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第八章 真なる聖剣
939 常識と非常識
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「前のときより、マシになってた」
勇者が吐き捨てるように言う。
「確かに前よりはちゃんとコントロール出来ていたな」
俺はうなずいた。
二回目にして、さっそくコツを掴んだということだろう。
「違う。俺じゃない」
勇者はぶすっとしたまま言い募る。
「柄だ。何か工夫がしてあったはずだ。魔力の吸い込みがマシになっていた。最初握ったときにギザギザとした突起があって痛みを感じたように思ったが、握り込むと、むしろその極端にゴツゴツとした感じが握りやすさとなった」
あ、そうかコイツ褒めてるのか。
なるほど、アドミニス殿の仕事を褒めるしかないから、あんな悔しそうなんだな。
しかし苦手な相手もちゃんと認められるのは偉いぞ。
「そうか、それはアドミニス殿にお礼を言わないとな」
だが、俺がそう促すと、口をつぐんでしまった。
礼は言いたくないらしい。
「そこに気づくとは、さすがは勇者殿だ。先の柄は文様と手の形がうまく連動していなかったので、勇者殿の握り込み時の手の形に合わせて、柄の形と文様を勇者殿と接続しやすく配置し直したのだ」
「それでこないだ粘土を握らせたのか。無意味なことをさせると思ってあの一日腹立たしい気持ちで過ごしたが、無意味でなかったのならまぁよかった」
アドミニス殿はさすがだな。
勇者もきっちり認めているようだし、今回の聖剣作りで歩み寄ってくれるといいんだが。
「とりあえず金属柄の性質はだいたい把握したかな? それでは木柄に付け替えて来るので、しばし待たれよ」
「今日は僕がお茶を淹れたので、その、ダスターさんと比べないでくださいね。焼き菓子も、作ってみました」
柄の付け替えの間に、ルフがもてなしをしてくれるらしい。
「ルフはもうすっかりアドミニス殿の弟子として馴染んでいるな」
テキパキ働く姿を見ていると、微笑ましい気持ちになる。
俺の言葉に、ルフは真剣な顔で首を左右に振った。
「まだまだです。今は雑用係みたいなものですね。でも弟子入りして最初の仕事はどこでもそういう感じなので、ちゃんと頑張りますよ! 何より、お師匠さまの凄い技を直に見れるんですから、僕は果報者です」
アドミニス殿程の師匠について、自分には無理だと絶望するのではなく、その技術を学ぼうとする気概があるのだから、ルフはきっと大成するだろう。
「その意気だ。頑張れよ」
「はい!」
「お茶もお菓子も美味しいですよ。素朴な味で落ち着きます」
元気よく決意を表明したルフに向かって、聖女がお茶と焼き菓子を褒める。
お茶は、野生茶と呼ばれている、森で採れる香りのいい草木の葉をその土地ごとにブレンドしたものだ。
それを更に軽く炒って煮出している。
そして焼き菓子は、雑穀を挽いた粉に干しベリーを練り込んで焼いた、単純なものだった。
聖女の言う通り、どちらも素朴でホッとする味である。
「料理やお茶淹れなんかはほんの基礎しか教わっていなかったので、そっちも少し頑張ろうと思います」
「ハハ、アドミニス殿がそっち方面も凝り性だから、どっちも教わることになりそうだな」
「そうですね。お師匠さまは、素晴らしい思いつきでいろいろ作られるのですけど、一回限りでその後は全く作らなかったりするので、鍛冶も料理もレシピを残しておこうかな? とも思っているんです」
ルフがやや真剣な顔で言った。
あー、閃きタイプによくあることだよな。
自分が満足したらそれでいいという。
「それは素晴らしいぞ。俺は常々、人の持つ力のうち、何かを伝える力が一番大切だと思っている。記録を取ると言うことは、一瞬で消えてしまうようなものをルフの力で永遠に……は無理かもしれないが、後世に残すことが出来るということだ。きっと、未来の誰かがお前のおかげで救われるときが来るだろう」
「ダスターさん……」
なぜかルフが感動したように目を潤ませた。
「そんな風に言ってくださったのはダスターさんが初めてです。以前の修行先では、師匠の技を他人に知られるとか、些細なことを書き留める暇があったら自分の頭で覚えろとか、言われちゃってて。でも、人って忘れるじゃないですか。書き残すって大事だと、僕は思うんです」
「ルフの言う通りだ。書き残すことは大切だ。冒険者が遺跡を発掘するときも、壁なんかに描かれた絵や文字が大きな手がかりになったりするしな。そういうものがなければ、永遠にわからないまま終わるものだって多い」
「うむうむ、ダスター殿は本当にいいことを言う」
そんな話をしている最中に、アドミニス殿が戻って来て、ルフに温かいまなざしを向ける。
「少なくともわしは、お前のメモに助けられておるぞ。何しろ今までは、一度ものをどこかに置いたら、どこにやったかすぐにわからなくなっていたからな」
「お師匠さまはものに頓着なさらないから」
「ハハハ……」
二人のやり取りを見ていると、いい師弟関係を築けているのがわかった。
この調子なら、ルフはもう大丈夫だろう。
「もう柄を付け直して来たのか?」
勇者がアドミニス殿の手元を見て驚いたように言った。
その手には既に、聖剣の柄をすげ替えたものを携えて来ていたのだ。
俺達はお茶をまだ飲み終わっていないのだから、驚きの速さである。
勇者が驚くのも無理はない。
「言ったであろう。簡単に仮止めしているだけだ、と。もちろんこの柄も全力で振ってもすっぽ抜けたりしないから、安心するがいい」
