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第八章 真なる聖剣
944 魔犬との戦い 2
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俺は急いで魔犬達のボスを探す。
しかし姿が確認出来ない。
今木樵達を囲んでいる魔犬のなかにそれらしき姿はなかった。
群れのボスは、必ず全体が見渡せる場所で指示を出しているはずなのだ。
だが、今の勇者の攻撃に警戒して姿を隠したのかもしれない。
「今助ける!」
光球によって照らされた馬上から勇者が叫ぶ。
狩人を中心とした木樵の屈強な男達は背中合わせに固まって、魔犬の群れに背中を見せない工夫をしていた。
しかし既に半分ぐらいの者はケガを負っていて、陣形が崩れるのも時間の問題というところだったようだ。
そういう意味では、勇者の登場と宣言は、彼等に希望を与え、崩れそうになる体を奮い立たせた。
だが、勇者の馬に蹴られた魔犬がいた場所に、すかさず新しい魔犬が入り込み、馬の足を狙って噛みつこうとする。
馬は竿立ちになって前脚で応戦したが、がら空きになった脇腹に別の魔犬が噛みつき、ドウッとばかりに倒れてしまう。
「勇者!」
地面に投げ出されそうになった勇者をすかさず聖騎士が拾い上げ、自分の後ろに放り投げた。
「くそっ!」
落ちる勇者を狙った魔犬もいたが、間一髪牙を逃れたようだ。
魔犬達は、二、三頭ごとに組を作って役割分担をしているらしく、一頭が正面から、ほかの二頭が別々の角度で死角を突くように攻撃を仕掛けている。
しかも、森の暗がりをうまく使って、身を隠しつつ移動し、突然飛び出して動揺を誘い、その隙に別の魔犬が攻撃するという波状攻撃を行っていた。
まさに一糸乱れぬ連携である。
「メルリル、ボスの場所はわからないか?」
「ごめんなさい。精霊にとっては魔犬達には異物感があまりないので区別が難しいの。森の一部と認識している。どちらかというと人間を判別するほうが楽」
「なるほど。森からすれば俺達のほうが異物か。そりゃあ間違いない」
俺は暗視に集中させていた視界を、魔力を見るために切り替えた。
どうせ勇者の光球や、領民達の持ってきた松明などがある。
まぁ松明は大半が消えているが。
聖騎士と勇者組は、魔犬が領民達へ攻撃するのを防ぐため、陽動に徹している。
とは言え、魔犬を斬ろうとすると、木々の下生えの奥へとするりと入り込まれ、予期せぬ場所から別の個体が襲って来るということを繰り返されて、一頭一頭に集中出来ないでいるようだ。
とにかく木樵達を安全圏に避難させないと、こっちも下手な攻撃は出来ないため、膠着状態に近い。
「ガルッ! ガウウウッ!」
地を這うような低い唸り声が響き、魔犬達の動きが変わった。
勇者達に五頭ぐらいが集中して当たり、領民達には三頭程が襲いかかる。
しかも負傷している者を優先的に狙っているので、まだ戦えるものが負傷者を庇おうとして、その隙に襲われるという悪いパターンに入っているようだ。
「くそっ! 仕方ない。俺達は領地の人達のカバーに入ろう」
「待って」
俺が動こうとすると、モンクに止められた。
「私が行く。ダスターには何か考えがあるんでしょ? そっちに専念して」
言うなり、大きめの木を駆け昇り、枝から枝へと飛び移って、領民達が戦っている上空に達すると、体を斜めに倒しつつひねりを入れ、落ちる勢いを加味した蹴りを、領民達のなかで一番体格の大きい男に、今まさに噛みつかんとしていた魔犬の一頭に向けて打ち下ろす。
「ギャウンッ!」
魔犬は、見事蹴り倒されて、ゴロゴロと地面を転がった。
その様子を横目で見つつ、俺は移動を開始する。
目指すは先程の唸り声の聞こえて来た方向だ。
「ありがたい。今のうちにボスを探すぞ」
「うん」
俺は思いっきり目を凝らし、魔力の集まる場所を探す。
すると、少し高い位置の木陰に、飛び抜けて大きな個体を発見した。
周囲に更に五匹程の護衛を従えているようだ。
かなり大きいと思われるのだが、ぺったりと何かに伏せていて、体高がはっきりしない。
なかなか発見出来なかったのは、気配を消し、身を潜めていたせいか。
「見つけた。行って来る」
「気をつけて。タイミングを計って、大きな魔犬を拘束するね」
「助かる……フォルテ。ここだと上空から見通すのは無理だ。魔犬共の視界を遮って、攻撃の邪魔をしてくれ」
「ピャ」
メルリルが頼もしく自分のやるべきことを提案してくれたのと対象的に、眠そうにあくびをしていたフォルテだが、言われて渋々といった感じに飛び立った。
それでも羽音を全く立てないのはさすがだ。
鍛錬がちゃんと身についていたんだな。
俺はそれこそ四足の獣のように地面を這うほどの低さに身を屈めて森を移動する。
獣の臭いと、濃厚な魔力の放出。
用心深く近づいて、やっと相手の状況がわかった。
いくつか重なり合うように固まっている大岩の上にぴったりと身を伏せている。
その周りでは、ボス程ではないが、ほかの魔犬よりも一回り大きい魔犬が耳をピンと立てて周囲を窺っていた。
しきりに臭いも嗅いでいるようだ。
つばを指につけて風向きを確認しつつ風下からゆっくりと接近を続ける。
ふいに、周囲の護衛ではなく、ボスがピクリと動き、ギロリとこっちに視線を向けた。
気づかれたか!
