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第八章 真なる聖剣
950 英雄は、かく語れリ
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こういう話は早いほうがいい。
しきりに休めとせっついて来るメルリルや聖女をなんとか説得して、ロスト辺境伯にお目通りをお願いした。
先に城に戻っていた一部の兵士や騎士達が慌ただしく準備をしているなかで、申し訳なかったが、俺達の姿を見ると、目上の相手に対する礼をしてみせて、喜んで伝言を受けてくれる。
どうも、今回の件では、城の平民出の兵士達がかなりやきもきしていて、勇者達の活躍を聞いて大喜びしていたらしい。
騎士達もそれに感化されたようだ。
普通の貴族の城と違い、ロスト辺境伯の城の場合、騎士と一般兵の距離が近い。
共に戦ったり、鍛錬したりしているようなので、仲間意識が強いのだろう。
さして待つことなく、ロスト辺境伯がやって来た。
ちょっと合わない間に顔色が悪くなったような気がするロスト辺境伯は、聖女の姿を見つけると、強張っていた顔が緩む。
心配していたんだろうな。
「それで、私に話とは?」
俺は失礼にならないように膝を突き、頭を下げたまま返事をする。
「はい。俺は勇者さまの従者のダスターと申します」
「おお、聞き及んでおるぞ。なんでも魔物の群れを率いていたボスを一人で倒されたとか。さすがは勇者殿のお師匠殿だ」
ちょっと待て! なんで俺が勇者の師匠だとバレてるんだよ!
ちらっと勇者と聖女に目を向けた。
勇者はうれしそうにうんうん首を縦に振りまくっていて、聖女は祈りの形に手を胸の前で組んだまま深くうなずいている。
うーん、判断が難しいが、この二人から漏れたんじゃないような気がするぞ。
ということはあの吟遊詩人か。
おのれ、覚えてろよ。
「英雄がそのようにひざまずいてはいけない。お立ちくだされ」
この城の主であるロスト辺境伯にそう言われてしまえば、いつまでもひざまずいている訳にはいかない。
俺は渋々立ち上がった。
ちょっとふらっとするのを頑張って踏みとどまる。
「いえ、俺はただの冒険者で、今は勇者さまの従者としてお仕えする身でしかありません。魔物のボスを倒せたのは、群れの大半を勇者さまや領民の方々が引きつけていてくれたからです」
事実だ。
実際群れがあのボスの元で統率された状態で戦いになっていたら、とても俺一人じゃどうにもならなかっただろう。
下手すると、勇者パーティ全員で行っても、俺達のほうが分断された可能性がある。
こういう言い方はあまりよくないが、最初から獲物として狙っていた領民達のほうに意識の大半が向いていたおかげで、なんとか分断出来たのだ。
言うなれば、運がよかった。
あと、これはずっと後になってわかった話だが、森との境界の亀裂の底にかなりの大きさの大角の遺体が横たわっていたそうだ。
何かの動物に既に死体の大半は食い荒らされていたとのことだが、もしかすると、あの群れはその大角を追い立てて来ていて、その獲物が崖から落ちてしまったのかもしれない。
獲物を失って空腹となっている群れがちょうど、木樵の奥さんを発見する。
そういう、お互いにとって最悪の連鎖が起こったのかもしれない。
まぁあくまでも俺の勝手な推察だけどな。
まぁそれはともかく、ロスト辺境伯に目通りしているときにはそんなこと知りようもなかったので、このときの俺としては、ただ単に運がよかったという認識だった。
「なんという謙虚な言葉だ。これほどの功をを誇るでなく、ほかの者の手柄としようとするとは」
周囲の騎士までがなにやら感慨深気にうなずいている。
さっきより人が増えてる感じなのはどうしてだ?
俺は魔犬のボスと戦ったときよりも焦りを感じつつ、言葉を継いだ。
「実はその、ご領主さまに、お願いの儀がありまして」
「おお。なんでも申すがいい。私に出来ることなら叶えてさしあげよう」
うわっ、なんかロスト辺境伯がものすごく俺を持ち上げて来る。
今血が足りないんで、あまりものを考えさせないでほしい。
「今回、領民の方々が、多く魔物によって負傷され、日々の仕事もままならぬ状態になられたようです」
「む? そうであったか。幸いにも死者は出なかったと、聞き及んでいた。だが、命が助かっただけでも幸いとするべきであろうな。森へ入るときには皆、命懸けの覚悟を持っておるのだ。それでも、豊かな森の恵みが我らには必要でな……」
鎮痛な面持ちで、ロスト辺境伯はそう語る。
そうだよな、わかります。
必死で畑を耕しても、なかなか十分な収穫はないし、売るものがないから燃料なんかも自分達で調達するしかない。
森には食べ物も燃料も豊富にある。
命懸けでも、入るしかないのだ。
「俺も、開拓村の出身ですので、よくわかります」
「そうか。なるほどな。そのような方が勇者殿の師であることは喜ぶべきことだ。何しろ都の貴族共と来たら、『危険な森などに入るほうが悪いのだ』などと言いおって」
何かを思い出したのか、ロスト辺境伯はギリギリと歯を食いしばる。
ああうん。
貴族の大半は、魔物と戦うような連中は卑しい者達と思っているからな。
危険な魔物が暴れても、騎士団を出したりしねえ。
ただ、いい素材が手に入る獲物だった場合だけ、しゃしゃり出て来るんだ。
まぁさすがに地上がダンジョン化したときには慌てたようだが……。
俺は湖ダンジョンのときの騒ぎを思い出してため息を吐いた。
「お師匠殿も私の気苦労を思ってくださるか……」
俺のため息を何やら誤解して、ロスト辺境伯が感極まったようなことを言い出す。
いかん、誤解が深まる前にさっさと話を進めよう。
しきりに休めとせっついて来るメルリルや聖女をなんとか説得して、ロスト辺境伯にお目通りをお願いした。
先に城に戻っていた一部の兵士や騎士達が慌ただしく準備をしているなかで、申し訳なかったが、俺達の姿を見ると、目上の相手に対する礼をしてみせて、喜んで伝言を受けてくれる。
どうも、今回の件では、城の平民出の兵士達がかなりやきもきしていて、勇者達の活躍を聞いて大喜びしていたらしい。
騎士達もそれに感化されたようだ。
普通の貴族の城と違い、ロスト辺境伯の城の場合、騎士と一般兵の距離が近い。
共に戦ったり、鍛錬したりしているようなので、仲間意識が強いのだろう。
さして待つことなく、ロスト辺境伯がやって来た。
ちょっと合わない間に顔色が悪くなったような気がするロスト辺境伯は、聖女の姿を見つけると、強張っていた顔が緩む。
心配していたんだろうな。
「それで、私に話とは?」
俺は失礼にならないように膝を突き、頭を下げたまま返事をする。
「はい。俺は勇者さまの従者のダスターと申します」
「おお、聞き及んでおるぞ。なんでも魔物の群れを率いていたボスを一人で倒されたとか。さすがは勇者殿のお師匠殿だ」
ちょっと待て! なんで俺が勇者の師匠だとバレてるんだよ!
