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第三部
274「魔物の軍勢の崩壊(2)」
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「流石に、世界竜にここまで出張ってもらうわけにはいないだろう。まあ、やってしまったもんは仕方無いし、ノヴァの人から何か言われたら、故意じゃない火事で想定外だって言い訳しとくよ。実際そうだし、レイ博士も口裏合わせよろしく」
「か、構わんが、本当に火事が自然鎮火しなかったらどうする?」
どうにも博士は煮え切らない。というより、責任を問われないかと考えているのだろう。
けどこれは、オレが始めた事だ。
「流石に大樹海が全部燃え尽きるまで何ヶ月、下手したら何年もかかるだろうし、何かあった時はそん時に考えます」
「うわっ、開き直っちゃった」
「おま、お兄ちゃん、そんなキャラだった?」
「やっぱり心臓に毛が生えてるでしょ」
シズさん以外には呆れられたように、どうやら楽観的になりすぎた発言だったようだ。
けど、楽観ばかりしているわけではない。
念のための事だってちゃんと考えている。まあ、当座の事についてだけど。
「そ、それはともかく、レイ博士とラルドさんは念のためレイ博士の館に戻ってください。2騎付けます」
「すまないな、領主様。俺は念のため治療の準備だけしておくよ」
「頼みます。博士もいいですね」
「う、うむ。ではこの指輪を……シズ君に預けよう。我が子らをうまく使ってくれ」
「ああ、任されよう」
「じゃあホランさん、二人を送る竜騎兵を選んでください。残りの人は、ここを本陣にするので、ゴーレム達をここの守備に残して、竜騎兵で順番に偵察と敗残兵狩りをしていきましょう」
「あら、それらしいじゃない。で、私達は?」
オレ的にはみんなと一緒に戦いたいところだけど、今回はそうはいかないだろう。
ハルカさんも問いかけこそしてきたが、瞳は違うことを語っているように思える。
「前線の指揮は、ホランさんとガトウさんに任せます。レナは誰か連れてくか?」
「そうだねー、ハルカさんは念のための治療要員でここに居た方がいいだろうし、ボク達だけで空から逃げるやつらを摘んでおくよ」
「了解。悠里はガトウさんの指示に従ってくれ」
「言われなくても分かってるっての」
「私もここで待機でいいのか? 魔石の魔力ならまだ十分残ってるが」
「と言うわけだ、悠里。シズさんを頼む。ガトウさんいいですね」
「否などあるはずもありませんよ。シズ殿は共に地上の掃討を頼みます」
「心得た。行こう悠里ちゃん」
「はいっ!」
そうして周辺に散っていった。
そして1時間もすると、博士たちを送っていた竜騎兵たちもホランさんの指揮下戻る。
その間に、敗走しつつある魔物の集団が、森林火災を迂回した東側から街跡の拠点に逃れつつあるのを確認した。
だから、竜騎兵とその背に乗る獣人たちの大半がそちらに向かう。
澱んでいるとはいえ魔力に満ちた森なので、すでに自分たちの魔力もある程度は回復しているし、空から探せば集団で移動する魔物の群れを見つけるのは比較的簡単だ。
そして基本的に空から襲撃するので、こちらが先制攻撃&奇襲攻撃になるので、ほとんど一方的に攻撃する事ができているようだ。
その上魔物たちは戦いに負けて傷ついている奴も多いし、何より戦意が低い。
しかも、戦いで消耗した魔力をまだ回復できていないので、能力が低下している者も少なくない。
あまりに一方的なので、一昨日の戦いの方が戦い甲斐があるほどだった。
最初に中間報告にきたホランさんの言葉を信じればの話だけど、その言葉と態度に否定する要素はどこにもない。
実際、大した事なかった。
