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第八章 真なる聖剣
837 護衛の騎士
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さて、伝令を出してもらってなんだが、俺達もそろそろ出立するか。
「身分の確認と目的もわかったのですから、通らせていただいてもいいですね?」
ロードワン卿にそれだけ告げると、俺はさっさと御者台に向かった。
事前に打ち合わせをしているので、このタイミングで、既にメルリルは御者台のいつもの場所に待機しているし、勇者と聖女以外の全員が馬車に乗り込み済みだ。
ロスト辺境伯とは本人と揉めることは必至なので、それ以前の揉め事は減らしたいという方針で、国境の砦には留まらないことにしたのだ。
最近こんなのばっかりだな。
この領地の人間の前に聖女がいるというだけで、相手の感情が高ぶるのは、前回訪れたときに理解している。
そうなると、聖女の羞恥と困惑が深まって、最後には勇者が腹を立てるという流れになってしまう。
結果は火を見るよりも明らかだ。
回避するには、なるべく短時間で城まで移動するのが一番なのだ。
どうせなら城でガンガンやり合って欲しい。
俺はもう止めないから。
「お、お待ちを!」
「なぜ待つ必要がある。俺達の目的はもう告げたし、領主への挨拶も事前に届けてもらった。問題があるか?」
勇者が、なおも止めようとするロードワン卿に鋭い視線を投げて、静かに告げた。
「俺達が手配されているとしても、その本人が自ら出向こうと言うのだぞ? 止めるほうが、主に対して不忠ではないのか?」
「うぬう」
勇者の言葉に反論出来ないロードワン卿。
屁理屈だが、正論ではある。
「あなたの忠義には、わたくし、心を打たれました。ですが、今は行かせてください。これは、むしろお父さまにとって、よいこととなるはずですわ」
そして聖女が更にダメ押しする。
うんうん、打ち合わせ通り。
聖女は最初、自領の民を欺くようなことは出来ないと言っていたのだが、欺くのではなく、助けるためなのだと言って説得したのだ。
そもそも嘘は何も言ってないということも説明した。
忠義の騎士たるロードワン卿は、迷った挙げ句、俺達の言い分を受け入れることにしたようだ。
主の命は、俺達を発見したら報告と拘束であったのだろうが、とりあえず報告は先にしてあるし、俺達は逃げるのではなく、城に向かう。
少し変則的ではあるが、命に背いている訳ではないのだ。
砦の門をくぐると、通路を囲む中庭に大勢の兵士が揃って、一斉に手を振ったり、騎士の礼を行ったりしていた。
つくづく聖女の人気がすさまじい。
どういう風に伝わっているのか、彼らの態度でわかる。
以前訪れたときには、領地のために自らを犠牲にして、孤独のまま大聖堂に囚われていたが、挙げ句の果てに、危険な勇者の供とさせられてしまった。みたいな、悲劇のストーリーが流布していた。
おかげで、ミュリア姫を暴虐の勇者から救え! というような、妙な空気になっていたのだ。
今の彼らの様子を見る限りでは、その辺りは変わってないようである。
勇者の態度の悪さは、確かに悪役向きではあるよな。
ガラガラと音を立てて進む魔道馬車は目立つので、砦を過ぎた辺りに広がる畑で作業をする農民達が、やたらジロジロ見て来る。
この辺境領は、麦などの作物は育ちにくいので、薬や、薬味となるハーブ類を主に栽培しているらしい。
そのため、冬の時季でも、なんらかの作業があるようだ。
俺とメルリルは、作業をしている農民達に、出来るだけ愛想よく手を振ったり、頭を下げたりするように心がけた。
おかげで、特に悪感情は抱かれず、トラブルなく、挨拶を交わしながら進む。
