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第1章 オルドウ編

リセット 2

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 どうして発動しないんだ?

「……」

 ああ、そうか。
 そうだった。

 リセットで戻ったこの時点では、日本からこちらに来たばかり。
 初日の朝という状況なんだった。
 ということは、あと12時間近くもこちらで過ごさなければいけない。

 けど……。

 今は何もする気が起きない。
 かといって、あの路地裏に12時間も留まっていることもできない。

 足は重いけど、宿に入ろう。
 夕連亭以外の宿に。








「功己、いつまで寝てる気? 今日は大学行かないの?」

 開いたドアから軽くない湿気を帯びた初夏の空気が流れ込んでくる。

 だるいな……。

「……今日は休む」

「どうしたの? 体調でも悪いの?」

「ちょっとね」

「熱でもあるの?」

「ないよ、疲れただけ。寝れば治るからさ。母さんは気にせず仕事に行って」

「そう……。まあ、ゆっくり休みなさい」

 ドアを閉めて母さんが出て行く。

「……」

 寝てばかりだ。

 異世界間移動が使えなかったあの後、最初に見つけた宿に入って部屋のベッドで横になると、すぐに眠ってしまった。12時間はあっという間に過ぎ、異世界間移動で自室に戻り、そのまま風呂にも入らずまた睡眠。

 母さんに起こされるまでずっと眠っていた。

 こんなに眠れるものなんだな。
 でも、まだ眠い。

「……」

 とにかく身体に力が入らないんだ。
 身体が重い。
 こんなに寝ているのに。

「……」

 死にかけたんだから当然なのか?
 心と身体が活動を拒否しているとか。
 休息を欲しているとか。

 そういうことなんだろうな。

 もう少し寝よう。






 トントン。

 何だ?

 トントン。

 ああ、ノックか。

「功己、晩御飯よ。体調悪くてもご飯は食べなさい」

 母さんが夕食を部屋まで運んでくれた。

「ありがとう。食べるから置いといて」

「あんた、まだ顔色悪いわね。大丈夫なの?」

「朝よりは良くなってるし、熱もないんだから心配要らないよ」

「そう。でもご飯は食べなさいよ」

「わかった」


 もう19時か。
 随分寝たな。
 それでも眠気が取れないなんて。

 とりあえず、夕食を食べて風呂に入ろう。
 そうすればスッキリするはずだ。





 翌日も大学を休み自室で過ごす。
 昨日よりはましだが、身体にあまり力が入らない。
 もう充分休んだし栄養も摂った。
 あの体験に対する恐怖も幾分薄れてきたと思う。

 それでもこの状態。
 さすがにこれは、どうなんだ?

 死を経験しかけたのだから、これで普通なのか?
 それとも、異常なのか?

 分かるわけない、な。

 ……。

「はぁ」

 せっかく異世界に行けるようになったのに、あんなことになるなんて…。
 完全に油断していた。
 どこかで甘く見ていたんだろう。

 オルドウでは、ずっと穏やかな時間を過ごしていたから。

 情けない。
 30年も準備していたというのに。

 でも、まだあの世界に足を踏み入れる気分にはなれない。
 本当に情けないな。

 ……。

 今のオルドウでは、あの日の時間が、俺の初日の時間が流れているのか。
 あの日はヨマリさんを案内して、ウィルさんと出会って……。

 そうだ、ウィルさんだ!
 ウィルさんが殺されていたんだ!

 今は何時?
 15時。

 昨日こちらに戻って来たのが午前3時。
 それから36時間が経過。時間経過は半分で済むからオルドウでは18時間。
 あっちは……夕方か。

 ウィルさんが殺されたのはあの日の午前2時頃だろうから、まだ間に合う。

 なら、何とかしないと。
 異世界に、オルドウに行って。

 ベッドから降り、立ち上がるが、まだ完全には力が入らない。
 でも、それどころじゃない。

 着替えを済ませ、準備を整え。
 異世界間移動を。

「……」

 口に出せない。

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