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第三部

246「世界竜エルブルス(2)」

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 世界竜が帰った飛行場には、『まだらの翼』を最大級のサイズとして、20体ばかりのドラゴンが残っていた。
 うち半数ほどは一部に鎧や馬具のようなものを付けているので、竜騎兵だと見当がつく。そのうち1人が悠里となれば、間違い無いだろう。
 他に武具を装備した竜人や獣人、ドワーフが50人ほどいる。

 そうした全員が遠くに消えていく世界竜を見送った後、ハルカさんがオレを小突いて小声で話しかけてきた。

「これからが本番よ。うまく説明してね」

「説明じゃなくて、説得じゃないのか?」

「血の気は多いから、明確に話すだけで行く人は納得するわ」

「了解。それじゃあ……」

 注目を集めるべく声を上げようとしたところで、世界竜の消えた別方向から人を乗せた1頭のドラゴン、つまり竜騎兵が急速に接近してきた。
 飛行場もその急接近に緊張するが、敵襲でないのは周りの態度から明らかだ。

 その竜人が駆る竜騎兵は、かなりの速度のまま飛行場に荒っぽく着陸する。
 しかもオレ達のほぼ目の前で上手く停止し、素早い仕草で乗っていた竜人の騎士が降り立つ。
 そして竜人のバートルさんの前で膝を折る。
 ドラマや映画でよく見かけるような光景だ。

「伝令! 北の見張り所の北方10マール、森林より魔物の群れが溢れました。至急増援を要請するとの事です」

「報告ご苦労。数など詳細は?」

「数は100や200ではありません。500を超えると、北砦の隊長が申しております」

「飛行する魔物は?」

「魔物を背に乗せた獅子鷲が最低5体」

 言葉ぶりだけで、かなりの脅威だと想像できてしまう。
 すぐにもみんなが反応する。

「バートル、私達も向かいます」

「空で運べる人達だけでも先に向かえないか?」

 状況に対して、即座にハルカさんが反応した。
 シズさんの言葉は、なんだか参謀や軍師のようだ。

「就任早々、見せ場だね!」

 ボクっ娘がオレの背を「パンっ!」と勢い良く叩き、そのまま相棒のもとに走って行く。
 悠里も、他の竜人の竜騎士と同じく動き出している。

「レナ、こっち!」

「あ、待ってよー!」

 ボクっ娘がついていく側というのは頼りになるが、どうにも悠里は戦い慣れ過ぎているように思える。
 オレも出来ることをしないと少し焦る。

「バートルさん、すぐ出せるこちらの飛行戦力は?」

 ボクっ娘や悠里達を見送りつつ問いかけると、すぐにも家臣としての立場でバートルさんが反応した。

「ここをガラ空きにも出来ませんので、竜騎兵5、飛龍5、飛龍の背に合わせて30名ほど載せます」

「あの飛行船は?」

「急には無理だな」

 とは、ドワーフのラルドさんの言葉だ。

「了解。じゃあ、魔力持ちの数は?」

「竜騎兵は全員。兵達も総量の低い者を含めれば3人に1人は」

「沢山いるんだな。それで竜人の戦士は?」

「領主様は、我らの盟約をご存知ないのか?」

「悪い、まだその辺全然勉強できてない」

 知らない事だらけとはいえ、知らない事は素直に聞くに限る。
 陰キャでも、知るは一時の恥という言葉くらい知っている。

「うむ、了解した。我ら竜人は、他の種族との間の盟約で、竜騎兵もしくは竜騎士に選ばれた者のみが領域の外で戦うことを許されている。
 他の者は、我が身を守る以外の戦いは盟約により禁じられている。この街やそれぞれの住処の守りはできるが、それ以上は望まないで頂きたい」

《我らは主の命により、竜人と同じく自衛しか許されていない。飛龍達も戦場の側まで人を運ぶのみだ》

「了解だ。けど、守りが上位龍と竜人なら安心だよ」

「領主にそう言って頂けると、気も楽になる」

「それじゃあ、急いで向かいましょう」

 そう言って、それぞれが急ぎ準備に入る。
 しかし世界竜を迎えるために、警備兵は完全装備だったので準備は短時間で準備は整いそうだった。
 オレ達も同様で、すぐにも乗騎の元に走った二人を追う。

「そういえば、別れて乗るか?」

「ユーリちゃんと?」

「うん。ヴァイスは空中戦担当だから、乗る人は少ない方がいいだろ」

「そのまま空中戦しなくてもいいだろう。爆撃するわけでもないだろうし」

 と話しているうちに、飛び立つ場所を確保するべく遠目には可愛く歩いている2体の側にたどり着いた。

「誰がどっちに乗るのー!」

「私、ちょっとしてみたい事があるからレナの方に乗るわ!」

「りょーかーい。でも、そのまま空中戦に入ると思うけど大丈夫ー!」

「短時間なら我慢出来ると思う。あとクロを貸して。魔法使う時に体を固定してもらいたいの」

「ああ。じゃあ、私とショウはユーリちゃんの方だな」

「じゃあ、それで!」

 二手に分かれて、それぞれに乗り込もうとする。
 しかしあまり歓迎はしてくれなかった。予想していたけど。

「ゲッ、おま、お兄ちゃんもこっち乗るのかよ」

「シズさんが魔法使う時に固定役が要るだろ。それに、オレは途中で飛び降りるから、低空飛んでくれるドラゴンの方が都合いいんだよ」

「飛び降りるって……そう言えばノートに書いてたな。マジでするのか?」

「その時は上手く飛んでくれよ。期待してる!」

「まあ、いいか。じゃあその辺のベルトで固定しといて、シズさんもどうぞ」

「ありがとう」

 オレより身体能力の低いシズさんは、悠里に手を引っ張られてドラゴンの背に登ってくる。
 竜騎兵の背には大きな鞍が置かれていて、据付のベルトなどで落ちないようにできていた。
 ヴァイスがほぼ何もなしなので少し違和感があるが、郷に入れば郷に従えというやつだろう。

