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第三部
205「悪魔との遭遇(2)」
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その鬼たちは、一気に形勢不利になったことで逃走を計ろうとしたが、ボクっ娘がヴァイスの背から矢継ぎ早に放った矢で射すくめられて簡単には動けず、オレとリンケージを組まざるを得なくなる。
しかも取り巻きのうち1体は、ボクっ娘が本命で放った魔力増し増しの矢で、向こうが見えるほどの風穴を開けられて瞬時に絶命。
さらにその間に、ハルカさんは魔法の鎧と盾の力を全開にした戦闘態勢に入る。
しかもオレとハルカさんには、ハルカさんの防御魔法も施している。
これで新調した鎧と合わせれば、並の攻撃は通用しない。
だから躊躇なく、相手に斬り込んだ。
もちろん相手の力量を試すための一撃で、万が一に備えて避けられるだけの安全マージンも取ってある。
そしてその鬼は、オレから見て一刀で斬り伏せるのが難しいと思わせる動きをしていた。
「ガキッ!!」
オレの両手剣と鬼の曲刀が激突する。
向こうも相当の魔法金属の剣らしく、魔力の煌めきが辺りに派手に散る。
そしてそのまま3回程派手に切り結んで、一旦距離を置く。
剣の腕はオレ以上だけど、身体能力はこちらが勝っている。
「クッ! 魔人めっ!」
相手もそれが判ったらしく、苦々しげに吐き捨てる。
鬼に人の化け物である魔人扱いされるのは心外な気がするが、そういうものなのだろうと無視して、次に切り結ぶタイミングを図る。
(そういえば、こういう敵らしい敵から、戦闘中に言葉を聞いたのは初めてかもしれないな)
アニメやマンガと違って、戦闘中にまともなセリフの応酬など望むべくもないリアルファンタジーワールドなのを一瞬忘れそうになる。
などと思っていると、一撃目のマジックミサイルと剣の見事なコンビネーションで、取り巻きの残り1体を仕留めたハルカさんが、オレの横に並ぶ。
ボクっ娘は、こっちは大丈夫と見たのか、少し向こうで孤軍奮闘中の少女の辺りの魔物に、矢を集中させている。
シズさんも同様に、第二撃目のマジックミサイルの雨を、同じように少し離れた敵集団に浴びせていた。
「クソっ! 神々を語る痴れ者が!」
一方こちらでは、鬼がオレの剣がかすめるのもかまわず、取り巻きを倒したハルカさんに猛然と斬りかかる。
しかし防御と剣捌きがオレ以上のハルカさんを相手に、短時間の剣戟でどうにかできるわけもない。
避けられ、軽く受けて流され、鬼の攻撃は牽制程度の効果しか発揮していない。
しかも反撃されて逆に傷を増やしていた。
彼女の剣舞は、いつ見ても惚れ惚れとする。
と、見惚れていたら後でお小言があるし、油断するとロクなことがないので、頃合いを見計らって戦闘に強引に加わる。
技量はオレの方が劣るが、ドラゴンの硬い鱗を容易く切り裂くオレの重い一撃を無視することは出来ないはずだ。
思った通り、鬼は仕方なく主な相手を再びオレにせざるをえない。しかし相手の技量が予想以上に高く、こちらにも決定打に欠けるのも確かだ。
「クロっ!」
「お任せを!」
なんだか久々に呼び出した気がするが、時折向こうからスマホのバイブみたいに振動して呼べとシグナルを送ってくるので、それなりに相手はしている。
ただ、身の回りの世話をするとかだけで、特筆すべきことがないだけだ。
しかしこういう時は役に立つのは、すでに立証済みだ。
一見イケメン猫耳執事だけど、その手から形成される短剣は鋼よりも硬く鋭い。
しかもやられても、体は魔力の塊にすぎないので、捨て身の戦法すら取れるというチート技もありだ。いや、便利なやつだ。
その上これで3対1。
しかも突然クロが出現したことで不意打ちにも成功していたので、一気に形勢はオレ達に傾いた。
たこ殴りでこっちが悪役みたいだけど、戦いでは物量戦こそが正義だ。
「ガハッ! 無念……」
クロが両手攻撃の矢継ぎ早の突きで牽制し、ハルカさんが鋭い剣戟で有効打をたたき込み、オレが大振りの一撃で止めを刺す。
その後の戦闘は言ってしまえばそれだけだけど、鬼の執念とも言える奮闘で思ったよりも時間がかかってしまった。
