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第八章 真なる聖剣
985 春はもうすぐ
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逆恨みして襲ってきたバカ共を放置して、俺達は森人の森へと向かった。
突然子どもが行方不明になった親のことを考えると、一刻も早くミディを連れ帰ったほうがいい、という意見は全員一致している。
バカ共にかまっている暇が惜しいのだ。
「ダスター。ミディの集落は水源を守る役割を持っているので、うちの集落よりも厳重に守られている。ミディの意識を道しるべに、精霊の道で近くまで行って、そこからはミディ一人で帰ってもらうのがいいと思う」
「そうか。そんなに重要なお役目があるなら当然だな」
馬車の御者台で俺とメルリルに挟まれてちょこんと座っているミディが、不思議そうに平野の言葉で話すメルリルと俺を見ている。
勇者達にも聞いてもらうためだが、そのままでは仲間ハズレのようになってしまうので、ミディにも改めて説明した。
『今、メルリルと話したんだが、ミディの集落の守護の外まで送るから、そこからは一人でちゃんと帰れるか?』
『うん。……父さんと母さんが怖いけど、正直に謝る』
ミディはいざ帰れるとなったら、両親に怒られることが急に怖くなったようだ。
うんうん、わかるぞ。
子どもの頃ってのは遊んでるときは夢中だが、夢中になって親との約束を破ったりすると、家に帰るのが急に怖くなるんだよな。
親に怒られるってのは、子どもにとって一大事だ。
俺の親は子どもにほとんど構えないほど忙しくしていたが、俺がまだミディぐらいのときに、一人でふらふらした挙げ句、夜遅く家に戻ったときは、さすがにものすごく怒られた。
腹が減っている上に、両親が怖くてさすがの俺も涙目になったものだ。
「私達は子どもの頃は親に嘘がつけないの。なにしろ筒抜けだから」
「精神共有だっけ?」
「うん」
「大人になったら精神共有してても嘘がつけるのか?」
「正確には自分の気持ちの隠し方を覚える、って感じ。嘘はつけないけど本当のことを言わない方法はあるの」
「なるほどな」
人間はどこまで行っても人間だな。
お互いに何もかもあけすけにするのを嫌い、自分だけの心のうちに秘めるものを大切にする。
精神を共有出来る森人ですら、そういう人間の本質は失っていないようだ。
「親に秘密を持つようになるのが大人への第一歩って訳か。それなら平野人も似たようなもんだ。見た目や能力が多少変わっても、人は人ってことだな」
俺がそう言うと、メルリルはふわりと笑う。
「そうだね。おんなじ」
そうして俺の肩に体を寄せて来た。
間に挟まれているミディはちょっと驚いたようだったが、すぐににっこりと笑う。
『メルリルとダスターは仲良しだね! 婚姻の契を結んでいるの?』
『残念ながらまだなの。精霊のいたずらを待つしかないのかも』
『俺に聞こえるところでそういう話をするな』
俺は軽く咳払いをした。
『あー。ちゃんと考えているから』
俺がそう言った途端、メルリルの顔が真っ赤になる。
『いいなー二人のお祝いを僕も見たいよ。でもきっとしばらくは家の外に出してもらえないと思う』
ミディがため息を吐きつつそう言った。
「むう。俺にも聞こえてるからな! 絶対二人の結婚式には出席させてもらう!」
「いや、お前は来るな!」
馬車のなかから聞いていた勇者が、気の早い出席予約を入れて来たが、俺は即座に断る。
庶民の祝い事に勇者が出席するとか、とんだ罰ゲームだ。
「行く!」
「あ、あの、わたくしも、出来れば、あの……」
「なんだ、ミュリア、遠慮することないよ。さんざん世話してやったんだから祝い事に招かないなんてあり得ない。ぐらいに開き直ってればいいんだ」
「え? そんな……でも、出席します、ね」
勇者の宣言に乗っかるように、聖女も自己主張を始めた。
遠慮がちだった聖女だが、モンクが強気で聖女の主張を後押しする。
くっ、それを言われるとちょっと苦しいな。
俺は俺一人でさまざまな問題を解決して来た訳じゃない。
ここ数年ずっと一緒だった勇者達に世話になっていないとは口が裂けても言えないだろう。
だが、そういう問題じゃないんだよ!
