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第一部
011「チュートリアル(1)」
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森を抜けると視界が開け、草原もしくは荒れ地のような大地に、人通りのない細い道が通っていた。
かろうじて小さめの馬車や荷車が通れるぐらいの幅で、未舗装の土の道には浅い轍(わだち)の跡も見る事ができる。
あまり整備されていないので、歩き慣れるのに一苦労しそうなほどデコボコだった。道の上の雑草も少なく無い。
また、小さな道といっても、他に土地がないわけではない。周辺は荒れ地とは言わないが、草や灌木程度しか生えていない場所が多い。
人気も無く畑なども見えないので、大きく立派な道を作る理由が無いのだろう。
とても静かで、BGMと言えば風に揺れる木々の音や、森の方から鳥の鳴き声が聞こえるぐらいだ。
それとてヒーリング系のBGMより小さな音でしかない。
「音の少ない世界だな。まさに大自然」
「ショウ君は、スマホで音楽とか聞いてないと落ち着かないタイプ?」
「いや、音楽も動画もあんまり。スマホは漫画、ネット小説とか読む方が多いな」
「SNSは?」
「あんまり使わない。面倒くさいし」
からかい口調だけど、本気でからかっているのは分かった。
「おっ、ボッチが平気なタイプ? 今どき珍しいわね」
「言われてみればそうかも。まあ、情けない事に友達少ないだけ、だけどな」
「……じゃ、私に似てるわね」
これだけ可愛いくてコミュ強ならボッチはないだろと言おうとしたけど、ハルカさんの表情が思いの外真面目な感じだったので、言葉は継げなかった。
二人の間に少し沈黙が降りる。
「で、何から聞きたい?」
仕切り直しの彼女の明るい声のおかげで、オレも気を取りなおせた。
「逆に何から聞いたらいい? 知らない事が多すぎるって気づいたけど、何から聞いていいやら」
「まぁ、そうなるか。取りあえず、大きなところを話しましょうか」
「お願いします、先生」
「じゃあ、馬の上で話しながら進みましょう」
その言葉で馬にタンデムの二人乗り状態で乗る。
観光用の馬車以上は乗った事無いのに、オレの体は馬の乗り方を知っていた。
そして馬には軽く乗れたのだけど、そのポジションはオレに緊張を強いる。
何しろ目の前に彼女の背中があるのだ。
馬の鞍は大きめなので二人またがっても十分な場所はあったが、彼女との距離は30センチ程度。少し風が吹けば、彼女の長いブラウンブロンドの髪がオレにかかる距離しかない。
しかも彼女からは、花か何かのいい匂いまでしてくる。
しかし彼女は気にした風もなく、軽く振り向いて話しかけて来た。慣れている事なのだろうか。
「脚で軽く挟んで鞍の端でもつかんでて」
「あの今更だけど、後ろに乗ってていいのか?」
今更ながらの質問をすると、振り向いて真面目な表情をむけてきた。
「病み上がりを歩かせる訳にいかないでしょ。それとも一人で乗る? 私は歩きでも構わないけど」
「で、できればこのままで」
オレの正直な言葉に、フッと軽く笑う。
年長者もしくはベテランが見せる余裕の笑みだ。
「色んな意味で正直ね。けど、私の後ろ姿を堪能するだけにしてね。緊急事態以外で、私に抱きついたり絶対しないでよ。したら叩き落とすから。髪に触れるのも厳禁」
先に馬にまたがったハルカさんは、振り向きながらきつめの目線で念押しする。
オレはコクコクとうなづく。
言う通りするしかないし、敢えて女の子にちょっかいを出せるほど軟派でも図々しくもない。それに礼儀知らずでもない、と思いたい。
馬で進み始めてオレが馬上に慣れてくるのを見計らって、彼女は「コホン」とわざとらしく咳払いすると「授業」を始めた。
「取りあえず、ビギナーがよく聞いてくる事、勘違いしている事からね」
そう言って、右手の人差し指を立てつつ一気に話していく。
曰く、
「夢じゃない」
「ゲームの中の世界じゃない」
「世界を滅ぼす魔王はいない」
「自称以外の勇者もいない」
「世界を救うような『大冒険』はない」
「世界の脅威なんて聞いた事ない」
「それにね、人一人で何か大きな事が出来るほど甘い世界じゃないわよ」
ここで振り向いて、真剣な眼差しを横顔ながら向けてきた。
「ここは幻想世界で、私たちはどういう訳か強い力を与えられてるけど、ここも人の世界なのを忘れないで。
それに、魔法と魔物は存在するけど、現代日本じゃ考えられないような飢え、貧困、天災、戦争、酷いことは何でもあるわよ。十分に覚悟する事。でないと、簡単にメンタルやられてドロップアウトするわよ」
そして「それにね、人の命の価値は現代の先進国よりずっと軽いの」と最後に少し寂しげに語った。
お気楽な異世界ファンタジーやゲームのような世界ではないことを、実感させるためもあるだろう。
まずは、知っていないといけない最低限の事を話してくれたが、正直重い話が多かった。
そこでわざと明るい声で返す。
「だいたいは分かった。出来るだけ気にかけるよ。それで、ゲームみたいだって言われる事は、全部嘘なのか?」
「そうねえ、全部嘘じゃないわよ。確かにそれっぽいのもあるし、逆に笑っちゃう話もあるわね」
ハルカさんも明るい声に戻る。
「じゃあ、例えばゲームみたいに自分や仲間、モンスターの名前や能力が文字や数字で表示されたりするやつは?」
「『ステータス』だったっけ? ないない。あれは大嘘。あったら凄く便利だろうし、もっと残る人多いんじゃないかしら」
これが笑っちゃう話って事だろう。
「敵を倒してアイテムドロップとかお金ゲットは?」
「手間暇かけて、金目のものを引きはがしたりして売らないとダメに決まってるでしょ。ズボラしないの。大物狙いの時は、後ろに解体職人や運搬人なんかを連れ歩く人たちもいるくらいよ」
「けど、宝石ゲット、みたいな話がけっこうあったけど」
「そうねえ。魔力が体内で結晶化した魔石は、魔物や魔獣を解体すれば簡単に手に入るわね。あと、鉱石を食べて体内の魔力で精製する魔物もたまにいるし、ドラゴンなんて全身宝物みたいなものだからじゃないかしら」
話し振りからして、ハルカさんはあまりお金に執着しないようだ。
ならば別の質問だ。
「経験点とレベルアップは? ネットの情報だとかなり信憑性ありそうだったけど」
「あれは魔力獲得の事ね」
「と言うと?」
「こっちの世界の人も同じなんだけど、『魔力持ち』って言われる魔力の恩恵を受けている人は、濃い魔力の中に入ったり近くにいると自然に体に永続的に魔力を取り込めるのよ。もしくは、体の魔力のキャパシティーが増えるって言い方をする人もいるわね」
「魔力が経験点てこと?」
「というより、魔力は魔法や超人的な力の大本で、体内に取り込んでいる魔力が多ければ多いほど技術に関係なく強くなれるわ」
「確かにそんなことも書いてたな。けど、そもそも魔力って何なんだ?」
オレの言葉に彼女が苦笑した。
向こうで調べた限り、不要な説明や説を無視して比べると、どこも不思議パワーの源くらいしか書いてないのだ。
「もっともな疑問よね。英語だとそのまんまマジックパワーとかミラクルパワーって言うけど、エネルギー源の一種とか諸説あるわね。
あと、近代以前の科学で出てきた、自力でエネルギーを持つ元素のようなものって説も強いかしら。当たり前にありふれたものだから、この世界の人は普通に受け入れてるけど、『ダブル』の中には研究してる人もいるわね」
「なら、オレがどうこう考えるもんでもないか」
オレの言葉に、彼女が軽く苦笑するのが分かった。
「そういう事ね。あと体内の魔力は、魔法なんかで使ってもよほど魔力の少ない場所でもない限り、一晩もあれば満タンに回復するわね。
だから取り込む場合は、総量が増えるって言い方する事が多いわ。魔力許容量(マジックキャパ)とか魔力総量(トータルMP)って言い方もするし」
「そういうところは、確かにゲームっぽいな」
しかし彼女の顔にはゲームじゃないと書いてある。ゲームゲームと、あまり口にしないほうがいいのかもしれない。
「で、魔物を倒すと魔力を手に入れやすい、と?」
「そっ。と言うより、魔物を倒したあと魔物の中の魔力が拡散する時、倒した人が一番近くにいるわけだから、それを吸収しているんだって。魔力の方も、魔力がある魔物や生き物、特に人間に吸い寄せられやすいの。
だから、手っ取り早く強くなりたい人ほど、魔物退治に力をいれるわね。逆に普通の人や動物は魔力がゼロか少ないから、自分たちから相手にしないのよね」
彼女が左手の指をおとがいに当てて少し考えている。
今は手袋をはめているので、細くきれいな指を見る事はできない。
「やっぱり、数字で分かったりするもんじゃないんだ」
「そうね。けど、『ダブル』の間じゃ、人や魔物を強さで分類して戦う時の目安にしてるわ」
「ランクで分けるやつは実際あるんだ」
全てが嘘じゃないと分かって少しホッとする。それに、何かの目安はやはり欲しいところだ。
「ええ。このモンスターはDランクとかね」
「ちなみに昨日の矮鬼は?」
「単体だとE、あれくらいの集団だとDね。個体差と装備、数でC判定の場合もあるけど。ちなみに普通の人も、戦闘技能が無いとだいたいEの扱いね」
そう言われても今ひとつピンとこない。
順に聞いた方が良さそうだ。
「底辺のFランは?」
「人にとって無害な小動物辺りね」
「Dだとどれくらい?」
「普通の兵士くらいね。ちなみにEが一般市民、Dが普通の兵士、Cがフル装備の騎士が目安って言われてるわ」
さすがハルカさん。教え方を分かっている。
となると、次のことが気になる。
「人の場合、魔力のあるなしは関係あるのか?」
「勿論。同じ技量の場合、魔力持ちは1ランク格上げね」
「なるほど。ちなみに普通の人の限界はどのあたり?」
「Bよ。魔力持ちじゃないと、VFXみたいな超人的な動きもできないしね」
そう言って、手を人に見立ててビューンて感じで動かす。
「じゃあ、オレは?」
「ショウ君は未知数。後で私と模擬戦してみましょう」
そこで軽く顔を横にして、オレに目線を向ける。
「了解。じゃあ、普通の『ダブル』だと?」
「体内の魔力の恩恵があるのは確定だから、最低でもD。ベテランはBからCが普通ね」
「なるほど。ハルカさんは?」
オレの問いかけに彼女が振り向く。その横顔が何かを言う前からドヤ顔だ。
かろうじて小さめの馬車や荷車が通れるぐらいの幅で、未舗装の土の道には浅い轍(わだち)の跡も見る事ができる。
あまり整備されていないので、歩き慣れるのに一苦労しそうなほどデコボコだった。道の上の雑草も少なく無い。
また、小さな道といっても、他に土地がないわけではない。周辺は荒れ地とは言わないが、草や灌木程度しか生えていない場所が多い。
人気も無く畑なども見えないので、大きく立派な道を作る理由が無いのだろう。
とても静かで、BGMと言えば風に揺れる木々の音や、森の方から鳥の鳴き声が聞こえるぐらいだ。
それとてヒーリング系のBGMより小さな音でしかない。
「音の少ない世界だな。まさに大自然」
「ショウ君は、スマホで音楽とか聞いてないと落ち着かないタイプ?」
「いや、音楽も動画もあんまり。スマホは漫画、ネット小説とか読む方が多いな」
「SNSは?」
「あんまり使わない。面倒くさいし」
からかい口調だけど、本気でからかっているのは分かった。
「おっ、ボッチが平気なタイプ? 今どき珍しいわね」
「言われてみればそうかも。まあ、情けない事に友達少ないだけ、だけどな」
「……じゃ、私に似てるわね」
これだけ可愛いくてコミュ強ならボッチはないだろと言おうとしたけど、ハルカさんの表情が思いの外真面目な感じだったので、言葉は継げなかった。
二人の間に少し沈黙が降りる。
「で、何から聞きたい?」
仕切り直しの彼女の明るい声のおかげで、オレも気を取りなおせた。
「逆に何から聞いたらいい? 知らない事が多すぎるって気づいたけど、何から聞いていいやら」
「まぁ、そうなるか。取りあえず、大きなところを話しましょうか」
「お願いします、先生」
「じゃあ、馬の上で話しながら進みましょう」
その言葉で馬にタンデムの二人乗り状態で乗る。
観光用の馬車以上は乗った事無いのに、オレの体は馬の乗り方を知っていた。
そして馬には軽く乗れたのだけど、そのポジションはオレに緊張を強いる。
何しろ目の前に彼女の背中があるのだ。
馬の鞍は大きめなので二人またがっても十分な場所はあったが、彼女との距離は30センチ程度。少し風が吹けば、彼女の長いブラウンブロンドの髪がオレにかかる距離しかない。
しかも彼女からは、花か何かのいい匂いまでしてくる。
しかし彼女は気にした風もなく、軽く振り向いて話しかけて来た。慣れている事なのだろうか。
「脚で軽く挟んで鞍の端でもつかんでて」
「あの今更だけど、後ろに乗ってていいのか?」
今更ながらの質問をすると、振り向いて真面目な表情をむけてきた。
「病み上がりを歩かせる訳にいかないでしょ。それとも一人で乗る? 私は歩きでも構わないけど」
「で、できればこのままで」
オレの正直な言葉に、フッと軽く笑う。
年長者もしくはベテランが見せる余裕の笑みだ。
「色んな意味で正直ね。けど、私の後ろ姿を堪能するだけにしてね。緊急事態以外で、私に抱きついたり絶対しないでよ。したら叩き落とすから。髪に触れるのも厳禁」
先に馬にまたがったハルカさんは、振り向きながらきつめの目線で念押しする。
オレはコクコクとうなづく。
言う通りするしかないし、敢えて女の子にちょっかいを出せるほど軟派でも図々しくもない。それに礼儀知らずでもない、と思いたい。
馬で進み始めてオレが馬上に慣れてくるのを見計らって、彼女は「コホン」とわざとらしく咳払いすると「授業」を始めた。
「取りあえず、ビギナーがよく聞いてくる事、勘違いしている事からね」
そう言って、右手の人差し指を立てつつ一気に話していく。
曰く、
「夢じゃない」
「ゲームの中の世界じゃない」
「世界を滅ぼす魔王はいない」
「自称以外の勇者もいない」
「世界を救うような『大冒険』はない」
「世界の脅威なんて聞いた事ない」
「それにね、人一人で何か大きな事が出来るほど甘い世界じゃないわよ」
ここで振り向いて、真剣な眼差しを横顔ながら向けてきた。
「ここは幻想世界で、私たちはどういう訳か強い力を与えられてるけど、ここも人の世界なのを忘れないで。
それに、魔法と魔物は存在するけど、現代日本じゃ考えられないような飢え、貧困、天災、戦争、酷いことは何でもあるわよ。十分に覚悟する事。でないと、簡単にメンタルやられてドロップアウトするわよ」
そして「それにね、人の命の価値は現代の先進国よりずっと軽いの」と最後に少し寂しげに語った。
お気楽な異世界ファンタジーやゲームのような世界ではないことを、実感させるためもあるだろう。
まずは、知っていないといけない最低限の事を話してくれたが、正直重い話が多かった。
そこでわざと明るい声で返す。
「だいたいは分かった。出来るだけ気にかけるよ。それで、ゲームみたいだって言われる事は、全部嘘なのか?」
「そうねえ、全部嘘じゃないわよ。確かにそれっぽいのもあるし、逆に笑っちゃう話もあるわね」
ハルカさんも明るい声に戻る。
「じゃあ、例えばゲームみたいに自分や仲間、モンスターの名前や能力が文字や数字で表示されたりするやつは?」
「『ステータス』だったっけ? ないない。あれは大嘘。あったら凄く便利だろうし、もっと残る人多いんじゃないかしら」
これが笑っちゃう話って事だろう。
「敵を倒してアイテムドロップとかお金ゲットは?」
「手間暇かけて、金目のものを引きはがしたりして売らないとダメに決まってるでしょ。ズボラしないの。大物狙いの時は、後ろに解体職人や運搬人なんかを連れ歩く人たちもいるくらいよ」
「けど、宝石ゲット、みたいな話がけっこうあったけど」
「そうねえ。魔力が体内で結晶化した魔石は、魔物や魔獣を解体すれば簡単に手に入るわね。あと、鉱石を食べて体内の魔力で精製する魔物もたまにいるし、ドラゴンなんて全身宝物みたいなものだからじゃないかしら」
話し振りからして、ハルカさんはあまりお金に執着しないようだ。
ならば別の質問だ。
「経験点とレベルアップは? ネットの情報だとかなり信憑性ありそうだったけど」
「あれは魔力獲得の事ね」
「と言うと?」
「こっちの世界の人も同じなんだけど、『魔力持ち』って言われる魔力の恩恵を受けている人は、濃い魔力の中に入ったり近くにいると自然に体に永続的に魔力を取り込めるのよ。もしくは、体の魔力のキャパシティーが増えるって言い方をする人もいるわね」
「魔力が経験点てこと?」
「というより、魔力は魔法や超人的な力の大本で、体内に取り込んでいる魔力が多ければ多いほど技術に関係なく強くなれるわ」
「確かにそんなことも書いてたな。けど、そもそも魔力って何なんだ?」
オレの言葉に彼女が苦笑した。
向こうで調べた限り、不要な説明や説を無視して比べると、どこも不思議パワーの源くらいしか書いてないのだ。
「もっともな疑問よね。英語だとそのまんまマジックパワーとかミラクルパワーって言うけど、エネルギー源の一種とか諸説あるわね。
あと、近代以前の科学で出てきた、自力でエネルギーを持つ元素のようなものって説も強いかしら。当たり前にありふれたものだから、この世界の人は普通に受け入れてるけど、『ダブル』の中には研究してる人もいるわね」
「なら、オレがどうこう考えるもんでもないか」
オレの言葉に、彼女が軽く苦笑するのが分かった。
「そういう事ね。あと体内の魔力は、魔法なんかで使ってもよほど魔力の少ない場所でもない限り、一晩もあれば満タンに回復するわね。
だから取り込む場合は、総量が増えるって言い方する事が多いわ。魔力許容量(マジックキャパ)とか魔力総量(トータルMP)って言い方もするし」
「そういうところは、確かにゲームっぽいな」
しかし彼女の顔にはゲームじゃないと書いてある。ゲームゲームと、あまり口にしないほうがいいのかもしれない。
「で、魔物を倒すと魔力を手に入れやすい、と?」
「そっ。と言うより、魔物を倒したあと魔物の中の魔力が拡散する時、倒した人が一番近くにいるわけだから、それを吸収しているんだって。魔力の方も、魔力がある魔物や生き物、特に人間に吸い寄せられやすいの。
だから、手っ取り早く強くなりたい人ほど、魔物退治に力をいれるわね。逆に普通の人や動物は魔力がゼロか少ないから、自分たちから相手にしないのよね」
彼女が左手の指をおとがいに当てて少し考えている。
今は手袋をはめているので、細くきれいな指を見る事はできない。
「やっぱり、数字で分かったりするもんじゃないんだ」
「そうね。けど、『ダブル』の間じゃ、人や魔物を強さで分類して戦う時の目安にしてるわ」
「ランクで分けるやつは実際あるんだ」
全てが嘘じゃないと分かって少しホッとする。それに、何かの目安はやはり欲しいところだ。
「ええ。このモンスターはDランクとかね」
「ちなみに昨日の矮鬼は?」
「単体だとE、あれくらいの集団だとDね。個体差と装備、数でC判定の場合もあるけど。ちなみに普通の人も、戦闘技能が無いとだいたいEの扱いね」
そう言われても今ひとつピンとこない。
順に聞いた方が良さそうだ。
「底辺のFランは?」
「人にとって無害な小動物辺りね」
「Dだとどれくらい?」
「普通の兵士くらいね。ちなみにEが一般市民、Dが普通の兵士、Cがフル装備の騎士が目安って言われてるわ」
さすがハルカさん。教え方を分かっている。
となると、次のことが気になる。
「人の場合、魔力のあるなしは関係あるのか?」
「勿論。同じ技量の場合、魔力持ちは1ランク格上げね」
「なるほど。ちなみに普通の人の限界はどのあたり?」
「Bよ。魔力持ちじゃないと、VFXみたいな超人的な動きもできないしね」
そう言って、手を人に見立ててビューンて感じで動かす。
「じゃあ、オレは?」
「ショウ君は未知数。後で私と模擬戦してみましょう」
そこで軽く顔を横にして、オレに目線を向ける。
「了解。じゃあ、普通の『ダブル』だと?」
「体内の魔力の恩恵があるのは確定だから、最低でもD。ベテランはBからCが普通ね」
「なるほど。ハルカさんは?」
オレの問いかけに彼女が振り向く。その横顔が何かを言う前からドヤ顔だ。
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