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第八章 真なる聖剣
929 かくて師弟は共に学びゆく
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最後に確認だけしておこう。
「ルフは、ここで修行したいか?」
「はい!」
ためらいのない元気なお返事だ。
若いっていいなぁ……。
はっ! いかん、ついおっさん臭いことを考えてしまった。
「そうか。……アドミニス殿、お互いに了承が取れたということで、ルフを弟子にしていただいてよろしい、ということですよね?」
「ああ。むしろ喜ばしいことだ。なぜか今までわしの弟子になろうという者は現れなかったからなぁ。うむ、これが時代の流れというものだろう」
なんだか重々しいことを言いつつ、アドミニス殿も嬉しそうだ。
ずっと一人でいたので、てっきり孤独が好きなのかと思ったが、よくよく考えてみればあのアグの産みの親なのである。
人懐っこいアグの性格を考えれば、そんな訳がなかった。
そっか、アドミニス殿も、弟子を迎えることが出来てよかったなぁ。
「本当にいいのか? そいつは昔魔王をやっていたんだぞ? 世界の敵だった男だ」
アドミニス殿に突っかかりたい年頃の勇者が、ルフに念押しする。
「世界の敵とは大げさだ。わしは単に、大森林を不可侵として、我が国に関わるなと主張しただけの話よ。神の盟約の使徒共は、何が何でも大森林を開拓すると抜かしおってな」
「ははぁ」
なるほど、千年前の事態の経緯が少し見えたぞ。
神の意思は、魔の攻略だ。
大森林はそれこそ魔の巣窟なので、神の盟約を授かった者達からすれば、一番に無くしたい場所だったに違いない。
結果として勇者が勝利して、大森林の開拓のために国を興した訳だが、千年経った今でも、大森林の開拓は半分も進んでいない状態となっている。
あまつさえ、新たな迷宮まで発生してしまい、ここから更に開拓は頓挫するだろう。
俺からしてみれば、森と人間は共存するべきなのではないか? と思うけどな。
今の状態を長い目で見ると、最終的には魔王さまの勝利なのかもしれないぞ。
「大森林の存在は、人の生活を脅かしている。それは事実だ」
勇者が断固とした口調で言った。
確かに、今でも森の魔物に襲われる人はそれなりにいるし、森の奥にあるドラゴンの営巣地は、潜在的な脅威となっている。
危険が常に隣にあるという状態は、人の心に不安を呼び起こすのは間違いない。
だが、恐ろしいからと、それを全て滅ぼしてしまえば、そこにある、貴重な恵みもまた失ってしまう。
魔物から奪われるものよりも、森から得られるもののほうが、現状では多いと言っていい。
闇雲に滅ぼしてしまえというのは、少々乱暴に思えるのは確かだ。
「ふむ。それは本音で言っているのかな? わしには、そうは思えないがな。勇者殿」
「くっ……事実だろうが」
「なるほど、一面を切り取ればそれは事実には違いない。しかし、そこまで視野の狭いお方ではあるまい」
「貴様の甘言など、俺の心には一切響かないぞ」
また始まった。
この二人の言い合いは、お互いに譲らないんで堂々巡りなんだよな。
しかも、アドミニス殿はそれを楽しんでいる節がある。
勇者よ、踊らされているぞ? 気づけ。
「お師匠さま。勇者さまをあまりからかわれてはいけません。聞けば、城から人が尋ねて来られるように、通路の安全を確認して来てくださったとか。ありがたい話ではないですか。お師匠さまの使い魔達は気まぐれで、なかなか欲しいものを探してくれませんし」
ルフが、さっそくお師匠であるアドミニス殿を諌める。
後半はちょっと愚痴が入っているな。
どうやらアドミニス殿の使い魔は自由意思を持っているっぽい。
千年近くも生きていれば、使い魔とて癖のある性格になっているだろうな。
勇者がちょっと驚いたようにルフを見て、ニヤリと笑った。
「なるほど。他人と接するなら弟子は大事にするべきだな」
アドミニス殿は、小さくため息を吐くと、肩を竦める。
「確かに、わしもそう思うよ。正直多少口うるさくはあるが、かつて、傍にいた者達も似たところがあった。どうやらわしに関わる人間には共通した特徴があるらしい」
それはおそらく、アドミニス殿が危なっかしい人だからなのではないだろうか?
