83 / 1,157
第1章 オルドウ編
男子会 1
しおりを挟むヴァーンベックさんはギリオンとたまにパーティーを組む冒険者だそうで、ここ1年ほどはオルドウで活動しているらしい。
その見た目に反して、なかなか気さくで面白い人柄だったもので、3人での飲み会は大いに盛り上がった。
店の料理と酒も夕連亭に匹敵するくらい美味しく、おかげで今も楽しく、好い時間を過ごせている。
そうそう。
結局、夕連亭には行かず、ギリオンの行きつけの店で飲むことになったんだ。
「で、コーキの目標は何なんだ?」
お腹も満たされ、酒もそれなりに進んだところでのこと。
「ん? オルドウでの話か?」
「いんや、オルドウじゃなく剣士としてのお前の目標だ」
剣士として生きていくなんて一言も言ってないっての。
「ん…特に考えてないなぁ。まっ、色々と経験したいとは思っているかな」
10代の頃はいろいろと妄想したものだが、日本の日常の中で30年も待っていると、何をしたいなどと具体的に考えることは少なくなった。
最近では異世界に来ることだけを目的にして行動をしていたような気がする。
オルドウに来てからも、予想外のことが起こったおかげで、あまり余裕がなかったしな。
まっ、心躍る冒険をしたいというのは、ずっと変わらず心の中にあるんだけど。
「なんだそりゃ」
「田舎者だから、多くのことに慣れる必要があるんでね」
「面白みのねえ奴だなぁ。剣はそこそこ使えんのによ」
「面白くなくていいんだよ。まず俺はオルドウの街と冒険者の活動に慣れる必要があるからな」
「確かにそれは大事だな。分からないことがあったら、ギリオンじゃなく俺に聞けよ」
「ヴァーンベックさん、ありがとうございます」
「おう、何でも聞いてくれ」
それなら、ひとつ聞いておきたいことがある。
「実は人を探しているんですが」
「ん? 誰だ?」
「冒険者をしているかどうかは分かりませんが、赤い髪のリーナという女性と金髪のオズという男性、ふたりとも15~20歳くらいなのですが、知りませんかね?」
時間にずれがあるかもしれないので、2人の年齢については正直分からない。
駄目元で聞いてみよう。
「リーナにオズか……。その名前は聞いたことがねえわ」
「そうですか」
「わりいな」
「いえ……」
まっ、そうだろうな。
オルドウみたいな街で人を探すのは難しいよな。
しかし、リーナもオズもオルドウにいるんだろうか?
これまで何人かに聞いてみたが、誰もふたりのことを知らなかったからなぁ。
オルドウ以外の街に住んでいる可能性の方が高いのかもしれない。
分かってはいたが、簡単じゃなさそうだ。
「ヴァーンじゃダメだな。オレに任せりゃいいぞ。なっ、コーキ」
「じゃあ、ギリオンはこのふたりを知ってんのかよ」
「いや、知らねぇ」
「なんだそりゃ」
本当になんだそりゃだわ。
でも、おかげで湿っぽくならずにすんだな。
「なっ、ギリオンに聞くのは止めといた方がいいぜ。知識も常識もないからな」
「んだと、オレのどこが常識ないってんだ」
「つい最近も非常識なことやってただろうが」
「んなことやってねえぞ」
「ほら、これだ」
飲み会が始まってからずっとそうなんだが、この2人のやりとりは横で聞いているだけで面白い。
「負けても負けても毎日のようにレイリュークに挑んでただろうが、ありゃ迷惑この上ないぜ」
「迷惑じゃねぇ。なんせ、いい勝負だったからな」
「何言ってんだ。レイリュークに簡単にあしらわれていただろうがよ」
「そんなことねえわ。もう一歩だったっての」
「よく言うぜ」
「嘘じゃねえ。おい、コーキ、こいつの言うこたぁ、信じんなよ」
「……」
「これだから酔っ払いはタチがわりい。しかしまあ、こんな有様で赤鬼ドゥベリンガーや剣姫イリサヴィアや幻影ヴァルターに勝つって言うんだぜ。信じられるか、なあ、コーキ」
「はん、近々勝ってやるわ」
口を挟む暇がない。
「レイリュークに子供扱いされてたのにな」
「だから、されてねえっつってんだろ」
子供扱いかどうかは分からないが、ギリオンはオルドウ滞在中のレイリュークさんと数度対戦し、一太刀もその身体に浴びせることができなかったらしい。
実際に対戦を見たわけではないので詳しいことは分からないが、さすがに善戦したとは思えないよな。
ちなみに、今回も俺はレイリュークさんに会えていない。
残念だが、色々とあったから仕方ないな。
次の機会を楽しみにしよう。