その瞬間、俺は魔力を足に集め、地面を蹴って一気にボスに肉薄した。
とりあえず護衛は無視だ。
このボスはヤバい。
「ガルッ!」
なんと、ボスは伏せた状態からそのままジャンプした。
とんでもない身体能力だ。
魔犬のボスの全身の毛が逆立ち、魔力で輝き始める。
「ちっ!」
断絶の剣で狙いを定める間がない。
俺はそのまま、ドラゴンの爪で作られた星降りの剣を振るった。
ヒュンという音と共に、今までボスが伏せていた岩がパカリと割れ、護衛の魔犬のうち二頭が岩と共に切断される。
しかしボスは空中で身を捻って剣の軌道を避けて着地。
すかさず今度は低い体勢から恐ろしいスピードで迫って来る。
メルリルがやっているのか、木の枝や蔦のようなものがボスに向けて伸びるものの、全く追いついていない。
「くそっ!」
俺はゴロゴロと地面を三回程転がってなんとかその突進を躱した。
いや……。
「チィッ!」
突進の勢いを無理やり横方向に変えて、横っ飛びで俺のほうへと跳んだボスの牙が迫る。
くそっ、でかい癖に動きが目で追えない。
俺は肩に熱さを感じ、自分の血の臭いを嗅ぐ羽目になった。
しかし姿が確認出来ない。
今木樵達を囲んでいる魔犬のなかにそれらしき姿はなかった。
群れのボスは、必ず全体が見渡せる場所で指示を出しているはずなのだ。
だが、今の勇者の攻撃に警戒して姿を隠したのかもしれない。
「今助ける!」
光球によって照らされた馬上から勇者が叫ぶ。
狩人を中心とした木樵の屈強な男達は背中合わせに固まって、魔犬の群れに背中を見せない工夫をしていた。
しかし既に半分ぐらいの者はケガを負っていて、陣形が崩れるのも時間の問題というところだったようだ。
そういう意味では、勇者の登場と宣言は、彼等に希望を与え、崩れそうになる体を奮い立たせた。
だが、勇者の馬に蹴られた魔犬がいた場所に、すかさず新しい魔犬が入り込み、馬の足を狙って噛みつこうとする。
馬は竿立ちになって前脚で応戦したが、がら空きになった脇腹に別の魔犬が噛みつき、ドウッとばかりに倒れてしまう。
「勇者!」
地面に投げ出されそうになった勇者をすかさず聖騎士が拾い上げ、自分の後ろに放り投げた。
「くそっ!」
落ちる勇者を狙った魔犬もいたが、間一髪牙を逃れたようだ。
魔犬達は、二、三頭ごとに組を作って役割分担をしているらしく、一頭が正面から、ほかの二頭が別々の角度で死角を突くように攻撃を仕掛けている。
しかも、森の暗がりをうまく使って、身を隠しつつ移動し、突然飛び出して動揺を誘い、その隙に別の魔犬が攻撃するという波状攻撃を行っていた。
まさに一糸乱れぬ連携である。
「メルリル、ボスの場所はわからないか?」
「ごめんなさい。精霊にとっては魔犬達には異物感があまりないので区別が難しいの。森の一部と認識している。どちらかというと人間を判別するほうが楽」
「なるほど。森からすれば俺達のほうが異物か。そりゃあ間違いない」
俺は暗視に集中させていた視界を、魔力を見るために切り替えた。
どうせ勇者の光球や、領民達の持ってきた松明などがある。
まぁ松明は大半が消えているが。
聖騎士と勇者組は、魔犬が領民達へ攻撃するのを防ぐため、陽動に徹している。
とは言え、魔犬を斬ろうとすると、木々の下生えの奥へとするりと入り込まれ、予期せぬ場所から別の個体が襲って来るということを繰り返されて、一頭一頭に集中出来ないでいるようだ。
とにかく木樵達を安全圏に避難させないと、こっちも下手な攻撃は出来ないため、膠着状態に近い。
「ガルッ! ガウウウッ!」
地を這うような低い唸り声が響き、魔犬達の動きが変わった。
勇者達に五頭ぐらいが集中して当たり、領民達には三頭程が襲いかかる。
