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第1章 オルドウ編

夕連亭 10

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 そういえば、以前の時間の流れの中で異世界に行くために、こんなようなものを集めていたことがあったな。

 が、まだこんな物に興味を持ってしまうなんて。
 手に取らずにはいられない。

 円柱形の木彫りに手を伸ばし、その表面を手で触れる。

「痛っ!?」

 次の瞬間、静電気のようなものが指先に走り、手を引いてしまう。
 と……。

 ガタン!

 木彫りが台座から床に落ちてしまった。

 まずい、この音で俺が隠れていると気付かれる。
 動揺しながらも、身を潜め、気配を消し、しばし時間を過ごす。

「……」

 冷汗が頬をつたう。

「……」

 シャツが汗に濡れる。

「……」


 大丈夫……か?
 特に変化は見られない。
 幸いなことに、食堂の近くにはまだ誰もいなかったのだろう。

 ホッと安心した俺の目の前には床に落ちた木彫り。
 注意して手に取ってみると、静電気は流れなかった。
 それは良かったのだが、木彫りを確認してみると……!?

 ひびが入っていた。

 ……。

 台座に戻し、再度確認するも、ひび割れに変わりなし。

 これ……安物じゃないよな。

 それなりに高価な品物に見える。
 仮に高価ではなかったとしても台座に飾ってあるくらいだから、大切な品なんだよな。

「……」

 少し乾いていた背中を冷汗がまた湿らせる。

 いや、待て、この台座から落ちたくらいでひび割れするか?
 元々あったキズなんじゃないのか。

 そんなわけない……か。

 ……謝って弁償しよう。


 って、今はそれどころじゃないんだった。
 食堂内を見渡すが。

 ……。

 変わりはない。

 よかった。

 しかし、こんな場面で何やってんだか。
 緊張感なさすぎだ。

「……」

 とはいえ、これで気が楽になったのも確か。
 今回は怪我の功名ということにしておこう。


 と思って数分後。

 食堂の入り口の方からかすかに音が聞こえてきた。足音?
 扉を開け入って来たのは、ウィルさんとヨマリさん。

「母さん、こんな時間に何なの?」

「話があるって言ったでしょ」

「部屋ですればいいのに」

「ここの方が誰にも聞かれないわ」

「そうだけど……。ふぁ~」

「人前でそんな欠伸しないの」

「母さんしかいないでしょ」

「それでもよ」

「その話の前にひとつ聞きたいんだけど、そもそもどうして急にこっちに来たの?」

「それは、あなたと話をしたかったからよ」

「嘘ね。お母さんの嘘は分かりやすいから」

「嘘というわけではないけど……」

「それはもういいから。で、オルドウにどんな用事があったの」

「……予言よ」

「え?」

「あなたも知っているでしょ。予言の確認に来たの」

「お母さん、まだそんなの信じてたの」

「……」

「そんなの、でたらめだって」

「……」

「それで、何か見つかったの?」

「多分……。でも、まだ分からないわね」

「どうせ見つからないよ」

「そんなことないわ、ウィル」

「もう予言なんて無視しちゃえばいいのに」

「……」

「まあ、予言はどうでもいいから。それで、お母さんの話って何?」

「それは……」

「何?」

「あなたのお母さんとお父さんの話よ」

「母さんは母さんじゃない」

「ありがと。でも、何を言いたいのかは分かるでしょ」

「……」

「あなたの本当のお母さん、私の姉ユマリはあなたを産んですぐに亡くなったわ。父親も既に亡くなっている、そう話していたわよね」

「それで何。どうして急にそんな話をするの?」

「話す必要ができたからよ」

「どういうこと?」

「それも含めて話すから聞いてちょうだい」

「……分かった」


 これって、聞いていい話なのか。
 耳を塞ぐべきなんだろうか。

 でも、そうすると襲撃者の立てた音を聞き逃すかもしれないし。

 とりあえず、このまま……。




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