「ダスター殿、ご安心ください。勇者一行らしさを隠し、平素な装いで参加すれば、大きな騒ぎにはなりますまい」
聖騎士がそんな折衷案を出して来る。
「……とりあえず、考えておく」
俺としては言葉を濁すのが精一杯だった。
なんとか断るいい方法はないのか? うーん、長屋の連中に言ったら逆にノリノリになって大騒ぎにしそうだし、頭の痛い話だ。
そんな俺の苦悩も知らず、ミディにもてあそばれるのを避け、俺の頭の上で優雅に昼寝をしていたフォルテが、ふわぁとあくびをしたのだった。
突然子どもが行方不明になった親のことを考えると、一刻も早くミディを連れ帰ったほうがいい、という意見は全員一致している。
バカ共にかまっている暇が惜しいのだ。
「ダスター。ミディの集落は水源を守る役割を持っているので、うちの集落よりも厳重に守られている。ミディの意識を道しるべに、精霊の道で近くまで行って、そこからはミディ一人で帰ってもらうのがいいと思う」
「そうか。そんなに重要なお役目があるなら当然だな」
馬車の御者台で俺とメルリルに挟まれてちょこんと座っているミディが、不思議そうに平野の言葉で話すメルリルと俺を見ている。
勇者達にも聞いてもらうためだが、そのままでは仲間ハズレのようになってしまうので、ミディにも改めて説明した。
『今、メルリルと話したんだが、ミディの集落の守護の外まで送るから、そこからは一人でちゃんと帰れるか?』
『うん。……父さんと母さんが怖いけど、正直に謝る』
ミディはいざ帰れるとなったら、両親に怒られることが急に怖くなったようだ。
うんうん、わかるぞ。
子どもの頃ってのは遊んでるときは夢中だが、夢中になって親との約束を破ったりすると、家に帰るのが急に怖くなるんだよな。
親に怒られるってのは、子どもにとって一大事だ。
俺の親は子どもにほとんど構えないほど忙しくしていたが、俺がまだミディぐらいのときに、一人でふらふらした挙げ句、夜遅く家に戻ったときは、さすがにものすごく怒られた。
腹が減っている上に、両親が怖くてさすがの俺も涙目になったものだ。
「私達は子どもの頃は親に嘘がつけないの。なにしろ筒抜けだから」
「精神共有だっけ?」
「うん」
「大人になったら精神共有してても嘘がつけるのか?」
「正確には自分の気持ちの隠し方を覚える、って感じ。嘘はつけないけど本当のことを言わない方法はあるの」
「なるほどな」
人間はどこまで行っても人間だな。
お互いに何もかもあけすけにするのを嫌い、自分だけの心のうちに秘めるものを大切にする。
精神を共有出来る森人ですら、そういう人間の本質は失っていないようだ。
「親に秘密を持つようになるのが大人への第一歩って訳か。それなら平野人も似たようなもんだ。見た目や能力が多少変わっても、人は人ってことだな」
俺がそう言うと、メルリルはふわりと笑う。
「そうだね。おんなじ」
そうして俺の肩に体を寄せて来た。
間に挟まれているミディはちょっと驚いたようだったが、すぐににっこりと笑う。
『メルリルとダスターは仲良しだね! 婚姻の契を結んでいるの?』
『残念ながらまだなの。精霊のいたずらを待つしかないのかも』
『俺に聞こえるところでそういう話をするな』
俺は軽く咳払いをした。
『あー。ちゃんと考えているから』
俺がそう言った途端、メルリルの顔が真っ赤になる。
『いいなー二人のお祝いを僕も見たいよ。でもきっとしばらくは家の外に出してもらえないと思う』
ミディがため息を吐きつつそう言った。
「むう。俺にも聞こえてるからな! 絶対二人の結婚式には出席させてもらう!」
「いや、お前は来るな!」
馬車のなかから聞いていた勇者が、気の早い出席予約を入れて来たが、俺は即座に断る。
庶民の祝い事に勇者が出席するとか、とんだ罰ゲームだ。
「行く!」
「あ、あの、わたくしも、出来れば、あの……」
「なんだ、ミュリア、遠慮することないよ。さんざん世話してやったんだから祝い事に招かないなんてあり得ない。ぐらいに開き直ってればいいんだ」
「え? そんな……でも、出席します、ね」
勇者の宣言に乗っかるように、聖女も自己主張を始めた。
遠慮がちだった聖女だが、モンクが強気で聖女の主張を後押しする。
くっ、それを言われるとちょっと苦しいな。
俺は俺一人でさまざまな問題を解決して来た訳じゃない。
ここ数年ずっと一緒だった勇者達に世話になっていないとは口が裂けても言えないだろう。
だが、そういう問題じゃないんだよ!
「ダスター殿、ご安心ください。勇者一行らしさを隠し、平素な装いで参加すれば、大きな騒ぎにはなりますまい」
聖騎士がそんな折衷案を出して来る。
「……とりあえず、考えておく」
俺としては言葉を濁すのが精一杯だった。
なんとか断るいい方法はないのか? うーん、長屋の連中に言ったら逆にノリノリになって大騒ぎにしそうだし、頭の痛い話だ。
そんな俺の苦悩も知らず、ミディにもてあそばれるのを避け、俺の頭の上で優雅に昼寝をしていたフォルテが、ふわぁとあくびをしたのだった。
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