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第1章 オルドウ編

男子会 1

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 ヴァーンベックさんはギリオンとたまにパーティーを組む冒険者だそうで、ここ1年ほどはオルドウで活動しているらしい。

 その見た目に反して、なかなか気さくで面白い人柄だったもので、3人での飲み会は大いに盛り上がった。

 店の料理と酒も夕連亭に匹敵するくらい美味しく、おかげで今も楽しく、好い時間を過ごせている。

 そうそう。
 結局、夕連亭には行かず、ギリオンの行きつけの店で飲むことになったんだ。


「で、コーキの目標は何なんだ?」

 お腹も満たされ、酒もそれなりに進んだところでのこと。

「ん? オルドウでの話か?」

「いんや、オルドウじゃなく剣士としてのお前の目標だ」

 剣士として生きていくなんて一言も言ってないっての。

「ん…特に考えてないなぁ。まっ、色々と経験したいとは思っているかな」

 10代の頃はいろいろと妄想したものだが、日本の日常の中で30年も待っていると、何をしたいなどと具体的に考えることは少なくなった。
最近では異世界に来ることだけを目的にして行動をしていたような気がする。

 オルドウに来てからも、予想外のことが起こったおかげで、あまり余裕がなかったしな。

 まっ、心躍る冒険をしたいというのは、ずっと変わらず心の中にあるんだけど。

「なんだそりゃ」

「田舎者だから、多くのことに慣れる必要があるんでね」

「面白みのねえ奴だなぁ。剣はそこそこ使えんのによ」

「面白くなくていいんだよ。まず俺はオルドウの街と冒険者の活動に慣れる必要があるからな」

「確かにそれは大事だな。分からないことがあったら、ギリオンじゃなく俺に聞けよ」

「ヴァーンベックさん、ありがとうございます」

「おう、何でも聞いてくれ」

 それなら、ひとつ聞いておきたいことがある。

「実は人を探しているんですが」

「ん? 誰だ?」

「冒険者をしているかどうかは分かりませんが、赤い髪のリーナという女性と金髪のオズという男性、ふたりとも15~20歳くらいなのですが、知りませんかね?」

 時間にずれがあるかもしれないので、2人の年齢については正直分からない。
 駄目元で聞いてみよう。

「リーナにオズか……。その名前は聞いたことがねえわ」

「そうですか」

「わりいな」

「いえ……」

 まっ、そうだろうな。
 オルドウみたいな街で人を探すのは難しいよな。

 しかし、リーナもオズもオルドウにいるんだろうか?
 これまで何人かに聞いてみたが、誰もふたりのことを知らなかったからなぁ。
 オルドウ以外の街に住んでいる可能性の方が高いのかもしれない。

 分かってはいたが、簡単じゃなさそうだ。

「ヴァーンじゃダメだな。オレに任せりゃいいぞ。なっ、コーキ」

「じゃあ、ギリオンはこのふたりを知ってんのかよ」

「いや、知らねぇ」

「なんだそりゃ」

 本当になんだそりゃだわ。
 でも、おかげで湿っぽくならずにすんだな。

「なっ、ギリオンに聞くのは止めといた方がいいぜ。知識も常識もないからな」

「んだと、オレのどこが常識ないってんだ」

「つい最近も非常識なことやってただろうが」

「んなことやってねえぞ」

「ほら、これだ」

 飲み会が始まってからずっとそうなんだが、この2人のやりとりは横で聞いているだけで面白い。

「負けても負けても毎日のようにレイリュークに挑んでただろうが、ありゃ迷惑この上ないぜ」

「迷惑じゃねぇ。なんせ、いい勝負だったからな」

「何言ってんだ。レイリュークに簡単にあしらわれていただろうがよ」

「そんなことねえわ。もう一歩だったっての」

「よく言うぜ」

「嘘じゃねえ。おい、コーキ、こいつの言うこたぁ、信じんなよ」

「……」

「これだから酔っ払いはタチがわりい。しかしまあ、こんな有様で赤鬼ドゥベリンガーや剣姫イリサヴィアや幻影ヴァルターに勝つって言うんだぜ。信じられるか、なあ、コーキ」

「はん、近々勝ってやるわ」

 口を挟む暇がない。

「レイリュークに子供扱いされてたのにな」

「だから、されてねえっつってんだろ」

 子供扱いかどうかは分からないが、ギリオンはオルドウ滞在中のレイリュークさんと数度対戦し、一太刀もその身体に浴びせることができなかったらしい。

 実際に対戦を見たわけではないので詳しいことは分からないが、さすがに善戦したとは思えないよな。

 ちなみに、今回も俺はレイリュークさんに会えていない。
 残念だが、色々とあったから仕方ないな。
 次の機会を楽しみにしよう。

「ホント、レイリュークも良く相手してくれたよなぁ」

「ふん、それはオレ様が強いからよ」

「そうかい。さすが未来の剣豪様だよ」

 呆れたように両手を上げて、こちらに視線を送ってくる。

「おうよ。分かりゃいい」

「コーキ、こいつ酔ってるから許してやってくれよ」

 いい気分で酒を飲んでいるギリオンに聞こえないような小声で囁いてくる。
 なんだかんだ言いながらも、気にかけているんだな。
 良い関係だ。

 まあ、ギリオンはこっちのことなど気にもとめず、ひたすら杯をあおっているだけなんだけどさ。

「ええ、分かってますよ」

「でもなぁ、コーーキィ~。お前はもっと大きな夢を持てっよ」

「……」

 かなり酔いがまわってきた感じだ。

「オレの夢はなぁ、キュベリッツで最強の剣士になることだぁ~」

「うるせえなぁ。もう何度も聞いてるわ。コーキもだろ」

「まあ、そうですね」

「しかし、最強の剣士ねぇ。そんなに興味はねえけど、今の最強って誰なんだろうな」

「オレさまだ」

「分かった、分かった。で、お前以外だと誰だよ」

「そりゃあ、ドゥベリンガーかイリサヴィアだっろ」

「ヴァルターじゃ駄目か」

「あいつぁ、もう現役じゃねえからな」

「まあ、そうだな」

 レイリュークさんに加え、赤鬼ドゥベリンガー、剣姫イリサヴィア、幻影ヴァルター。
 こちらの世界に来てから何度か耳にした高名な剣士の名前。
 その中でもドゥベリンガーとイリサヴィアが抜けているらしい。
 いつかお手合わせ願いたいものだ。



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