「ホント、レイリュークも良く相手してくれたよなぁ」
「ふん、それはオレ様が強いからよ」
「そうかい。さすが未来の剣豪様だよ」
呆れたように両手を上げて、こちらに視線を送ってくる。
「おうよ。分かりゃいい」
「コーキ、こいつ酔ってるから許してやってくれよ」
いい気分で酒を飲んでいるギリオンに聞こえないような小声で囁いてくる。
なんだかんだ言いながらも、気にかけているんだな。
良い関係だ。
まあ、ギリオンはこっちのことなど気にもとめず、ひたすら杯をあおっているだけなんだけどさ。
「ええ、分かってますよ」
「でもなぁ、コーーキィ~。お前はもっと大きな夢を持てっよ」
「……」
かなり酔いがまわってきた感じだ。
「オレの夢はなぁ、キュベリッツで最強の剣士になることだぁ~」
「うるせえなぁ。もう何度も聞いてるわ。コーキもだろ」
「まあ、そうですね」
「しかし、最強の剣士ねぇ。そんなに興味はねえけど、今の最強って誰なんだろうな」
「オレさまだ」
「分かった、分かった。で、お前以外だと誰だよ」
「そりゃあ、ドゥベリンガーかイリサヴィアだっろ」
「ヴァルターじゃ駄目か」
「あいつぁ、もう現役じゃねえからな」
「まあ、そうだな」
レイリュークさんに加え、赤鬼ドゥベリンガー、剣姫イリサヴィア、幻影ヴァルター。
こちらの世界に来てから何度か耳にした高名な剣士の名前。
その中でもドゥベリンガーとイリサヴィアが抜けているらしい。
いつかお手合わせ願いたいものだ。
14
お気に入りに追加
527
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
辺境で魔物から国を守っていたが、大丈夫になったので新婚旅行へ出掛けます!
naturalsoft
ファンタジー
王国の西の端にある魔物の森に隣接する領地で、日々魔物から国を守っているグリーンウッド辺境伯爵は、今日も魔物を狩っていた。王国が隣接する国から戦争になっても、王国が内乱になっても魔物を狩っていた。
うん?力を貸せ?無理だ!
ここの兵力を他に貸し出せば、あっという間に国中が魔物に蹂躙されるが良いのか?
いつもの常套句で、のらりくらりと相手の要求を避けるが、とある転機が訪れた。
えっ、ここを守らなくても大丈夫になった?よし、遅くなった新婚旅行でも行くか?はい♪あなた♪
ようやく、魔物退治以外にやる気になったグリーンウッド辺境伯の『家族』の下には、実は『英雄』と呼ばれる傑物達がゴロゴロと居たのだった。
この小説は、新婚旅行と称してあっちこっちを旅しながら、トラブルを解決して行き、大陸中で英雄と呼ばれる事になる一家のお話である!
(けっこうゆるゆる設定です)
俺を追い出した元パーティメンバーが速攻で全滅したんですけど、これは魔王の仕業ですか?
ほーとどっぐ
ファンタジー
王国最強のS級冒険者パーティに所属していたユウマ・カザキリ。しかし、弓使いの彼は他のパーティメンバーのような強力な攻撃スキルは持っていなかった。罠の解除といったアイテムで代用可能な地味スキルばかりの彼は、ついに戦力外通告を受けて追い出されてしまう。
が、彼を追い出したせいでパーティはたった1日で全滅してしまったのだった。
元とはいえパーティメンバーの強さをよく知っているユウマは、迷宮内で魔王が復活したのではと勘違いしてしまう。幸か不幸か。なんと封印された魔王も時を同じくして復活してしまい、話はどんどんと拗れていく。
「やはり、魔王の仕業だったのか!」
「いや、身に覚えがないんだが?」
チートなかったからパーティー追い出されたけど、お金無限増殖バグで自由気ままに暮らします
寿司
ファンタジー
28才、彼女・友達なし、貧乏暮らしの桐山頼人(きりやま よりと)は剣と魔法のファンタジー世界に"ヨリ"という名前で魔王を倒す勇者として召喚される。
しかしそこでもギフトと呼ばれる所謂チート能力がなかったことから同じく召喚された仲間たちからは疎まれ、ついには置き去りにされてしまう。
「ま、良いけどね!」
ヨリはチート能力は持っていないが、お金無限増殖というバグ能力は持っていた。
大金を手にした彼は奴隷の美少女を買ったり、伝説の武具をコレクションしたり、金の力で無双したりと自由気ままに暮らすのだった。
異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる