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第八章 真なる聖剣
926 訪問者のための扉
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「アルフ。今のは、満点の解答だった」
「え?」
ゼエゼエと、荒い息を吐きつつ、勇者は振り向く。
「免許皆伝だよ。俺が教えることはもう、何もない」
俺がそう言うと、勇者がギョッとしたような顔をして、すぐに泣きそうな表情となり、俺に縋り付いた。
「なんでだ! 何が悪かったんだ! 悪いところは直すから、俺を捨てないでくれ!」
「やめろ馬鹿! どこぞの愁嘆場みたいになっているぞ!」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった勇者を必死に引き剥がす。
しかし絶対に離れまいとする勇者の力がすさまじく、全くどかすことが出来なかった。
「感動的」
「これぞ師弟愛ですね」
「いやいや、あれって、アルフが駄々こねているだけだろ? 誰か止めてやったら?」
メルリルと聖騎士は思いっきり誤解しているし、モンクは面白そうにニヤニヤしているだけで、口では止めろと言っているが、何の行動も起こさない。
君達……。
「ピャウッ!」
すると、いきなりフォルテが俺と勇者の間に入って、ぶわっと羽根を広げた。
同時に、魔力を伴った光が広がり、俺と勇者を引き剥がす。
「よくやった、フォルテ。お前の好物の干しナツメをたらふく食わせてやるぞ」
「クルルルッ!」
俺の言葉に、フォルテが嬉しそうに飛び回っている。
眩しいからちょっと控えて欲しい。
「ガウ?」
そこへ若葉が顔を出し、漂っている光をパクパクと食べ始めた。
それって食えるんだ。へー。
「ししょう~」
「鬱陶しい! 褒めたのに何で泣くんだ。弟子がいつか独り立ちするのは当たり前だろうが! むしろ喜べ!」
「だって、俺、まだ全然足りてない! 今だって、ただ戦いに勝っただけだ! 師匠なら、あんな泥仕合にならなかったはずだ!」
「むう」
確かに、俺なら【断絶の剣】でサクッと終わらせることが出来た。
いや、それ以前に、戦うことを選ばなかっただろう。
だが、それでは、あの騎士鎧のなかにいた魂は、決して満足しなかったに違いない。
「いや、そうじゃない。お前だって気づいていたはずだ。だから勝負を受けたんだろう? あいつは、決して悪しき者じゃなかった。自分の思いに囚われて、その先へ進めなくなっていただけだ。お前と戦ったことで、満たされて、先へ進めた。俺ではそれは無理だった」
「……」
勇者は無言だった。
俺の言ったことは理解出来ているはずだ。
それなのに、それを受け入れることが出来ないでいる。
確かに、俺だって、師匠から独り立ちしろと言われたときには、哀しみと恐怖があった。
だが、それよりも大きな希望と夢もあったから、先へと進めたのだ。
もしかすると、勇者に足りないのは、そういった希望や夢なのかもしれない、と俺はふと思い至った。
だからわかりやすい目標としての俺を求めているのだ。
「わかった。一旦、免許皆伝は保留しておこう」
パッと勇者の顔が明るくなる。
世界にお前ぐらいだよ、師匠から免許皆伝を保留されて喜ぶ奴は。
「とりあえずは、アドミニス殿に事情を聞きに行こう。もう通路から工房までに、遮るものも無いようだし」
「ほ、ほんと? さっきの幽霊は消えたの?」
さっきまで俺と勇者を面白そうに眺めていたくせに、先へ進むとなると、急に弱気になるモンクである。
「テスタ、お前本当に幽霊が怖いのか? むしろ幽霊のほうがお前を怖がりそうなもんだが」
「ちょっとダスター、乙女に失礼じゃない? いくら私でも傷つくんですけど」
私でもと言っている辺り、自覚はあるようだ。
「幽霊って実体はないし、突然現れるし、言ってることがよくわからないし、もう本当に無理! サイアク!」
「今の鎧に入っていた奴はけっこう話が通じただろ?」
「ものがわかった奴なら、死んだときにちゃんと死んでるもんでしょ! ちゃんと死んでない奴ってキモい!」
身も蓋もない。
まぁモンクと幽霊は相性が悪いのは間違いないだろう。
人には理由もなく嫌いなものもあったりする。
理屈として成り立ってなくても、嫌いなものは嫌いなのだ。
俺達は残りの通路を黙々と進む。
道は緩やかな下り坂となっていて、少しカーブがかっている。
突き当りにはあのドラゴンの頸ではなく、一つの簡素な扉があった。
「普通の扉だ」
なんとなく、アドミニス殿の印象とそぐわない気がして、じっと見てしまう。
「こっちは来客用なんじゃないか? 一般人があのドラゴンの頭を見たら、腰を抜かせばまだいいほうで、下手するとショック死したりするかもしれないからな」
「なるほど」
勇者の説明がしっくりと来た。
そういう意図の元、作られた入口なのだろう。
「ううむ、少し緊張するな」
アグがふよふよしながら漂って来て、ピカピカと俺を励ました。
うん、いや、そこまでは緊張してないぞ?
ここまでの部屋にあった金属の扉と違い、しっとりとした色合いの重厚な木製扉だ。
扉の前には、少しおしゃれなノッカーが設置してあり、それを使って扉の反響板を叩くようになっている。
さっそく叩くと、カコン! カコン! と、心地いい音が響いた。
「おやおや、こんな辺鄙なところにお客さまとは珍しいな」
音もなく、すっと扉が開き、なかからフードを深く被った老人が姿を現す。
「誰だ!」
勇者が、折れた剣に手を掛けながら問いを発した。
「お師匠さま。悪ふざけは駄目ですよ」
奥からルフの元気のいい声が聞こえて来ると、老人はフードをすっと外す。
すると、その下からいつものアドミニス殿の姿が現れたのだった。
「幻を見せる魔道具か何かですか?」
驚いたことに、フードを被っている間、魔力の質さえ別人のように見せていたのだ。
俺もギョッとしたが、騙された勇者は怒り心頭に発しているようで、目が怖い。
そしてなんとスラリと剣を抜いた。
半ばで折れた魔剣が、赤く熱を纏っている。
「ふむ。先日調整したばかりで、もう折ってしまったのか? 仕方のない奴だな」
「貴様のせいだろうが!」
勇者は地団駄を踏んでお怒りだ。
「え?」
ゼエゼエと、荒い息を吐きつつ、勇者は振り向く。
「免許皆伝だよ。俺が教えることはもう、何もない」
俺がそう言うと、勇者がギョッとしたような顔をして、すぐに泣きそうな表情となり、俺に縋り付いた。
「なんでだ! 何が悪かったんだ! 悪いところは直すから、俺を捨てないでくれ!」
「やめろ馬鹿! どこぞの愁嘆場みたいになっているぞ!」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった勇者を必死に引き剥がす。
しかし絶対に離れまいとする勇者の力がすさまじく、全くどかすことが出来なかった。
「感動的」
「これぞ師弟愛ですね」
「いやいや、あれって、アルフが駄々こねているだけだろ? 誰か止めてやったら?」
メルリルと聖騎士は思いっきり誤解しているし、モンクは面白そうにニヤニヤしているだけで、口では止めろと言っているが、何の行動も起こさない。
君達……。
「ピャウッ!」
すると、いきなりフォルテが俺と勇者の間に入って、ぶわっと羽根を広げた。
同時に、魔力を伴った光が広がり、俺と勇者を引き剥がす。
「よくやった、フォルテ。お前の好物の干しナツメをたらふく食わせてやるぞ」
「クルルルッ!」
俺の言葉に、フォルテが嬉しそうに飛び回っている。
眩しいからちょっと控えて欲しい。
「ガウ?」
そこへ若葉が顔を出し、漂っている光をパクパクと食べ始めた。
それって食えるんだ。へー。
「ししょう~」
「鬱陶しい! 褒めたのに何で泣くんだ。弟子がいつか独り立ちするのは当たり前だろうが! むしろ喜べ!」
「だって、俺、まだ全然足りてない! 今だって、ただ戦いに勝っただけだ! 師匠なら、あんな泥仕合にならなかったはずだ!」
「むう」
確かに、俺なら【断絶の剣】でサクッと終わらせることが出来た。
いや、それ以前に、戦うことを選ばなかっただろう。
だが、それでは、あの騎士鎧のなかにいた魂は、決して満足しなかったに違いない。
「いや、そうじゃない。お前だって気づいていたはずだ。だから勝負を受けたんだろう? あいつは、決して悪しき者じゃなかった。自分の思いに囚われて、その先へ進めなくなっていただけだ。お前と戦ったことで、満たされて、先へ進めた。俺ではそれは無理だった」
「……」
勇者は無言だった。
俺の言ったことは理解出来ているはずだ。
それなのに、それを受け入れることが出来ないでいる。
