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第八章 真なる聖剣
831 疲れたら休むのも大事
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結局のところ、聖女の祖父であるブロブ爺さんは、俺達のためにロスト伯宛に一筆書いて渡してくれた。
「人間誰しも泣き所はあるものよ」
と、ニヤリと笑いながら。
ほんと、それ怖いから止めてください。
ルフなんて、爺さんがいなくなった途端、すっかり当てられて熱を出してしまったじゃねえか。
「この熱は、心身の疲労を体内で処理しようとして、負荷がかかりすぎた結果ですね。わたくしも少しサポートしますけど、体内で処理出来る部分は処理してもらったほうが、身体が負荷に強くなるので、癒やしの魔法は少しだけです。今は眠るのが一番ですよ」
ケガや呪詛だけでなく、病気にも明るい聖女が、やさしく微笑みながらそう言ったので、ルフは真っ赤になりながら「はい……」と、消え入りそうな声で答えて、すぐに寝てしまった。
いろんなことがあったからなぁ、そりゃあ子どもには負担が大きすぎたわ。
俺ももっと気をつけておくべきだったな。
「むう、ルフには悪いことをした。もっと見ておいてやるべきだった」
俺の考えと似たようなことを口にしたのは勇者だ。
うん、頼もしくなって来たな。
勇者には、この一行のリーダーであるという認識は一応頭にはあるらしいんだが、リーダーたらんとする自覚がなかったんだよな。
最近は仲間達に気を配れるようにもなってきたようだし、変わらないようでも、きっちり成長していると感じられる。
「ルフのことを考えると、もう一泊ぐらいしたほうがいいか?」
俺がそう提案すると、聖女はうなずく。
「そうですね。この後も長旅になりますし、休めるところでは休んだほうがいいでしょう」
心身のケアの専門家でもある聖女の意見に反対する者もなく、俺達は、いつの間にか、すっかり俺達担当になっているノルフェイデさんにその旨を伝えた。
すると、ノルフェイデさんは、嬉しそうにすぐに了承してくれる。
「以前もお伝えしたと思いますが、ここは皆さんの家も同然です。いつ訪れてもかまいませんし、いつまで過ごしてもよろしいのです。むしろずっといてくださると、聖者さま始め、ここに住む者達が喜びますわ」
「あの……」
そのとき、普段は滅多に他人に話しかけない聖騎士が、珍しくノルフェイデさんに声をかけた。
「なんでしょう?」
ノルフェイデさんはにっこりと笑って、聖騎士に言葉を促す。
「以前、私共が預けた馬達は、元気でしょうか?」
どうやら馬のことが気になったようだ。
そう言えば、山越えするからと、ここに預けて行ったんだったな。
「はい。ここには騎士の方も多いので、立派な厩舎や馬場もあります。皆様方からお預かりした馬達は、大切にお世話させていただいています」
「……そうか」
「クルス」
どこかホッとしたような聖騎士だったが、その背に勇者が言葉を投げた。
「氣になるなら会いに行ってやれ。ええっと、お前の馬の……なんだっけ? ネイ?」
「早足です」
勇者の呼び間違いに素早く修正を入れる。
そう言えば、騎士は自分の愛馬に名前をつけるんだったか。
ノルフェイデさんは、微笑ましそうに聖騎士と勇者のやりとりを見ていたが、「それなら今から会いに行かれますか? 今の時間なら馬場にいるでしょう」と言ってくれた。
「そうだな。よし、俺も付き合おう。俺の馬も一緒にいるんだろ?」
「ええ、もちろんです」
勇者が珍しく気を使う。
いや、あの顔は、自分も楽しみにしている感じだな。
なんだかんだ言って、勇者も自分の愛馬に会いたいのだろう。
「それでは」
「行って来る!」
二人がそう言って、部屋を出ようとするのへ、俺はふと思い出して、聖騎士に尋ねた。
「ミハルには、会ってやらないのか?」
ミハルは、東方の央国の生まれで、いろいろあって聖騎士の弟子になった少女だ。
今は、ここ大聖堂の正面の橋の前に広がる、門前町にある道場の内弟子となり、騎士を目指して修行している。
「今会うと甘えが出てしまうかもしれません。本人も中途半端な姿を見せたくはないでしょう。今回は会わずにいようと思います」
聖騎士はそう言って微笑んだ。
まぁ言いたいことはわかるが、馬にはいそいそと会いに行ったのに、弟子には会いに行かなかったとか、知られたら拗ねるんじゃないか?
