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第八章 真なる聖剣
869 語り継がれるべきこと
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「し、しかし、そんな魔法使いが、なぜ我が城に? そう言えば先代のお抱え鍛冶師がどうとうかと、おっしゃっていましたか?」
ロスト辺境伯は、お茶をぐいっと一気飲みすると、興奮したように矢継ぎ早に問いかけて来た。
俺は勇者に視線を向けるが、勇者は手で、俺に行けと指示する。
何が俺には無理だ、だ。
話す前から諦めるな!
「ご城主さま。卑しい身で、直接口を開くことをお許しいただけますか?」
仕方ないので、俺が直接話すこととなった。
聖女までペコペコ頭を下げるので仕方ない。
「もちろんだとも。勇者殿が、共に苦難を分かち合った仲間とおっしゃったのだ。その言葉を無視したりはしない。何よりも、貴殿は我が客である。客として迎えた相手を身分で侮るようなことはせぬ」
「ありがとうございます」
なるほど、ロスト辺境伯は身分差にあまりこだわりがない人物のようだ。
もちろん、身分の低い使用人と直接口を利いたりはしないだろうが、使用人達からの評判もよかったしな。
「俺は見ての通り、もともとは冒険者なので、いろいろな立場の方と仕事をしています。そのおかげで、物事をわかりやすく説明することには、それなりに自信があります」
「ほう。それはありがたい。どうも話の全体が私には見えなくてな」
ロスト辺境伯の立場からしてみればそうだよな。
この方からしてみれば、娘と過ごしたいだけの話なのに、勇者がくっついて来るわ、鍛冶師見習いの少年を紹介されるわ、地下を塞いだことについて責められているような状況で、嫌な思い出を語らざるを得なくなって、精神的な消耗も大きいだろう。
その上に地下に存在するのは呪いではなく、とんでもない魔法使いと来た。
訳がわからなくなるのは当然だ。
「俺達が、少し話を急ぎすぎたようです。ときの経過を無視してバラバラに話をまとめようとしてしまったので、なおさら話がわかり辛くなったのです。俺達が経験したことを、実際に起きた順番で説明させていただきます」
「うむ」
「一年半ほど前でしたか、俺達はこのお城に滞在させていただきました」
「あのときは、私も少し焦りがあって、対応がよくなかったと反省している。いろいろあったが、お互いに遺恨なく、今後はよろしくお願いしたい」
「ありがたいお言葉です。こちらこそ、少々急ぎであったために、せっかくの親子の時間を短くしてしまい、申し訳なく思っておりました」
「うむ。ご配慮痛み入る」
勇者や聖女がなんだかキラキラした目で俺を見ている。
いや、今の段階はお互いにいろいろあったけど、恨みっこなしにしましょうって話をしているだけだぞ?
アドミニス殿について何の説明もしていないからな?
「それで、改めまして、あのときに俺達に何が起こって、領外に出てしまったのか、ということをご説明いたします」
「よろしく頼む」
たかだか冒険者に丁寧に対応してくれて、いい人じゃないか。
やっぱり人とはある程度腹を割って話さないと、人柄なんかわからないものだよな。
「先程、ミュリアさま……お名前を呼ばせていただく栄誉を賜っておりますが、お嫌なら称号で呼ばせていただきますが?」
聖女と呼ばれるのが嫌かもしれないと思って、あえて名前で呼んでみた。
平民の所業ではないが、このぐらい寛容な人なら行けるんじゃないだろうか?