その時は、樹海を抜けてきた30体ほどの雑多な魔物の集団が、偶然にオレ達の陣地まで落ち延びてきた。
けど、半数のゴーレムは周辺を更地にする作業に回していたにも関わらず、ゴーレム達に追われて、オレとハルカさんに切り刻まれて呆気なくお仕舞いだった。
そしてさらに30分ほどした頃、複数の竜騎兵がこちらに飛んできた。
うち1騎は大柄で普通の色と違うので、最初はガトウさんかと思ったが、違っていた。
「しょうねーん、ちょっと手伝ってもらえないかしらー!」
上空を優雅にそして豪快に飛行していたのは、ホランさんの操る龍と同じ炎龍。確か名をテスタロッサと言った。
その名の通り、真紅の鱗に覆われた大きな飛龍だ。2対のツノが宝石のように輝いていて、とても綺麗だ。
「何か不測の事態ですかー!」
「降りて説明しますわ。少しお待ちあれ!」
そう言うと、本陣の一角に降り立ってくる。
ゴーレム達を遊ばせない為に樹木の排除を続けていたので、お供の2騎も十分に降り立つことができた。
そして降り立ったところに走り寄ると、半ばドレスのような鎧をまとった火竜公女さんが優雅に地上に降り立つところだった。
「回れ右した魔物の集団の主力を、皆さんが仕掛けた炎の壁の頂点部分に追い詰めていますの」
「そちらに向かえばいいんですか?」
「ええ、そうよ。ただ炎龍と雷龍、あとシズさんに来ていただければ十分ですわ」
それぞれに目配せしつつ、必要なオーダーを乗せてくる。
リクエストから、何をするのかは明白だ。
そして火竜公女さんが目を向けた先には、丁度ライムが戻って来るところだった。
「炎の壁に押し付けるんですか?」
「そうよ。少ない労力で大きな成果。これが一番でしょう」
「そちらの魔法使いだけでは足りないんですね」
「ええ。今まで張り切りすぎて、魔力不足でしてね」
自身の言葉に苦笑気味な火龍公女さんだけど、戦い慣れているが長期戦になる戦争には慣れてない『ダブル』の戦いに、本来は不要な苦労をしているのだろうと思える。
「分かりました。悠里、戻って早々悪いけど、ガトウさん呼んできてくれ。竜騎兵と獣人はホランさんに頼むよう伝えてくれ。それとハルカさん」
「私が見てくればいいのね」
「いや、ここの留守を任せようかと」
「だから、領主が持ち場離れてどうするのよ」
ジト目ではなく素で叱られた。
「いや、それこそ責任者として見届けないと」
「はいはい、夫婦喧嘩は後になさってね。お借りするご家臣とお仲間は、私の名にかけてお仕事が終わったらすぐにお返ししますわ」
言い争いになりそうなのを、火竜公女さんに簡単に止められてしまった。
しかも二人とも、ここに残ってろとまで言われたも同然だ。
思わず二人で顔を見合わせて、小さく苦笑いしてしまう。
「それじゃあ、宜しくお願いします」
「こちらこそ、お手数をお掛けしてごめんなさいね。それじゃあ、すぐにお仕事かかりましょうか」
そう言った火竜公女さんの視線の先には、2騎の赤と蒼のドラゴンが戻りつつあった。
その後、オレ達から見て轟々と燃える森林火災の向こう側で、炎の包囲殲滅戦が行われた。
ノヴァの軍の方で魔石を借りて、二度ほど火竜公女さんの指示通りにブレスを吐き、シズさんが火災の炎を使って派手な炎の魔法をいくつも披露していったそうだ。
大火災の炎を利用した「炎の滝」という魔法で、魔物の一群を飲み込んだりもしたという。
そして一通りドラゴンブレスと魔法を放ち終えたらお役御免となると、1時間も経たずしてオレ達の元へと戻ってきた。
ちょっと見たかった気もしたが、「敵が人だったら、吐いてたかも」という悠里の言葉とゲンナリした様子を見るに、あまり気分のいい戦闘ではなかったようだ。
火竜公女さん、まじ容赦ない。
しかし殲滅から逃れた魔物もいたし、他方向に逃れた魔物もいる。逃れた中には魔物の総指揮官を中心とするまとまった数の集団もいるとの情報を、ボクっ娘は持ち帰ってきた。
