上 下
880 / 885
第八章 真なる聖剣

985 春はもうすぐ

しおりを挟む
 逆恨みして襲ってきたバカ共を放置して、俺達は森人の森へと向かった。
 突然子どもが行方不明になった親のことを考えると、一刻も早くミディを連れ帰ったほうがいい、という意見は全員一致している。
 バカ共にかまっている暇が惜しいのだ。

「ダスター。ミディの集落は水源を守る役割を持っているので、うちの集落よりも厳重に守られている。ミディの意識を道しるべに、精霊メイスの道で近くまで行って、そこからはミディ一人で帰ってもらうのがいいと思う」
「そうか。そんなに重要なお役目があるなら当然だな」

 馬車の御者台で俺とメルリルに挟まれてちょこんと座っているミディが、不思議そうに平野の言葉で話すメルリルと俺を見ている。
 勇者達にも聞いてもらうためだが、そのままでは仲間ハズレのようになってしまうので、ミディにも改めて説明した。

『今、メルリルと話したんだが、ミディの集落の守護の外まで送るから、そこからは一人でちゃんと帰れるか?』
『うん。……父さんと母さんが怖いけど、正直に謝る』

 ミディはいざ帰れるとなったら、両親に怒られることが急に怖くなったようだ。
 うんうん、わかるぞ。
 子どもの頃ってのは遊んでるときは夢中だが、夢中になって親との約束を破ったりすると、家に帰るのが急に怖くなるんだよな。
 親に怒られるってのは、子どもにとって一大事だ。
 俺の親は子どもにほとんど構えないほど忙しくしていたが、俺がまだミディぐらいのときに、一人でふらふらした挙げ句、夜遅く家に戻ったときは、さすがにものすごく怒られた。
 腹が減っている上に、両親が怖くてさすがの俺も涙目になったものだ。

「私達は子どもの頃は親に嘘がつけないの。なにしろ筒抜けだから」
「精神共有だっけ?」
「うん」
「大人になったら精神共有してても嘘がつけるのか?」
「正確には自分の気持ちの隠し方を覚える、って感じ。嘘はつけないけど本当のことを言わない方法はあるの」
「なるほどな」

 人間はどこまで行っても人間だな。
 お互いに何もかもあけすけにするのを嫌い、自分だけの心のうちに秘めるものを大切にする。
 精神を共有出来る森人ですら、そういう人間の本質は失っていないようだ。

「親に秘密を持つようになるのが大人への第一歩って訳か。それなら平野人も似たようなもんだ。見た目や能力が多少変わっても、人は人ってことだな」

 俺がそう言うと、メルリルはふわりと笑う。

「そうだね。おんなじ」

 そうして俺の肩に体を寄せて来た。
 間に挟まれているミディはちょっと驚いたようだったが、すぐににっこりと笑う。

『メルリルとダスターは仲良しだね! 婚姻の契を結んでいるの?』
『残念ながらまだなの。精霊メイスのいたずらを待つしかないのかも』
『俺に聞こえるところでそういう話をするな』

 俺は軽く咳払いをした。

『あー。ちゃんと考えているから』

 俺がそう言った途端、メルリルの顔が真っ赤になる。

『いいなー二人のお祝いを僕も見たいよ。でもきっとしばらくは家の外に出してもらえないと思う』

 ミディがため息を吐きつつそう言った。

「むう。俺にも聞こえてるからな! 絶対二人の結婚式には出席させてもらう!」
「いや、お前は来るな!」

 馬車のなかから聞いていた勇者が、気の早い出席予約を入れて来たが、俺は即座に断る。
 庶民の祝い事に勇者が出席するとか、とんだ罰ゲームだ。

「行く!」
「あ、あの、わたくしも、出来れば、あの……」
「なんだ、ミュリア、遠慮することないよ。さんざん世話してやったんだから祝い事に招かないなんてあり得ない。ぐらいに開き直ってればいいんだ」
「え? そんな……でも、出席します、ね」

 勇者の宣言に乗っかるように、聖女も自己主張を始めた。
 遠慮がちだった聖女だが、モンクが強気で聖女の主張を後押しする。
 くっ、それを言われるとちょっと苦しいな。
 俺は俺一人でさまざまな問題を解決して来た訳じゃない。
 ここ数年ずっと一緒だった勇者達に世話になっていないとは口が裂けても言えないだろう。

 だが、そういう問題じゃないんだよ!

「ダスター殿、ご安心ください。勇者一行らしさを隠し、平素な装いで参加すれば、大きな騒ぎにはなりますまい」

 聖騎士がそんな折衷案を出して来る。

「……とりあえず、考えておく」

 俺としては言葉を濁すのが精一杯だった。
 なんとか断るいい方法はないのか? うーん、長屋の連中に言ったら逆にノリノリになって大騒ぎにしそうだし、頭の痛い話だ。

 そんな俺の苦悩も知らず、ミディにもてあそばれるのを避け、俺の頭の上で優雅に昼寝をしていたフォルテが、ふわぁとあくびをしたのだった。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。