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第6章 移ろう魂編

移ろい、移ろわぬもの 5

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<セレスティーヌ視点>



「っ!?」

 映像が消え。
 熱が冷めていく。
 あの感情も感覚も……。

 少しずつ私から抜けていく。
 夢のように消えていく。
 私の心が戻ってくる。

 それなのに……。

 ……。

 ……。


 全く濁りのないあの純粋な感情、想い。
 まるで自分のものみたい……。

 他の誰でもない、この私が抱いたもの。

 とても自然に、そう感じてしまった。
 いえ、今も思いは残っている。

 この感覚?

 私のものであって、私のものじゃない。
 夢のように、儚く。
 掴もうとすれば手からこぼれ落ちそうになる。
 心から消えそうになる。

 いったい?

「……」

 でも、私は生きている。
 無事にテポレン山を下りて、こうして。

 だから、あれは現実じゃない。
 現実なわけがない。
 そう頭では理解できる。

 ただ……。

 心がそれを拒絶してしまう。
 あれは現実だと叫んでいる。
 あり得ないことなのに。

「……」

 分からない。
 何が本当なのか分からない。

 今の私には……。

 ……。

 ……。


「!?」

 神気?
 ローディン様とトトメリウス様の神気。

 さっきより明確に感じる。

 その神気の塊が私を包み込み……。

 また映像が!
 これはテポレン山の地中。
 地下の回廊……。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……。


 あぁ……。

 ローディン様、トトメリウス様……。







「っ!?」

「……セレス様?」

 ここは?
 あのベッドの上?

「セレス様、大丈夫ですか?」

 目が覚めた私の前には、変わらぬコーキさんの瞳。

「……」

 心配そうに、こちらを見つめている。
 コーキさん……。

 ……。

 ごめんなさい。
 今はまだ心の中の複雑な感情を上手く扱えないんです。
 整理できないことでいっぱいだから。

 でも。
 あなたがそばにいてくれるだけで。
 心が落ち着いて……。

 落ち着いてきます。


「……どうぞ」

「……」

 手渡されたのはハンカチ。
 私、涙を?

 そっと頬に当てる。

 この香り……。
 コーキさんの……。

 あの時、拭えなかったコーキさんの涙。
 私の涙は拭ってくれる。


「頭痛は平気なのですか?」

「……はい」

 頭は痛くない。

「良かった。ですが、顔色が良くないですね」

「たくさんの情報が入ってきましたので……」

「また情報が?」

「はい」

「そうでしたか……。永い眠りから覚めて、すぐに大量の情報が頭の中に入ってきて……」

「……」

 幸奈さんの知識、感情。
 私じゃない私の記憶。
 色々なものが入り混じって……。

 処理も整理も、まだできない。
 自分の感情も上手く扱えない。

 それでも。
 こうしてコーキさんと一緒にいると、心が軽くなる。
 落ち着いてくる。

 なのに、不思議。

 涙が……。

 だから。

「あの、もう少しだけ休んでもいいでしょうか? 頭を整理したいので」

「もちろんです。話は後にしましょう」

「ありがとうございます。コーキさんは?」

「セレス様が落ち着くまで、ずっとここにいますよ」

「はい!」

 傍で私を見守ってくれる。
 それだけで、こんなに心強い。

「……でも、コーキさんも少し休んでくださいね」

「ええ、私もここで休ませてもらいます」


 コーキさんの笑顔に見送られるように、私は目を閉じ。
 あの映像を思い出す。

 ……。

 ……。

 ……。

 あの私は死んでしまった。
 二度も。

 世界から消えていく恐怖。
 コーキさんを残していく悔い。
 忘れることなんてできない。

 ただ……。

 原因は?
 私が崖から落ちたから?
 治療してもらったのに?

 他は?
 思い当たることは?

 私の頭に入ってきた情報に、おかしなところはなかった。
 特に何も……。

 ……。

 ……。

 ……。


 頭ではまだ疑問に思うところばかり。
 分からないこと、信じられないことばかり。

 でも、もう。
 心は納得している。
 それなら!

「……」

 私は神娘。
 ローディン様と心で繋がる存在。
 その心は何より重要なもの。

 だから!

 信じます!
 2度の死も、地中での経験も、葛藤も全て。

「……」

 私ではない私?
 どこかの世界の私が経験したこと?
 実際に起こったこと?

 超常的な魔法?
 神様の御力?

 本当のことは分からないけれど。
 私はこの事実を受け入れ、私のものとするだけ。
 あの感覚も、あの想いも、全て私のもの。

 心の中に芽生えたこの感情と幸奈さんの記憶を整理して、折り合いをつけて。
 決意を持って。

 前に進みましょう!
 ワディンでも、この世界でも!

 だから、少し時間を。

 ……。

 ……。

 ……。



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