上 下
41 / 528
第一部

041「アンデッド退治(1)」

しおりを挟む
 次の村に近づくと、村の郊外にあたる耕作地の間を走る街道上に、人が二人武装して立っているのが見えた。
 
「警戒してるのかな?」

「間違いないでしょうね。念のため、余計な事は言わないでね」

 軽く視線を向けると、正面を見据えて堂々とゆっくり前進を続ける。さらに互いを明確に視認すると、手を振る等の挨拶を送る。
 そうして数分すると、武装した二人の前までやってきた。

 槍を持っているのかと思ったが、持っているのな農業用の柄の長い鎌と鋤だ。それ以外武装も無く防具も身につけていない。
 訓練を受けた動きでもなく、普通の村人っぽい。

 相対する前には、互いに「神官様だ」「神々の恩寵だ」などと余計な事を言い合っている。
 そしてハルカさん、もしくはハルカさんが着ている白い法衣に、強い期待を込めた視線を向けてきている。

 いつものことながら、彼女はよくウンザリしないものだ。オレだったら逃げ出すか、そもそもウザいお役目など背負いこまない。多少嫌でも、冒険者の方がよっぽど楽だろうに。

「ようこそ神官様。神殿も動いたのでしょうか?」

「私は近辺を巡回している神殿巡察官です。話は村の代表と行いますので、案内してください」

 彼女は最低限の名乗りをして、丁寧口調の実質的な命令をする。
 けど村人は、いっそう期待を大きくしたようで、一人を案内としてオレたちは村へとすんなり入れた。

 村の中は少しざわついていた。
 村の規模はかなり大きく、村の中央にある神殿も今まで見た中では一番大きい。
 とはいえ、小さな教会くらいの大きさだ。そしてその村の中心部当たりが、ざわつきの中心でもあるようだ。

 近づいて行くと、馬が10頭程度と幌付きの馬車も見える。異世界ファンタジーっぽい二足歩行の大きな鳥とかトカゲはいないようだ。いるというネット上での情報は、やはりガセだったのだろうか。
 馬と馬車の周りには、同じ武装をした者たちが10名ほど。この世界、いやこの国の軍隊だろう。

 その兵士たちも、オレたち、ではなく彼女を見つけると一様にざわついた。
 そのざわめきの中から一番立派な身なりの人が現れ、向こうから近づいてくる。

 出で立ちは、仕立ての良い旅行服か軍服に軽装の鎧。腰には豪華な装飾が施されたロングソードをさしている。
 宝塚にでも出てきそうな感じだけど、体格からして成人男性なのは間違いなさそうだ。

 相手がたどり着くまでに、こちらも馬を下りて応対の準備をする。ハルカさんがそうするという事は、相応の身分の人なのだろう。

「これは神殿巡察官のルカ様、この出会いに神々に深く感謝を。さて、まずはそちらの方にご挨拶をさせて頂いてもよろしいでしょうか」

「ご無沙汰しておりますアクセル卿。私たちは近隣の村々を巡察しつつ南より彼の地に至ったため、詳しい状況を存じあげません。我が従者への挨拶よりも、詳しいお話をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「もちろんです。立ち話もなんですので、こちらへどうぞ」

 完璧と思わせる仕草で軽く挨拶をして、そのまま流れるようにオレたちを案内する。
 ハルカさんがアクセルと言った男の部下や従者と思われる人たちの動きも洗練されていて、自然と馬の手綱をとって馬をあずかってくれる。
 なんだか、初めてガチなファンタジー世界に来た気分にさせられるほどだ。

 案内された恐らく村長宅と思われる大きな部屋の居間には、中央にテーブルが置かれて地図のようなものが広げられている。
 見た感じ臨時の司令部のようになっていたが、今は人払いされている。

 そして部屋の中央辺りまで来ると、アクセルさんが振り向いて優雅に挨拶をする。

「では改めて挨拶を。我が名はアクセル・ルドルフ・マルムスティーン。マルムスティーン辺境伯第三子にして、アースガルズ王国より魔導騎士の位を授かっております」

 騎士様だ。しかもお貴族様だ。

 見た目は金髪碧眼の白人イケメンで、スラリと背が高く容姿は文句の付けようが無い。年齢は見た目で20才前後だろう。
 仕草も洗練されていて嫌味がなく、見ていて気持ちいいくらいだ。
 モデルや俳優と言われても素直に信じそうで、自分との差がありすぎてもはや嫉妬心すら湧かない。逆に憧れてしまいそうだ。

「えっと、申し訳ありません。ぶ、不調法者なので、どう返答していいのか分かりませんが、オレはショウ。いちおうハルっ、ルカ様の従者ってことになってます」

「ショウ君、それでもぶっちゃけすぎ。まあ、アクセルには、変に取り繕わなくていいわよ。アクセルもショウ君虐めない」

 彼女の言葉に、騎士様が爽やかに笑う。
 照明もろくに無い屋内なのに、何かキラキラした背景すら見えそうだ。

「これは失礼。では、ざっくばらんに。名乗りはもういいよね。ボクの事はアクセルと呼んでほしい。で、君のことはショウと呼んでいいのかな?」

 握手はこの世界でも同じなので、アクセルさんが差し出して来た右手を取る。思ったより、ガッシリした手だ。
 貴族の手というより戦士の手という感じがする。

「はい。ショウで構いません。よろしくお願いします。じゃオレもアクセルさんで」

「丁寧語も敬称もいらないよ。ついでに深いお辞儀も」

「けど、オレより目上ですよね」

「なるほど、ルカと同じ世界の人だ」

 アクセルさんが、そう言って破顔する。
 笑顔がまぶし過ぎる。

「ええ、バレバレでしょ。行く先々で誤摩化すのも大変なの」

 彼女が『ヤレヤレだぜ』なポーズをしている。
 そんな事より、オレには気になる事がある。それを質そうとすると、先手を打たれた。

「あ、そうそう、アクセルは私の巡察を援助してくれているの」

「ルカはボクの命の恩人なんだ。援助くらい当然だよ。それにこの地域での巡察はこちらが頼んでるようなもので、凄く助かっているんだ。本当はもっと色々とお礼をしたいのだけれど、いつも断られていてね」

「その話は随分前に話がついたでしょ」

「うん。でも、ボクの気持ちは今も変わらないよ」

 見つめ合っているし、なんだか仲が良さそうだ。
 そう思ったのも顔に出ていたのだろう、彼女がオレにジト目な視線を向けてくる。

「……念のため言っておくけど、アクセルは既婚者よ。しかも周りが引くくらいアクセルが奥さんにべた惚れ。男は奥さんに合わせてくれないくらい大切にしてるの」

「アハハ、ボクとゲルダの仲をそんなに褒めないでくれ」

「褒めてない。アクセルに引いてるの」

「男女が愛し合うのは良い事だし、神々も奨励される事だろ。けど、もしゲルダに会っていなかったら、ルカに惚れていたかもね。ルカも凄く魅力的だし」

「ハイハイ、ありがと。ショウ君も、この愛妻家のくせに口軽な男に何か言ってやりなさい」

 コミュ症気味のオレでは、何もかもぼーぜんだ。完全に置いて行かれている。
 すると彼女が、軽くため息をつくと会話を切り替える。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

異世界でのんびり暮らしたい!?

日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?

処理中です...