それを探すのが、最後の仕事になりそうだ。
そしてノヴァの側が敵を炎に追いたてたように、もはや戦闘とすら呼べないほどの魔物の軍勢の瓦解は進んでいた。
「か、構わんが、本当に火事が自然鎮火しなかったらどうする?」
どうにも博士は煮え切らない。というより、責任を問われないかと考えているのだろう。
けどこれは、オレが始めた事だ。
「流石に大樹海が全部燃え尽きるまで何ヶ月、下手したら何年もかかるだろうし、何かあった時はそん時に考えます」
「うわっ、開き直っちゃった」
「おま、お兄ちゃん、そんなキャラだった?」
「やっぱり心臓に毛が生えてるでしょ」
シズさん以外には呆れられたように、どうやら楽観的になりすぎた発言だったようだ。
けど、楽観ばかりしているわけではない。
念のための事だってちゃんと考えている。まあ、当座の事についてだけど。
「そ、それはともかく、レイ博士とラルドさんは念のためレイ博士の館に戻ってください。2騎付けます」
「すまないな、領主様。俺は念のため治療の準備だけしておくよ」
「頼みます。博士もいいですね」
「う、うむ。ではこの指輪を……シズ君に預けよう。我が子らをうまく使ってくれ」
「ああ、任されよう」
「じゃあホランさん、二人を送る竜騎兵を選んでください。残りの人は、ここを本陣にするので、ゴーレム達をここの守備に残して、竜騎兵で順番に偵察と敗残兵狩りをしていきましょう」
「あら、それらしいじゃない。で、私達は?」
オレ的にはみんなと一緒に戦いたいところだけど、今回はそうはいかないだろう。
ハルカさんも問いかけこそしてきたが、瞳は違うことを語っているように思える。
「前線の指揮は、ホランさんとガトウさんに任せます。レナは誰か連れてくか?」
「そうだねー、ハルカさんは念のための治療要員でここに居た方がいいだろうし、ボク達だけで空から逃げるやつらを摘んでおくよ」
「了解。悠里はガトウさんの指示に従ってくれ」
「言われなくても分かってるっての」
「私もここで待機でいいのか? 魔石の魔力ならまだ十分残ってるが」
「と言うわけだ、悠里。シズさんを頼む。ガトウさんいいですね」
「否などあるはずもありませんよ。シズ殿は共に地上の掃討を頼みます」
「心得た。行こう悠里ちゃん」
「はいっ!」
そうして周辺に散っていった。
そして1時間もすると、博士たちを送っていた竜騎兵たちもホランさんの指揮下戻る。
その間に、敗走しつつある魔物の集団が、森林火災を迂回した東側から街跡の拠点に逃れつつあるのを確認した。
だから、竜騎兵とその背に乗る獣人たちの大半がそちらに向かう。
澱んでいるとはいえ魔力に満ちた森なので、すでに自分たちの魔力もある程度は回復しているし、空から探せば集団で移動する魔物の群れを見つけるのは比較的簡単だ。
そして基本的に空から襲撃するので、こちらが先制攻撃&奇襲攻撃になるので、ほとんど一方的に攻撃する事ができているようだ。
その上魔物たちは戦いに負けて傷ついている奴も多いし、何より戦意が低い。
しかも、戦いで消耗した魔力をまだ回復できていないので、能力が低下している者も少なくない。
あまりに一方的なので、一昨日の戦いの方が戦い甲斐があるほどだった。
最初に中間報告にきたホランさんの言葉を信じればの話だけど、その言葉と態度に否定する要素はどこにもない。
実際、大した事なかった。
その時は、樹海を抜けてきた30体ほどの雑多な魔物の集団が、偶然にオレ達の陣地まで落ち延びてきた。
けど、半数のゴーレムは周辺を更地にする作業に回していたにも関わらず、ゴーレム達に追われて、オレとハルカさんに切り刻まれて呆気なくお仕舞いだった。
そしてさらに30分ほどした頃、複数の竜騎兵がこちらに飛んできた。