ミハルという少女は、騎士を目指すと言いつつも、その感性は普通の女の子だった。
恨まれても知らんからな。
さて、ルフが寝て、勇者と聖騎士が馬場に行ってしまって、現在部屋にいるのは、俺以外は全員女性という気まずい状態だ。
「ピャ」
「いや、別にお前の存在を忘れた訳じゃないぞ?」
「ダスター?」
俺の様子に何かを感じたのか、メルリルがすっと寄って来た。
「ああいや、久々に時間のかかる焼き菓子でも作ってみようかと思ってな」
「素敵。私も手伝う」
「そうだな、助かる」
ちらりと聖女とモンクを見ると、お気に入りのクッションを抱えて、リラックスした状態で、話をしている。
「調理場にいる」
そう伝えると、二人共、嬉しそうに応援してくれた。
むむっ、期待されているとなると、力の入ったものを作らないとな。
出港前に市場で購入した、すっぱみのある果実を使うことにした。
大聖堂には水が潤沢にあるので、食材を水で洗うという贅沢も出来る。
一個一個丁寧に水洗いした。
「それ、とてもすっぱい果物だけど、お菓子に使って大丈夫?」
メルリルが不安そうに見るが、笑って安心させる。
そのメルリルには、小麦粉を適量計って、目の細かいザルを使ってふるいにかけるように頼み、その間にすっぱい果物の皮を細かく削ぎ落とす。
さわやかないい香りが漂い、メルリルもにっこりと笑った。
削いだ皮をそのまま、卵や砂糖と混ぜる。
かなりの贅沢だな。
その間に鍋に湯を沸かし、鍋に入れた小さな容器にバターを入れて溶かしておく。
皮を剥いた果実の実のほうを、布に包んで絞り、溢れ出た果汁は溶けたバターに混ぜた。
その間に、俺が作っておいた卵と果物の皮などのどろっとした材料に、メルリルが振り分けた、細かい小麦を混ぜて行ってもらう。
「綺麗に混ざった」
嬉しそうにそう告げるメルリルを褒め倒し、その上から溶けたバターと果汁を混ぜたものをゆっくり垂らしながらさらに混ぜる。
あとは金属の型に入れて焼くだけだ。
焼けたものの表面に、さらに果汁を薄く塗り、干しナツメを薄切りにしたものを乗せて、出来上がり。
出来上がった頃には、聖騎士や勇者も戻って来ていて、匂いに目覚めたらしいルフも交えて、少し苦味のあるお茶と合わせて食べてもらった。
ルフが「何かお祝いごとですか?」と聞いて来たのはちょっと可笑しかったが、全員に好評だったようだ。
ちゃっかり、フォルテと若葉も要求して来たので、久々に全員でのお茶となった。
たまにはこういう時間も必要だな。
「人間誰しも泣き所はあるものよ」
と、ニヤリと笑いながら。
ほんと、それ怖いから止めてください。
ルフなんて、爺さんがいなくなった途端、すっかり当てられて熱を出してしまったじゃねえか。
「この熱は、心身の疲労を体内で処理しようとして、負荷がかかりすぎた結果ですね。わたくしも少しサポートしますけど、体内で処理出来る部分は処理してもらったほうが、身体が負荷に強くなるので、癒やしの魔法は少しだけです。今は眠るのが一番ですよ」
ケガや呪詛だけでなく、病気にも明るい聖女が、やさしく微笑みながらそう言ったので、ルフは真っ赤になりながら「はい……」と、消え入りそうな声で答えて、すぐに寝てしまった。
いろんなことがあったからなぁ、そりゃあ子どもには負担が大きすぎたわ。
俺ももっと気をつけておくべきだったな。
「むう、ルフには悪いことをした。もっと見ておいてやるべきだった」
俺の考えと似たようなことを口にしたのは勇者だ。
うん、頼もしくなって来たな。
勇者には、この一行のリーダーであるという認識は一応頭にはあるらしいんだが、リーダーたらんとする自覚がなかったんだよな。
最近は仲間達に気を配れるようにもなってきたようだし、変わらないようでも、きっちり成長していると感じられる。
「ルフのことを考えると、もう一泊ぐらいしたほうがいいか?」
俺がそう提案すると、聖女はうなずく。
「そうですね。この後も長旅になりますし、休めるところでは休んだほうがいいでしょう」
心身のケアの専門家でもある聖女の意見に反対する者もなく、俺達は、いつの間にか、すっかり俺達担当になっているノルフェイデさんにその旨を伝えた。
すると、ノルフェイデさんは、嬉しそうにすぐに了承してくれる。
「以前もお伝えしたと思いますが、ここは皆さんの家も同然です。いつ訪れてもかまいませんし、いつまで過ごしてもよろしいのです。むしろずっといてくださると、聖者さま始め、ここに住む者達が喜びますわ」
「あの……」
そのとき、普段は滅多に他人に話しかけない聖騎士が、珍しくノルフェイデさんに声をかけた。