クロも体に何箇所か斬られているし、オレもかすり傷程度だけどダメージをもらってしまった。
2対1だと、少し危なかったかもしれない。
「この鬼って、どういう種類なんだ?」
倒れ伏した鬼を囲んで、ハルカさんに問いかける。
周囲の戦闘は終わっているので、もう安全だ。視線の先には、ボクっ娘とシズさんが、唯一動いている、つまり唯一の生存者の少女のもとに駆け寄るところだ。
そしてオレたちの眼前では、クロが鬼の生死などを確認している。
「主人よ、この者に止めを」
「まだ息があるのか」
「僅かですが」
「トドメをささないと、そのうち自己再生して復活するわよ。悪魔に躊躇はダメ」
「分かった」
そう短く返して、オレはその鬼の心臓にグッと力を込めて剣を差し込み、少し横に回した。
これで完全に絶命した筈だ。
しかしそうではないらしい。ハルカさんの視線がオレに向く。
「そのまま胸を開いて、魔石を取り出して。でないと、完全な止めにもならないから、そのうち再生して復活するし、魔石の魔力が暴走して化物や亡者になる事もあるのよ」
ハルカさんの言葉に頷くと、クロが動こうとしたのを首を横に振って制し、アクセルさんと交換した短剣を使って魔力の高い場所を切り開いて鬼の魔石を取り出す。
石は普通の魔石よりは龍石に近い。
そして半透明の魔石を取り出すと、「シュウシュウ」と音を立てて魔力が拡散し始め、早くも体が朽ち果て始める。この調子だと、数時間で消えて無くなりそうだ。
「この魔石は?」
「龍石と同じ。ドラゴンと違って、頭にはないけどね」
「じゃあ、知性を持った魔石がコアとかじゃないんだよな」
「クロみたいに? そういう話は聞いたことないわね。それとこの鬼が、『アナザー・スカイ』の悪魔よ。
高い知性を持った人型の魔物だから悪魔。魔力の澱みから生まれる、人型の魔物が時間をかけて変化していった一つの終着点。もしくは完成形。私達の世界の中世のお話と違って、魔界や地獄から召喚されるわけじゃないのよ」
新モンスター、悪魔の登場だ。現実世界のヨーロッパの悪魔とは違って、人とあまり変わらない外見だ。
それに悪魔と聞いて連想するような、強大な魔力とかもあんまり感じなかった。けど、オレの魔力量が既にSランク級だから、そう思うだけかもしれない。
実際、こいつらと戦っていた人達は、ほぼ全滅している。相応に注意すべき相手なのだろう。
「それでも悪魔もいるんだな」
「すごくレアだけどね。私も戦ったのは数年ぶり」
「そうなのか。それにしても知性ねえ。じゃあ、魔物の国とかそういうのもあるのか?」
こいつらが徒党を組んで国や組織を作れば、それこそ魔界とか魔王領とかだろう。
しかしそんな話は聞いたことがない。そしてハルカさんの言葉は、その疑問への答えだった。
「文化も文明もないわ。悪魔が他の低級の魔物を従えた集団というのが精々ね。悪魔はともかく、下っ端の魔物のオツムはしれてるもの。
この魔物の服や装備だって、人を隷属させて作らせたか人から奪ったもの。人の魔力持ちみたいに強い魔物はごく少数だから、結局彼らの文明や産業レベルはゴブリン並みのままよ」
「奪うしか出来ないとか、お里が知れるな」
「まあ、人の模倣すらできないからこそ、逆にそこまで脅威じゃないんだけどね」
しかしそこで疑問がある。
物は作れなくても、魔力で幾らでも強くなれるんじゃないかと。だからそのまま聞いてみることにした。
「けどさ、本当に魔王みたいな高い魔力を持つ奴がいたら別じゃないか?」
「過去には推定Sランク以上の悪魔も居たらしいし、こいつも相当強かったわね。前の私なら太刀打ち出来なかったかも」
「3人がかりだったもんな」
「他にも、もう少し弱い悪魔が何体か居たみたいだぞ」
二人で話していると、シズさんたちがこっちに近寄っていた。助けた少女も一緒だ。
「じゃあ、悪魔の軍団ってところですか?」
「軍団というには流石に少ないから、せいぜい集団辺りだろうな」
「魔の大樹海の奥には悪魔がそれなりの数いて、彼らが率いる魔物の集団とノヴァとは慢性的に半ば戦争状態だけどね」
「この悪魔達のことで、お話がございます。また、我が主人(あるじ)をお救いいただけないでしょうか」