やがて、魔王城と影で囁かれている、小山に手を加えて城とした、ロスト辺境伯の居城が見えて来た。
すると、向かっている方向から、騎馬が数騎、駆けて来るのが見える。
前もこんなんだった気がするな。
「お待ちあれ! その馬車は、勇者殿のものであるか?」
立派な装備の騎士が、誰何して来る。
「そうです」
俺は短く答えた。
「な、なぜ止まらぬ」
俺が、答えはしたものの、そのまま馬車を走らせるので、当然止まると思って馬を止めた騎士が、慌てて追いすがりながら聞いて来る。
「お迎えの方々なのですよね?」
「う、む、確かにそうであるが」
「ならば、ご一緒してくださればよろしいかと。辺境伯さまをお待たせしたくありませんゆえ」
うん、噛まなかった。
この返事は練習したのだ。
貴族的な言い回しをしたほうがなめられないからな。
騎士達は顔を見合わせて、何やら互いの意思を確認しているようだ。
その間にも馬車は進むので、騎士達は置いてきぼりになった。
この馬車は生きた馬が牽く馬車ではないので、邪魔があろうとも、御者が止めない限りは進み続ける。
両側から挟み込んで、馬の恐怖心を煽って止めることは出来ないのだ。
「ま、待てと申すに!」
「おかしなことを申される。ご領主さまは、城に来るのを止めるようにとお命じか?」
「い、いや、連行するようにと命じられている」
お、この騎士、聞かれたことに素直に答えたぞ。
貴族のお坊ちゃんに多い善良な人間だな。
よしよし、こういうタイプは誘導しやすい。
「ならば、我等がお城に向かっている今、何か問題があるのでしょうか?」
思いっきり不思議そうに尋ねた。
騎士達はわずかな逡巡の末、俺の言葉に納得したらしい。
「わかり申した。それならば、我等が先導いたす」
「よろしくお願いいたします」
とどめに、俺の横に乗ったメルリルが、騎士達に向かってにっこりと微笑んでみせる。
一番若そうな騎士が、その途端、とても張り切って胸を張り、馬車の前を進み始めた。
うん、美人にはいいとこ見せたいよな。
わかるぞ、若者。
「身分の確認と目的もわかったのですから、通らせていただいてもいいですね?」
ロードワン卿にそれだけ告げると、俺はさっさと御者台に向かった。
事前に打ち合わせをしているので、このタイミングで、既にメルリルは御者台のいつもの場所に待機しているし、勇者と聖女以外の全員が馬車に乗り込み済みだ。
ロスト辺境伯とは本人と揉めることは必至なので、それ以前の揉め事は減らしたいという方針で、国境の砦には留まらないことにしたのだ。
最近こんなのばっかりだな。
この領地の人間の前に聖女がいるというだけで、相手の感情が高ぶるのは、前回訪れたときに理解している。
そうなると、聖女の羞恥と困惑が深まって、最後には勇者が腹を立てるという流れになってしまう。
結果は火を見るよりも明らかだ。
回避するには、なるべく短時間で城まで移動するのが一番なのだ。
どうせなら城でガンガンやり合って欲しい。
俺はもう止めないから。
「お、お待ちを!」
「なぜ待つ必要がある。俺達の目的はもう告げたし、領主への挨拶も事前に届けてもらった。問題があるか?」
勇者が、なおも止めようとするロードワン卿に鋭い視線を投げて、静かに告げた。
「俺達が手配されているとしても、その本人が自ら出向こうと言うのだぞ? 止めるほうが、主に対して不忠ではないのか?」
「うぬう」
勇者の言葉に反論出来ないロードワン卿。
屁理屈だが、正論ではある。
「あなたの忠義には、わたくし、心を打たれました。ですが、今は行かせてください。これは、むしろお父さまにとって、よいこととなるはずですわ」
そして聖女が更にダメ押しする。
うんうん、打ち合わせ通り。
聖女は最初、自領の民を欺くようなことは出来ないと言っていたのだが、欺くのではなく、助けるためなのだと言って説得したのだ。
