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第八章 真なる聖剣

949 欠けたものを補う

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 それほど間を置かずして、大勢の助っ人がやって来た。
 日頃木材を運搬している特殊な荷車を何台も引っ張って来て、木材ではなくケガ人を運搬して行く。
 俺もうっかりケガ人として運搬されそうになった。

「いや、歩けるから」
「しかし、その出血は……」
「もう聖女さまに治癒してもらったから。それよりも、ここの教会に整形師はいるか?」
「……いえ」
「そうだよな」

 整形師というのは、魔法と技術を併せ持つ、なかなかの技能職だ。
 こんな田舎の教会にいるはずもない。

「ん? あっ!」

 俺は一つ思いついて、聖女を探す。
 聖女は勇者達と共に、ケガ人に励ましの言葉を掛けて回っていた。
 治癒と浄化は終わっているので、気力を持たせるためだろう。
 完璧な治療と浄化を施しても、人というのは、心が折れるとたやすく死んでしまうことがあるからな。

「ミュリア!」
「あ! お師匠さま、そんなところにいた! 探していたのですよ!」

 最近聖女が強気だ。
 いや、わかってる。
 俺が心配を掛けすぎたのが悪い。

「師匠、すぐにこの荷車に乗ってくれ。俺が自ら押すから」
「馬鹿言うな、勇者が押す荷車に誰が乗れるってんだ。いいからお前はケガ人を励ましてろ」

 俺がそう答えると、勇者は問答無用とばかりに俺の胸ぐらを掴んで引っ張り始めた。

「ちょ、やめろって。それよりもミュリアに大事な話があるんだ」
「わたくしに?」
「勇者さま方、馬は私達が城まで走らせるので、全員で荷車にお乗りになればよろしいのでは? うちの連中も張り切ってますし」

 俺達が言い争いをしてると思ったのか、城から来たらしい騎士の一人がまぁまぁと宥めに掛かって、全員で荷車に乗るという折衷案を提示して来る。

「皆様お疲れでしょう? 木樵きこり集落の者達は皆様に何かお礼がしたくてしょうがないのです。一つ、助けると思って乗ってやってください」

 馬を回収されてしまうと、歩くか荷車に乗るかの二択となってしまう。
 まぁここで固辞する意味はないな。

「じゃあ、お言葉に甘えまして」

 それに、全員で乗るなら悪目立ちもしないだろうしな。
 そう思っていたら、俺たち用の荷車は、凄いことになっていた。
 木材運搬用の荷車は、吊り橋を渡りやすいようにかなり横幅が狭い作りとなっているのだが、そこにさらに集落からありったけを集めました、みたいな毛布が敷き詰めてあったのだ。
 俺たち六人がぎゅうぎゅう詰めになる形である。
 まぁ、かなり温かいけどな。

 しかもここいらでは貴重な牛に引かせるようだ。
 牛は集落では宝物のようなもので、年に何度かの祭と、王都へと荷物を運搬する際に使っているとのこと。
 結論を言うと、ものすごく目立った。

 まぁそれは諦めるしかないだろう。
 深夜のことだし、暗いから、顔とか容易に判別出来ないだろうしな。

「お師匠さま、それでわたくしにお話とは?」

 俺の隣の片方にミュリアが付いて、何やら複雑な魔法を使いつつ話しかけて来た。
 何をしているのかと聞いたら、獣の牙の毒などをチェックしていたようだ。
 フォルテと一体になったことで傷を消したのだが、治癒と浄化は軽く行っただけの状態でやったので、体の奥に血と共に入り込んでいるかもしれないと不安になったらしい。
 心配かけて申し訳ない。

「ああ。ほら、今回体が欠損した人が多かっただろ?」
「はい」

 途端に聖女が暗くなる。
 欠損もある程度なら聖女の力で癒せるらしいんだが、体のなかを通っているさまざまな繊維や管なんかを元通りにすることは難しいらしい。
 特に骨を失ったら、元通り整形するにはかなりの技術が必要となるので、下手に再生することは出来ないとのことだった。

 ちゃんとやるには時間を掛けて、食事も完全に管理した状態で治療するんだそうだ。
 それでも、本人に欠損によるショックが残っていると、成功しない場合が多いらしい。
 
「なんとか魔法で整形したものを、失った体の一部と思い込ませて治療を行えれば、本人もそれが自分の一部だと認めて、うまく行くこともあるのですよ?」
「専門的すぎて判断出来ないが、それってどの聖女や聖人も出来ることなのか?」
「え? いえ、その……出来る人も、います、よ? なかには私などよりも、もっと、素晴らしい手の持ち主もいらっしゃいますし……」

 聖女がもじもじし始めた。
 やっぱりそんな治療が出来るのは数人なんだな。
 切断された部分が存在しない欠損が治癒出来るなんて話、聞いたことないし。

「まぁ、その、治療が無理な部分についてなんだが、この領地には整形師はいないらしい」
「それはそうだろう。もしいたとしても、平民が支払える金額で治療してもらえはしないだろうし」

 勇者が身も蓋もないことを言う。
 まぁそうなんだけどな。
 望みがあるのと全くないのでは全然違うだろう?

「それで、考えたんだが。……アドミニス殿は義肢とか義足も作れるんじゃないか、と」
「あっ、そうですね。魔法治療の場合は高額になりますけど、義肢や義足なら、材料次第では庶民の方々でも購入出来る範囲に収まるかもしれませんし」
「今回、大量の魔物の毛皮とか牙とか骨が手に入ったじゃないか。それを犠牲者の治療のために使えばいいんじゃないか、と」

 聖女と、勇者が目を見開く。

「俺達の倒した分はもちろん構わないが、師匠はどっかで大物を倒したんだろ? それは師匠の、冒険者としての取り分じゃないか」
「今は勇者の従者だからな。ケガ人が大勢いるのに取り分を寄越せとか言えないだろうが」
「従者じゃなくて、俺の師匠だろ!」

 いや、そこにこだわるなよ……。
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