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第三部

「警備隊の皆さん(1)」

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「おつかれー。何か倒したー?」

 相変わらず一見緊張感に欠ける声で、空から降りてきたボクっ娘が問いかけてくる。
 しかしまだヴァイスの上で、油断しているわけではない。
 声だけで、視線も周囲を警戒していてこちらをほとんど見ていない。
 ハルカさんも同様だけど、少しテンションが低いらしく積極的に話そうとしてこない。

「悪魔がいた。ホラ」

 とりあえず戦果を見せておく。

「けっこう大きな魔石だねー。強さは?」

「さあ? 飛び降りざまに一太刀だったから。けど、オレの動きには多少反応できてたから、魔力はBランク以上だとは思う」

「なるほどねー。他には?」

「特に目ぼしい魔物は見なかった。いたとしたら、最初の爆撃でやられてんじゃないか?」

「こっちも居なかったー!」

 話していると、オレが飛び降りたライムが近くに悠然と舞い降りてきた。
 そして悠里は、着地するなりヴァイスの方に身を乗り出す。

「ヴァイスちゃん凄いね。獅子鷲が止まって見えた!」

「ライムちゃんちゃんもね。あんなブレス初めて見たよ!」

 ボクっ娘も同じように、相手に向けて身を乗り出している。
 たった2日で、すっかり仲良しな感じだ。空を駆ける者同士、どこか通じるものがあるんだろう。
 そこにハルカさんが、ヴァイスからゆっくり目で降りてくる。
 乗ってる間は無言だったし、足取りが少し重い。

「やっぱ酔った?」

「戦闘で気が張っているうちは平気だったから、克服できたかもって思ったけど、降りたら一気にきた感じ。ちょっと肩貸して」

「いくらでもどうぞ。あと、飲む?」

「ん。ありがと」

 腰に下げていた金属製の水筒を差し出すと、間接キスも気にせず気持ちよさそうに飲む。
 この水筒はマジックアイテムで、保有者の魔力を供給すると常時程よい冷たさに保たれるという便利アイテムだ。別バージョンに、保冷用の小箱もある。

 そしてその水筒をオレに返すと、肩どころか背中一面に寄りかかってくる。
 座って休憩した方がいいんじゃないだろうかと思ったが、オレの背中側は周りから見て影になるので、不甲斐ないところを他に見せずに済むようにとの配慮だ。

 そうして数分ほど雑談などしていると、竜人が炎龍ごと降りてきた。
 竜人は乗っている龍とお揃いの、濃い赤色の龍の鱗でできた全身甲冑を着込んでいる。
 そして三体もの巨体がそばに降りてオレ達を囲む格好になったので、かなりの威圧感がある。ヴァイスで慣れてなかったら、圧倒されていたところだ。

「お見事でした、領主ショウ様」

「お疲れ様ガトウ。ショウ、この人は竜騎兵隊のガトウ隊長。竜人同士の関係だと、まあ青年団団長みたいな人よ」

 すかさず、近くに来ていたハルカさんが紹介してくれる。
 もう寄りかかってないし、姿勢もしっかりしている。こういうところは流石だ。

 なお、ガトーという呼び名でフランスのケーキを思い浮かべそうになったが、発音が少し違ったし、後で「牙刀」という漢字名をかつて『ダブル』からもらったという話を聞いた。
 名前通りとても強そうで、声も外見と合っている。それでいて礼儀正しいので、武人といった雰囲気だ。

「よろしくお願いしますガトウさん。見事な戦いぶりでしたね」

「こちらこそ、末永くよろしく頼みます」

「凄いのは坊主だろ! 空から悪魔を一太刀なんて荒技初めて見たぜ!」

 ガトウさんへの返答を口にする前に、別方向からノシノシと言った感じで歩いてきたガタイのいい獣人が、野太い声で威勢よく声をかけてきた。
 体格的には人だけど、頭が狼というタイプの獣人だ。
 まさに狼男といった印象を受ける。

 しかも全身毛むくじゃらなタイプで、手の先も獣っぽい。そして尻尾が4本もある。引き連れている獣人も同じタイプが多く、まるで狼の群れのようだ。
 そういえば、統制のとれた戦闘をしていたように思う。

「ありがとうございます。けど、ルカ様でもできますよ」

「そういや、嬢ちゃんも身軽だったよな。でもよ、あの力技は嬢ちゃんじゃ無理だろ」

「あんな無茶、出来てもしたくないわよ。この人はホラン。一応エルブルス領の将軍をしてるわ」

「一応はねえだろ。まっ、適当にやってるがな」

 そう言って豪快に笑う。
 大きく口を開けると獰猛な並びの歯が見えて、とても迫力がある。同時に、どうやって人と同じ言葉が喋れるのか、純粋に興味を抱きそうになる。

 ただ、ガタイがでかい分、声もでかいのは人と変わらないようだ。
 名前は生来のものだけど、『ダブル』に漢字の当て字で「咆嵐」と付けてもらったらしい。
 ここでは漢字の命名が流行ってるのかもしれない。

 そして竜人も体格的には2メートル近い巨漢になるので、巨漢二人に目の前に並ばれると、オレは子供のように見上げるしかない。
 端から見ても、大人と子供に見えるだろう。坊主と言われても、反論する気にもならない。

「じゃあこれで、領地の警備隊の幹部がこの場に揃っているんですね」

「そうですね。バートル殿は領地のまとめ役になっているので、概ね正しいかと」

「当人は戦いたがっているがな。あとは、北砦と北西砦の砦長くらいか」

「敵、いや魔物は北からだけ来るんですか?」

 砦と聞いて、今のところ一番気になる事を確認しようと思った。そしてオレの質問に、自然に全員の視線が北の方に向く。

「ああ、西は海、東の山は世界竜の領域、南はしばらく竜人の領域で、その先の小さな峠を越えたら俺達の縄張りだ」

「ここは、ここから北に大きく広がる魔物の領域に対する最前線になるので、世界竜が提示した場所の中からルカ様がここを領することを望まれたのだ」

「そうだったんだ」

「北は魔物ばっかりだから、力さえあれば切り取り放題でしょう」

 ハルカさんが少し悪戯っぽく説明を補足する。しかしそれが建前なのは、その態度からも明らかだ。
 それは警備隊の二人の幹部を見ていても分かる。けどホランさんが、周囲を軽く見渡して口を開いた。

「その通りだな。突然大掛かりな襲撃こそ受けたが、これだけ叩けば魔物共の勢力は大きく衰える。本当に切り取れるぞ。
 というか、俺達はそれを期待して嬢ちゃんとこに来たわけだから、今日の戦果は万々歳だ」

「だが、上位の魔物である悪魔がいたのは気になる。それに砦の先の森も、まだ入ることは難しいだろう。澱んだ魔力が濃すぎる」

「なら焼きはらうか?」

 そう言って会話に加わったのはシズさんだ。
 余裕の表情を浮かべているので、勝算ありという事なのだろう。

「シズ殿だったか? 普通に焼きはらうなら難しいぞ。中途半端な火では、澱んだ魔力そのものに押し消されてしまう。それに、魔物化してる樹木や動物どもが集団で襲いかかってくる」

「『煉獄』を広域に張り巡らし、それを火事の火種にすればどうだ。一度、森ごと魔物の領域と化した小さな森を、丸ごと焼き払ったことがある」

「『煉獄』が使えるのか。それならいけるかもな。ところで、どこの出だ?」
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