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第1章 オルドウ編

まほうつかい? 1

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 介入すべきか判断できない。
 そもそも、善悪の区別もつかない。

 そこに、謎の塊がまた出現する。
 塊と膝をつく女性との距離は3メートルもない。

 まずい。
 どうする?

「フッ。ハハハ」

 突然、若い男の哄笑が暗闇に響き渡る。
 誰かを思わせる嗤い。
 嫌な嗤いだ。

「これで終わりだ。もう追って来れないぞ」

 これはもう、あれだな。
 この状況と、個人的な好みで判断させてもらうか。

「それ」

 男の声と共に謎の塊が発射される寸前。

「石弾!」

 俺の作り出したソフトボール大の石の塊が高速で謎の塊に激突。

 バリーン!

 塊が音を立てて砕け散った。

「なに!?」

 驚き焦る男を尻目に、女性のもとに駆けつける。
 その身体を両腕で抱え。

「えっ、何? どうして? 誰?」

 そのまま距離をとる。

「くっ、新手か!」

 悔しそうな顔をしているが、空中に新たな塊を出現させている。

 日本の魔法使いも、やるなぁ。
 こちらも対抗しないとな。

「いけ!」

 男の眼前から魔法の塊的なものが射出される。
 こちらも発動が早い魔法で対応。

「石弾!」

 わずかに遅れて発射。
 が、石弾の方が速い。
 俺の作り出した石弾が相手の塊を破壊し、さらに男に迫る。

「グッ」

 避けようとした男の腕に当たったようだ。
 こちらは女性を抱えたままなので、また少し距離をとる。

「くそっ!」

 女性を抱えたまま魔法戦をするのもどうかと思うので、ひとまず女性を安全な場所に避難させてから応戦しよう、と思ったのだが。

「あっ、逃げたわ」

「……」

 俺の目の前には、こちらを振り返りもせず一目散に逃走する男の姿があった。

 ……。

 あいつ、魔法の発射もなかなか素早かったが、撤退の判断も早かった。
 逃げ足も相当なものだ。

 とはいっても、女性を放置すれば追跡は可能だと思う。
 可能どころか、魔力で強化したこの身体なら、すぐに捕まえることもできるはず。

 ただ、そこまでする必要があるのかということだ。
 状況を把握していないこの段階で、女性を抱えたこの状態で、すぐさま追跡をする気にはなれないよな。

 そもそも助けてよかったんだろうか。
 危険を見過ごすことができず、思わず介入してしまったが。

「……」

「……」

 何だか気まずい。
 微妙な沈黙の中、一応周囲を確認するが、あの男が戻って来る様子も隠れている様子もない。

 さてと、今俺の腕の中には暫定的に正義方と見なした女性がいる。
 腕の中の彼女、いわゆるお姫様抱っこ状態…。

 抱えている女性と目が合う。
 いや、ホント、気まずいよ。

「あの、大丈夫ですか?」

「ええ……。とりあえず下ろしてくれないかしら」

「ああ、そうですね」

 公園内にある近くのベンチまで移動し、女性に座ってもらう。
 これで、少しは落ち着いて話ができるかな。
 そう思って、女性の姿をあらためて見てみると。

「……」

 さっきまで戦いに夢中になっていたため気付かなかったが……。

 この女性、かなり整った容姿をしている。
 暗がりなので分かりづらいが、それでも美人であることに疑いはない。
 それに、細身の高身長、脚も長い、まるでモデルのようだな。

 こんな女性が夜の公園で魔法バトルとか、ここは本当に俺が暮らしている町なのか。
 まさか、20年前に戻ったのではなく平行世界にやって来たとか、そういうんじゃないよな。

 ……。

 違うよな。
 俺の周りの人たちは何も変わっていないから。

 となると、この現代日本には20年前、いや、それ以前から魔法が存在していたってことに
なる。

 ホントかよ?

「何、どうしたの?」

「いえ、なんでも」

「そう……。まず、助けてもらったことには感謝するわ。それで、あなた、どうやってこの公園に入ってきたの?」

 ん?
 普通に入ってきただけだよな。

「歩いて入って来ましたが」

「そういうことじゃな……歩いて入れたの!?」

「はい」

「……」

 何かを考え込むように俯いている。

「まあ、いいわ。それで、あなたは誰? どこの手の者なの?」

 これって、どう考えても感謝している口調じゃないよな。

「……」

 で、俺は名乗っていいのか?
 色々と秘密を抱えている俺が名前を教えても?

 いやいや、迂闊には名乗れないだろ。
 能力も見られただろうし。

 まいったなぁ……。


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