オレらの雑談の合間に語りかけてきたのは、この修羅場に場違いなほど派手で肌の露出が多い格好をした、10代前半くらいにしか見えない少女だった。
しかも取り巻きのうち1体は、ボクっ娘が本命で放った魔力増し増しの矢で、向こうが見えるほどの風穴を開けられて瞬時に絶命。
さらにその間に、ハルカさんは魔法の鎧と盾の力を全開にした戦闘態勢に入る。
しかもオレとハルカさんには、ハルカさんの防御魔法も施している。
これで新調した鎧と合わせれば、並の攻撃は通用しない。
だから躊躇なく、相手に斬り込んだ。
もちろん相手の力量を試すための一撃で、万が一に備えて避けられるだけの安全マージンも取ってある。
そしてその鬼は、オレから見て一刀で斬り伏せるのが難しいと思わせる動きをしていた。
「ガキッ!!」
オレの両手剣と鬼の曲刀が激突する。
向こうも相当の魔法金属の剣らしく、魔力の煌めきが辺りに派手に散る。
そしてそのまま3回程派手に切り結んで、一旦距離を置く。
剣の腕はオレ以上だけど、身体能力はこちらが勝っている。
「クッ! 魔人めっ!」
相手もそれが判ったらしく、苦々しげに吐き捨てる。
鬼に人の化け物である魔人扱いされるのは心外な気がするが、そういうものなのだろうと無視して、次に切り結ぶタイミングを図る。
(そういえば、こういう敵らしい敵から、戦闘中に言葉を聞いたのは初めてかもしれないな)
アニメやマンガと違って、戦闘中にまともなセリフの応酬など望むべくもないリアルファンタジーワールドなのを一瞬忘れそうになる。
などと思っていると、一撃目のマジックミサイルと剣の見事なコンビネーションで、取り巻きの残り1体を仕留めたハルカさんが、オレの横に並ぶ。
ボクっ娘は、こっちは大丈夫と見たのか、少し向こうで孤軍奮闘中の少女の辺りの魔物に、矢を集中させている。
シズさんも同様に、第二撃目のマジックミサイルの雨を、同じように少し離れた敵集団に浴びせていた。
「クソっ! 神々を語る痴れ者が!」
一方こちらでは、鬼がオレの剣がかすめるのもかまわず、取り巻きを倒したハルカさんに猛然と斬りかかる。
しかし防御と剣捌きがオレ以上のハルカさんを相手に、短時間の剣戟でどうにかできるわけもない。
避けられ、軽く受けて流され、鬼の攻撃は牽制程度の効果しか発揮していない。
しかも反撃されて逆に傷を増やしていた。
彼女の剣舞は、いつ見ても惚れ惚れとする。
と、見惚れていたら後でお小言があるし、油断するとロクなことがないので、頃合いを見計らって戦闘に強引に加わる。
技量はオレの方が劣るが、ドラゴンの硬い鱗を容易く切り裂くオレの重い一撃を無視することは出来ないはずだ。
思った通り、鬼は仕方なく主な相手を再びオレにせざるをえない。しかし相手の技量が予想以上に高く、こちらにも決定打に欠けるのも確かだ。
「クロっ!」
「お任せを!」
なんだか久々に呼び出した気がするが、時折向こうからスマホのバイブみたいに振動して呼べとシグナルを送ってくるので、それなりに相手はしている。
ただ、身の回りの世話をするとかだけで、特筆すべきことがないだけだ。
しかしこういう時は役に立つのは、すでに立証済みだ。
一見イケメン猫耳執事だけど、その手から形成される短剣は鋼よりも硬く鋭い。
しかもやられても、体は魔力の塊にすぎないので、捨て身の戦法すら取れるというチート技もありだ。いや、便利なやつだ。
その上これで3対1。
しかも突然クロが出現したことで不意打ちにも成功していたので、一気に形勢はオレ達に傾いた。
たこ殴りでこっちが悪役みたいだけど、戦いでは物量戦こそが正義だ。
「ガハッ! 無念……」
クロが両手攻撃の矢継ぎ早の突きで牽制し、ハルカさんが鋭い剣戟で有効打をたたき込み、オレが大振りの一撃で止めを刺す。
その後の戦闘は言ってしまえばそれだけだけど、鬼の執念とも言える奮闘で思ったよりも時間がかかってしまった。
クロも体に何箇所か斬られているし、オレもかすり傷程度だけどダメージをもらってしまった。
2対1だと、少し危なかったかもしれない。
「この鬼って、どういう種類なんだ?」
倒れ伏した鬼を囲んで、ハルカさんに問いかける。
