上 下
809 / 885
第八章 真なる聖剣

914 封鎖された地下通路の探索

しおりを挟む
 城の地下への入り口の壁が取り払われ、細かい仕上げを残してはいるものの、いちいち聖女の力を借りる必要なく、アドミニス殿の元へ行けるようになるようだ。
 半ば弟子入りのお試し期間中であるルフは、聖女に行き来を手伝ってもらうなど畏れ多いとのことで、ここ数日はずっと地下に泊まり込みであり、精神的な消耗が予想出来る。
 早く迎えに行ってやりたい。
 とは言え、この数日で耐えられないようなら、本格的な弟子入りなど出来ようはずもないので、ここは踏ん張りどころかもしれない。

 さて、このもともとの地下通路は、長年塞いでいたこともあり、確認が終わるまで使用禁止とされたが、俺達が安全確認をするということで使用許可をロスト辺境伯からもらった。
 
「くれぐれも無茶はしないように」

 と念を押されたが、聖女が同行するからだろう。
 万が一通路が崩れたとしても、聖女がいる限り大丈夫だとは言えない雰囲気である。

「ルフは元気でしょうか? 泣いていないといいのですが」

 いつの間にかルフに対してお姉さんのような気持ちになっていたらしい聖女を始めとするうちの女性陣が、ここ数日地下にこもりっきりとなってしまったルフを心配していた。
 本人は女性達の部屋に泊まるよりも、地下のほうが気楽ですみたいなことを言っていたが、わざわざ知らせる必要はない。
 十歳というと、そろそろ異性を意識し始める頃だからな。
 やっぱり辛いものがあったのだろう。

「うわぁ、ボロボロだな」

 正規の通路は、何十年も手入れされずに封鎖されていたので、もともと貼ってあった壁の装飾や、魔道具の灯りなどは、手を入れなければいけない状態になっていた。
 魔道具は銅か何かでで作られていたらしく、くすんだ緑にほぼ侵食されいて、刻まれた魔法陣が崩れている。
 これに手を入れるよりは全部取り替えたほうが早いだろう。
 アドミニス殿が喜んで作るかもしれない。

 あと、ずっと動かないでいた空気が淀んていて、メルリルが風を招き入れようとしたが、うまくいかないようだ。
 
「ここの風の精霊メイスはもう消え失せているみたい。もともと建物のなかはほとんど入れないみたいだったけど、ここは露骨に嫌がるの」
「ガスが溜まっているとマズいし、原始的だが松明を点けて確認しながら行くか?」
「わたくしが周囲を浄化しつつ進みましょうか?」

 メルリルの精霊メイスが駄目となると、昔ながらの方法で安全確認をしなければならない。
 そう思っていたが、聖女が力技の提案をして来た。
 乱暴だが確実な方法だ。

「結界と違って、ただ維持していればいいだけの魔法じゃないんだよな?」
「はい。一定範囲を浄化するだけの魔法なのでそれなりに範囲は広げられますけど、それでも五十歩に一度ぐらいは掛け直したほうがいいと思います」
「キツくはないか?」
「全然平気です。毎朝の走り込みのほうがキツいぐらいです」
「ははっ、体力は大事だから、朝の鍛錬は続けるんだぞ」
「はい!」

 聖女はユーモアを交えつつ、魔法の負担が軽いことをアピールした。
 まぁ実際、聖女の負担になる魔法の規模というものが想像出来ないからな。
 さすがにいくつか並列で魔法を使うと辛いらしいが、あれは、魔力量の話ではなくて、技術的な問題だ。
 というか、一度に複数の魔法を使える時点で、聖女はちょっとおかしい。
 ちなみに勇者は魔力による身体強化を使いながら魔法を放つことは出来るが、それは複数の魔法を使ううちには入らないからな。
 
 俺自身は魔法を使わないので、よくわからないが、勇者によると、魔法というのは、手を使わずにものを作るような感じということだ。
 つまり聖女は、同時に何種類かの違うものを作ることが出来るということになる。
 もはや想像の余地を超えているとしか思えない。

「淀みよ去れ、すがしき大気よ、湧き上がれ」

 聖女が唱えるたびにふわりと空気が動き、まるで広々とした平原にいるかのような清々しい空気が満ちる。

精霊メイスの元のようなものがキラキラ光ってる。魔法って不思議」
精霊メイスは、意思を持つ魔力だって言ってたもんな。ある意味、魔法は意思を乗せた魔力だ。少しは近いものがあるのかもしれない」
「ダスターはものの理解が深くて、凄い」

 メルリルに感心されてしまったが、贔屓の引き倒しだと思うぞ?
 そもそもそういう説明をしたのはメルリルなんだからな。

 というか、前に聞いたところ、聖女の魔法の大半が、オリジナル魔法なのだそうだ。
 びっくりだな。
 あと、聖女が開発した魔法は、ほかの普通の聖女や聖人には使えないっぽい。
 魔法には、魔力量と相性とコントロールが必要とのことで、聖女はその三つ全てが揃っている稀有な存在とのことだった。
 普段何気なく魔法を使ってもらっているが、よくよく考えてみれば凄い相手なのだ。

 そんな相手の師匠とか言われると、何の冗談だ? という気持ちになるのは当然のことだと思う。
 本当は勇者も同じなんだが、あいつはまだメンタル面の問題と、根気の無さという、俺にも指導出来る部分があったからな。
 その点、聖女は最初人見知りだったぐらいで、さしたる欠点がない。
 師など必要ないのだ。

 そんなことを考えつつ、周囲に意識を向けて進む。

「うーん。ミュリアの魔法のおかげで大事になってないが、だいぶ淀んでるな」
「大森林並の魔力濃度だな」

 俺の言葉に勇者がうなずく。
 魔力が見える人間なら、おそらくはっきりと気づくはずだ。
 奥へ進むほどに、ただ暗いだけではなく、魔力が淀んで魔物が生まれる土壌が出来上がっていることに。

「城のなかだっていうのに嫌な予感がするな。事前調査を俺達が引き受けてよかった」

 俺は、いつでも戦闘モードに意識を切り替えられるように精神を平常に保つ。
 さてさて、何が出るのかな?
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。