俺はそう思ったが、口には出さなかった。
「そうだ。そのお客さまの話があった」
そう言って俺は勇者を見る。
勇者は口を尖らせて、「師匠が説明すればいいだろ」などと言う。
ちょっと拗ねているのか?
というか、アドミニス殿と真正面から話すのが嫌なのかもしれない。
本当に仕方ない奴だな。
「実は、ご城主さまから、この工房は、外から客を取るつもりがあるのかどうかを確認して欲しいと言われました。先日はいろいろゴタゴタしていて、そういう仕事の話には至りませんでしたからね」
「なるほど」
アドミニス殿は俺の話に、チラリとルフのほうを見る。
「正直、わし自身は特に鍛冶師としてこの先もやりたいという強い気持ちがある訳ではない。かと言って、ほかに何かやりたいことがあるのか? と言えば、それもない。ただ、弟子を取ったからには、たくさん経験を積ませてやりたいと思う」
「確かに、職人にとっては仕事に勝る修行はないと言いますね。わかりました。ご城主さまにそう伝えておきましょう。とは言え、客は厳選してもらったほうがいいでしょうね」
「ふむ。以前の城主のときには、城主の口利きがあった客だけを通されていたな。だが実際に剣を振るう者は少なくてのう。あまり楽しい仕事ではなかった」
「ああ。貴族の箔付け用の武器とかですか」
「うむ」
なるほど。
実戦用ではなく、ひたすら見た目を派手にする貴族用の武器には、専用の鍛冶師がいると聞いたことがある。
アドミニス殿はともかくとして、それはルフの修行には役に立たないだろうな。
役に立たないで済めばいいが、成長の妨げになるかもしれない。
「その辺も話しておきましょう。後日ちゃんと本人同士で詳しい取り決めをしたほうがいいでしょうね」
「あいわかった」
しかし、ルフが弟子になったことは、ルフ自身だけでなく、アドミニス殿にとってもよかったように思える。
あまりものごとに執着がなさそうだしな。
せっかく五感も戻ったんだから、これからいろいろな経験をするべきだと思うぞ。
世界は千年前とは変わっているはずなんだから。
「ルフは、ここで修行したいか?」
「はい!」
ためらいのない元気なお返事だ。
若いっていいなぁ……。
はっ! いかん、ついおっさん臭いことを考えてしまった。
「そうか。……アドミニス殿、お互いに了承が取れたということで、ルフを弟子にしていただいてよろしい、ということですよね?」
「ああ。むしろ喜ばしいことだ。なぜか今までわしの弟子になろうという者は現れなかったからなぁ。うむ、これが時代の流れというものだろう」
なんだか重々しいことを言いつつ、アドミニス殿も嬉しそうだ。
ずっと一人でいたので、てっきり孤独が好きなのかと思ったが、よくよく考えてみればあのアグの産みの親なのである。
人懐っこいアグの性格を考えれば、そんな訳がなかった。
そっか、アドミニス殿も、弟子を迎えることが出来てよかったなぁ。
「本当にいいのか? そいつは昔魔王をやっていたんだぞ? 世界の敵だった男だ」
アドミニス殿に突っかかりたい年頃の勇者が、ルフに念押しする。
「世界の敵とは大げさだ。わしは単に、大森林を不可侵として、我が国に関わるなと主張しただけの話よ。神の盟約の使徒共は、何が何でも大森林を開拓すると抜かしおってな」
「ははぁ」
なるほど、千年前の事態の経緯が少し見えたぞ。
神の意思は、魔の攻略だ。
大森林はそれこそ魔の巣窟なので、神の盟約を授かった者達からすれば、一番に無くしたい場所だったに違いない。
結果として勇者が勝利して、大森林の開拓のために国を興した訳だが、千年経った今でも、大森林の開拓は半分も進んでいない状態となっている。
あまつさえ、新たな迷宮まで発生してしまい、ここから更に開拓は頓挫するだろう。
俺からしてみれば、森と人間は共存するべきなのではないか? と思うけどな。
今の状態を長い目で見ると、最終的には魔王さまの勝利なのかもしれないぞ。
「大森林の存在は、人の生活を脅かしている。それは事実だ」
勇者が断固とした口調で言った。
確かに、今でも森の魔物に襲われる人はそれなりにいるし、森の奥にあるドラゴンの営巣地は、潜在的な脅威となっている。