周囲の戦闘は終わっているので、もう安全だ。視線の先には、ボクっ娘とシズさんが、唯一動いている、つまり唯一の生存者の少女のもとに駆け寄るところだ。
そしてオレたちの眼前では、クロが鬼の生死などを確認している。
「主人よ、この者に止めを」
「まだ息があるのか」
「僅かですが」
「トドメをささないと、そのうち自己再生して復活するわよ。悪魔に躊躇はダメ」
「分かった」
そう短く返して、オレはその鬼の心臓にグッと力を込めて剣を差し込み、少し横に回した。
これで完全に絶命した筈だ。
しかしそうではないらしい。ハルカさんの視線がオレに向く。
「そのまま胸を開いて、魔石を取り出して。でないと、完全な止めにもならないから、そのうち再生して復活するし、魔石の魔力が暴走して化物や亡者になる事もあるのよ」
ハルカさんの言葉に頷くと、クロが動こうとしたのを首を横に振って制し、アクセルさんと交換した短剣を使って魔力の高い場所を切り開いて鬼の魔石を取り出す。
石は普通の魔石よりは龍石に近い。
そして半透明の魔石を取り出すと、「シュウシュウ」と音を立てて魔力が拡散し始め、早くも体が朽ち果て始める。この調子だと、数時間で消えて無くなりそうだ。
「この魔石は?」
「龍石と同じ。ドラゴンと違って、頭にはないけどね」
「じゃあ、知性を持った魔石がコアとかじゃないんだよな」
「クロみたいに? そういう話は聞いたことないわね。それとこの鬼が、『アナザー・スカイ』の悪魔よ。
高い知性を持った人型の魔物だから悪魔。魔力の澱みから生まれる、人型の魔物が時間をかけて変化していった一つの終着点。もしくは完成形。私達の世界の中世のお話と違って、魔界や地獄から召喚されるわけじゃないのよ」
新モンスター、悪魔の登場だ。現実世界のヨーロッパの悪魔とは違って、人とあまり変わらない外見だ。
それに悪魔と聞いて連想するような、強大な魔力とかもあんまり感じなかった。けど、オレの魔力量が既にSランク級だから、そう思うだけかもしれない。
実際、こいつらと戦っていた人達は、ほぼ全滅している。相応に注意すべき相手なのだろう。
「それでも悪魔もいるんだな」
「すごくレアだけどね。私も戦ったのは数年ぶり」
「そうなのか。それにしても知性ねえ。じゃあ、魔物の国とかそういうのもあるのか?」
こいつらが徒党を組んで国や組織を作れば、それこそ魔界とか魔王領とかだろう。
しかしそんな話は聞いたことがない。そしてハルカさんの言葉は、その疑問への答えだった。
「文化も文明もないわ。悪魔が他の低級の魔物を従えた集団というのが精々ね。悪魔はともかく、下っ端の魔物のオツムはしれてるもの。
この魔物の服や装備だって、人を隷属させて作らせたか人から奪ったもの。人の魔力持ちみたいに強い魔物はごく少数だから、結局彼らの文明や産業レベルはゴブリン並みのままよ」
「奪うしか出来ないとか、お里が知れるな」
「まあ、人の模倣すらできないからこそ、逆にそこまで脅威じゃないんだけどね」
しかしそこで疑問がある。
物は作れなくても、魔力で幾らでも強くなれるんじゃないかと。だからそのまま聞いてみることにした。
「けどさ、本当に魔王みたいな高い魔力を持つ奴がいたら別じゃないか?」
「過去には推定Sランク以上の悪魔も居たらしいし、こいつも相当強かったわね。前の私なら太刀打ち出来なかったかも」
「3人がかりだったもんな」
「他にも、もう少し弱い悪魔が何体か居たみたいだぞ」
二人で話していると、シズさんたちがこっちに近寄っていた。助けた少女も一緒だ。
「じゃあ、悪魔の軍団ってところですか?」
「軍団というには流石に少ないから、せいぜい集団辺りだろうな」
「魔の大樹海の奥には悪魔がそれなりの数いて、彼らが率いる魔物の集団とノヴァとは慢性的に半ば戦争状態だけどね」
「この悪魔達のことで、お話がございます。また、我が主人(あるじ)をお救いいただけないでしょうか」
オレらの雑談の合間に語りかけてきたのは、この修羅場に場違いなほど派手で肌の露出が多い格好をした、10代前半くらいにしか見えない少女だった。
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