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第3章 救出編
ダブルヘッド 8
しおりを挟む<ヴァーン視点>
「けっ、なんてぇ身体だ」
「ああ、上手く剣が通らねえな」
ダブルヘッドと対峙して分かったこと。
それは、こっちの攻撃が通用しない、これに尽きる。
とにかく、あの赤黒く濡れた漆黒の体毛が剣撃を防いでしまうんだ。
「剣は当たんのに無傷ってなぁ。あの気持ちわりい毛をなんとかできねえのかよ」
「……難しいな」
「かぁ~。このままじゃあ、剣の切れ味が落ちる一方だぜ」
「確かに、刃が体液に濡れて使えなくなりそうだ」
「ジリ貧じゃねえか」
「……」
ギリオンの言う通りだ。
今のところは何とかやり合えているが、こちらの攻撃が効かない状況が続けば、その先の結果は見えている。
それに、あの化け物はまだ本気を出していない。
「おめぇの魔法で、あいつの毛を焼けねえのか?」
「難しいな。完璧に当てることができれば何とかなりそうだが……」
「んじゃあ、その機会を作るしかねえだろ」
「そうだな。時間をかけてでも、そうするしかねえな」
長期戦になりそうだ。
問題は、そこまで俺たちがもつかどうかだが。
「シアとアルだけでも逃がすか?」
「ん? だな」
「おい、シア、アル、聞こえるか?」
「はい」
「ああ」
後ろに避難させておいたふたりに声をかける。
「今のうちにお前たちは逃げろ」
「でも」
「けど!」
「ああ! おめぇら心配してんのかよ。んな必要はねえ。ただ、ちーとばかし時間がかかるってだけだ」
「その通りだ」
「ヴァーンさん……」
「気にすんな。シアたちは逃げろ」
「師匠?」
「早くいきやがれ!」
躊躇するふたりに俺とギリオンが強く言い放つが、あいつらまだ動こうとしない。
と!?
「ギリオン!」
「おう! 危ねぇ!」
会話に少し気をとられていた俺たちに突進してきたダブルヘッド。
かろうじて躱すことができた。
が、今のはかなり危なかった。
しかし、これは!
俺たちが躱せるとは思っていなかったのか。
ダブルヘッドは立ち止まったまま、こちらに脇腹を見せている。
「ヴァーン!」
ああ、分かってる。
これこそ千載一遇の好機。
ファイヤーボールだ!
だから、はやく。
早く発動を!
コーキの指導のおかげで発動までの時間が大幅に短縮しているとはいえ、まだ詠唱破棄には至っていないんだ。
もっと早く!
もう少し!
よし!
簡略化した詠唱を終え。
「ファイヤーボール!」
ダブルヘッドはまだ腹を見せたまま。
しかも、この距離。
これなら!
バアァーーン!
やったぞ!
まともに左の腹に入った。
しかも、かなりの威力だ。
「おう、やったんじゃねえか」
「ああ」
炎がダブルヘッドの腹回りを覆っている。
これは効いているはず!
かなりのダメージを与えたはずだ!
が……。
「なに!?」
「チッ!」
消えた炎の後には、平然とこちらを眺め続けるダブルヘッド。
その脇腹には傷などほとんど見当たらない。
体毛の赤黒いぬめりが、少しましになったように見える程度。
「んとかよ、このバケモン」
この短距離、この威力、そして直撃。
これでダメなのか。
その事実に、思わず思考が止まってしまう!
「おい、油断すんじゃねえ」
そうだ!
集中を切らしている場合じゃない。
「分かってる」
呆然としたままだったら、ダブルヘッドの次の攻撃を食らっていたかもしれない。
あいつの攻撃をまともに食らえば、一撃で致命傷になってしまう。
それで終了だ。
「ヘボ魔法が効きゃしねぇんだから、せめてしっかり戦いやがれ」
「うるせえ、お前の剣も通用しねえだろうが」
「けっ、そのうち効いてくらぁ」
軽口をたたいているギリオンだが、もちろん余裕があるわけじゃない。
分かりにくいが、これがこいつ一流の気合い入れなんだ。
まあ、そのおかげで俺の目も覚めた。
双頭の悪魔ダブルヘッドを相手にして簡単に勝てるわけがないなんて、最初から分かりきっていたことなのに、なまじ攻撃が当たるから欲が出てしまったようだ。
「そうかもしれねえな」
「おう! ちったぁ、分かってきたか」
ああ。
腰を据えて戦うしかないとな。
とはいえ、俺もギリオンも小さな傷は無数にある。
骨もやられているかもしれない。
戦い続けるにも限度があるだろう。
何とか勝ち筋を見つけないとな。
「とりあえず、目か口でも狙うか」
「おうよ」
「魔法でも狙うが、そっちも頼むぜ」
「ったりめえだ、オレがやってやらぁ」
内心はどうあれ、どこまでも強気を崩さないギリオンが頼もしい。
こんなことは口が裂けても言えないが、頼りになるやつだぜ。
「ああ、魔法で補助もしてやる」
「上手くやんだぞ」
「誰に言ってんだ」
「けっ、よく言うぜ」
「とにかく任せろ。ギリオンは剣にだけ集中していればいいぜ」
「フン、遅れんじゃねえぞ」
「遅れるかよ」
任せておけ!
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