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第八章 真なる聖剣

983 みんなは怒っています

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 人さらいは平野人の間でも重い罪であること、平野の民は森人と争いを望んでいないこと、をミディに噛み砕いて説明していたのだが、途中で聖騎士からストップがかかった。
 茶もすっかり冷めているし、思ったよりも時間が経っていたようだ。
 何よりも、ミディがあくびを噛み殺している。

『今日は遅いからもう寝るがいい。ここの寝室を使っていいぞ。明日になったら家まで送ろう』
『ありがとうございます。慈悲深き者に夜の安らぎが訪れんことを……むにゅ』

 目をシバシバさせながらも森人らしい礼を言うミディをメルリルに寝室に連れて行ってもらい、俺達は今後の話し合いだ。

「わからない言葉でずっと話していて悪かった。何があったのか説明するぞ」
「俺はだいたいわかったぞ!」

 俺が説明しようとすると、勇者が話を理解したと主張するので、説明を任せてみた。
 何か間違っていた場合だけ訂正しよう。

「つまりあの子どもは、腐れ外道共のしかけた罠で捕まえられて、獣同然にさらわれて来た、ということだろ?」

 うーむ、間違ってはいないんだが、悪意によってやや偏った見方になっているようだ。

「大筋は合っているが、そもそもはミディの好奇心が発端だったようだ。冒険者が魔物用に仕掛けた罠にうっかり引っかかってしまったんだな。まぁ普通ならそれならそれで、最低でも、間違って罠にかかった相手を手当てしてやり、開放するのが当然なんだが、タチの悪い冒険者だったようで。さらって身ぐるみ剥いで、どこぞに売り飛ばすつもりだったようだ」
「最悪。子どもをさらう奴なんてみんな死ねばいいのに」

 最初からかなり怒っていたモンクが、完全に怒り心頭という感じになっている。
 幼い子どもを狙った誘拐は、実は平野人の間でも多発していて、両親共に仕事で忙しい平民の親は常に我が子の無事を祈っている状態だ。
 そういう意味でも、親が忙しい間、幼い子どもを預かってくれる教会はとてもありがたい場所となっている。
 身ぐるみを剥ぐのは、着衣を売り払う目的というよりも、身元をわからなくするための手段の一つなのだ。
 誘拐犯の常套手段なので、あいつらは子どもの誘拐の常習犯の可能性がある。
 命の危険が常にある魔物退治よりも、子どもをさらって売るほうが安全に大金を稼げるからな。

 罠で魔物を狩ることもしているようだが、罠にかかる魔物は中型以下のあまり賢くない種類なので、それほどもうからないはずだ。
 下手すると、誘拐のカモフラージュの可能性もあった。

「俺は人間を斬る剣を持たないが、人間の皮を被った化け物なら斬っても別にいいだろ?」

 勇者までがそんなことを言う。

「待て待て、お前らが率先して国法を破ってどうするんだ。あの子を家に送ったら、地元ギルドの取りまとめに話をしに行こう。いいか、誘拐犯を見つけても、いきなりぶっ殺したりするなよ?」
「殴って気絶させるぐらいはいいだろ?」

 釘を刺した俺に、勇者がごねる。
 どんだけ殴りたいんだ?

「ちゃんと加減をするなら、な」
「じゃあ、私も殴る!」
「お前はダメだ!」

 勇者に限定的に許可を出すと、モンクまで便乗しようとしたので止める。
 素手の攻撃力の高さは、モンクのほうが上なのだ。
 勇者は放出系の魔力操作を得意とするが、モンクは俺と同じく体内循環系で、つまりは身体強化に優れているということになる。
 冗談でもなんでもなく、素手で岩を砕く。
 そんなモンクに殴られた相手が無事であるはずがない。

「えー! ちゃんと手加減するから! 生きてればいいんでしょ?」
「……ダメだから」

 俺の勘がささやいている。
 モンクに暴力の許可を出してはならない、と。

「捕縛術は私も得意とするところです。ぜひ披露させてください」

 聖騎士までもそんなことを言い出した。
 ……まぁ捕縛ならいいけどな。
 あくまでも捕まえるだけだよな? 騎士の捕縛ってどんなだか知らないんだが、大丈夫だよな?

 後の話だが、騎士の捕縛とは、相手の手足を叩き折って自由を奪った上で拘束する方法である、ということを知って、俺は戦慄したのであった。
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