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第4章 異能編
受諾
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「えっ、本当に?」
「ええ、お受けしますよ」
「ありがとうございます! 本当に助かります」
頭を下げてくれるウィルさん。
心からの感謝が伝わってくる。
「ウィルさん、頭を上げてください。まだ、護衛もしていないのですから」
「でも、嬉しくて」
「大袈裟ですよ。私でなくとも、他に冒険者などいくらでもいますのに」
「コーキさんほど、人柄も腕も信用できる方はいません!」
「……」
凄い勢いでこちらのことを肯定してくれる。
若干引きそうにもなるが。
それでも、ありがたいことだよ。
「それほどではないと思いますが、力は尽くしますので」
「本当に助かります。ありがとうございます」
「いえ、それで出発ですが。明後日でも良いでしょうか?」
「はい、問題ありません。よろしくお願いいたします」
「了解しました」
決定だな。
出発のための準備があるというウィルさんとは広場で別れ、ひとりでオルドウの大門へと足を向ける
思わぬ仕事が決まったので、また忙しくなりそうだが、今日明日のするべきことに変わりはない。
まずは、テポレン山に向かわないとな。
「クゥーン」
「もちろん、ノワールも一緒だ」
テポレン山の地中に存在する地下大空洞。
エンノアの人々からは魔落と恐れられている、畏怖の対象たる地下空間。
実際は神域中の神域。
トトメリウス神の創り給ひし神域だ。
『久方ぶりじゃな。其方、元気であったか?』
「はい、トトメリウス様の御加護のお力で元気にしております」
神域の中に存在する真の神域。
そこには、際限のない白い空間が目の前に広がっている。
そんな厳粛で荘厳で神秘的な地に存在するのは、鳥の頭を持つ異形の神。
知恵と時と魔法を司るトトメリウス様だ。
『ふむ』
「トトメリウス様もご健勝のようで何よりでございます」
『吾にそのような概念はないが、まあ良かろう。して、どうしたのじゃ?』
「本日はお約束の品をお持ちしました」
『約束の品……』
「私の故郷、日本の品々です」
収納から取り出したのは、俺の貯えで手に入れることができる日本製の商品。
トトメリウス様が興味を持たれるような物を集めてきたつもりだ。
『そうじゃったな』
「どうか、お納めください」
『ふむ』
智の神であるトトメリウス様でも、異世界の物品を直接手にすることは簡単ではないらしい。
ということで、トトメリウス様にお世話になったお礼として、約束していた日本製品を持参したのだが……。
『これは……なるほど。なかなか、面白いのう』
気に入っていただけたかな?
『良い慰みになりそうじゃ』
よかった。
『其方には感謝せねばならぬな』
「滅相もないことでございます。私は約束を果たしただけですので」
『ふむ。とはいえ、これはなかなかの量じゃからな。其方、何か望みはないかの?』
「……はい。望みなど、何もございません」
これまでも散々お世話になっている。
これ以上は罰が当たるというものだ。
しかし……。
何度来ても、この空気とトトメリウス様には圧倒されてしまうな。
『相変わらず謙虚なものじゃ』
「いえ……」
『とはいえ、ふむ……』
こちらを見透かすような深みのある眼差し。
これは……ああ、見られているのか。
『また、斯様なことを……』
何を見られているんだ?
『其方は、筋金入りじゃのう』
「……」
『よかろう。少しばかり手解きしてやろうかの』
「はい?」
手解きとは?
トトメリウス様が何をしてくれると?
『其方、心胆を弄ばれたじゃろ。しかも、これが2度目じゃ』
心を弄ばれる?
壬生少年との戦いのことだろうか?
1度目はオルセーのマリスダリスの刻宝、2度目は揺魂だと?
「……はい」
『人とは脆く儚きもの。其方といえど、違いはない』
「……」
『克服すべきと考えておろう?』
「……考えております」
それは間違いない。
壬生少年との今後の関係がどうなるか分からないが、楽観することなどできないのだから。
おそらく、向こうも対策を考えているだろう。
当然、こちらも!
しかし、トトメリウス様が……?
