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第三部
234「竜の国(2)」
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「みんなー、前から何か飛んできてるよー」
「何?」
ボクっ娘の声に、ハルカさんが一番に反応した。そしてすぐに、シズさんとハルカさんの位置を交代する。
「何か分かる?」
「まだ遠いけど、多分ドラゴン。数は2体。編隊組んでるから、多分有人」
「首元に人が乗ってるの?」
「ここからだと流石にまだ分かんないね」
「哨戒か迎えだと思うわ。絶対に敵対行動はとらないで」
「ヨーソロー」
流石に自分の領地のことだけに詳しい。
そして、そろそろ多少は聞いてもいいのかと思えた。
「迎えって、連絡したのか?」
「いいえ。けど、遠距離からでも高い魔力の接近はある程度掴めるのよ」
「へーっ。目的地までまだ10キロ以上あるのに凄いね」
「魔物や魔獣が多い場所だから、そういう能力や技術が発達してるの」
「なるほどねー。あ、どっちも人が乗ってるよ。片方は飛龍だね。もう片方はなんだろ。一回り大きいから、飛龍以上のドラゴンだ!」
そう言うと、ヴァイスが全身を使って羽を上下に振る。
空での友好のサインだ。
一回では気づかなかったようだけど、何度かすると向こうも上下に振って返答してきた。
これで少なくとも、突然戦闘ということはない。友好のサインを送った後で攻撃するのは、人の世界では重罪に当たるからだ。
そしてお互い向かい合って飛行しているので、すぐにも距離は詰まる。
そして完全に接近しきる前に、2頭のドラゴンはゆっくりと旋回して、こちらと並行飛行へと移る。
ハーケンの街に入る時とだいたい同じだ。つまり警備のドラゴンとそのライダーなのだろう。
「おおっ、雷龍だっ! 珍し~!」
片方の飛龍に対して、ボクっ娘が歓声をあげる。
「あの青い方か?」
「うん。ライトニングブレスを空中でも吐いてくる強い子だよ」
「てことは、上位龍?」
「飛龍と同じ中型。飛龍の魔力持ちみたいなもの。ずっと強いけどね」
「私も初めて見る色と形だわ」
「あれ? ハルカさんのお迎えじゃないの?」
「急だから連絡してないし、警備隊の新顔だと思うわ。友好的に相手してね」
「ヨーソロー」
前で二人がやり取りしているが、オレの視線は雷龍に釘付けだ。
雷龍は飛龍より一回り大きく羽も広めなので、ヴァイスよりも大きく感じる。
色は、今まで見た翼竜や飛龍が地龍と同じく緑系なのに対して、かなり鮮やかな青色をしている。
その首元に鞍が置かれて、そこにドラゴンの鱗を使った全身甲冑を着込んだ人が乗っている。
『帝国』軍と少し違うが、もっと本格的なドラゴンナイトってやつなのだろう。
遠近感の問題か少し小柄に見えたが、それは接近した時点で所々見え隠れしている体の線から女性だと分かった。
もう片方の飛龍乗りの方は人ですらなく、同じく全身甲冑を着込んでいるが、所々は自前と思われる鱗が覗いている。
それ以前に、お尻からはトカゲっぽい尻尾が見えたり、兜の口の部分からはワニのような口が大きく覗いている。
オレ達の世界の創作ファンタジー的には、リザードマンかドラゴニュートに当たるトカゲ系の人型種族だろう。
背中に折りたたんだ羽があるので、おそらくはドラゴニュート、竜の人になるのではないだろうか。
という、ゲーム知識で判断してはいけない。
「ハルカさん、あの人たちというか竜人は領民とか配下になるのか?」
「警備隊なら形式上は家臣になるわね。それよりショウ、ちょっと体支えてて」
「魔法?」
「ええ。自領の旗を出すの」
オレが彼女の体をホールドすると、すぐにも一度見たことのある魔法の旗を形成する。
しかし今度は、前に見せるタイプじゃなくて、普通に風にたなびく感じの旗だ。しかも神殿の旗ではなく、ドラゴンを意匠化した凝ったデザインだ。
「これがエルブルス領、我が領地と一族の旗ってやつよ。よく覚えておいて」
そう言って少し照れ臭そうにウインクすると、近づいて来たドラゴンの方に片手を添える。
「私はエルブルス辺境伯領領主ルカ・エルブルス。そちらは誰か!」