ううむ、アドミニス殿は本当に非常識な御方だな。
勇者が吐き捨てるように言う。
「確かに前よりはちゃんとコントロール出来ていたな」
俺はうなずいた。
二回目にして、さっそくコツを掴んだということだろう。
「違う。俺じゃない」
勇者はぶすっとしたまま言い募る。
「柄だ。何か工夫がしてあったはずだ。魔力の吸い込みがマシになっていた。最初握ったときにギザギザとした突起があって痛みを感じたように思ったが、握り込むと、むしろその極端にゴツゴツとした感じが握りやすさとなった」
あ、そうかコイツ褒めてるのか。
なるほど、アドミニス殿の仕事を褒めるしかないから、あんな悔しそうなんだな。
しかし苦手な相手もちゃんと認められるのは偉いぞ。
「そうか、それはアドミニス殿にお礼を言わないとな」
だが、俺がそう促すと、口をつぐんでしまった。
礼は言いたくないらしい。
「そこに気づくとは、さすがは勇者殿だ。先の柄は文様と手の形がうまく連動していなかったので、勇者殿の握り込み時の手の形に合わせて、柄の形と文様を勇者殿と接続しやすく配置し直したのだ」
「それでこないだ粘土を握らせたのか。無意味なことをさせると思ってあの一日腹立たしい気持ちで過ごしたが、無意味でなかったのならまぁよかった」
アドミニス殿はさすがだな。
勇者もきっちり認めているようだし、今回の聖剣作りで歩み寄ってくれるといいんだが。
「とりあえず金属柄の性質はだいたい把握したかな? それでは木柄に付け替えて来るので、しばし待たれよ」
「今日は僕がお茶を淹れたので、その、ダスターさんと比べないでくださいね。焼き菓子も、作ってみました」
柄の付け替えの間に、ルフがもてなしをしてくれるらしい。
「ルフはもうすっかりアドミニス殿の弟子として馴染んでいるな」
テキパキ働く姿を見ていると、微笑ましい気持ちになる。
俺の言葉に、ルフは真剣な顔で首を左右に振った。
「まだまだです。今は雑用係みたいなものですね。でも弟子入りして最初の仕事はどこでもそういう感じなので、ちゃんと頑張りますよ! 何より、お師匠さまの凄い技を直に見れるんですから、僕は果報者です」
アドミニス殿程の師匠について、自分には無理だと絶望するのではなく、その技術を学ぼうとする気概があるのだから、ルフはきっと大成するだろう。
「その意気だ。頑張れよ」
「はい!」
「お茶もお菓子も美味しいですよ。素朴な味で落ち着きます」
元気よく決意を表明したルフに向かって、聖女がお茶と焼き菓子を褒める。
お茶は、野生茶と呼ばれている、森で採れる香りのいい草木の葉をその土地ごとにブレンドしたものだ。
それを更に軽く炒って煮出している。
そして焼き菓子は、雑穀を挽いた粉に干しベリーを練り込んで焼いた、単純なものだった。
聖女の言う通り、どちらも素朴でホッとする味である。
「料理やお茶淹れなんかはほんの基礎しか教わっていなかったので、そっちも少し頑張ろうと思います」
「ハハ、アドミニス殿がそっち方面も凝り性だから、どっちも教わることになりそうだな」
「そうですね。お師匠さまは、素晴らしい思いつきでいろいろ作られるのですけど、一回限りでその後は全く作らなかったりするので、鍛冶も料理もレシピを残しておこうかな? とも思っているんです」
ルフがやや真剣な顔で言った。
あー、閃きタイプによくあることだよな。
自分が満足したらそれでいいという。
「それは素晴らしいぞ。俺は常々、人の持つ力のうち、何かを伝える力が一番大切だと思っている。記録を取ると言うことは、一瞬で消えてしまうようなものをルフの力で永遠に……は無理かもしれないが、後世に残すことが出来るということだ。きっと、未来の誰かがお前のおかげで救われるときが来るだろう」
「ダスターさん……」
なぜかルフが感動したように目を潤ませた。
「そんな風に言ってくださったのはダスターさんが初めてです。以前の修行先では、師匠の技を他人に知られるとか、些細なことを書き留める暇があったら自分の頭で覚えろとか、言われちゃってて。でも、人って忘れるじゃないですか。書き残すって大事だと、僕は思うんです」
「ルフの言う通りだ。書き残すことは大切だ。冒険者が遺跡を発掘するときも、壁なんかに描かれた絵や文字が大きな手がかりになったりするしな。そういうものがなければ、永遠にわからないまま終わるものだって多い」
「うむうむ、ダスター殿は本当にいいことを言う」
そんな話をしている最中に、アドミニス殿が戻って来て、ルフに温かいまなざしを向ける。
「少なくともわしは、お前のメモに助けられておるぞ。何しろ今までは、一度ものをどこかに置いたら、どこにやったかすぐにわからなくなっていたからな」
「お師匠さまはものに頓着なさらないから」
「ハハハ……」
二人のやり取りを見ていると、いい師弟関係を築けているのがわかった。
この調子なら、ルフはもう大丈夫だろう。
「もう柄を付け直して来たのか?」
勇者がアドミニス殿の手元を見て驚いたように言った。
その手には既に、聖剣の柄をすげ替えたものを携えて来ていたのだ。
俺達はお茶をまだ飲み終わっていないのだから、驚きの速さである。
勇者が驚くのも無理はない。
「言ったであろう。簡単に仮止めしているだけだ、と。もちろんこの柄も全力で振ってもすっぽ抜けたりしないから、安心するがいい」
ううむ、アドミニス殿は本当に非常識な御方だな。
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