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第1章 オルドウ編
再び 7
しおりを挟む神様にお会いしたあの空間から出たら、そこは実家の自分の部屋だった。
もう5年以上は帰っていない実家。
この部屋に入るのは何年ぶりだろう。
懐かしいなぁ。
このクリスタルや祭祀具のような玉なんかはよく眺めていたものだ。
あっちのトーテンポールの模造品は誰のお土産だったか?
当時は少しでも異世界に近づきたくて、何か手掛かりがあるんじゃないかと怪しげな品物を集めていたんだよなぁ。
それにこっちは手品の道具。
異世界で役に立つかもしれないと思い、いくつかの手品を身につけたんだった。
おかげで手先が器用になった気がするよ。
そして、武術の用具。
収納できないものは、部屋の中に置きっぱなしにしていたんだよなぁ。
しかしまあ、こうして眺めてみると手あたり次第って感じが否めない。
それだけ必死だったのだろうけど。
机の上の懐中時計を手に取ってみる。
20年前に戻っているとしたら、ここに懐中時計があるのも納得できるな。
俺の懐の懐中時計が無くなっているのはタイムパラドックス的な何かなのだろう。
しかし、この部屋の中にある雑多なものの中で、40歳の時点の俺が所持していたのはこの時計くらいか。
そう考えると感慨深いものがある。
まあ、あれだな、この部屋には懐かしい思い出が詰まっているということだ。
「……」
考えてみれば、ここ数年は家族とも疎遠で実家に帰るどころか電話すら殆どしていなかった。それもこれも俺の鬱屈した心情ゆえのことで、家族には何ら原因はないんだ。情けないとは思いながらも、どうしても家族と向き合う気になれなかったから。
40男がだらしないもんだ。
でも、今はすっきりした気分で家族と顔を合わすことができる、そんな気がする。
……。
……。
さて。
現実から目を背けている内に、ようやく少し落ち着いてきた。
「……まあ、神様のすることだから」
何でもありだよな。
信じがたい現実を受け止めようか。
ということで、2階の自室から階下の洗面所に向かい大鏡で再度確認。ついでに玄関に置いてあった今日の新聞で日付も調べて、そのまま自室に戻る。
本当に20年戻っていたよ。
今は俺が20歳の7月だった。
これが夢でなければだけど。
「……」
うん、これはこれで。
いや、冷静に考えると、ありがたいよな。
いくら鍛えていたとはいえ40男の身体で異世界に赴くより、20歳の身体で行く方が良いに決まっている。
それに、20歳の時点でも充分鍛えていたからな。
その点でも問題はないはずだ。
そうなのだけど、気掛かりなのは武術の腕や神様にいただいたギフトの熟練度など。
使えないとか、著しく低下しているとか?
それは勘弁してほしいけど。
まあ、仮にそうだとしても。
異世界に行けるようになったことを考えれば、多少の犠牲には目を瞑るべきだな。
とにかく、その辺はあとで検証しよう。
ということで、20歳になったという現実は今さらどうしようもない。
しっかり受け止めて、これからのことを考えるとするか。
「では、まずは……ステータス」
そう念じると、目の前の空間に画面と文字が浮かんでくる。少し奥行きのある立体的な文字だ。
有馬 功己 (アリマ コウキ)
20歳 男 人間
HP 110
MP 155
STR 183
AGI 125
INT 211
<ギフト>
異世界間移動 基礎魔法 鑑定初級 エストラル語理解
セーブ&リセット 1
<所持金>
15、000メルク
<クエスト>
1、人助け 済
これは、まあ、何と言うか……。
考えるべき点は多々あるものの、眼前に広がる文字たちを見ていると、そういったものも無視してしまいそうになる。それほどの喜びが、尽きることのない源泉から湧き出てくるように感じられるんだ。
さて、どこから手を付けていこうか。
と考えていると。
「功己~、いつまで部屋にいるの? 今日は大学でしょ?」
階下から声が聞こえてきた。
その言葉に我に返る。
母さんだ。
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