危険が常に隣にあるという状態は、人の心に不安を呼び起こすのは間違いない。
だが、恐ろしいからと、それを全て滅ぼしてしまえば、そこにある、貴重な恵みもまた失ってしまう。
魔物から奪われるものよりも、森から得られるもののほうが、現状では多いと言っていい。
闇雲に滅ぼしてしまえというのは、少々乱暴に思えるのは確かだ。
「ふむ。それは本音で言っているのかな? わしには、そうは思えないがな。勇者殿」
「くっ……事実だろうが」
「なるほど、一面を切り取ればそれは事実には違いない。しかし、そこまで視野の狭いお方ではあるまい」
「貴様の甘言など、俺の心には一切響かないぞ」
また始まった。
この二人の言い合いは、お互いに譲らないんで堂々巡りなんだよな。
しかも、アドミニス殿はそれを楽しんでいる節がある。
勇者よ、踊らされているぞ? 気づけ。
「お師匠さま。勇者さまをあまりからかわれてはいけません。聞けば、城から人が尋ねて来られるように、通路の安全を確認して来てくださったとか。ありがたい話ではないですか。お師匠さまの使い魔達は気まぐれで、なかなか欲しいものを探してくれませんし」
ルフが、さっそくお師匠であるアドミニス殿を諌める。
後半はちょっと愚痴が入っているな。
どうやらアドミニス殿の使い魔は自由意思を持っているっぽい。
千年近くも生きていれば、使い魔とて癖のある性格になっているだろうな。
勇者がちょっと驚いたようにルフを見て、ニヤリと笑った。
「なるほど。他人と接するなら弟子は大事にするべきだな」
アドミニス殿は、小さくため息を吐くと、肩を竦める。
「確かに、わしもそう思うよ。正直多少口うるさくはあるが、かつて、傍にいた者達も似たところがあった。どうやらわしに関わる人間には共通した特徴があるらしい」
それはおそらく、アドミニス殿が危なっかしい人だからなのではないだろうか?
俺はそう思ったが、口には出さなかった。
「そうだ。そのお客さまの話があった」
そう言って俺は勇者を見る。
勇者は口を尖らせて、「師匠が説明すればいいだろ」などと言う。
ちょっと拗ねているのか?
というか、アドミニス殿と真正面から話すのが嫌なのかもしれない。
本当に仕方ない奴だな。
「実は、ご城主さまから、この工房は、外から客を取るつもりがあるのかどうかを確認して欲しいと言われました。先日はいろいろゴタゴタしていて、そういう仕事の話には至りませんでしたからね」
「なるほど」
アドミニス殿は俺の話に、チラリとルフのほうを見る。
「正直、わし自身は特に鍛冶師としてこの先もやりたいという強い気持ちがある訳ではない。かと言って、ほかに何かやりたいことがあるのか? と言えば、それもない。ただ、弟子を取ったからには、たくさん経験を積ませてやりたいと思う」
「確かに、職人にとっては仕事に勝る修行はないと言いますね。わかりました。ご城主さまにそう伝えておきましょう。とは言え、客は厳選してもらったほうがいいでしょうね」
「ふむ。以前の城主のときには、城主の口利きがあった客だけを通されていたな。だが実際に剣を振るう者は少なくてのう。あまり楽しい仕事ではなかった」
「ああ。貴族の箔付け用の武器とかですか」
「うむ」
なるほど。
実戦用ではなく、ひたすら見た目を派手にする貴族用の武器には、専用の鍛冶師がいると聞いたことがある。
アドミニス殿はともかくとして、それはルフの修行には役に立たないだろうな。
役に立たないで済めばいいが、成長の妨げになるかもしれない。
「その辺も話しておきましょう。後日ちゃんと本人同士で詳しい取り決めをしたほうがいいでしょうね」
「あいわかった」
しかし、ルフが弟子になったことは、ルフ自身だけでなく、アドミニス殿にとってもよかったように思える。
あまりものごとに執着がなさそうだしな。
せっかく五感も戻ったんだから、これからいろいろな経験をするべきだと思うぞ。
世界は千年前とは変わっているはずなんだから。
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