風の音に負けないように大声で名乗り問いかけると、ドラゴンの背に乗る甲冑が手をゲンコツにしてこめかみに当てる形の敬礼をしてきた。
何度か見たことがあるが、オクシデントでの軍人の礼。要するに敬礼だ。
「そ、その御旗を出せるのは、確かに領主並びに領主一族の証と認める。我らは、ニックスアルバの主人(あるじ)世界竜エルブルスに仕える竜騎兵。ようこそお帰り下さいました、人の主人よ。これより先導いたします」
「よろしく頼む!」
「宜しくねー」
甲冑の主の声はやはり女性だった。
言葉使いがややぎこちなく、兜をかぶったままなのでくぐもっていたが、間違いなく女性の声だ。
少しどもったりと緊張している様子だけど、突然領主が戻ってくれば驚きもするだろう。
それと、どこかで聞いた事のある声にも思えたが、デジャブ、気のせいに決まっている。何しろオレの女子の知り合いは、ごくごく限られている。
その後は、2体もとい2騎の竜騎兵に先導されて、エルブルス領の中心だというシーナの街へと向かう。
そうして見えてきたシーナは、一見小さな町だ。というかその一帯の領地も、海と山に挟まれた小さな土地だ。
西に面した海岸沿いに10キロほど、内陸に4、5キロの二等辺三角形が人の手の入っている場所だそうで、海岸沿いのほぼ中間あたりに目指すシーナの街がある。
街は意外に大きな建物が多いが、木造建築が目立つ。
石造りは建設中といった感じの建物が多い。街自体も、半分くらいは作っている最中のようだ。
拡張中のエリアは地面を掘っているが、上下水道だと後から聞いた。
街は海沿いにあり、館もしくは小さなお城を中心に石造りの旧市街と、木造が多いノヴァの街に似た現代っぽい新市街が広がっている。
そして新市街の先に小さな港があり、中小の船が停泊している。
長く伸びた桟橋があるので、この世界特有の大きな潮位の変化に対応して、大型船も停泊できるようだ。実際、帆船が停泊している。
一方で、旧市街の先の小さな砂浜には木のレールのような上に小舟がかなり引き揚げられた形で置かれているので、こちらは漁村になっている。
立派な石造りの区画はかなり古い建造物で、遺跡やそれに準じるような古い建物を街の一部として使っていた。
そして最も立派な建造物が、領主の館だった。その館には幾つかの塔があるので、ちょっとしたお城だ。
しかも高台の上にあるので、かなり堂々とした佇まいに見える。
そして街のすぐ側に広い空き地があり、そこが飛行場の代わりになっている。
脇に木造の塔や小屋があるだけだけど、飛行場として見れば相当な広さで、設備の貧弱さと全然釣り合っていなかった。
しかし相当広く、龍の群れが降り立てそうだ。
しかもそれだけでなく、片隅には岩の塊の上に船が乗った乗り物、つまり飛行船が1隻停泊していた。
二つの船を横並びで繋げたような変わった構造で、ハーケンやウィンダムでも見たことないタイプだ。
ただし、船を引く飛行生物の姿は見えない。
その代わり、船の後ろに大きなプロペラを幾つも重ねた機械が付いてる。ノヴァが保有しているという、動力で動く飛行船なのだろう。
「へーっ。ここがハルカさんの領地かー」
低空に降りてきたので、良く見えるようになった街を上空から見下ろす。
「立派なものだな。さしずめ隠れた小国か辺境の貴族領といったところか」
「さしずめじゃなくて、ここがエルブルス辺境伯領よ」
「オレらはどういう扱いになるんだ? 神官の従者でいいのか?」
「人の理(ことわり)からは少し外れた所だから気にしないで。友人って紹介する積りだし」
「ていうかさ、なんかドラゴン多くない? 街を歩いてるのも、かなりが竜人だよね。こんなに沢山、初めて見た」
話しているように、かなり高度が下がってきたので、ボクっ娘だけじゃなくオレにも街を歩く人が見えてきた。
そしてボクっ娘の言う通り、空も陸も竜、龍、ドラゴンだらけだった。さしずめドラゴンランドだ。
しかも空を飛んでいるドラゴンの多くは、背に誰も乗せていない。野生の龍ということだろうか。
そして空でも陸でも、ハルカさんがかざし続けている旗に注目していた。
見れば、街から飛行場へと向かって行く人もとい竜人の流れがある。