そもそも嘘は何も言ってないということも説明した。
忠義の騎士たるロードワン卿は、迷った挙げ句、俺達の言い分を受け入れることにしたようだ。
主の命は、俺達を発見したら報告と拘束であったのだろうが、とりあえず報告は先にしてあるし、俺達は逃げるのではなく、城に向かう。
少し変則的ではあるが、命に背いている訳ではないのだ。
砦の門をくぐると、通路を囲む中庭に大勢の兵士が揃って、一斉に手を振ったり、騎士の礼を行ったりしていた。
つくづく聖女の人気がすさまじい。
どういう風に伝わっているのか、彼らの態度でわかる。
以前訪れたときには、領地のために自らを犠牲にして、孤独のまま大聖堂に囚われていたが、挙げ句の果てに、危険な勇者の供とさせられてしまった。みたいな、悲劇のストーリーが流布していた。
おかげで、ミュリア姫を暴虐の勇者から救え! というような、妙な空気になっていたのだ。
今の彼らの様子を見る限りでは、その辺りは変わってないようである。
勇者の態度の悪さは、確かに悪役向きではあるよな。
ガラガラと音を立てて進む魔道馬車は目立つので、砦を過ぎた辺りに広がる畑で作業をする農民達が、やたらジロジロ見て来る。
この辺境領は、麦などの作物は育ちにくいので、薬や、薬味となるハーブ類を主に栽培しているらしい。
そのため、冬の時季でも、なんらかの作業があるようだ。
俺とメルリルは、作業をしている農民達に、出来るだけ愛想よく手を振ったり、頭を下げたりするように心がけた。
おかげで、特に悪感情は抱かれず、トラブルなく、挨拶を交わしながら進む。
やがて、魔王城と影で囁かれている、小山に手を加えて城とした、ロスト辺境伯の居城が見えて来た。
すると、向かっている方向から、騎馬が数騎、駆けて来るのが見える。
前もこんなんだった気がするな。
「お待ちあれ! その馬車は、勇者殿のものであるか?」
立派な装備の騎士が、誰何して来る。
「そうです」
俺は短く答えた。
「な、なぜ止まらぬ」
俺が、答えはしたものの、そのまま馬車を走らせるので、当然止まると思って馬を止めた騎士が、慌てて追いすがりながら聞いて来る。
「お迎えの方々なのですよね?」
「う、む、確かにそうであるが」
「ならば、ご一緒してくださればよろしいかと。辺境伯さまをお待たせしたくありませんゆえ」
うん、噛まなかった。
この返事は練習したのだ。
貴族的な言い回しをしたほうがなめられないからな。
騎士達は顔を見合わせて、何やら互いの意思を確認しているようだ。
その間にも馬車は進むので、騎士達は置いてきぼりになった。
この馬車は生きた馬が牽く馬車ではないので、邪魔があろうとも、御者が止めない限りは進み続ける。
両側から挟み込んで、馬の恐怖心を煽って止めることは出来ないのだ。
「ま、待てと申すに!」
「おかしなことを申される。ご領主さまは、城に来るのを止めるようにとお命じか?」
「い、いや、連行するようにと命じられている」
お、この騎士、聞かれたことに素直に答えたぞ。
貴族のお坊ちゃんに多い善良な人間だな。
よしよし、こういうタイプは誘導しやすい。
「ならば、我等がお城に向かっている今、何か問題があるのでしょうか?」
思いっきり不思議そうに尋ねた。
騎士達はわずかな逡巡の末、俺の言葉に納得したらしい。
「わかり申した。それならば、我等が先導いたす」
「よろしくお願いいたします」
とどめに、俺の横に乗ったメルリルが、騎士達に向かってにっこりと微笑んでみせる。
一番若そうな騎士が、その途端、とても張り切って胸を張り、馬車の前を進み始めた。
うん、美人にはいいとこ見せたいよな。
わかるぞ、若者。
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