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第四部

296「空からの殲滅戦(2)」

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 飛び立ってすぐにレナとシズさんの乗るヴァイスに近づいて用件を伝える。
 ボクっ娘は、「うへーっ」て感じで嫌そうな顔を一度してから渋々受け入れてくれた。

 なお、ボクっ娘の後ろにはシズさんがいて、さらにその後ろ後ろにキューブに魔力の体と鎧をまとったアイが位置している。
 シズさんの護衛と、空中で魔法を使う際の固定役のためだ。
 しかし空中戦となると同伴する訳にもいかないので、ライムの方に移動する。

「じゃ、ちょっと暴れて来るね!」

「気をつけてな」

「無理すんな」

「ショウとは違うよー!」

 陽気な声に戻って、一気に加速して行った。


 その後、竜騎兵はゆっくりと空を進んだけど、地上の魔力の気配が高まっているのを感じ始めると、その発生源の辺りの上空で一方的な空中戦が繰り広げられていた。
 『アナザー・スカイ』で空中戦最強と言われる巨鷲(ジャイアント・イーグル)を操る疾風の騎士(シュツルム・リッター)が11騎もいるのだから、数の暴力に等しい。

 2騎から3騎で連携しながら、魔物が駆る飛龍(ドラゴン)、鷲獅子(グリフォン)、翼龍(ワイバーン)、さらに黒い天馬や飛馬を一方的に狩っていく。
 下級悪魔の駆る飛龍ですら対抗は無理で、空では無敵に等しい。
 乗り手はボクっ娘以外は男性ばかりだけど、さながら死天使の群れだ。

 なお魔物が駆る飛行生物は、1万を超える魔物の軍勢に属するだけあって、天馬を中心に100騎を超えていた。
 けど、疾風の騎士達の最初の上空からの逆さ落としに対抗しようとした、強そうな魔物ばかりが落とされていった。

 さらに、すれ違い様に発生した暴風で天馬など小型の飛行生物の編隊もしくは陣形を乱されると、魔物の群れはなす術がなかった。
 反撃の弓も投げ槍もほぼ命中せず、当たっても意味がなかった。
 魔物側の接近戦など、天馬程度では許してすらもらえなかった。

 とにかく機動性が違いすぎて、地上戦で歩兵が騎兵に狩られていくのを三次元で再現しているような有様だ。
 魔物側はたまらず地表に逃れようとしたが、多くが速度差からそれすら適わず切裂かれていく。
 それでも友軍のいる地表の森に逃げ込む魔物もいたが、攻撃する疾風の騎士にとって大した障害じゃない。

 ある程度の高度だと森からも貧弱な弓矢やマジックミサイルも飛んで来るが、高い魔力により風の護りを持つ戦闘中の疾風の騎士に普通の矢では意味がない。

 術者の能力が低いマジックミサイルも、効果はほとんどない。
 空軍元帥の大柄な天鷲(てんが)を狙ったやつなど、明らかに弾かれていた。空軍元帥の豪快な高笑いが響いてきそうなほどだ。

 しかも自動追尾のマジックミサイルは、そもそも射程距離が限られている上に疾風の騎士の戦闘速度が速すぎるので、狙っても射程距離が尽きて役に立たない事が少なく無い。

 そして高度な魔法を修得出来る機会のない魔物では、威力の高い魔法がほとんど無かった。
 腕力では人に勝るが、遠距離戦が苦手なのは魔物全体の欠点の一つだ。
 しかも疾風の騎士の側も、多少でも強そうな魔力の反応がある場所には不用意に近寄らないので、射程距離の限られている高威力の魔法が打ち出される事はなかった。

「一方的だな」

「集団だと尚更よね。で、これが、疾風の騎士が国に属さない理由の一つよ」

「そうなんだ」

「空の魔物に強いってのもあるけど、この力が人の世界に向いたら大変でしょ」

「確かに。空で強いのはレナだけじゃないんだな」

 そうして30分もしないうちに大規模な空中戦、空の掃討戦は終了した。
 後で聞いた話だけど、ボクっ娘は博士の館で逃したのと同じ竜騎兵を見かけたが、またも逃げていったそうだ。

 オレはその場に居なくてよかったと思ったが、ヴァイスを見られた時点で見られたも同じだと思い直す。
 大規模な戦闘を前にして些細な問題でしかないし、戦場で挑んでくるなら倒せばいいだけだ。


 一方、樹海の下の魔物の軍勢は騒然としているようだけど、もう遅い。
 空中戦の終盤には、竜騎兵の展開が始まっていた。
 一旦背中の同乗者達を降ろした竜騎兵の幾つかは、半ば暇つぶしのように逃げ出した天馬等を狩ったりすらした。
 オレ達、エルブルスの竜騎兵は、大きく敵の隊列の西側の前と後ろの二つに分かれ、前はオレ達が、後ろはガトウさんに任せて、側面上空から魔物を追い立て始める。

 魔物の集団は、概算で約1万から1万5000体。
 先頭と殿(しんがり)辺りには、地龍の大きな姿が樹海の木々の間から見え隠れしている。

 数の上での主力は矮鬼(ゴブリン)と大矮鬼(ホブゴブリン)、さらにそれらの上位種。食人鬼(オーガー)も主力部隊と思われる辺りに集団でいるようだ。
 初めて見るガタイの大きめの人型は、醜鬼(オーク)かもしれない。
 何となくだけど、悪魔がいそうな魔力の気配も幾つか感じ取る事が出来る。