「なんでしょう?」
ノルフェイデさんはにっこりと笑って、聖騎士に言葉を促す。
「以前、私共が預けた馬達は、元気でしょうか?」
どうやら馬のことが気になったようだ。
そう言えば、山越えするからと、ここに預けて行ったんだったな。
「はい。ここには騎士の方も多いので、立派な厩舎や馬場もあります。皆様方からお預かりした馬達は、大切にお世話させていただいています」
「……そうか」
「クルス」
どこかホッとしたような聖騎士だったが、その背に勇者が言葉を投げた。
「氣になるなら会いに行ってやれ。ええっと、お前の馬の……なんだっけ? ネイ?」
「早足です」
勇者の呼び間違いに素早く修正を入れる。
そう言えば、騎士は自分の愛馬に名前をつけるんだったか。
ノルフェイデさんは、微笑ましそうに聖騎士と勇者のやりとりを見ていたが、「それなら今から会いに行かれますか? 今の時間なら馬場にいるでしょう」と言ってくれた。
「そうだな。よし、俺も付き合おう。俺の馬も一緒にいるんだろ?」
「ええ、もちろんです」
勇者が珍しく気を使う。
いや、あの顔は、自分も楽しみにしている感じだな。
なんだかんだ言って、勇者も自分の愛馬に会いたいのだろう。
「それでは」
「行って来る!」
二人がそう言って、部屋を出ようとするのへ、俺はふと思い出して、聖騎士に尋ねた。
「ミハルには、会ってやらないのか?」
ミハルは、東方の央国の生まれで、いろいろあって聖騎士の弟子になった少女だ。
今は、ここ大聖堂の正面の橋の前に広がる、門前町にある道場の内弟子となり、騎士を目指して修行している。
「今会うと甘えが出てしまうかもしれません。本人も中途半端な姿を見せたくはないでしょう。今回は会わずにいようと思います」
聖騎士はそう言って微笑んだ。
まぁ言いたいことはわかるが、馬にはいそいそと会いに行ったのに、弟子には会いに行かなかったとか、知られたら拗ねるんじゃないか?
ミハルという少女は、騎士を目指すと言いつつも、その感性は普通の女の子だった。
恨まれても知らんからな。
さて、ルフが寝て、勇者と聖騎士が馬場に行ってしまって、現在部屋にいるのは、俺以外は全員女性という気まずい状態だ。
「ピャ」
「いや、別にお前の存在を忘れた訳じゃないぞ?」
「ダスター?」
俺の様子に何かを感じたのか、メルリルがすっと寄って来た。
「ああいや、久々に時間のかかる焼き菓子でも作ってみようかと思ってな」
「素敵。私も手伝う」
「そうだな、助かる」
ちらりと聖女とモンクを見ると、お気に入りのクッションを抱えて、リラックスした状態で、話をしている。
「調理場にいる」
そう伝えると、二人共、嬉しそうに応援してくれた。
むむっ、期待されているとなると、力の入ったものを作らないとな。
出港前に市場で購入した、すっぱみのある果実を使うことにした。
大聖堂には水が潤沢にあるので、食材を水で洗うという贅沢も出来る。
一個一個丁寧に水洗いした。
「それ、とてもすっぱい果物だけど、お菓子に使って大丈夫?」
メルリルが不安そうに見るが、笑って安心させる。
そのメルリルには、小麦粉を適量計って、目の細かいザルを使ってふるいにかけるように頼み、その間にすっぱい果物の皮を細かく削ぎ落とす。
さわやかないい香りが漂い、メルリルもにっこりと笑った。
削いだ皮をそのまま、卵や砂糖と混ぜる。
かなりの贅沢だな。
その間に鍋に湯を沸かし、鍋に入れた小さな容器にバターを入れて溶かしておく。
皮を剥いた果実の実のほうを、布に包んで絞り、溢れ出た果汁は溶けたバターに混ぜた。
その間に、俺が作っておいた卵と果物の皮などのどろっとした材料に、メルリルが振り分けた、細かい小麦を混ぜて行ってもらう。
「綺麗に混ざった」
嬉しそうにそう告げるメルリルを褒め倒し、その上から溶けたバターと果汁を混ぜたものをゆっくり垂らしながらさらに混ぜる。
あとは金属の型に入れて焼くだけだ。
焼けたものの表面に、さらに果汁を薄く塗り、干しナツメを薄切りにしたものを乗せて、出来上がり。
出来上がった頃には、聖騎士や勇者も戻って来ていて、匂いに目覚めたらしいルフも交えて、少し苦味のあるお茶と合わせて食べてもらった。
ルフが「何かお祝いごとですか?」と聞いて来たのはちょっと可笑しかったが、全員に好評だったようだ。
ちゃっかり、フォルテと若葉も要求して来たので、久々に全員でのお茶となった。
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