224 / 1,157
第3章 救出編
魔落 23
しおりを挟む激しかった口調が穏やかに、いや、か細いくらいの声に変化する。
そして……。
そこからは、心に抱えていた思いを懺悔するように静かに言葉が紡がれていった。
過去の思いを。
ここに来てからの思いを。
静かにゆっくりと。
しばらくすると、セレス様の言葉が止まり。
静寂がこの場を支配する。
「……」
はぁぁ。
本当にもう、俺は何も分かっちゃいない。
自分の至らなさばかりが思い出される。
そんな俺に。
「どうして……。どうして殺してくれないの」
かすれた力のない声が問いかけてくる。
「……」
あなたを助けるのが私の仕事だからです。
今のこの状況もあなたのせいじゃない、私の自己責任です。
そんな通り一遍の回答を求めているわけではないだろう。
こんな言葉が今のセレス様に届くとは思えない。
それに……。
今となっては、仕事だから助けている、なんて。
そんな感覚じゃない。
セレスティーヌ様をこんなところで死なせたくない、助けたいという気持ちがあるだけだ。
「どうして、どうして……」
再び膝に顔を埋めて静かに嗚咽を漏らし始めるセレス様。
「……」
セレス様は自分に非があると思っている。
なのに、誰に責められることもない。
ただ護ってもらっているだけというこの状況に耐えられなかったのだろう。
自分のために亡くなった護衛騎士たちの分まで、俺に非難して欲しかったのかもしれない。
でもさ。
俺は本当にあなたの責任だと思っていないんだ、セレス様。
騎士たちも同じだと思うよ。
だから、責めることはしない。
けど。
「確かに、結果的にみれば私がこの状況にあるのはセレス様のせいかもしれません。ですが、全ては私が選んだことです。一つひとつの選択において私は自分が正しいと思うことを選んできたつもりです。そこに後悔などないです。ですから、セレス様を責めるつもりはありません」
「……」
こんな話、俺には向いていないよ。
でも、話さなきゃ通じないこともある。
「それに、さきほども言いましたが、セレス様のことを役立たずとは思っていませんので」
「……戦えない、あなたを助けることもできないのに。あなたが怪我をするのは、いつも私のせいなのに」
「確かに、セレス様には魔物と戦う力はないかもしれません。ですが、他の面ではどうです。あなたは料理の手伝いをして、探索を一緒にして、不寝番もしてくださる。役に立っているじゃないですか。怪我も私自身の責任です」
「でも……。全てあなたひとりでできることよ」
「いいえ、ひとりでは限界があります。私もあなたがいるから頑張れるのです」
「そんなこと……」
「私たちが出会った当初、あなたは料理などできませんでした。探索の仕方も分からない、不寝番を任せれば寝てしまうこともありました」
「っ……」
「ですが、今はどうです。魔物を解体し、ひとりで調理することもできるようになって、探索も立派にこなし、不寝番もできる」
「……」
「努力している人を、ましてや、それで結果を出している人を役に立たないと思うことなんて私にはできませんよ」
「でも、全て半人前程度なのに。それに戦えないし……」
「半人前の基準は世間一般ですか。そんなもの、ここでは関係ないですね。ここにはあなたと私のふたりだけ。そんな基準など必要ないです」
「……」
「それにですね……。例えばですが、能力が1だった人が努力をして3になったとします。一方で、最初から能力が5だった人が努力せず過ごし5のままだったとします。結果として優れているのは後者ですが、私は前者を評価しますし、前者と共にありたいと思います」
「努力を……。結果ではなく」
「私はそうしたいと思っています。ですから、セレス様の努力はとても素晴らしいと思っているんです」
「本当に?」
「本当です。心からそう思っています。ですが」
一息呼吸して。
「今のあなたには不満もあります」
ホント、柄じゃない。
できるなら話したくはない。
俺はこんなことを語れるような立派な人間じゃないから。
10
お気に入りに追加
527
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
辺境で魔物から国を守っていたが、大丈夫になったので新婚旅行へ出掛けます!
naturalsoft
ファンタジー
王国の西の端にある魔物の森に隣接する領地で、日々魔物から国を守っているグリーンウッド辺境伯爵は、今日も魔物を狩っていた。王国が隣接する国から戦争になっても、王国が内乱になっても魔物を狩っていた。
うん?力を貸せ?無理だ!
ここの兵力を他に貸し出せば、あっという間に国中が魔物に蹂躙されるが良いのか?
いつもの常套句で、のらりくらりと相手の要求を避けるが、とある転機が訪れた。
えっ、ここを守らなくても大丈夫になった?よし、遅くなった新婚旅行でも行くか?はい♪あなた♪
ようやく、魔物退治以外にやる気になったグリーンウッド辺境伯の『家族』の下には、実は『英雄』と呼ばれる傑物達がゴロゴロと居たのだった。
この小説は、新婚旅行と称してあっちこっちを旅しながら、トラブルを解決して行き、大陸中で英雄と呼ばれる事になる一家のお話である!
(けっこうゆるゆる設定です)
俺を追い出した元パーティメンバーが速攻で全滅したんですけど、これは魔王の仕業ですか?
ほーとどっぐ
ファンタジー
王国最強のS級冒険者パーティに所属していたユウマ・カザキリ。しかし、弓使いの彼は他のパーティメンバーのような強力な攻撃スキルは持っていなかった。罠の解除といったアイテムで代用可能な地味スキルばかりの彼は、ついに戦力外通告を受けて追い出されてしまう。
が、彼を追い出したせいでパーティはたった1日で全滅してしまったのだった。
元とはいえパーティメンバーの強さをよく知っているユウマは、迷宮内で魔王が復活したのではと勘違いしてしまう。幸か不幸か。なんと封印された魔王も時を同じくして復活してしまい、話はどんどんと拗れていく。
「やはり、魔王の仕業だったのか!」
「いや、身に覚えがないんだが?」
チートなかったからパーティー追い出されたけど、お金無限増殖バグで自由気ままに暮らします
寿司
ファンタジー
28才、彼女・友達なし、貧乏暮らしの桐山頼人(きりやま よりと)は剣と魔法のファンタジー世界に"ヨリ"という名前で魔王を倒す勇者として召喚される。
しかしそこでもギフトと呼ばれる所謂チート能力がなかったことから同じく召喚された仲間たちからは疎まれ、ついには置き去りにされてしまう。
「ま、良いけどね!」
ヨリはチート能力は持っていないが、お金無限増殖というバグ能力は持っていた。
大金を手にした彼は奴隷の美少女を買ったり、伝説の武具をコレクションしたり、金の力で無双したりと自由気ままに暮らすのだった。
異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
チートスキルで無自覚無双 ~ゴミスキルばかり入手したと思ってましたが実は最強でした~
Tamaki Yoshigae
ファンタジー
北野悠人は世界に突如現れたスキルガチャを引いたが、外れスキルしか手に入らなかった……と思っていた。
が、実は彼が引いていたのは世界最強のスキルばかりだった。
災厄級魔物の討伐、その素材を用いてチートアイテムを作る錬金術、アイテムを更に規格外なものに昇華させる付与術。
何でも全て自分でできてしまう彼は、自分でも気づかないうちに圧倒的存在に成り上がってしまう。
※小説家になろうでも連載してます(最高ジャンル別1位)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる