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第八章 真なる聖剣
990 獣が棲む街の驚異
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「私の用件など単純なことです。勇者さま御一行にお会いしたかった、ということが第一ですが、森人の方のお話を直接お伺い出来る機会を逃したくなかった、ということもあります。なにしろ、近場に魔物のごとき人間達の巣があると気が休まりませんからね」
魔物のごとき人間の『巣』と来たか。
なるほど、この村のルールは、あの冒険者の街から流れて来るバカを想定して作られているんだな。
冒険者という連中はだいたい金に余裕がないから、罰金を取られるとなると大人しくなるだろう。
それで大人しくならない奴は追放、ということか。
「そんなに酷いのですか? 私の集落は平野人との接触自体が少なかったので、その、……あまり実感がないのですけど……」
メルリルが不思議そうに尋ねる。
そう言えば、メルリルの集落では平野人に対する警戒心はあまり感じなかったな。
森人は種族的な共感能力があるので、どこに住んでいても同じようにものを感じるという認識があったが、やっぱり住んでる環境で感じ方が変わることもあるようだ。
共感性を持たない俺達には少し理解しにくい面でもある。
『もしかすると、あの乱暴者の平野人達のお話ですかな?』
すると、俺達の会話の内容がわかっていないはずのミディの親父さんが口を挟んで来た。
メルリルの感覚が少しは伝わっているのか?
だがそうだな、平野の言葉だけで会話をしていると、どうしても森人の言葉しか使わないミディと親父さんは除け者のようになってしまう。
どうしたものか……。
『ええ、メルリルの集落はあまり平野人とは関わって来なかったようです』
俺がそう説明すると、ミディの親父さんはなるほどとうなずき、メルリルが俺に感謝のまなざしを向けた。
『その点は私も興味深いところですな』
と、バイダル組合長。
この人も森人の言葉がわかるんだよな。
というか、わざわざここで森人の言葉でしゃべっているのは、自分に聞かせてもいい話なのか? という確認だろう。
この人なりの誠意と思われる。
『……先程のお力……。こちらのメルリルさまは巫女の座をお持ちなのでしょう? 我が村は今や巫女の座には、ばばさまお一人となってしまいまして……』
そのミディ父の説明で、俺にも察することが出来た。
メルリルもどうやら、ミディの集落が抱える問題がわかったようだ。
メルリルの集落は規模が小さいものだったが、それでもメルリルのほかに何人かの巫女と、将来の巫女候補がいた。
もし巫女がメルリルだけだったら、火喰いの獣が再び目覚める危険を冒すこととなっても、あるいは集落の人々は、メルリルをそのまま引き留めたかもしれない。
なにしろあの集落は、巫女の術によって集落の周りに結界が張られていたのである。
つまり、ミディ父の集落は、そういった結界を張ることが既に出来ないのだろう。
『それぞれの種族が大事になさっている習わしについては、我々商人は基本的にはノータッチとしております。この話はここ限り、といたしましょう』
『……助かります』
バイダル組合長はそう言ったが、巫女という名前は既知のものだったようだ。
聞き逃すはずもないのに、みごとにスルーしていた。
既にそれなりの知識があるように見受けられる。
その辺のことを全く表情に出さないのは、さすが商人の元締めと言えるだろう。
「これからの話は、一応平野の言葉で話させていただきますが、勇者さま方だけでなくそちらの森人の方にもお聞きいただきたいので、もしよろしければ、メルリル殿、そちらのお二人に、私の話を説明していただけないでしょうか?」
どうやら、バイダル組合長もミディ親子が話についてこれない状況を問題として考えていたようだ。
メルリルにそんなふうに頼んで来た。
突然バイダル組合長に頼まれたメルリルのほうはびっくりした顔になり、一瞬俺を見たが、すぐに視線をバイダル組合長に戻してうなずいてみせる。
「わかりました」
うんうん、いっぱしの冒険者なら自分のことは自分で判断出来るからな。
「ありがとうございます」
バイダル組合長はメルリルに対して丁寧に頭を下げて礼をすると、俺達全員に向かって説明を始めた。
「今回のみなさま方のご事情については、うちの警備の者から詳しい報告を受けています。そもそもの発端は、そちらの少年が、あの町のならず者共に攫われたことだそうですね? 実は、子どもの誘拐は、森人だけの問題ではないのです。我々のバザーで商っている者達は、商売の間、ある程度育った子どもには自由にさせています。子ども連れでなかなか商売は出来ませんからね。ですが、そういった子ども達がいなくなる事件が、ここのところ増えているのですよ」
「なんだと!」
勇者が立ち上がる。
「勇者さま、バイダル殿がまだお話し中です。お怒りはごもっともですが、とりあえずお座りください」
俺は出来るだけ穏やかに勇者をなだめた。
だが、俺も心中穏やかではない。
この国では人身売買は大罪だ。
つまり国内で子どもを売るのは難しいのである。
そして、この地域から北の諸国へ子どもを運ぼうとすれば、王都を経由しなければならない。
もしそれほど大規模に子どもを攫って商売にしているなら、バレないはずはないのだ。
だが、それが成り立っている、ということは、北方の国々ではない商売相手、つまり今までとは違う独特の人身売買ルートが確立している可能性がある。
「……まさかと思うが、連中が蛮族と呼んで長年争っている当の相手に、子どもを売っているのか?」
俺がそう発言すると、ミディ親子を除くその場の全員から、ぎょっとしたような視線が向けられた。
ただ一人、バイダル組合長は、我が意を得たりという表情だ。
「さすがは名高き冒険者のダスター殿。あらゆるものごとを解決に導くという『つじつま合わせ』の異名は伊達ではありませんな」
バイダル組合長は、そう言ってにっこりと笑ったのだった。
魔物のごとき人間の『巣』と来たか。
なるほど、この村のルールは、あの冒険者の街から流れて来るバカを想定して作られているんだな。
冒険者という連中はだいたい金に余裕がないから、罰金を取られるとなると大人しくなるだろう。
それで大人しくならない奴は追放、ということか。
「そんなに酷いのですか? 私の集落は平野人との接触自体が少なかったので、その、……あまり実感がないのですけど……」
メルリルが不思議そうに尋ねる。
そう言えば、メルリルの集落では平野人に対する警戒心はあまり感じなかったな。
森人は種族的な共感能力があるので、どこに住んでいても同じようにものを感じるという認識があったが、やっぱり住んでる環境で感じ方が変わることもあるようだ。
共感性を持たない俺達には少し理解しにくい面でもある。
『もしかすると、あの乱暴者の平野人達のお話ですかな?』
すると、俺達の会話の内容がわかっていないはずのミディの親父さんが口を挟んで来た。
メルリルの感覚が少しは伝わっているのか?
だがそうだな、平野の言葉だけで会話をしていると、どうしても森人の言葉しか使わないミディと親父さんは除け者のようになってしまう。
どうしたものか……。
『ええ、メルリルの集落はあまり平野人とは関わって来なかったようです』
俺がそう説明すると、ミディの親父さんはなるほどとうなずき、メルリルが俺に感謝のまなざしを向けた。
『その点は私も興味深いところですな』
と、バイダル組合長。
この人も森人の言葉がわかるんだよな。
というか、わざわざここで森人の言葉でしゃべっているのは、自分に聞かせてもいい話なのか? という確認だろう。
この人なりの誠意と思われる。
『……先程のお力……。こちらのメルリルさまは巫女の座をお持ちなのでしょう? 我が村は今や巫女の座には、ばばさまお一人となってしまいまして……』
そのミディ父の説明で、俺にも察することが出来た。
メルリルもどうやら、ミディの集落が抱える問題がわかったようだ。
メルリルの集落は規模が小さいものだったが、それでもメルリルのほかに何人かの巫女と、将来の巫女候補がいた。
もし巫女がメルリルだけだったら、火喰いの獣が再び目覚める危険を冒すこととなっても、あるいは集落の人々は、メルリルをそのまま引き留めたかもしれない。
なにしろあの集落は、巫女の術によって集落の周りに結界が張られていたのである。
つまり、ミディ父の集落は、そういった結界を張ることが既に出来ないのだろう。
『それぞれの種族が大事になさっている習わしについては、我々商人は基本的にはノータッチとしております。この話はここ限り、といたしましょう』
『……助かります』
バイダル組合長はそう言ったが、巫女という名前は既知のものだったようだ。
聞き逃すはずもないのに、みごとにスルーしていた。
既にそれなりの知識があるように見受けられる。
その辺のことを全く表情に出さないのは、さすが商人の元締めと言えるだろう。
「これからの話は、一応平野の言葉で話させていただきますが、勇者さま方だけでなくそちらの森人の方にもお聞きいただきたいので、もしよろしければ、メルリル殿、そちらのお二人に、私の話を説明していただけないでしょうか?」
どうやら、バイダル組合長もミディ親子が話についてこれない状況を問題として考えていたようだ。
メルリルにそんなふうに頼んで来た。
突然バイダル組合長に頼まれたメルリルのほうはびっくりした顔になり、一瞬俺を見たが、すぐに視線をバイダル組合長に戻してうなずいてみせる。
「わかりました」
うんうん、いっぱしの冒険者なら自分のことは自分で判断出来るからな。
「ありがとうございます」
バイダル組合長はメルリルに対して丁寧に頭を下げて礼をすると、俺達全員に向かって説明を始めた。
「今回のみなさま方のご事情については、うちの警備の者から詳しい報告を受けています。そもそもの発端は、そちらの少年が、あの町のならず者共に攫われたことだそうですね? 実は、子どもの誘拐は、森人だけの問題ではないのです。我々のバザーで商っている者達は、商売の間、ある程度育った子どもには自由にさせています。子ども連れでなかなか商売は出来ませんからね。ですが、そういった子ども達がいなくなる事件が、ここのところ増えているのですよ」
「なんだと!」
勇者が立ち上がる。
「勇者さま、バイダル殿がまだお話し中です。お怒りはごもっともですが、とりあえずお座りください」
俺は出来るだけ穏やかに勇者をなだめた。
だが、俺も心中穏やかではない。
この国では人身売買は大罪だ。
つまり国内で子どもを売るのは難しいのである。
そして、この地域から北の諸国へ子どもを運ぼうとすれば、王都を経由しなければならない。
もしそれほど大規模に子どもを攫って商売にしているなら、バレないはずはないのだ。
だが、それが成り立っている、ということは、北方の国々ではない商売相手、つまり今までとは違う独特の人身売買ルートが確立している可能性がある。
「……まさかと思うが、連中が蛮族と呼んで長年争っている当の相手に、子どもを売っているのか?」
俺がそう発言すると、ミディ親子を除くその場の全員から、ぎょっとしたような視線が向けられた。
ただ一人、バイダル組合長は、我が意を得たりという表情だ。
「さすがは名高き冒険者のダスター殿。あらゆるものごとを解決に導くという『つじつま合わせ』の異名は伊達ではありませんな」
バイダル組合長は、そう言ってにっこりと笑ったのだった。
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