 そうしてこっちが準備しているうちに、他の竜騎兵や飛龍にも次々に獣人が飛び乗り、早いものは飛び立ち始めている。
 短足のドワーフたちは、本来は土木作業担当ということもあってか、飛行場での誘導をしているくらいだ。武装していた者も、街の警備をするようだ。
 そして竜人やドワーフ、他の人達に見送られつつ、全騎空へと駆け上がる。

 ドラゴンたちは竜騎兵5騎、兵士の空輸を担当する飛龍が5体もいる上に、訓練しているのであろう緊密な編隊を組む様はなかなかに壮観だ。

 ヴァイスだけが前方の少し上空を飛んでいるが、以前聞いた話で制空権担当は編隊の今いるポジションで周囲を警戒しながら飛ぶものらしい。
 巨鷲と飛龍は空でのライバルなので相性が悪いというが、領主もしくはハルカさんの友人と言うこともあってか竜騎兵たちも少し安心して飛んでいるように思える。


「壮観ってやつだな。こんなの初めてだ」

「私もだ。大国でもないと、こんな数の飛龍は簡単に動員できないからな」

「そうなんですか。10騎は珍しいけど、ここじゃあ編隊組むの普通ですよ」

 一番前で完全武装の甲冑越しに話しかけてくる悠里は、向こうでの悠里とはかなり違う印象を受ける。
 自分で言った通り戦いはかなり慣れている様子で、気負うところも見られない。
 ドラゴンの方も緊張見られないどころか、どこかノンビリした印象すら受ける。確かにちょっと猫っぽい。

「なあ悠里、ライムは何ができるんだ?」

「何って、雷竜だから雷を放つに決まってるだろ。凄いから、お前絶対ビビるって」

「じゃあ、破壊できる場所を絞ったり、私の魔法と同時もしくは同調したりできないかな?」

 シズさんの言葉に、悠里が考えつつ慎重に言葉を選ぶ。

「絞るのは大丈夫です。けど、同調とか私魔法とか無理だから、同時に放つくらいが精一杯です」

 悠里の言葉にシズさんが少し考えて、すぐにも答えに行き着く。ほんの数瞬の事で、思考力の速さがよくわかる。

「じゃあ、雷と炎を合わせて叩きけようか。同時攻撃をした事は?」

「ブレスの同時放射なら」

「それで十分だ。ブレスを放つ2、30秒前に魔法の準備に入るから、放つタイミングを教えてくれ。そうしたら合わせる方は、私が調整しよう」

「それでお願いできますか」

「ああ。というわけで、ショウは一通り魔法を放つ間は私を支えていてくれ」

 シズさんと悠里が地上攻撃の順を組み上げていく。
 聞いたオレは蔑(ないがし)ろ状態だけど、まあオレは飛び降りたり背中取られた時以外は役立たずなので、仕方ない事だ。

「了解です。飛んでる間は、どうせ仕事ないですからね」

「いやいや、後ろ取られた時は何とかしてよ」

 悠里が首をこっちに向けている。
 思ったより、戦力としてはアテにしてくれているらしい。

「大丈夫だって。レナとヴァイスはちょー強いから。それにハルカさんもいるし、悠々爆撃できると思うぞ」

「レナって、そんなにヤバいの?」

 半信半疑と言った口調だ。まあ、見た事無ければそんなもんかもしれない。

「『帝国』のドラグーン隊を全滅させたくらいだからな」

「ああ、ノートに書いてたな。マジなんだ。ヤバいな」

「おおヤバいぞ。だから、大船に乗った気でいろ」

「いや、お前がドヤ顔すんなっての」

「何話してたのー?」

 気がつくと、真横にヴァイスが横付けしていた。
 クロは平然としているが、ハルカさんはボクっ娘にしがみついている状態なので、かなりのアクロバットで今の位置まで飛んできたんじゃないだろうか。
 取り敢えず、一番暇なオレが応対する。

「地上攻撃の作戦立ててたー! 空中戦は頼むなー!」

「うーん、お任せー!」

「で、用事あるんだろー?!」

「どれくらい飛べばいいのー?」

「北砦は飛龍で10分くらいー!」

 ボクっ娘の問いに悠里が大声で返した。
 意外に近く20キロ程度。地上だと半日くらいの距離だ。

「りょーかーい! 上空に潜むからちょっと上に行くねー!」

「レナー、ハルカさん、空は頼んだぞー!」

「オーキードーキー!」

「こっちも、いいもの見せてあげるわー!」

 そう答えると翼を翻し、前方少し上空へと再び駆け上がっていった。
 こうして見ていると、なんとも忙(せわ)しない。
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