確かに、俺だって、師匠から独り立ちしろと言われたときには、哀しみと恐怖があった。
だが、それよりも大きな希望と夢もあったから、先へと進めたのだ。
もしかすると、勇者に足りないのは、そういった希望や夢なのかもしれない、と俺はふと思い至った。
だからわかりやすい目標としての俺を求めているのだ。
「わかった。一旦、免許皆伝は保留しておこう」
パッと勇者の顔が明るくなる。
世界にお前ぐらいだよ、師匠から免許皆伝を保留されて喜ぶ奴は。
「とりあえずは、アドミニス殿に事情を聞きに行こう。もう通路から工房までに、遮るものも無いようだし」
「ほ、ほんと? さっきの幽霊は消えたの?」
さっきまで俺と勇者を面白そうに眺めていたくせに、先へ進むとなると、急に弱気になるモンクである。
「テスタ、お前本当に幽霊が怖いのか? むしろ幽霊のほうがお前を怖がりそうなもんだが」
「ちょっとダスター、乙女に失礼じゃない? いくら私でも傷つくんですけど」
私でもと言っている辺り、自覚はあるようだ。
「幽霊って実体はないし、突然現れるし、言ってることがよくわからないし、もう本当に無理! サイアク!」
「今の鎧に入っていた奴はけっこう話が通じただろ?」
「ものがわかった奴なら、死んだときにちゃんと死んでるもんでしょ! ちゃんと死んでない奴ってキモい!」
身も蓋もない。
まぁモンクと幽霊は相性が悪いのは間違いないだろう。
人には理由もなく嫌いなものもあったりする。
理屈として成り立ってなくても、嫌いなものは嫌いなのだ。
俺達は残りの通路を黙々と進む。
道は緩やかな下り坂となっていて、少しカーブがかっている。
突き当りにはあのドラゴンの頸ではなく、一つの簡素な扉があった。
「普通の扉だ」
なんとなく、アドミニス殿の印象とそぐわない気がして、じっと見てしまう。
「こっちは来客用なんじゃないか? 一般人があのドラゴンの頭を見たら、腰を抜かせばまだいいほうで、下手するとショック死したりするかもしれないからな」
「なるほど」
勇者の説明がしっくりと来た。
そういう意図の元、作られた入口なのだろう。
「ううむ、少し緊張するな」
アグがふよふよしながら漂って来て、ピカピカと俺を励ました。
うん、いや、そこまでは緊張してないぞ?
ここまでの部屋にあった金属の扉と違い、しっとりとした色合いの重厚な木製扉だ。
扉の前には、少しおしゃれなノッカーが設置してあり、それを使って扉の反響板を叩くようになっている。
さっそく叩くと、カコン! カコン! と、心地いい音が響いた。
「おやおや、こんな辺鄙なところにお客さまとは珍しいな」
音もなく、すっと扉が開き、なかからフードを深く被った老人が姿を現す。
「誰だ!」
勇者が、折れた剣に手を掛けながら問いを発した。
「お師匠さま。悪ふざけは駄目ですよ」
奥からルフの元気のいい声が聞こえて来ると、老人はフードをすっと外す。
すると、その下からいつものアドミニス殿の姿が現れたのだった。
「幻を見せる魔道具か何かですか?」
驚いたことに、フードを被っている間、魔力の質さえ別人のように見せていたのだ。
俺もギョッとしたが、騙された勇者は怒り心頭に発しているようで、目が怖い。
そしてなんとスラリと剣を抜いた。
半ばで折れた魔剣が、赤く熱を纏っている。
「ふむ。先日調整したばかりで、もう折ってしまったのか? 仕方のない奴だな」
「貴様のせいだろうが!」
勇者は地団駄を踏んでお怒りだ。
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