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第6章 移ろう魂編

遭遇

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<ヴァーンベック視点>



「ヴァーン、朝からどこ行くの?」

 作戦決行の朝。
 ちっと早起きした俺の朝食後。

「情報を集めに行ってくらぁ」

「今日の昼にはカーンゴルムを出るのだから、もう必要ないでしょ」

「いや、こういうのは最後までやっとくもんなんだぜ」

 それに、宿にいても仕方ねえからな。

「そう……。なら、わたしも行くわ」

「おれも、おれも行くぞ!」

「アル……」

「姉さん、どうした?」

「……何でもないわ」

「何だよ、何かあるんだろ?」

「……」

「ん? あっ! そうか。……やっぱり、おれはやめとくよ」

「もう、いいわよ。一緒に行きましょ」

「……いいのか?」

 ったく。
 朝から何やってんだ、このふたり。
 緊張感ねえな。

「もう行くぞ」

「あっ、待って」

「待ってくれよ」




 今日の6刻にはカーンゴルムを発つことになっている。
 なので、簡単に情報を得られる場所だけを急いで回ったんだが……。

「あまりいい情報はなかったな」

「そうね」

「朝から無駄足だったかぁ」

 確かに目新しい情報はなかった。
 けどな、アル。

「そいつぁ、違うぞ。いい情報がなかったってことは、裏を返せば、状況に変わりはないっていう情報になんだろ」

「あっ、なるほど。それなら、離宮に変わりはないってことか」

「そういうこった」

 これだけでも十分に価値がある。
 朝から歩き回った甲斐があるってもんだ。

「さすがヴァーンね。アルとは違うわ」

「何だよ、それ」

「本当のことでしょ」

「ちぇっ」

「……」

 ホント、緊張感ねえ。
 まっ、悪いことじゃねえが。

「で、これからどうするんだよ? 宿に戻るのか?」

「……まだ時間もあるしな。ゴルデバル商会にでも行ってみるか?」

「ゴルデバ……何だっけ?」

「ゴルデバル商会。国境の検問所前で助けた商人の店だ」

 カーンゴルム到着後に一度店の前まで行ったんだが、その時は外から様子を見ただけだったからな。

「ああ、あの商人の」

「そうだ。行ってみるか?」

「行ってみようぜ」

「うん、そうね」

 ふたりとも乗り気だな。
 なら、顔を出しに行くか。

 ということで、ゴルデバル商会が店を構える大通りに足を向け。
 3人で会話を続けながら、黒都の街を歩いていく。

「……」

 3人で見知らぬ街を歩くってのも悪くないんだが……。

 やっぱり、この街は地味だよなぁ。
 黒都って名前が、そもそも陰気臭え。
 離宮には瑠璃って華やかな名をつけてんのにな。

 どうも、こう……俺には合わねえ。


「ヴァーンさん!」

 ん、どうした?

「あそこ、あそこを歩いてる大男。あの現場にいた奴じゃないのか」

 あの大男か。
 あいつは……。

「!?」

 間違いない、検問所前の戦闘現場にいた凄腕の大男だ。

「……」

「どうする?」

「……どうもしねえよ」

「えっ?」

「俺たちとは関係ないからな」

 あの時は、俺たちが遠目に見ただけ。
 顔を合わしてもいねえ。

「そうだけど……」

「アル、ヴァーン、どうしたの? 誰のこと言ってるの?」

「あそこの大男だよ。前に話しただろ。国境前で兵士たちをやっつけた奴だ」

「あの人が……。えっ!? 横にいるのは……ウィルさん!」

 シアは何に驚いて?

「ふたりとも、ウィルさんがいるのよ」

「姉さん、そのウィルさんって誰だ?」

「夕連亭のウィルさんよ」

 夕連亭の……。
 ああ、あそこの店員か。

 そういえば、コーキの知人だったような。

 こんな所で会うとは奇遇だが、それがどうしたんだ?

「おれは、そのウィルさんって人の顔知らないぞ」

「アルは知らないの? でも、今はそんなことより、コーキ先生よ」

「コーキさんが何だよ?」

「先生、仕事でオルドウを出ていたでしょ」

「ああ」

「その仕事がウィルさんの護衛なのよ」

「あっ! ってことは」

「コーキ先生がいるのよ。カーンゴルムに!」

 ホントかよ。

「コーキさんがここに!」

「間違いないわ」

「姉さん、なら、コーキさんに会えたら」

「そうよ。先生が力を貸してくれるかもしれない」

「姉さん!」

「ええ、行くわよ!」

「おい……」

 聞いちゃいねえな。

 俺の目の前で、シアとアルが大男のいる方に向かって駆けていく。

 まあ……。

 今回の救出作戦、現時点でも成功の確率はそこまで低くねえが。
 あいつがいれば何より心強い。

 とりあえず、話をしねえとな。
 駆け出したシアとアルの後を、歩いて追いかける。

 おいおい。
 あいつら、もう話を始めてんのかよ。



「えっ、いない?」

「……」

「コーキ先生はカーンゴルムにいないのですか?」

「はい、オルドウに戻られました」



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