 全般的な魔物の強さは、先だって砦で戦った魔物の軍より強そうだし、どこで調達したのか装備もかなり良さそうだ。
 人型以外にも、魔狼など動物が魔物化した魔獣も少なくない。
 そしてそれに乗った騎兵のような部隊も見かける事が出来る。

 しかし、どこか統一された意思に欠けている。
 それに逃げているせいか、勢いというかそういう雰囲気が感じられない。
 そこにきての呆気ない制空権の喪失で、さらに戦意も低下している。


「ユーリちゃん。前と同じようにいきたいけどいい?」

「ハイ! ライムがブレスを広く吹きかけるので、その後魔法お願いします」

「オレは見学か。ハルカさん、オレの魔力いる?」

「魔石も沢山あるし、必要なら後でもらうわ。それより支えながらでいいから、周りに注意していて。これだけの大群だと、どこから攻撃があるか分かったものじゃないもの」

「だな。油断大敵。二人は戦いに集中してくれ」

「そっちは頼むよ、お兄ちゃん。じゃあ、そろそろ行きます。ライム!」

 悠里の声にライムがかなりの大声で叫び、それがオレ達の攻撃開始の合図となった。
 魔物の集団の前方からは、火竜公女のテスタロッサと2騎の竜騎兵がタイミングを合わせて接近しつつある。
 さらに敵集団の後ろからは、ホランさんの炎龍が体勢を整えつつある。

 そしてほぼ同時に、前面と殿からは炎が、側面の前の辺りからは雷のブレスが浴びせかけられる。
 さらにそこに、ハルカさんの光槍陣が殺到していく。
 他にも、様々な場所から遠距離投射できる派手目な魔法ばかりが投射されていく。

 オレ達の前の辺りは、普通なら避けたり対策が取れたかもしれないが、放電で体の自由が利かないところに光の槍が魔力の強い魔物を優先的に串刺しにしていく。
 さらにそこに、後続していた竜騎兵に乗る獣人達の弓矢と石弓、投げ槍、投石機などの飛び道具が加わる。若干だけど、魔法の矢も飛んだりしている。

 前方ではブレスによる火災も発生し始めており、魔物達は撤退のための前進どころではなくなって大混乱だ。
 しかもほぼ同時に、後方でも炎のブレスが炸裂して混乱が広がっている。
 逃げている時に後ろから攻撃されたので、後ろの方が魔物の混乱は大きいようだ。

 なお、魔物の大集団は、樹海の中を大きく二つの隊列が100から200メートル離れて進んでいた。ともに隊列の長さは4キロメートルほど。
 しかし空からの攻撃で隊列は乱れ、徐々に追い立てられて両者の隊列が接近していく。
 その間、包囲から漏れる魔物もいるが放置する。全体として追い込めればそれで問題はない。

 そして眼下の魔物の軍勢は、逃げる方向に空への牽制や妨害が出来る魔物を集めて突破しようとしていた。
 その場に押し込められたらじり貧だし、普通なら地上からも敵の追撃が迫っていると考えるだろう。

 オレは、先日ライムを撃墜させた悪魔ゼノのような攻撃を特に警戒していたが、少なくとも飛龍を一撃で撃墜するような攻撃は見られなかった。
 それ以前に、強そうな魔力の反応を見つけることができない。強い悪魔が率いてはいないのだろう。

 それでもこちらも無傷とはいかないが、傷を負ったドラゴン数体が先に後退したくらいだ。
 幸い、竜人が操るエルブルスの竜騎兵は、小さな傷を受けただけで全騎まだ戦場にある。

 しかしその竜騎兵達が、翼龍からの伝令を受けて敵との間合いを広めに取る。さらに、魔物に見せる欺瞞行動として各所で集合する動きを見せる。
 魔物から見れば、押し込め終わったので集中攻撃して来ると考えるのではないだろうか。
 しかし、こちらの本命は別のところになる。
 
 最初の一撃は、魔物の集団のど真ん中を超音速の数倍で、超低空を突っ切っていった。
 空軍元帥の天鷲による一撃だ。
 一番長い時間、一番大きな範囲が衝撃破で吹き飛び、押し潰され、樹海とその下の魔物の集団を真一文字に貫いたように蹂躙した。
 魔力により破壊力、衝撃力を大きく増した超音速による攻撃、ソニックボミングだ。
 そして攻撃は、1回で終わりではない。

 次々にノヴァ空軍の疾風の騎士達が、相棒と共に超音速で急降下し、そのまま超低空を押し潰しながら通過して行く。
 次は集団の両翼を時間差を空けて通過すていった。
 これで樹海に凄く長い川の字が描かれたわけだけど、さらにもう4回、川の字の間を縫うように行われる。
 この攻撃には、ボクっ娘とヴァイスが参加していた。

 結果、なぎ倒された周辺の木々を加味すれば、面として押しつぶされたようなものだった。
 一連の攻撃は演習さながらだそうだけど、実際似たような演習をノヴァの空軍はしていたという事だ。
 
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