うち1騎は大柄で普通の色と違うので、最初はガトウさんかと思ったが、違っていた。
「しょうねーん、ちょっと手伝ってもらえないかしらー!」
上空を優雅にそして豪快に飛行していたのは、ホランさんの操る龍と同じ炎龍。確か名をテスタロッサと言った。
その名の通り、真紅の鱗に覆われた大きな飛龍だ。2対のツノが宝石のように輝いていて、とても綺麗だ。
「何か不測の事態ですかー!」
「降りて説明しますわ。少しお待ちあれ!」
そう言うと、本陣の一角に降り立ってくる。
ゴーレム達を遊ばせない為に樹木の排除を続けていたので、お供の2騎も十分に降り立つことができた。
そして降り立ったところに走り寄ると、半ばドレスのような鎧をまとった火竜公女さんが優雅に地上に降り立つところだった。
「回れ右した魔物の集団の主力を、皆さんが仕掛けた炎の壁の頂点部分に追い詰めていますの」
「そちらに向かえばいいんですか?」
「ええ、そうよ。ただ炎龍と雷龍、あとシズさんに来ていただければ十分ですわ」
それぞれに目配せしつつ、必要なオーダーを乗せてくる。
リクエストから、何をするのかは明白だ。
そして火竜公女さんが目を向けた先には、丁度ライムが戻って来るところだった。
「炎の壁に押し付けるんですか?」
「そうよ。少ない労力で大きな成果。これが一番でしょう」
「そちらの魔法使いだけでは足りないんですね」
「ええ。今まで張り切りすぎて、魔力不足でしてね」
自身の言葉に苦笑気味な火龍公女さんだけど、戦い慣れているが長期戦になる戦争には慣れてない『ダブル』の戦いに、本来は不要な苦労をしているのだろうと思える。
「分かりました。悠里、戻って早々悪いけど、ガトウさん呼んできてくれ。竜騎兵と獣人はホランさんに頼むよう伝えてくれ。それとハルカさん」
「私が見てくればいいのね」
「いや、ここの留守を任せようかと」
「だから、領主が持ち場離れてどうするのよ」
ジト目ではなく素で叱られた。
「いや、それこそ責任者として見届けないと」
「はいはい、夫婦喧嘩は後になさってね。お借りするご家臣とお仲間は、私の名にかけてお仕事が終わったらすぐにお返ししますわ」
言い争いになりそうなのを、火竜公女さんに簡単に止められてしまった。
しかも二人とも、ここに残ってろとまで言われたも同然だ。
思わず二人で顔を見合わせて、小さく苦笑いしてしまう。
「それじゃあ、宜しくお願いします」
「こちらこそ、お手数をお掛けしてごめんなさいね。それじゃあ、すぐにお仕事かかりましょうか」
そう言った火竜公女さんの視線の先には、2騎の赤と蒼のドラゴンが戻りつつあった。
その後、オレ達から見て轟々と燃える森林火災の向こう側で、炎の包囲殲滅戦が行われた。
ノヴァの軍の方で魔石を借りて、二度ほど火竜公女さんの指示通りにブレスを吐き、シズさんが火災の炎を使って派手な炎の魔法をいくつも披露していったそうだ。
大火災の炎を利用した「炎の滝」という魔法で、魔物の一群を飲み込んだりもしたという。
そして一通りドラゴンブレスと魔法を放ち終えたらお役御免となると、1時間も経たずしてオレ達の元へと戻ってきた。
ちょっと見たかった気もしたが、「敵が人だったら、吐いてたかも」という悠里の言葉とゲンナリした様子を見るに、あまり気分のいい戦闘ではなかったようだ。
火竜公女さん、まじ容赦ない。
しかし殲滅から逃れた魔物もいたし、他方向に逃れた魔物もいる。逃れた中には魔物の総指揮官を中心とするまとまった数の集団もいるとの情報を、ボクっ娘は持ち帰ってきた。
それを探すのが、最後の仕事になりそうだ。
そしてノヴァの側が敵を炎に追いたてたように、もはや戦闘とすら呼べないほどの魔物の軍勢の瓦解は進んでいた。
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