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第1章 オルドウ編
再び 5
しおりを挟む「さて、これが問題だが、上手くいくか? ……ふん、ん?」
右手を上方にかざし、左手で前方の空間に円を描きながらな指を素早く動かしている。
眼は上方を眺めながらも、どこか視線がずれている。
何を見ているのだろうか。
「ふむ、ふむ……ああ、ここに起点があるな。これはいい、実に良い。では、よし、これで……%&$#X%“#…………量…………$&*‘+@&%…………料、了……それ…………」
両手を戻すと、こちらに視線を向けてくる。
「これで大丈夫だろう」
やれやれと言ったような表情で右肩を回している。
神様も肩がこるのだろうか?
「ついでと言っては何だが、ひとつ面白いものも用意しておいた。期待しておくといい」
「そのようなモノまでいただけるとは、本当に何と言ったらよいのか……ありがたくも申し訳ないです」
「キミは本当に珍しい。最近は、口のきき方を知らぬ者も多いというのに、本当に珍しい」
「神様に対してですか?」
「うむ」
「そんな、畏れ多い」
「そう思わぬ者が多いということだ」
「神様に対してそのような態度をとれるとは、豪胆というより愚かと思えるのですが」
「ふむ」
「そもそも、こうしているだけで神様の甚大なる御力を感じます。この御力を前にしてそんな態度をとるとは、私には考えられないことです」
あり得ないことだと思う。
信心や敬心というものを除いても、人が抗することなど考えられないほどの存在なのに。
猛獣を前にして立ちすくむことなんて問題にならない程のこの感覚を感じないのだろうか。
「ほぼ力を消しているというのに感じられるか……なるほど、なら、これも与えられるな」
「……」
「もうひとつギフトを追加しておいた。後ほどステータスで確認すればいい」
「ありがとうございます。ですが……」
また何かを与えてくれた。
本当にここまでしてもらえるなんて、感謝を通り越して申し訳ない気持ちでいっぱいになる。これまでがこれまでだっただけに、少し怖くもなってしまう。
「何度も言うが、気にする必要はない」
「……はい」
「そろそろキミが戻る時間だな。では、最後にひとつ忠告をしておこう」
「忠告ですか」
「そう。キミは大した努力家だ。よくここまで頑張った。人の身としてそれは賞賛に値する。しかし、異世界だけがキミの世界ではない。そちらの世界での人生も大切にするように。ふたつの世界での均衡を保つようにしなさい」
神様の言う通り、この30年ずっと異世界に傾倒してきた。全てを犠牲にとは言わないけれど、多くのものを犠牲にして暮らしてきた。それは言い訳もできないくらいの事実。それで良いと思っていた。
もちろん、こちらには戻れないと覚悟していたというのもある。
だけど、こうして自由に往来できる力を与えていただいたのだから…。
神様の言う通り、日本での暮らしも改善するべき、だな。
「そろそろ時間だ。これで、またしばらくは会うことも無いだろう。達者で暮らしなさい、両方の世界でな」
「はい」
分かりました。
こちらの世界には大した思いを持っていなかったけど。
いや、違うな。
持ってはいけないと思っていたんだ。
でも、これからは違う。
両方の世界で頑張ろう。
そう決意を新たにしていると、視界が真っ白に染まり意識が薄れていく。
「本当にありがとうございました」
神様、ありがとうございました。こちらの世界でも前向きに生きるよう善処します。
気付くと、俺は自分の部屋にいた。
それは予想通りなんだけど……。
ひとり暮らしの部屋ではなく、長らく帰っていない実家の部屋だった。
なぜに実家なのか?
神様がわざわざ実家に送り届けてくれたと?
不思議だ。
それに……。
室内の様子が随分と様変わりしている。
ベッドや家具の配置も違う、さらに神具、祭祀具や呪術具のような怪しげな品々が机や棚の上に置かれている。異世界に行くため藁にもすがる思いで集めたものだが、随分と前に処分したはず。
どうして今も飾られているのか?
親が飾ったとでもいうのか?
わざわざ俺の部屋に?
意味が分からない。
さらに俺を困惑させたのが、目の前の机の上に置かれた時計。
そう、今朝も寝起きに時間を確認したあの懐中時計が置かれていたのだ。
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