「随分変わった領地を持っているようだな、ハルカ」
シズさんの面白そうな言葉が、やけに印象的だった。
「何?」
ボクっ娘の声に、ハルカさんが一番に反応した。そしてすぐに、シズさんとハルカさんの位置を交代する。
「何か分かる?」
「まだ遠いけど、多分ドラゴン。数は2体。編隊組んでるから、多分有人」
「首元に人が乗ってるの?」
「ここからだと流石にまだ分かんないね」
「哨戒か迎えだと思うわ。絶対に敵対行動はとらないで」
「ヨーソロー」
流石に自分の領地のことだけに詳しい。
そして、そろそろ多少は聞いてもいいのかと思えた。
「迎えって、連絡したのか?」
「いいえ。けど、遠距離からでも高い魔力の接近はある程度掴めるのよ」
「へーっ。目的地までまだ10キロ以上あるのに凄いね」
「魔物や魔獣が多い場所だから、そういう能力や技術が発達してるの」
「なるほどねー。あ、どっちも人が乗ってるよ。片方は飛龍だね。もう片方はなんだろ。一回り大きいから、飛龍以上のドラゴンだ!」
そう言うと、ヴァイスが全身を使って羽を上下に振る。
空での友好のサインだ。
一回では気づかなかったようだけど、何度かすると向こうも上下に振って返答してきた。
これで少なくとも、突然戦闘ということはない。友好のサインを送った後で攻撃するのは、人の世界では重罪に当たるからだ。
そしてお互い向かい合って飛行しているので、すぐにも距離は詰まる。
そして完全に接近しきる前に、2頭のドラゴンはゆっくりと旋回して、こちらと並行飛行へと移る。
ハーケンの街に入る時とだいたい同じだ。つまり警備のドラゴンとそのライダーなのだろう。
「おおっ、雷龍だっ! 珍し~!」
片方の飛龍に対して、ボクっ娘が歓声をあげる。
「あの青い方か?」
「うん。ライトニングブレスを空中でも吐いてくる強い子だよ」
「てことは、上位龍?」
「飛龍と同じ中型。飛龍の魔力持ちみたいなもの。ずっと強いけどね」
「私も初めて見る色と形だわ」
「あれ? ハルカさんのお迎えじゃないの?」
「急だから連絡してないし、警備隊の新顔だと思うわ。友好的に相手してね」
「ヨーソロー」
前で二人がやり取りしているが、オレの視線は雷龍に釘付けだ。
雷龍は飛龍より一回り大きく羽も広めなので、ヴァイスよりも大きく感じる。
色は、今まで見た翼竜や飛龍が地龍と同じく緑系なのに対して、かなり鮮やかな青色をしている。
その首元に鞍が置かれて、そこにドラゴンの鱗を使った全身甲冑を着込んだ人が乗っている。
『帝国』軍と少し違うが、もっと本格的なドラゴンナイトってやつなのだろう。
遠近感の問題か少し小柄に見えたが、それは接近した時点で所々見え隠れしている体の線から女性だと分かった。
もう片方の飛龍乗りの方は人ですらなく、同じく全身甲冑を着込んでいるが、所々は自前と思われる鱗が覗いている。
それ以前に、お尻からはトカゲっぽい尻尾が見えたり、兜の口の部分からはワニのような口が大きく覗いている。
オレ達の世界の創作ファンタジー的には、リザードマンかドラゴニュートに当たるトカゲ系の人型種族だろう。
背中に折りたたんだ羽があるので、おそらくはドラゴニュート、竜の人になるのではないだろうか。
という、ゲーム知識で判断してはいけない。
「ハルカさん、あの人たちというか竜人は領民とか配下になるのか?」
「警備隊なら形式上は家臣になるわね。それよりショウ、ちょっと体支えてて」
「魔法?」
「ええ。自領の旗を出すの」
オレが彼女の体をホールドすると、すぐにも一度見たことのある魔法の旗を形成する。
しかし今度は、前に見せるタイプじゃなくて、普通に風にたなびく感じの旗だ。しかも神殿の旗ではなく、ドラゴンを意匠化した凝ったデザインだ。
「これがエルブルス領、我が領地と一族の旗ってやつよ。よく覚えておいて」
そう言って少し照れ臭そうにウインクすると、近づいて来たドラゴンの方に片手を添える。
「私はエルブルス辺境伯領領主ルカ・エルブルス。そちらは誰か!」
風の音に負けないように大声で名乗り問いかけると、ドラゴンの背に乗る甲冑が手をゲンコツにしてこめかみに当てる形の敬礼をしてきた。
何度か見たことがあるが、オクシデントでの軍人の礼。要するに敬礼だ。