「うむ、もちろんだ。苦楽を共にした仲間であれば、ミュリアが助けられたことも多いのであろう? そのような相手と名で呼び合うのは当然だ」
聖女が可愛らしい笑顔でうなずいている。
あ、ロスト辺境伯がそんな聖女を微笑ましげに見ているぞ。
ほのぼのとした、いい光景だな。
「それでは、失礼してミュリアさまとお呼びします。先程ミュリアさまがおっしゃっていた、幼い頃に発見した地下への秘密の通路に、ミュリアさまは滞在中に俺達を導いてくださいました。そこでお会いしたのが、アドミニス・ファイナル・ロスト殿です」
「ま、待て! その名は、かつての魔王の名。この王国では、口に出すのは少々憚られる名であるぞ」
俺の説明に、ロスト辺境伯が慌てたように言う。
「その通りです。しかし、本人を前にして、その名を呼ばないというのは却って失礼でしょう。かつて魔王と呼ばれ、その後、この地の領主として封じられたアドミニス殿は、今もご存命なのです」
「……」
ロスト辺境伯はしばし無言になり、目をつむり額に手を当てた。
そしてハッとしたように目を開けると、俺に頭を下げる。
「すまない。少し、なんというか、動揺してしまって……」
「いえ、当然のことです。何しろ千年は昔の人物です。歴史上の偉人であり、世界を揺るがした……邪悪とも言われた方ですからね。まぁいきなりまだ生きてると言われても、信じられない話ですよね」
俺をじっと見つめていたロスト辺境伯だが、やがて、重い息を吐いた。
「本当の、こと、なのだな?」
「はい。それと、少々、愚考することもございまして」
「こうなったら遠慮などいらぬ。思ったことは全部言って欲しい」
「は。その、先代までは、あの方、アドミニス殿の存在を、この地の領主となる方はご存知であったのではないかと思うのです。それがなぜか今代の、ご城主さまには引き継がれていないのではないか、と」
俺が常々疑問に思っていたことを思い切って尋ねると、ロスト辺境伯はうなずいた。
「先代領主殿は、突然亡くなったのだ。幸いにも、次代の指名は成されていて、皆が既に納得済みであったから、引き継ぎは滞りなく行われたが、本来口伝のように語り継がれなければならないものに取りこぼしがあったやもしれないとは、思っていた。本来は、実子が継ぐものだから、親は子に幼い頃から必要なことは教えて行く。それが、私の代では途切れてしまったのだ」
なるほど。
ずっとおかしいとは思っていたんだ。
城の地下などという、領主の近くにアドミニス殿がいて、領主がそれを知らないということが起きるはずがない。
先代が早逝したことと、跡継ぎが実子ではなかったことで、引き継ぎがうまく行われなかったんだな。
ロスト辺境伯は、お茶をぐいっと一気飲みすると、興奮したように矢継ぎ早に問いかけて来た。
俺は勇者に視線を向けるが、勇者は手で、俺に行けと指示する。
何が俺には無理だ、だ。
話す前から諦めるな!
「ご城主さま。卑しい身で、直接口を開くことをお許しいただけますか?」
仕方ないので、俺が直接話すこととなった。
聖女までペコペコ頭を下げるので仕方ない。
「もちろんだとも。勇者殿が、共に苦難を分かち合った仲間とおっしゃったのだ。その言葉を無視したりはしない。何よりも、貴殿は我が客である。客として迎えた相手を身分で侮るようなことはせぬ」
「ありがとうございます」
なるほど、ロスト辺境伯は身分差にあまりこだわりがない人物のようだ。
もちろん、身分の低い使用人と直接口を利いたりはしないだろうが、使用人達からの評判もよかったしな。
「俺は見ての通り、もともとは冒険者なので、いろいろな立場の方と仕事をしています。そのおかげで、物事をわかりやすく説明することには、それなりに自信があります」
「ほう。それはありがたい。どうも話の全体が私には見えなくてな」
ロスト辺境伯の立場からしてみればそうだよな。
この方からしてみれば、娘と過ごしたいだけの話なのに、勇者がくっついて来るわ、鍛冶師見習いの少年を紹介されるわ、地下を塞いだことについて責められているような状況で、嫌な思い出を語らざるを得なくなって、精神的な消耗も大きいだろう。
その上に地下に存在するのは呪いではなく、とんでもない魔法使いと来た。
訳がわからなくなるのは当然だ。
「俺達が、少し話を急ぎすぎたようです。ときの経過を無視してバラバラに話をまとめようとしてしまったので、なおさら話がわかり辛くなったのです。俺達が経験したことを、実際に起きた順番で説明させていただきます」
「うむ」
「一年半ほど前でしたか、俺達はこのお城に滞在させていただきました」
「あのときは、私も少し焦りがあって、対応がよくなかったと反省している。いろいろあったが、お互いに遺恨なく、今後はよろしくお願いしたい」
「ありがたいお言葉です。こちらこそ、少々急ぎであったために、せっかくの親子の時間を短くしてしまい、申し訳なく思っておりました」
「うむ。ご配慮痛み入る」
勇者や聖女がなんだかキラキラした目で俺を見ている。
いや、今の段階はお互いにいろいろあったけど、恨みっこなしにしましょうって話をしているだけだぞ?