しかも負傷している者を優先的に狙っているので、まだ戦えるものが負傷者を庇おうとして、その隙に襲われるという悪いパターンに入っているようだ。
「くそっ! 仕方ない。俺達は領地の人達のカバーに入ろう」
「待って」
俺が動こうとすると、モンクに止められた。
「私が行く。ダスターには何か考えがあるんでしょ? そっちに専念して」
言うなり、大きめの木を駆け昇り、枝から枝へと飛び移って、領民達が戦っている上空に達すると、体を斜めに倒しつつひねりを入れ、落ちる勢いを加味した蹴りを、領民達のなかで一番体格の大きい男に、今まさに噛みつかんとしていた魔犬の一頭に向けて打ち下ろす。
「ギャウンッ!」
魔犬は、見事蹴り倒されて、ゴロゴロと地面を転がった。
その様子を横目で見つつ、俺は移動を開始する。
目指すは先程の唸り声の聞こえて来た方向だ。
「ありがたい。今のうちにボスを探すぞ」
「うん」
俺は思いっきり目を凝らし、魔力の集まる場所を探す。
すると、少し高い位置の木陰に、飛び抜けて大きな個体を発見した。
周囲に更に五匹程の護衛を従えているようだ。
かなり大きいと思われるのだが、ぺったりと何かに伏せていて、体高がはっきりしない。
なかなか発見出来なかったのは、気配を消し、身を潜めていたせいか。
「見つけた。行って来る」
「気をつけて。タイミングを計って、大きな魔犬を拘束するね」
「助かる……フォルテ。ここだと上空から見通すのは無理だ。魔犬共の視界を遮って、攻撃の邪魔をしてくれ」
「ピャ」
メルリルが頼もしく自分のやるべきことを提案してくれたのと対象的に、眠そうにあくびをしていたフォルテだが、言われて渋々といった感じに飛び立った。
それでも羽音を全く立てないのはさすがだ。
鍛錬がちゃんと身についていたんだな。
俺はそれこそ四足の獣のように地面を這うほどの低さに身を屈めて森を移動する。
獣の臭いと、濃厚な魔力の放出。
用心深く近づいて、やっと相手の状況がわかった。
いくつか重なり合うように固まっている大岩の上にぴったりと身を伏せている。
その周りでは、ボス程ではないが、ほかの魔犬よりも一回り大きい魔犬が耳をピンと立てて周囲を窺っていた。
しきりに臭いも嗅いでいるようだ。
つばを指につけて風向きを確認しつつ風下からゆっくりと接近を続ける。
ふいに、周囲の護衛ではなく、ボスがピクリと動き、ギロリとこっちに視線を向けた。
気づかれたか!
その瞬間、俺は魔力を足に集め、地面を蹴って一気にボスに肉薄した。
とりあえず護衛は無視だ。
このボスはヤバい。
「ガルッ!」
なんと、ボスは伏せた状態からそのままジャンプした。
とんでもない身体能力だ。
魔犬のボスの全身の毛が逆立ち、魔力で輝き始める。
「ちっ!」
断絶の剣で狙いを定める間がない。
俺はそのまま、ドラゴンの爪で作られた星降りの剣を振るった。
ヒュンという音と共に、今までボスが伏せていた岩がパカリと割れ、護衛の魔犬のうち二頭が岩と共に切断される。
しかしボスは空中で身を捻って剣の軌道を避けて着地。
すかさず今度は低い体勢から恐ろしいスピードで迫って来る。
メルリルがやっているのか、木の枝や蔦のようなものがボスに向けて伸びるものの、全く追いついていない。
「くそっ!」
俺はゴロゴロと地面を三回程転がってなんとかその突進を躱した。
いや……。
「チィッ!」
突進の勢いを無理やり横方向に変えて、横っ飛びで俺のほうへと跳んだボスの牙が迫る。
くそっ、でかい癖に動きが目で追えない。
俺は肩に熱さを感じ、自分の血の臭いを嗅ぐ羽目になった。
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