「そ、その御旗を出せるのは、確かに領主並びに領主一族の証と認める。我らは、ニックスアルバの主人(あるじ)世界竜エルブルスに仕える竜騎兵。ようこそお帰り下さいました、人の主人よ。これより先導いたします」
「よろしく頼む!」
「宜しくねー」
甲冑の主の声はやはり女性だった。
言葉使いがややぎこちなく、兜をかぶったままなのでくぐもっていたが、間違いなく女性の声だ。
少しどもったりと緊張している様子だけど、突然領主が戻ってくれば驚きもするだろう。
それと、どこかで聞いた事のある声にも思えたが、デジャブ、気のせいに決まっている。何しろオレの女子の知り合いは、ごくごく限られている。
その後は、2体もとい2騎の竜騎兵に先導されて、エルブルス領の中心だというシーナの街へと向かう。
そうして見えてきたシーナは、一見小さな町だ。というかその一帯の領地も、海と山に挟まれた小さな土地だ。
西に面した海岸沿いに10キロほど、内陸に4、5キロの二等辺三角形が人の手の入っている場所だそうで、海岸沿いのほぼ中間あたりに目指すシーナの街がある。
街は意外に大きな建物が多いが、木造建築が目立つ。
石造りは建設中といった感じの建物が多い。街自体も、半分くらいは作っている最中のようだ。
拡張中のエリアは地面を掘っているが、上下水道だと後から聞いた。
街は海沿いにあり、館もしくは小さなお城を中心に石造りの旧市街と、木造が多いノヴァの街に似た現代っぽい新市街が広がっている。
そして新市街の先に小さな港があり、中小の船が停泊している。
長く伸びた桟橋があるので、この世界特有の大きな潮位の変化に対応して、大型船も停泊できるようだ。実際、帆船が停泊している。
一方で、旧市街の先の小さな砂浜には木のレールのような上に小舟がかなり引き揚げられた形で置かれているので、こちらは漁村になっている。
立派な石造りの区画はかなり古い建造物で、遺跡やそれに準じるような古い建物を街の一部として使っていた。
そして最も立派な建造物が、領主の館だった。その館には幾つかの塔があるので、ちょっとしたお城だ。
しかも高台の上にあるので、かなり堂々とした佇まいに見える。
そして街のすぐ側に広い空き地があり、そこが飛行場の代わりになっている。
脇に木造の塔や小屋があるだけだけど、飛行場として見れば相当な広さで、設備の貧弱さと全然釣り合っていなかった。
しかし相当広く、龍の群れが降り立てそうだ。
しかもそれだけでなく、片隅には岩の塊の上に船が乗った乗り物、つまり飛行船が1隻停泊していた。
二つの船を横並びで繋げたような変わった構造で、ハーケンやウィンダムでも見たことないタイプだ。
ただし、船を引く飛行生物の姿は見えない。
その代わり、船の後ろに大きなプロペラを幾つも重ねた機械が付いてる。ノヴァが保有しているという、動力で動く飛行船なのだろう。
「へーっ。ここがハルカさんの領地かー」
低空に降りてきたので、良く見えるようになった街を上空から見下ろす。
「立派なものだな。さしずめ隠れた小国か辺境の貴族領といったところか」
「さしずめじゃなくて、ここがエルブルス辺境伯領よ」
「オレらはどういう扱いになるんだ? 神官の従者でいいのか?」
「人の理(ことわり)からは少し外れた所だから気にしないで。友人って紹介する積りだし」
「ていうかさ、なんかドラゴン多くない? 街を歩いてるのも、かなりが竜人だよね。こんなに沢山、初めて見た」
話しているように、かなり高度が下がってきたので、ボクっ娘だけじゃなくオレにも街を歩く人が見えてきた。
そしてボクっ娘の言う通り、空も陸も竜、龍、ドラゴンだらけだった。さしずめドラゴンランドだ。
しかも空を飛んでいるドラゴンの多くは、背に誰も乗せていない。野生の龍ということだろうか。
そして空でも陸でも、ハルカさんがかざし続けている旗に注目していた。
見れば、街から飛行場へと向かって行く人もとい竜人の流れがある。
「随分変わった領地を持っているようだな、ハルカ」
シズさんの面白そうな言葉が、やけに印象的だった。
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