上 下
167 / 1,157
第3章 救出編

魔法訓練 2

しおりを挟む

 俺の魔法を見てもらおうと、シアに声をかけたところ。

「はい」

「おう」

「……」

 ヴァーンが笑いながら返事を返してくる。

「どうした、コーキ?」

「いや……」

 ヴァーンには言ってないんだけどな。
 お前も俺の魔法を見たいのか。

「そうか。なら、見せてくれよ」

「……ああ」

 気を取り直して、まずは。

「ファイヤーボール」

 詠唱を破棄して魔法名だけで放つ。
 伸ばした手の先から放たれた火の玉が、シアのそれと同様に岩に激突。
 岩肌を抉るように凝縮し、霧散する。

「なっ!?」

「えっ!?」

 ファイヤーボールが消え去った後。
 岩の表面が一部融解している。
 調節したのだが、少し威力が強過ぎたようだ。

「何だそれ! 詠唱無しで、その威力かよ」

「……」

 まだ続くぞ。

「では、もう一度」

 今度は発声はなし。
 手も動かさない。
 無言のまま、俺の胸辺りからファイヤーボールを放つ。

「おいおい……。今度は無言か!」

「すごい……。そんなこともできるんですね」

「ホント、出鱈目なやつだな、おい」

「本当に凄いです!」

「凄いっつうか、おかしいだろ」

「……」

 ギリオン同様、ヴァーンも口数が多いんだよ。

「シア、今のを見て分かったと思うけれど、魔法の発動には長い詠唱も魔法名も必要ないんだ」

「はい」

「当然のことだが、詠唱無しで素早く魔法を使えるようになれば、それだけで戦いを有利に進めることができる。さらに、魔法名を口に出さないことで、相手の意表を突くことにもなる」

 オルドウに来て以降行った実戦からも、それは明白。
 魔法だろうが剣だろうが体術だろうが、速度が重要なことに変わりはない。
 その上、相手の意表を突けるのなら、なお好しだ。

「はい」

「今すぐにそれをやろうとしても無理というものだが、とりえず詠唱破棄の練習をして、それが身に付いた後に無詠唱の習得を目指そうか」

「はい! 練習します。ぜひ教えてください」

「コーキ、俺にも教えてくれよ」

「……」

 お前もかよ。

「なんだ、駄目なのか?」

 まあ、駄目とは言わないが。
 でも、そうか。

「ヴァーンも魔法を使うんだったな」

「おう、俺は魔法と剣を扱う冒険者だぜ」

 そうだった。
 ヴァーンはオルドウでは珍しい魔法剣士系の冒険者なんだよな。
 まっ、俺もそうなんだけど。

「ヴァーンは、俺がシアに教えるのを横で聞いていれば充分だろ」

 ヴァーンなら、横で聞いていれば何とかするはず。

「ありがたい。それで十分だ。よろしく頼むな」

 そう言って、屈託のない笑顔を見せてくる。
 日に焼けた顔に真白な歯が眩しいわ。

 はぁ。
 憎めない奴だよ。
 その点、ギリオンと同じだよな。

「ヴァーンさん、一緒に頑張りましょう!」

「シア、よろしくな」

 嬉しそうに握手しているよ。

 まあな、一緒に訓練するのなら、仲が良いのは悪いことじゃない。

 ふたりで切磋琢磨してくれ。




「詠唱破棄を習得するためには、まずは魔力の流れを感じてもらう必要がある」

「はい」

「そうなのか」

「ふたりとも、今まで魔力の流れを感じたことはあるかな?」

「……ないです」

「俺もないなぁ」

 やはり、そうなんだな。
 こちらの世界の魔法の使い手は、魔力に対する感覚が乏しいとは感じていたんだよ。

 ただし、あの例がある。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

辺境で魔物から国を守っていたが、大丈夫になったので新婚旅行へ出掛けます!

naturalsoft
ファンタジー
王国の西の端にある魔物の森に隣接する領地で、日々魔物から国を守っているグリーンウッド辺境伯爵は、今日も魔物を狩っていた。王国が隣接する国から戦争になっても、王国が内乱になっても魔物を狩っていた。 うん?力を貸せ?無理だ! ここの兵力を他に貸し出せば、あっという間に国中が魔物に蹂躙されるが良いのか? いつもの常套句で、のらりくらりと相手の要求を避けるが、とある転機が訪れた。 えっ、ここを守らなくても大丈夫になった?よし、遅くなった新婚旅行でも行くか?はい♪あなた♪ ようやく、魔物退治以外にやる気になったグリーンウッド辺境伯の『家族』の下には、実は『英雄』と呼ばれる傑物達がゴロゴロと居たのだった。 この小説は、新婚旅行と称してあっちこっちを旅しながら、トラブルを解決して行き、大陸中で英雄と呼ばれる事になる一家のお話である! (けっこうゆるゆる設定です)

俺を追い出した元パーティメンバーが速攻で全滅したんですけど、これは魔王の仕業ですか?

ほーとどっぐ
ファンタジー
王国最強のS級冒険者パーティに所属していたユウマ・カザキリ。しかし、弓使いの彼は他のパーティメンバーのような強力な攻撃スキルは持っていなかった。罠の解除といったアイテムで代用可能な地味スキルばかりの彼は、ついに戦力外通告を受けて追い出されてしまう。 が、彼を追い出したせいでパーティはたった1日で全滅してしまったのだった。 元とはいえパーティメンバーの強さをよく知っているユウマは、迷宮内で魔王が復活したのではと勘違いしてしまう。幸か不幸か。なんと封印された魔王も時を同じくして復活してしまい、話はどんどんと拗れていく。 「やはり、魔王の仕業だったのか!」 「いや、身に覚えがないんだが?」

チートなかったからパーティー追い出されたけど、お金無限増殖バグで自由気ままに暮らします

寿司
ファンタジー
28才、彼女・友達なし、貧乏暮らしの桐山頼人(きりやま よりと)は剣と魔法のファンタジー世界に"ヨリ"という名前で魔王を倒す勇者として召喚される。 しかしそこでもギフトと呼ばれる所謂チート能力がなかったことから同じく召喚された仲間たちからは疎まれ、ついには置き去りにされてしまう。 「ま、良いけどね!」 ヨリはチート能力は持っていないが、お金無限増殖というバグ能力は持っていた。 大金を手にした彼は奴隷の美少女を買ったり、伝説の武具をコレクションしたり、金の力で無双したりと自由気ままに暮らすのだった。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...