『ふむ。しばしの間、ここで学ぶと良い』
「学ぶ……」
俺の言葉を留めるように、トトメリウス様がこちらに指を向け。
その指先が光ったと思った、その刹那。
「っ!?」
ほとんど音にならない声が漏れ出てしまう。
「……」
何だ?
何が起こった??
立っていられない。
それどころか、眼を開けることもできない。
その場に蹲った俺の背中に、一瞬で汗が溢れ出てくる。
「うぅっ……」
恐怖?
いや、恐怖という単語で表していいのかさえ分からないこの感覚。
とにかく、動くことも喋ることもできない。
「……」
マリスダリスの刻宝とは違う。
壬生の揺魂とも違う。
もっと根源的で避けがたい何かだ。
それが心を完全に覆いつくしている。
「っぅ……」
もう、身じろぎひとつできない。
身体中の汗腺が開いていく。
息をするのすら辛い。
『人の身には耐えがたかろう。意識があるだけでも大したものじゃよ』
そんな精神的干渉をトトメリウス様が!
「ぅぅ……」
マリスダリスの刻宝や揺魂とは比べ物にならないくらいに強力な精神への圧迫。
トトメリウス様のお力なのだから……それも当然か。
ただ、そう考えると……。
「……」
受ける感覚が変わっていくような……。
これほどの圧迫を受け、身体の自由も奪われているというのに、これは?
焦りが消えている。
余裕などないはずなのに、どこかに余裕が残っている。
それも、これも、全てはトトメリウス様のお力だと分かっているから。
信頼が全てを凌駕していると。
『ほぅ。僅かとはいえ、自力で身に付けるとはのう」
「……」
「さすが其方じゃな』
焦りは消えているものの、圧迫感は変わらず。
身体の自由も利かない。
それでも、トトメリウス様のお言葉を信じるなら。
この先に光明がある。
『その通り』
「……」
『どのような力であれ、同質の力で抗するにはより強きものが必要となろう』
「……」
『抗うことが全て、ではないのじゃよ』
そういうことか。
やはり、そこに光明が!
「ええ、お受けしますよ」
「ありがとうございます! 本当に助かります」
頭を下げてくれるウィルさん。
心からの感謝が伝わってくる。
「ウィルさん、頭を上げてください。まだ、護衛もしていないのですから」
「でも、嬉しくて」
「大袈裟ですよ。私でなくとも、他に冒険者などいくらでもいますのに」
「コーキさんほど、人柄も腕も信用できる方はいません!」
「……」
凄い勢いでこちらのことを肯定してくれる。
若干引きそうにもなるが。
それでも、ありがたいことだよ。
「それほどではないと思いますが、力は尽くしますので」
「本当に助かります。ありがとうございます」
「いえ、それで出発ですが。明後日でも良いでしょうか?」
「はい、問題ありません。よろしくお願いいたします」
「了解しました」
決定だな。
出発のための準備があるというウィルさんとは広場で別れ、ひとりでオルドウの大門へと足を向ける
思わぬ仕事が決まったので、また忙しくなりそうだが、今日明日のするべきことに変わりはない。
まずは、テポレン山に向かわないとな。
「クゥーン」
「もちろん、ノワールも一緒だ」
テポレン山の地中に存在する地下大空洞。
エンノアの人々からは魔落と恐れられている、畏怖の対象たる地下空間。
実際は神域中の神域。
トトメリウス神の創り給ひし神域だ。
『久方ぶりじゃな。其方、元気であったか?』
「はい、トトメリウス様の御加護のお力で元気にしております」
神域の中に存在する真の神域。
そこには、際限のない白い空間が目の前に広がっている。
そんな厳粛で荘厳で神秘的な地に存在するのは、鳥の頭を持つ異形の神。
知恵と時と魔法を司るトトメリウス様だ。
『ふむ』
「トトメリウス様もご健勝のようで何よりでございます」
『吾にそのような概念はないが、まあ良かろう。して、どうしたのじゃ?』
「本日はお約束の品をお持ちしました」
『約束の品……』
「私の故郷、日本の品々です」
収納から取り出したのは、俺の貯えで手に入れることができる日本製の商品。
トトメリウス様が興味を持たれるような物を集めてきたつもりだ。
『そうじゃったな』
「どうか、お納めください」
『ふむ』
智の神であるトトメリウス様でも、異世界の物品を直接手にすることは簡単ではないらしい。
ということで、トトメリウス様にお世話になったお礼として、約束していた日本製品を持参したのだが……。
『これは……なるほど。なかなか、面白いのう』
気に入っていただけたかな?
