力で強化。
 傷の応急処置も既に済んでいる。

 何も問題はない。
 あとは、謎の魔物を屠り去るだけ。

 そっと戦闘中の冒険者たちの後ろに近づき、機会を窺う。

「アイスアロー!」

「アイスアロー!」

「よーし、効いてる!」

「続ければ倒せるぞ!」

 初見の魔物に対して、この短時間で全員が完璧に対処法を身につけようとしている。
 個々の腕はそれほどでもないが、吸収力といい連携といい……。
 冒険者としての実力は相当だな。


「後衛には休憩が必要だ。少しの間、前で時間を稼いでくれ」

 魔力切れではないものの、連続での魔法攻撃に息切れを起こしたか?

「「「「了解」」」」

「なるべく早く頼むぞ」

「分かってる」

 俺が出るなら、ここだろう。
 と足を踏み出したところで。

「ぎゃぁぁぁ!」

 坂上の方。
 レザンジュ王軍の中から響き渡る悲鳴。

「あっちにも現れたのかよ。さっきの魔物たちと同じじゃねえか」

「ほんとだぜ」

 冒険者の言葉通り。
 眼前の魔物によく似た魔物がレザンジュ王軍を襲っている。

「「「「うわあぁぁぁ」」」」

 王軍は、こちら以上に苦戦しているようだ。

「あっちは関係ねえ」

「目の前に集中しろよ」

「「「おう!」」」

 しかし、この2頭の魔物、どうやって現れたんだ?
 姿を現すまで気配を感じなかったぞ。

 かなり強力な魔物だというのに、どうなってる?
 まさか、気配を消せるとでも?

 魔物が気配を操る。
 そんなことが……。


「どう考えても、レザンジュ王軍は敵だからな。悪くねえ展開だぜ」

「ああ、魔物が戦力を削ってくれるなら、ちょうどいい」

 現状でもかなりの被害を受けているレザンジュ王軍。
 新たな魔物の登場で、さらなる打撃を受けるのは必然。

 ワディンにとっては有利な展開、か。

「……」

 少し思うところはあるものの、今は目の前の魔物が先だ。
 こいつを倒さなければ、話にならない。

 止めていた足を動かし、戦線へ。

「メルビンさん、加勢しますよ」

「おお、ありがたい。皆、強力な援軍だぞ」

 メルビンの言葉に表情が変わる冒険者たち。

「イリサヴィアさんに勝った剣士か」

「ああ、こいつぁ助かるぜ」

「勝ったも同然だな」

「……」

「よし、前衛はいったん下がれ」

「「「「「了解」」」」」

 冒険者たちが統率のとれた動きで道を譲ってくる。
 それでいて、魔物への牽制は継続中。

 やりやすいな。
 本当に。

 さあ、こうなると一撃に集中すればいいだけ。

 万全のお膳立ての中。
 一足で距離を詰める。

「グゥロオォォ!」

 狙いはその長い首。
 これだけ長くて太い首だ。
 頑丈なんだろうが、狙いはつけやすい。

 いくぞ!

 距離を詰めた勢いのまま、首の下に潜り込み。
 下から剣を。
 真上へと、斬り上げる!

 ガシュッ!!

 鱗の感触。
 やはり硬い。

 が、強引に押し込んでやると。
 肉を斬る手応えに変化。

「オオォォォ!」

 悲鳴のような咆哮をあげる魔物。
 首はまだ健在だ。

 こっちの剣は首の半ばで止まっている!

 鱗だけじゃない。
 その下の肉も並外れて硬い!


「グゥオォォォ!!」

 魔物がその太い首を振り始めた。
 この状況、上手くないぞ。

 ならば、もう。
 剣を抜かず。
 さらなる魔力を剣身に纏ってやろう。

 これでどうだ!
 魔力で再強化した剣を、上へ。
 そのまま斬り上げる!

 ザシュッ!!

 振り切った剣。
 鮮血を撒き散らし、虚空を走る。
 謎魔物は。

「オオォォォ……」

 一声残した首が地面に転がり。
 巨体が見る影もなく崩れ。

 ドッシィーーン!!
 
 ゆっくりと、その身をエビルズピークの地に落とした。

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