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第3章 救出編

一撃

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「んじゃ、帰るか」

 ギリオンがアルに剣を教え、俺がシアに魔法を教える。
 そう決まったところで、今日の実戦は終了。
 常夜の森を去ることになったのだが。

 ……!?

「ちょっと待ってくれ」

「なんだ?」

「……魔物が近づいて来ている」

「んなの、いつものことだろうが」

「いや、この気配はさっきまでの魔物とは違うようだ」

 パピルやホーンラビットとは明らかに違う。
 かなりの気配を漂わせている。

 ブラッドウルフのそれに近い。
 が、そこまでの気配ではないか。

「大物か?」

「そこそこだ。とりあえず、アルとシア、それにフォルディさんは下がった方がいい」

「おれは残るぞ」

 シアとフォルディさんはすぐに下がってくれたが、アルが問題だ。

「だめだ。後ろで待機してくれ」

「どうしてだ! おれも戦える」

 そこまで強力な魔物ではないと思うが、それでも今のアルには難しいだろう。
 わざわざ危険を犯す必要もない。

「アル、下がれつってんだ」

「でも」

「でもじゃねえ。師匠の言うこと聞けねえのか」

「……分かった」

 3人が少し後ろに離れたところで。

「来るぞ」

「おうよ」

 俺とギリオンが見つめる目の前。
 木々の合間から現れたのは、体長2メートルほどの狼のような魔物。

「グルルゥ」

 赤茶色の毛並みに、わずかに赤みを帯びた眼。
 この姿は……。

「レッドウルフじゃねえか」

「そうみたいだな」

 この魔物は俺も知っている。
 ブラッドウルフの劣化版ともいえる狼系の魔物だ。

「こいつぁ、浅域の魔物じぇねえな」

 ギリオンの言う通り。
 ブラッドウルフの劣化版とはいえ、常夜の森の浅域にいるレベルの魔物じゃない。
 魔物図鑑によると、レッドウルフは常夜の森の中域か深域に生息しているみたいだからな。

「こういうことは良くあるのか?」

「そうあることじゃねえな。まっ、こいつぁ、はぐれて出て来たんだろうぜ」

「なるほど」

 やはり、こういう事態は珍しいんだな。
 で、こいつが群れからはぐれた魔物だというのなら、ここで倒せば問題はなくなる。
 そういうことだ。




「どうして、こんな魔物が?」

「姉さん、レッドウルフだぞ。大丈夫なのか?」

「分からないわ。でも、コーキさんとギリオンさんなら」

 焦ったような声が後ろから聞こえてくる。

「大丈夫、安心していいですよ。レッドウルフなんて、コーキさんの敵じゃないですから」

「そんなこと、どうして言い切れるんですか?」

「それはですね、コーキさんがレッドウルフ以上の魔物を簡単に倒しているところを、この目で見たからですよ」

「えっ、そうなんですか」

「そうなんです。だから、安心してくださいね」

 相変わらず、フォルディさんの信頼が重いな。

 とはいえ、確かに負ける気はしない。
 それなりに強力な魔物だが、俺にとっては難しい相手じゃないからな。




「で、ふたりで倒すか?」

「いんや、オレが倒してやらぁ。コーキは休んでていいぞ」

「大丈夫か?」

「ったりめぇだ。ちょいと厄介だが、問題ねえ」

「分かった。けど、危なくなったら手を出すぞ」

 ギリオンとは何度も立ち合っているので、その剣の長短は良く分かっている。
 ギリオンにとって、素早いレッドウルフは相性が良い相手とは言えないだろう。
 それでも、勝てない相手でもないか。

「へっ、しゃあねーな」

「手出しが嫌なら、さっさと倒してくれよ」

「ああ、任せとけ!」

 そう言って足を踏み出すギリオン。
 レッドウルフとの距離は3メートル程度。

「おりゃあ!」

 かけ声とともに、ギリオンの剛剣が真っ直ぐにレッドウルフに向かって放たれる。

 かなりの威力だ。
 けど、それじゃあ、レッドウルフには通じないんじゃないのか。

 案の定。

 レッドウルフは飛ぶようにして剣を避けてしまった。
 ギリオンのパワーは凄いんだけど、剣が真正直なんだよな。
 その素直な剣を補うほどの速度があればいいんだが、現状そこまでの速さはないからな。


 再び、距離をとって対峙するギリオンとレッドウルフ。

 そこから、また同じようにギリオンが剣を振るうが、これまた同じようにレッドウルフが回避する。

 それを繰り返すこと3度。

 そこで、少しバランスを崩したギリオンにレッドウルフが遅いかかってきた。
 その太い腕を振り回し、鋭利な爪でギリオンの顔を狙って!

「チッ!」

 ギン!

 ギリギリのところで、その爪に剣を合わせ何とか攻撃を防ぐ。
 すると。

「おらあぁ!」

 上手い!

 そのまま力任せに剣を振り抜いた。

 勢いに押されたレッドウルフが背後に飛ばされ、背中から地面に落ちる。

「ギャン」

 次の瞬間には、間合いを詰めているギリオン。
 体勢が整う前のレッドウルフに上段から剣を振り下ろした。

「ギャワァン!」

 剛剣がレッドウルフの首もとに吸い込まれる。

 強烈な一撃!

 その一撃で、レッドウルフの息の根を止めてしまった。

「おっしゃあ!」




「すげぇ!」

「ギリオンさん、すごいです」

「ひとりで倒してしまうとは、ギリオンさんも相当強いんですね」

「おれの師匠だからな」

「ええ、そうでしたね」

「ああ、おれの師匠は強いんだぜ」

 ギャラリー3人が騒がしいな。

「でも、本当にフォルディさんの言う通りでした。問題ありませんでしたね」

「ハハ、コーキさんの出番はなかったですけどね」

「そうですけど、それだけ余裕があったということですよね」

「そうなりますね」

「これなら、レッドウルフがあと2、3頭いても勝てるんじゃないでしょうか」

「ええ、多分勝ちますよ。それより、さあ、ふたりのもとへ行きましょう」




「ギリオン、お見事!」

「おうよ。だから楽勝だっつっただろ」

「楽勝とは言ってなかったけどな。でもまあ、いい攻めだったな」

 速度では負けている相手に上手く立ち回ったよ。
 ギリオンのことだから、本能で勘所を捉えたんだろうな。

「だろ。さすがオレ様だぜ」

「ああ、大したもんだ」

「ギリオンさん、凄かったです!」

 満面の笑みで3人が駆け寄ってきた。



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