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第八章 真なる聖剣

849 聖剣の依頼 2

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 アドミニス殿は、嬉しそうなルフをじっと見ると、言った。

「ふむ。これを打ったのはそなたの身内か。よい仕事だ。存分に誇るがよい」

 まさかそんな風に言われるとは思っていなかったのか、ルフは興奮から一転、恐縮したように縮こまってしまう。

「どうした?」
「あんたはいちいち押し付けがましいんだよ。もっと軽くものを言えないのか」

 どうも勇者はアドミニス殿にいちいち文句をつけないと気がすまないようだ。
 相性が悪いんだろうな。

「軽くとは……これでも随分砕けたもの言いをしているのだぞ」
「それで砕けてるのかよ」

 さすがの勇者もお手上げらしい。
 そもそも大昔の人だぞ? 言葉遣いがおかしいのは仕方ないだろう。

「あ、あのすみません。僕が、偉い方のお相手をするのに慣れていないもので……」

 自分のせいでアドミニス殿が勇者にいろいろ言われていると感じたのだろう、ルフがフォローに入る。
 あの二人の会話に入るはかなり勇気が必要だろうに、大したもんだ。

「わしは別に偉い人ではないぞ。今となってはただの鍛冶師のジジイだ」

 と、アドミニス殿。
 これは嘘でもなんでもない。
 一応辺境伯の城に住んではいるが、アドミニス殿はロスト辺境伯の身内として正式には認められていないらしいのだ。
 まぁ千年昔のご先祖さまが生きている状況というのも、家系にうるさい貴族的には困るんだろうな。
 なんでも王城には、全ての貴族の家系図を管理している役人がいるらしい。
 民間でも長く続いた金持ちの名家なんかは家系図を作っているらしいんで、人は偉くなってそれが続くと系図を必要とし始めるようだ。

 勇者によると、そういうのがはっきりしていないと、跡継ぎやら財産分与などで揉めるのだとか。
 面倒すぎる。

 しかし、アドミニス殿は、見た目では、とても本人の言うような老人には見えない。
 せいぜい壮年という感じか。
 肉体の張りが素晴らしい。
 筋肉と魔力の絡み方があまりにも自然過ぎて、人が夢見る理想の姿として展示したいぐらいだ。
 てか、この人の魔力ってこう、……俺達とちょっと違うんだよな。
 一見魔力がないようにすら見える。
 実際、魔力無しだと本人も周りも思っていたみたいだしな。
 以前観察したときに気づいたんだが、アドミニス殿の魔力は、普段体内、筋肉などの奥深くにあって、当たり前の身体機能として働いているようなのだ。
 それが、ひとたび周囲の魔力と結びつくと、たちまち周囲の魔力を支配下において、身体の奥から姿を現す。
 正直に言うと、俺もまだこの人の魔力を理解出来てない。

 ひとつだけ言わせて貰えば、初代勇者はよくもまぁアドミニス殿と戦おうとか考えたな、と思う。
 大森林を切り離して、一種の結界のようにしてしまったのも、この人に大森林の無尽蔵の魔力を使われると、勝ち目がなくなるからだろう。

 この支配的魔力とでも呼ぶべきものは、どうやら本人の感情と連動しているように見える。
 絶対に怒らせてはいけない人ということだな。

「え? 鍛冶師。……と、いうことは?」

 ルフは、血の気の引いた顔で俺を見た。
 うむ、その考えは正しい。
 下手に察しがいいと苦労するな。

 俺は重々しくうなずいた。
 ルフの顔が泣きそうに歪む。
 いや待て、まだこの御方に弟子入り出来ると決まった訳ではないんだ。
 それを実現するためには、越えるべき障害が多すぎる。
 もし無理だったとしても、この人が聖剣を打つところは見せてもらえるように頼んでやるから、それだけでも大収穫だと思うぞ?

 俺は、ルフの精神的負担を減らすためにも、話の軌道を戻すことにした。

「とりあえず、聖剣の素材としては、これがある。砕けた聖剣が封印していた場所の奥で見つかったもので、その剣身を打った鍛冶師によると、魔法真銀ミスリルらしい」

 俺は、魔法真銀ミスリルと言われた、拳よりも少し大きめ程度の銀色の鉱石の塊をテーブルに乗せた。

「ほほう。まだこの状態の魔法真銀ミスリルが残っていたか。もはや永遠に失われたと思っておったが……」

 アドミニス殿は、どこか懐かしそうに、魔法真銀ミスリル鉱石を手に取る。
 すると、鈍い銀色だった鉱石は、徐々に透明になり、虹色の光を帯びた。

「おっと、危ない」

 アドミニス殿がそう呟いて、パチンと魔法真銀ミスリル鉱石を持たないほうの指を鳴らすと、すうっと元に戻る。
 うーん。今、何が起こりかけていたのかな?
 怖くて事実を知りたくない。

「おい。危ないとはどういうことだ?」

 そんな俺の気持ちとは関係なく、果敢に尋ねたのは、もちろん勇者である。

「ふむ。この魔法真銀ミスリルという素材は、鉱石の状態では不安定でな。許容量以上の魔力を吸い込むと、勝手にその魔力を魔法のようなものとして放出するのだ。鍛冶師泣かせの素材よ」

 そう言って、カッカッカと笑う。
 へー。
 つまり今、魔力暴走のようなことが起こりかけていた、ということだな。

「ミュリア。念の為、あの魔法真銀ミスリル鉱石の周囲に結界を張っておいたらどうだろう?」

 背筋がひんやりとした俺は、聖女にそう提案した。

「それはまた斬新な考えだが。聖女の結界というものは、本人を中心として張り巡らせるものではないか?」
「あ、いえ、おじいさま。普通はそうなのですが、わたくし、頑張って自分以外のものを中心に結界を形成することに成功しました」
「ほう! ミュリアは凄いな」
「ありがとうございます」

 ニコニコと笑い合う、長い歳月と多くの人を隔てた血縁の二人。
 似てないようで、似てるもんだな。
 血縁というものは侮れない。
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