アドミニス殿について何の説明もしていないからな?
「それで、改めまして、あのときに俺達に何が起こって、領外に出てしまったのか、ということをご説明いたします」
「よろしく頼む」
たかだか冒険者に丁寧に対応してくれて、いい人じゃないか。
やっぱり人とはある程度腹を割って話さないと、人柄なんかわからないものだよな。
「先程、ミュリアさま……お名前を呼ばせていただく栄誉を賜っておりますが、お嫌なら称号で呼ばせていただきますが?」
聖女と呼ばれるのが嫌かもしれないと思って、あえて名前で呼んでみた。
平民の所業ではないが、このぐらい寛容な人なら行けるんじゃないだろうか?
「うむ、もちろんだ。苦楽を共にした仲間であれば、ミュリアが助けられたことも多いのであろう? そのような相手と名で呼び合うのは当然だ」
聖女が可愛らしい笑顔でうなずいている。
あ、ロスト辺境伯がそんな聖女を微笑ましげに見ているぞ。
ほのぼのとした、いい光景だな。
「それでは、失礼してミュリアさまとお呼びします。先程ミュリアさまがおっしゃっていた、幼い頃に発見した地下への秘密の通路に、ミュリアさまは滞在中に俺達を導いてくださいました。そこでお会いしたのが、アドミニス・ファイナル・ロスト殿です」
「ま、待て! その名は、かつての魔王の名。この王国では、口に出すのは少々憚られる名であるぞ」
俺の説明に、ロスト辺境伯が慌てたように言う。
「その通りです。しかし、本人を前にして、その名を呼ばないというのは却って失礼でしょう。かつて魔王と呼ばれ、その後、この地の領主として封じられたアドミニス殿は、今もご存命なのです」
「……」
ロスト辺境伯はしばし無言になり、目をつむり額に手を当てた。
そしてハッとしたように目を開けると、俺に頭を下げる。
「すまない。少し、なんというか、動揺してしまって……」
「いえ、当然のことです。何しろ千年は昔の人物です。歴史上の偉人であり、世界を揺るがした……邪悪とも言われた方ですからね。まぁいきなりまだ生きてると言われても、信じられない話ですよね」
俺をじっと見つめていたロスト辺境伯だが、やがて、重い息を吐いた。
「本当の、こと、なのだな?」
「はい。それと、少々、愚考することもございまして」
「こうなったら遠慮などいらぬ。思ったことは全部言って欲しい」
「は。その、先代までは、あの方、アドミニス殿の存在を、この地の領主となる方はご存知であったのではないかと思うのです。それがなぜか今代の、ご城主さまには引き継がれていないのではないか、と」
俺が常々疑問に思っていたことを思い切って尋ねると、ロスト辺境伯はうなずいた。
「先代領主殿は、突然亡くなったのだ。幸いにも、次代の指名は成されていて、皆が既に納得済みであったから、引き継ぎは滞りなく行われたが、本来口伝のように語り継がれなければならないものに取りこぼしがあったやもしれないとは、思っていた。本来は、実子が継ぐものだから、親は子に幼い頃から必要なことは教えて行く。それが、私の代では途切れてしまったのだ」
なるほど。
ずっとおかしいとは思っていたんだ。
城の地下などという、領主の近くにアドミニス殿がいて、領主がそれを知らないということが起きるはずがない。
先代が早逝したことと、跡継ぎが実子ではなかったことで、引き継ぎがうまく行われなかったんだな。
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