ちらっと勇者と聖女に目を向けた。
勇者はうれしそうにうんうん首を縦に振りまくっていて、聖女は祈りの形に手を胸の前で組んだまま深くうなずいている。
うーん、判断が難しいが、この二人から漏れたんじゃないような気がするぞ。
ということはあの吟遊詩人か。
おのれ、覚えてろよ。
「英雄がそのようにひざまずいてはいけない。お立ちくだされ」
この城の主であるロスト辺境伯にそう言われてしまえば、いつまでもひざまずいている訳にはいかない。
俺は渋々立ち上がった。
ちょっとふらっとするのを頑張って踏みとどまる。
「いえ、俺はただの冒険者で、今は勇者さまの従者としてお仕えする身でしかありません。魔物のボスを倒せたのは、群れの大半を勇者さまや領民の方々が引きつけていてくれたからです」
事実だ。
実際群れがあのボスの元で統率された状態で戦いになっていたら、とても俺一人じゃどうにもならなかっただろう。
下手すると、勇者パーティ全員で行っても、俺達のほうが分断された可能性がある。
こういう言い方はあまりよくないが、最初から獲物として狙っていた領民達のほうに意識の大半が向いていたおかげで、なんとか分断出来たのだ。
言うなれば、運がよかった。
あと、これはずっと後になってわかった話だが、森との境界の亀裂の底にかなりの大きさの大角の遺体が横たわっていたそうだ。
何かの動物に既に死体の大半は食い荒らされていたとのことだが、もしかすると、あの群れはその大角を追い立てて来ていて、その獲物が崖から落ちてしまったのかもしれない。
獲物を失って空腹となっている群れがちょうど、木樵の奥さんを発見する。
そういう、お互いにとって最悪の連鎖が起こったのかもしれない。
まぁあくまでも俺の勝手な推察だけどな。
まぁそれはともかく、ロスト辺境伯に目通りしているときにはそんなこと知りようもなかったので、このときの俺としては、ただ単に運がよかったという認識だった。
「なんという謙虚な言葉だ。これほどの功をを誇るでなく、ほかの者の手柄としようとするとは」
周囲の騎士までがなにやら感慨深気にうなずいている。
さっきより人が増えてる感じなのはどうしてだ?
俺は魔犬のボスと戦ったときよりも焦りを感じつつ、言葉を継いだ。
「実はその、ご領主さまに、お願いの儀がありまして」
「おお。なんでも申すがいい。私に出来ることなら叶えてさしあげよう」
うわっ、なんかロスト辺境伯がものすごく俺を持ち上げて来る。
今血が足りないんで、あまりものを考えさせないでほしい。
「今回、領民の方々が、多く魔物によって負傷され、日々の仕事もままならぬ状態になられたようです」
「む? そうであったか。幸いにも死者は出なかったと、聞き及んでいた。だが、命が助かっただけでも幸いとするべきであろうな。森へ入るときには皆、命懸けの覚悟を持っておるのだ。それでも、豊かな森の恵みが我らには必要でな……」
鎮痛な面持ちで、ロスト辺境伯はそう語る。
そうだよな、わかります。
必死で畑を耕しても、なかなか十分な収穫はないし、売るものがないから燃料なんかも自分達で調達するしかない。
森には食べ物も燃料も豊富にある。
命懸けでも、入るしかないのだ。
「俺も、開拓村の出身ですので、よくわかります」
「そうか。なるほどな。そのような方が勇者殿の師であることは喜ぶべきことだ。何しろ都の貴族共と来たら、『危険な森などに入るほうが悪いのだ』などと言いおって」
何かを思い出したのか、ロスト辺境伯はギリギリと歯を食いしばる。
ああうん。
貴族の大半は、魔物と戦うような連中は卑しい者達と思っているからな。
危険な魔物が暴れても、騎士団を出したりしねえ。
ただ、いい素材が手に入る獲物だった場合だけ、しゃしゃり出て来るんだ。
まぁさすがに地上がダンジョン化したときには慌てたようだが……。
俺は湖ダンジョンのときの騒ぎを思い出してため息を吐いた。
「お師匠殿も私の気苦労を思ってくださるか……」
俺のため息を何やら誤解して、ロスト辺境伯が感極まったようなことを言い出す。
いかん、誤解が深まる前にさっさと話を進めよう。
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