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第二部

126「夏休みに向けて(1)」

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 神殿の野営地で寝て目覚めると、オレの部屋の天井だった。

 もはや毎日のことだけど、『夢』での一日とのギャップには完全には慣れそうにない。

 そして起きてすぐにノートパソコンを立ち上げ、気力があればスマホの着信を確認するのもほぼ日課になっていた。
 スマホを頻繁に見るとか、以前なら無かった事だ。

 そして『夢』の向こうのことを、できるだけ詳細に記録するのも日課だった。

 昨日は色々とあったので書くことには事欠かず、結局全てを書ききることができず、後半は急ぎ足の箇条書きとなってしまった。
 後半については、夕方か夜にでも書き足す必要があるだろう。

 そして今朝は時間が足りなかったように、朝から用事が待っていた。
 日本中の多くの高校生が待ち望んでいた日、一学期の終業式だ。だから一学期最後の登校を行い、何の事件もなく教室へと入る。
 一応毎日報告していたおかげで、タクミの不意の襲撃もなかったので平和なものだ。

 教室に入って玲奈に軽く挨拶するのも、もう日常になっていた。ただ、それ以外の人ととなると、席の近くの男子生徒に社交辞令的に挨拶をするくらいだ。
 オレが彼女持ちになったので、陰キャグループから消極的にハブられているせいだ。
 それでも気にならないのは、向こうでの経験などもあってメンタルが強くなったのだと思いたいところだ。


 退屈な終業式を終えて、運命の通信簿を担任から有り難く頂戴する。
 そしてその内容に、小さく落胆するまでがオレの流れだ。

 赤点もしくは欠点はなかったのだけど、真ん中辺りを彷徨うオレの成績は、期末試験の結果だと学年平均よりほんのちょい上。
 体育が少し高めだけど、それで平均値が上がっても落ち込み度合いが高まるだけだ。
 オレが求めた結果でもあったが、このままでは平凡もしくはそれ以下の人生しか待っていないという宣告に思えた。

 ホームルームなど諸々も終わり、少し落胆した気持ちで教室を出ると、すぐにも小走りしてくる足音が近づく。玲奈だ。
 向こうに行くようになってから、こっちでの感覚が少し鋭くなったように思えるが、意識や知識しか行き来できないのだから気のせいだろう。

「よっ、レナ。お疲れ」

「ショウ君もお疲れ様。本当に少し疲れてない?」

「疲れているというより、ちょい凹んでる」

 その言葉に、天沢が少しギョッとしている。
 オレも軽いデジャブーを感じたので、これは素早くフォローしなければならないと口を開く。

「あ~、その、成績が今ひとつだったんだ」

「なんだー、ちょっとびっくりした。その、そんなに……」

「いや、悲観するほどじゃないんだ。けど、今後を考えるとちょっと考えさせられるなーって」

「塾に行かないとダメとか?」

 ちょっとからかう風だけど、女子は鋭い。やっぱり人を見る観察力の違いだろうか。

「塾はオレから行きたいとは言ってるけど、これだと改めて行けって言われそうかも。レナはどうだった?」

「私は、だいたい予想どおり。……あ、あのね、私ねシズさんに勉強見てもらっているから、成績は、その、良い方、なの。それでね、ショウ君さえよければ、その、シズさんに……」

 途切れ途切れの喋りな上に、徐々に声も小さくなっていく。加えて顔が少し赤い。
 しかしこれは、もしかしたら渡りに船かもしれない。

「つまり、オレにシズさんの家庭教師を紹介してくれるって事?」

「う、うん。でも、私かシズさんの家で勉強することになるし、夏休み以外は少し不定期だから塾の方が良いかも。それに別々の時間じゃないなら、家庭教師じゃなくて個別指導の塾みたいになるかもしれないし」

「レナがいいなら、一度紹介してくれないか。いや、オレからシズさんにお願いしてもらいに行った方がいいかな」

「う、うん。じゃあ、私からも連絡しておくね」

「頼むな」

「何の話してんだー?」

 そこにオレたちの聖域を邪魔者が犯しに来た。
 言わずと知れたタクミが、ガバッとオレに肩から抱きついてくる。

「残念だな。あっちの話はしてないぞ」

「なーんだ。じゃあ何って、そりゃ無粋だったな、悪い悪い」

「いや、オレの成績のまずさをどうしようかって話だよ」

「あれ? ショウってそんなに悪かったか? 補講も回避してたよな」

「ああ。良くも悪くも真ん中くらい。タクミは?」

「ボクか? ボクは塾も行かされてるから、ショウより良いと思うぞ。それより天沢さん、すごいよね。学年末の成績の張り出しに名前あったよね」

(えっ? マジか。オレには関係ない世界のことなので全然見てなかった)

 瞬間の思いが出た表情を、バッチリ二人に見られてしまった。
 そして二人に、それぞれ特徴的な表情を向けられてしまう。

「ショウは、相変わらず情報に疎いな。おっさんオタクから情弱乙って言われちまうぞ」

「た、大したことないのよ。知り合いに勉強見てもらったおかげなの」

「へー、その人よっぽどすごいってこと?」

「うん。日本一の国立大学の法科に行っているから」

「ガチエリートじゃん」

「シズさんそんなにすごかったんだ。そりゃ、是非とも門下にならないとな」

 初めて言う話だからだろう、オレの言葉にタクミが軽く驚いている。

「えっ? 何? ショウも、そのシズっていう人に勉強教えてもらうのか?」

「まだ、できれば、だけどな」

 そう思いつつも、シズさんなら頼み込めば最悪向こうで勉強見てもらえそうに思えた。
 まあ、この場合、天沢と一緒に勉強できれば一番いいんだけど。

「いいなー、オレも秀才の家庭教師に付いて欲しいぞ」

「まあ、オレはまだ未定だから。それよりタクミ、前言ってたお前の行ってるバイト先の人が足りないって、今もか?」

「ああ。これから夏休みだし店長やチーフが悲鳴あげてるけど、まさか?」

 喜びの表情なので、その期待に応えることにする。
 というか、頼むのはこっちだ。
 だから素直に頷いた。

「うん。できれば紹介してもらえないか?」

「もちろん大歓迎。ボクも助かる。けど急にどうした? 家庭教師代を自腹で稼ごうとか?」

「さすがにそこまでは。ただ、ダラダラ夏を過ごすのもどうかなって思ってな」

「フーン。何にせよ前向きなのは大変結構。で、これで問題解決? それじゃ、あっちのこと話してくれよ。簡単なメッセージだけじゃ、全然お腹膨れないぞ」

 そんなことを話している間に部室に到着。3人して扉をくぐると、すでに数人が待っていた。
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