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第2章 エンノア編
古野白楓季 4
しおりを挟む「……」
鋭いな。
とはいえ、何を聞かれても答えは同じだ。
「持っていませんよ」
「そうよね……。素直に話すわけないか」
俺が何らかの力を持っていることは、古野白さんの中では確定なのか。
だとすると、もう露見の点滅が消えることはないかもしれないな。
「でもね、今後何か打ち明けたいと思ったら、いつでも連絡してちょうだい。いえ、絶対連絡して。本当にあなたひとりじゃ危険なのよ」
「分かりました……」
真摯に説得するように話しかけてくれるその様子。
こちらの事を考えてくれているのは間違いない。
まっすぐで心根の優しい人なんだよなぁ。
「そう、じゃあ、これ渡しておくわ」
携帯電話の番号を書き留めたメモを手渡してくれた。
「フウキさんと読むんですよね」
渡されたメモに電話番号と一緒に書かれていた名前、古野白楓季。
楓の季節とは、古野白さんにぴったりの名前だな。
「ええ、そっちはコウキくんでいいのよね」
「はい」
「アリマコウキくんね」
俺の名前を発音しながら頷いている。
「それで、有馬くんの話はどういった内容かしら?」
「こちらの話ですか、そうですねぇ」
何を訊けばいいのか?
色々と知りたいことはあるが、薮蛇になりそうなことばかりだから。
話さなければいけなかった口止めの件は、もう話し終えたし。
「特にないですね」
「訊きたいことがあるって言ってたわよね」
「それは、さっきの古野白さんの話の中で聞けましたから。教えてもらえそうなことで、訊きたいことはありませんね」
「……そう」
「ということで、そろそろ帰りますか。送りますよ」
「そうね、お願いできるかしら」
**********************
<古野白楓季 視点>
「ここは私が払うわ」
伝票を持った私が一歩前に出る。
お世話になったお礼に、コーヒーくらいはご馳走したい。
こんなことでは借りを返したことにもならないけれど、気持ちの問題だから。
「そういう訳にはいきませんよ」
有馬くんが困ったような顔をしている。
そんな顔をする必要は全くないのに。
「いいのよ、今夜も助けてもらったのだから」
「……」
「それに、このあとも送ってくれるんでしょ。だったら、これくらいは私が出すわよ」
「……分かりました、ありがとうございます」
不承不承というような様子だけど、頷いてくれた。
有馬くんって、人から何かを施されるのが嫌なのかしら。
自分は見返りなど考えることもなく、2度も私を救ってくれたというのに。
たった1杯のコーヒーを御馳走するだけで、そんなに困ったような顔をするなんて。
でも。
フフ、その困り顔。
なんだか少し笑ってしまう。
ホント、顔に出るわよね。
結界に閉じ込められた窮地ではあんなに頼もしく見えたのに、今は子供っぽく見える。
面白いものだわ。
「行きましょうか」
「はい」
会計を済ませ店外へ出ると、湿気のこもった空気がまとわりついてきた。
冷房の効いていた店内に慣れていた身体が不快感を訴えてくる。
「家は駅から近いんですか」
「遠くはないわね」
「そうですか……」
「……」
「……」
それっきり会話が途絶えてしまった。
さっき襲われた公園からの移動中もそうだったけど、有馬くんといる時はお互いに黙っている時間が多いような気がする。
そんなことを考えながら歩いていると。
「私の家もここから遠くないんですよ」
有馬くんが話しかけてきた。
今回の沈黙は短かったわね。
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