447 / 528
第五部 『帝国』編
445 「眠り姫の母(2)」
しおりを挟む
「それじゃあ」
思わずこちらも聞いてしまう。
「はい。主治医は、良い兆候だと。それと、月待さんからご連絡を頂いた日に、その事がありました。正直、何かの巡り合わせじゃないかと思えたほどでした。もし娘の体の事がなければ、お話しする件はお断りしていたかもしれません」
まるでハルカさんが、お母さんの背中を押したような、もしくはオレ達を手助けしてくれたような感じがして、思わずこちらも笑みが出てしまう。
それに再び笑み返されてしまった。
「今日はお会いできて本当に良かったです。よろしければ、私の知らない娘の、遥の事を聞かせてくれないでしょうか」
「ゲームと、そこでの他愛のない話ばかりですよ」
「もちろん構いません。けど、あの真面目一辺倒のハルカがネットで友達とゲームしてたなんて、ちょっと意外です」
「ゲームの中でも、真面目な人でしたけどね」
「アラ、そうなんですか」
そう言って楽しそうに笑う。
何だか故人の思い出話っぽくなっているけど、そうではないのはハルカさんのお母さんの表情から間違いなさそうだ。
そして時間も過ぎて、そろそろ別れなければならない時に切り出した。
「あの、もし可能でしたら、お見舞いすることは出来ないでしょうか」
なるべく真剣に、そして言葉にも力を込める。
両隣でも、二人が同じように真剣に見つめる。
ただここで頭を下げるのは少し違う気がしたので、あくまで可能性を探る態度に留めた。
そしてハルカさんのお母さんも真剣にオレそして、両隣の玲奈とトモエさんを見つめ返す。
そして数秒して、小さくため息をついた。
「面会は家族だけ、しかもごく短い時間だけという事になっています。私が同席すれば面会は可能とは思いますが、もう少し待っていただけますか。
それと、皆さんの事をもう少し知りたいと思いますので、次お会いした時にお返事させて頂いても宜しいでしょうか」
「はい、こちらこそお願いします。それで、次はいつにしますか?」
「ショウ君、気が早いよ」
玲奈にまた手を引っ張られた。
隣ではトモエさんの目も笑っている。
ハルカさんのお母さんにも、小さく苦笑された。
「構いませんよ。けど、急すぎても何ですから、一ヶ月後を目処にしませんか。それに私も今すぐにはスケジュールを開ける事は難しいですし、皆さんもすぐにはご無理でしょう」
暗に急ぎ過ぎるなと言われた気がした。
だからここは素直に引き下がる。
「では、二週間後くらいを目処に、一度こちらからご連絡を差し上げてよろしいでしょうか?」
「そうですね。それくらいでお願い出来ますか。あと今日の事は、時期を見て他の家族にも伝える事になりますが、よろしいでしょうか?」
「それは全然。あの、一緒には住んでらっしゃらないんでしたっけ?」
「ええ。遥はそんな事も話してたんですね。
うちはバラバラで、今も変わっていないんです。だから連絡すると言っても、精々電話かメールになるでしょうね。
遥が家に嫌気が差していたのも、今なら少し分かる気がします」
思わず漏れた愚痴って感じなので、ここはスルーを選択した。
ハルカさんのお母さんも、自分の言葉に気がつくと苦笑いで、そしてそれが面会の終わりとなった。
そしてその帰り道。
「ウーッ、緊張したー」
「わ、私も」
「だよね。でも大収穫だったね」
トモエさんはあんまり疲れてなさそうで、相変わらず精力的と言える表情だ。
「トモエさんのお陰です」
「今日は何もしてないよ。でも、次にも繋がったし、向こうの力を利用した魔法や奇跡を活かす機会もあり得そうだよね。ちょっとワクワクする」
「オレも希望が湧いてきました」
「私も。でも本当に、こっちでハルカさんに会えるんですね」
「まだ可能性が少し高まったってだけだけどな」
「アレ? 慎重になってない? もっと楽観的に考えてなかった、ショウ?」
トモエさんが言いながら、グーっとオレの顔を覗き込んでくる。
「楽観できそうな時は、楽観しすぎない事にしてます。調子乗ったら、大抵しっぺ返しくらいますからね。自分一人の事じゃないと思えば、尚更ですよ」
「確かにね。とにかく、次は向こうでハルカさんを目醒めさせないとね」
「そうですね」
「そっちはお願いね。私、何も出来ないから」
「そう言えば、向こうも見れなくなったんだっけ?」
今度は玲奈へと体を傾け、そのまま抱きついてしまう。そして玲奈は、天下の往来でも自然にトモエさんのハグを受け入れてる。
「うん。でも、今まで通りだから」
「そっか。私は向こうで二人のレナに会ってみたいんだけどな。無理そう?」
「けど、そうなると、もう一人のレナは完全にこっちに出てこれなくなるから、今のまま簡単に入れ替われるのが一番だって言ってましたよ」
「私もそれくらいの方が良いかな」
「なんだ、お互いの気持ちが一致してるなら、それっていけるんじゃないの?」
抱きついたまま、大きく首を傾げる。
なかなかに器用な姿だ。
「どうなんでしょう。私にもよく分かりません」
「私にも分かりませーん。テストなら簡単に分かるんだけどねぇ」
「オレには、そのテストの方が、分かってませんよ」
「シズに教えてもらってるのに?」
「一学期より少しはマシになってきたとは思いますけど、今までの積み重ねがありませんから」
そう、総大神殿イースから『帝国』の『帝都』に行くまでの間に、現実世界では中間テストが横たわっていた。
今までよりずっとマシにはなりそうだけど、教えてもらっているシズさんの努力に報いるためにも、何より自分のためにも頑張りたいところだ。