『良い慰みになりそうじゃ』
よかった。
『其方には感謝せねばならぬな』
「滅相もないことでございます。私は約束を果たしただけですので」
『ふむ。とはいえ、これはなかなかの量じゃからな。其方、何か望みはないかの?』
「……はい。望みなど、何もございません」
これまでも散々お世話になっている。
これ以上は罰が当たるというものだ。
しかし……。
何度来ても、この空気とトトメリウス様には圧倒されてしまうな。
『相変わらず謙虚なものじゃ』
「いえ……」
『とはいえ、ふむ……』
こちらを見透かすような深みのある眼差し。
これは……ああ、見られているのか。
『また、斯様なことを……』
何を見られているんだ?
『其方は、筋金入りじゃのう』
「……」
『よかろう。少しばかり手解きしてやろうかの』
「はい?」
手解きとは?
トトメリウス様が何をしてくれると?
『其方、心胆を弄ばれたじゃろ。しかも、これが2度目じゃ』
心を弄ばれる?
壬生少年との戦いのことだろうか?
1度目はオルセーのマリスダリスの刻宝、2度目は揺魂だと?
「……はい」
『人とは脆く儚きもの。其方といえど、違いはない』
「……」
『克服すべきと考えておろう?』
「……考えております」
それは間違いない。
壬生少年との今後の関係がどうなるか分からないが、楽観することなどできないのだから。
おそらく、向こうも対策を考えているだろう。
当然、こちらも!
しかし、トトメリウス様が……?
『ふむ。しばしの間、ここで学ぶと良い』
「学ぶ……」
俺の言葉を留めるように、トトメリウス様がこちらに指を向け。
その指先が光ったと思った、その刹那。
「っ!?」
ほとんど音にならない声が漏れ出てしまう。
「……」
何だ?
何が起こった??
立っていられない。
それどころか、眼を開けることもできない。
その場に蹲った俺の背中に、一瞬で汗が溢れ出てくる。
「うぅっ……」
恐怖?
いや、恐怖という単語で表していいのかさえ分からないこの感覚。
とにかく、動くことも喋ることもできない。
「……」
マリスダリスの刻宝とは違う。
壬生の揺魂とも違う。
もっと根源的で避けがたい何かだ。
それが心を完全に覆いつくしている。
「っぅ……」
もう、身じろぎひとつできない。
身体中の汗腺が開いていく。
息をするのすら辛い。
『人の身には耐えがたかろう。意識があるだけでも大したものじゃよ』
そんな精神的干渉をトトメリウス様が!
「ぅぅ……」
マリスダリスの刻宝や揺魂とは比べ物にならないくらいに強力な精神への圧迫。
トトメリウス様のお力なのだから……それも当然か。
ただ、そう考えると……。
「……」
受ける感覚が変わっていくような……。
これほどの圧迫を受け、身体の自由も奪われているというのに、これは?
焦りが消えている。
余裕などないはずなのに、どこかに余裕が残っている。
それも、これも、全てはトトメリウス様のお力だと分かっているから。
信頼が全てを凌駕していると。
『ほぅ。僅かとはいえ、自力で身に付けるとはのう」
「……」
「さすが其方じゃな』
焦りは消えているものの、圧迫感は変わらず。
身体の自由も利かない。
それでも、トトメリウス様のお言葉を信じるなら。
この先に光明がある。
『その通り』
「……」
『どのような力であれ、同質の力で抗するにはより強きものが必要となろう』
「……」
『抗うことが全て、ではないのじゃよ』
そういうことか。
やはり、そこに光明が!
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