上 下
260 / 528
第三部

260「合流(2)」

しおりを挟む
 ハルカさんが言葉の最後に、ホッと一息をつく。厳しく糾弾してが、本当は心配してのことだ。
 そしてそれを分かっていたのであろう、二人が頭を下げる。

「本当に助かったよ」

「礼なら、そこの領主様に言って。急ごうって言ったのは彼だから」

 話し合いを半ばぼーっと見ていたオレに、急に視線が集まる。

「領主? ハルカが領主じゃなかったの?」

「実はエルブルスは、男じゃないと正式な領主にさせてくれないの。今回、本当はそれをするためにノヴァに来たようなものだったのよ」

「確かショウ君だったな。では君が新たな、いや正式なエルブルス辺境伯ということか?」

「はい、そういう事になりました」

 オレの頼りない返事よりも、少し後ろで待機している家臣の皆さんの表情や頷き具合の方が、よほど真実を伝えていた。

「そちらの領内の事情は分かった。早期の来援を改めて感謝申し上げる、エルブルス辺境伯よ」

 そう言うとジン議員が、こちらの世界の礼儀作法に則って頭を下げる。合わせてリンさんも頭を下げた。
 家臣の皆さんに見せる為でもあるが、真摯な態度で状況から見て本当に大変だったのだろう。

「よしてください。それにオレはオツムはあれなんで、こういう時に剣を振り回すくらいしか出来ないですから」

「だが、エルブルス辺境伯の決断が、今回の戦闘の勝利を我らノヴァトキオにもたらしたのは間違いない事実だ」

「そうよ、感謝し足りないくらい。ところで、今後も戦闘参加してもらえるのかしら?」

 頭を上げてさらに賛辞が続く。ただ、少し早く来ただけなのに、こそばゆいくらいだ。

「事前の作戦期日の間は参加しますよ。ただ、補給とかはお願いします」

「何しろ領主様が急かしたから、晩御飯も持たずに駆けつけたからねー」

 ボクっ娘の混ぜ返しに、苦笑ながら多くが笑顔を見せた。

「ここでの世話は、私たちが責任を持って最大限提供させてもらうわ」

「報奨についてもだ。窮地を大勝に変えた功績は、この戦場にいる誰も否定できないだろう」

 オレが聞きたかった言葉はこれで十分だ。
 しかし周りの状況は、それで済ませて良いとは思えなくなりつつあった。
 魔物達が逃げ始めて、掃討戦に移りつつあったからだ。

「けど、まだ完全じゃないですよね」

「まだ戦ってくれるのか?」

 意外そうな顔をされた。
 けど、この状況を高みの見物は出来そうに無い。

「魔法職はともかく、オレはまだ全然余裕なんで手伝いますよ。まだみんな戦ってるんですから」

「と、領主様の仰せだ。行くぞ野郎ども。もうひと暴れだ!!」

「竜騎兵隊も出るぞ。ユーリはレナ殿と偵察を」

「分かりました。って、待ってよー」

 オレの一言でみんなが動き始める。
 ボクっ娘などは、オレが話し始めた時点でヴァイスの元へ走り始めていた。

「すいませんが、皆さんお願いします」

「私はどうする? また焼き払うか?」

「その後も追撃をすぐにするなら、森は焼かない方がいいと思います」

 オレの言葉にシズさんが頷く。
 言ってみただけと言った感じだ。

「分かった。なら、偵察が戻ってきたら、空から逃げるヤツらを爆撃して回ろう」

「お願います」

「派手に魔法使うなら、魔力を少し融通しましょうか? 流石に龍石も空でしょう」

「ハルカこそ消耗してるんじゃないのか?」

「どっちも、後でオレの残りを吸い上げてください」

「では、後でそうさせてもらおう」

 ハルカさんがオレに視線を向けて片眉をあげ、シズさんが耳を軽く揺らす。
 さらにハルカさんは言葉を続けた。

「とはいえ、今は私も行くわ。ラルドさん、シズの護衛もお願いね」

「ワシ、出番なしなんだがのお」

「治癒職は出番がないほどいいのよ」

 顎髭をしごいていたラルドさんが、苦笑を止めて頷いた。

「違いないな。ま、お前さんもほどほどにな」

「ええ。けど、魔力を沢山使うほどの相手はいなさそうだけどね」

「油断大敵。戦場の中心は隙間がないだろうから、注意しながら敗残兵を狩ろう」

 そう言って駆け出した。
 後ろからは「お願いします」というリンさんの声に被って「元気なことだ」というジン議員のため息まじりの声が聞こえていた。
 確かに、我ながら元気なものだと思う。



 その後の戦いは、前線の大きな砦を包囲していた魔物の大集団は、体制を整えたノヴァの増援部隊と砦から打って出たノヴァの市民軍によって挟み撃ちにされた。
 さらに空中からもノヴァの竜騎兵たちとエルブルスの竜騎兵の攻撃が加わり、魔物の大群は壊滅的打撃を受ける。
 そして大樹海側の北の方を囲んでいた魔物を中心にした生き残りは、追撃を受けつつバラバラとなって深い森へと消えていった。

 その中でオレ達は、ノヴァの軍の邪魔にならないように、主に崩れて敗走し始めていた魔物を中心に攻撃していった。
 最初は歯ごたえが足りないとホランさん達がぼやいていたしオレも同感だったが、あまりにも数が多いので終盤は辟易とさせられた。

 その上戦闘の終盤には、こちらも体力と魔力を消耗したので、軽傷者だったが怪我人を出すなど無傷とはいかなかった。
 このため、戦闘終了後にはドーワフのラルドさんの出番と相成った。

 だが、相手は魔物。潰せる時に潰せるだけ潰しておく方が良いので、まずは満足すべき結果と言える。
 ジン議員の見積もりでは、攻撃してきたうちの70%以上、特に空中戦力の90%以上は倒せたとの事だ。手を焼いた魔物に飼われていた地龍も、1ダースを超える数を倒したそうだ。
 魔物の集団が1万を大きく上回る数だった事を考えると、結果として完全勝利と言える。
 魔物が得意な夜の戦闘も無理だろうとの事だ。

 その上、この強襲で魔物たちが戦力の出し惜しみをしたとは考えられないので、これ以上増えることもないだろうとの予測だった。
 しかも単純に倒した魔物の数だけなら、発生頻度などから考えると、向こう1年は何もしなくても大丈夫な程だそうだ。
 大物狙いとなると、数年は獲物不足に悩むだろうとまで言っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...