思わずこちらも聞いてしまう。
「はい。主治医は、良い兆候だと。それと、月待さんからご連絡を頂いた日に、その事がありました。正直、何かの巡り合わせじゃないかと思えたほどでした。もし娘の体の事がなければ、お話しする件はお断りしていたかもしれません」
まるでハルカさんが、お母さんの背中を押したような、もしくはオレ達を手助けしてくれたような感じがして、思わずこちらも笑みが出てしまう。
それに再び笑み返されてしまった。
「今日はお会いできて本当に良かったです。よろしければ、私の知らない娘の、遥の事を聞かせてくれないでしょうか」
「ゲームと、そこでの他愛のない話ばかりですよ」
「もちろん構いません。けど、あの真面目一辺倒のハルカがネットで友達とゲームしてたなんて、ちょっと意外です」
「ゲームの中でも、真面目な人でしたけどね」
「アラ、そうなんですか」
そう言って楽しそうに笑う。
何だか故人の思い出話っぽくなっているけど、そうではないのはハルカさんのお母さんの表情から間違いなさそうだ。
そして時間も過ぎて、そろそろ別れなければならない時に切り出した。
「あの、もし可能でしたら、お見舞いすることは出来ないでしょうか」
なるべく真剣に、そして言葉にも力を込める。
両隣でも、二人が同じように真剣に見つめる。
ただここで頭を下げるのは少し違う気がしたので、あくまで可能性を探る態度に留めた。
そしてハルカさんのお母さんも真剣にオレそして、両隣の玲奈とトモエさんを見つめ返す。
そして数秒して、小さくため息をついた。
「面会は家族だけ、しかもごく短い時間だけという事になっています。私が同席すれば面会は可能とは思いますが、もう少し待っていただけますか。
それと、皆さんの事をもう少し知りたいと思いますので、次お会いした時にお返事させて頂いても宜しいでしょうか」
「はい、こちらこそお願いします。それで、次はいつにしますか?」
「ショウ君、気が早いよ」
玲奈にまた手を引っ張られた。
隣ではトモエさんの目も笑っている。
ハルカさんのお母さんにも、小さく苦笑された。
「構いませんよ。けど、急すぎても何ですから、一ヶ月後を目処にしませんか。それに私も今すぐにはスケジュールを開ける事は難しいですし、皆さんもすぐにはご無理でしょう」
暗に急ぎ過ぎるなと言われた気がした。
だからここは素直に引き下がる。
「では、二週間後くらいを目処に、一度こちらからご連絡を差し上げてよろしいでしょうか?」
「そうですね。それくらいでお願い出来ますか。あと今日の事は、時期を見て他の家族にも伝える事になりますが、よろしいでしょうか?」
「それは全然。あの、一緒には住んでらっしゃらないんでしたっけ?」
「ええ。遥はそんな事も話してたんですね。
うちはバラバラで、今も変わっていないんです。だから連絡すると言っても、精々電話かメールになるでしょうね。
遥が家に嫌気が差していたのも、今なら少し分かる気がします」
思わず漏れた愚痴って感じなので、ここはスルーを選択した。
ハルカさんのお母さんも、自分の言葉に気がつくと苦笑いで、そしてそれが面会の終わりとなった。
そしてその帰り道。
「ウーッ、緊張したー」
「わ、私も」
「だよね。でも大収穫だったね」
トモエさんはあんまり疲れてなさそうで、相変わらず精力的と言える表情だ。
「トモエさんのお陰です」
「今日は何もしてないよ。でも、次にも繋がったし、向こうの力を利用した魔法や奇跡を活かす機会もあり得そうだよね。ちょっとワクワクする」
「オレも希望が湧いてきました」
「私も。でも本当に、こっちでハルカさんに会えるんですね」
「まだ可能性が少し高まったってだけだけどな」
「アレ? 慎重になってない? もっと楽観的に考えてなかった、ショウ?」
トモエさんが言いながら、グーっとオレの顔を覗き込んでくる。
「楽観できそうな時は、楽観しすぎない事にしてます。調子乗ったら、大抵しっぺ返しくらいますからね。自分一人の事じゃないと思えば、尚更ですよ」
「確かにね。とにかく、次は向こうでハルカさんを目醒めさせないとね」
「そうですね」
「そっちはお願いね。私、何も出来ないから」
「そう言えば、向こうも見れなくなったんだっけ?」
今度は玲奈へと体を傾け、そのまま抱きついてしまう。そして玲奈は、天下の往来でも自然にトモエさんのハグを受け入れてる。
「うん。でも、今まで通りだから」
「そっか。私は向こうで二人のレナに会ってみたいんだけどな。無理そう?」
「けど、そうなると、もう一人のレナは完全にこっちに出てこれなくなるから、今のまま簡単に入れ替われるのが一番だって言ってましたよ」
「私もそれくらいの方が良いかな」
「なんだ、お互いの気持ちが一致してるなら、それっていけるんじゃないの?」
抱きついたまま、大きく首を傾げる。
なかなかに器用な姿だ。
「どうなんでしょう。私にもよく分かりません」
「私にも分かりませーん。テストなら簡単に分かるんだけどねぇ」
「オレには、そのテストの方が、分かってませんよ」
「シズに教えてもらってるのに?」
「一学期より少しはマシになってきたとは思いますけど、今までの積み重ねがありませんから」
そう、総大神殿イースから『帝国』の『帝都』に行くまでの間に、現実世界では中間テストが横たわっていた。
今までよりずっとマシにはなりそうだけど、教えてもらっているシズさんの努力に報いるためにも、何より自分のためにも頑張りたいところだ。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる