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第八章 真なる聖剣

822 救出

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 海賊連中が我に返って戻って来たときのことも考えると、船に戦える人間を残す必要があった。

「という訳で、船の守りとして、アルフとクルスに残ってもらいたい」
「えー」

 なぜか文句を言う勇者。

「何が嫌なんだ? 海賊の隠れ家のほうは、ほぼ危険はない状態だぞ」
「今、目に入る全部の海賊連中に魔法をぶち込んで、まとめて片付ければ簡単だろ」

 馬鹿め、目先の楽さに、本質を見失いやがって。

「それで、波間を漂う海賊連中をどうやって回収するつもりだ? まさか皆殺しにするのか? 今まで連中のやらかしたことの詳細はわからないままになるし、罪の軽い者も混ざっているかもしれないのに?」
「うぐっ」

 俺の指摘に口をつぐむ勇者。

「魔物とは違うんだ。倒して終わりじゃない。連中が何をやって来たのか、これまでの被害者がどうなったのか、確かめることはたくさんあるんだぞ? ああやって欲に溺れて馬鹿騒ぎをしているが、前にお前に下った連中みたいに、船で運命を共にさせられてはいても、仕方なく従っている奴だっているだろうし」
「うぬう、さすが師匠だ、考えが深い。俺の考えが足りなかった」
「お前、俺をさすがとか言う暇があったら、自分でちゃんと考えるんだぞ。勇者なんだから」

 という、一緒にいる船員達には聞かせられないやりとりとなった。
 もちろん、そうなることを見越して、話し合いの音は漏れないように、聖女に結界を張ってもらっている。
 勇者がとんでもないことを言い出す予感があったからな。
 俺だって経験から学ぶのだ。

 そんな感じに釘を刺しておいたので、いきなり大魔法をぶっ放したりはしないだろう。

「いざというときには、私が奴等の船に飛び乗って、全員を、死なない程度に身動き出来ない状態にしてやります」

 別れ際に、にっこりと笑ってそう言った聖騎士が、ちょっと怖かった。

 今回、聖女は上陸作戦組だ。
 捕まって閉じ込められている人達のなかに、ケガを負っている者がいるかもしれない。
 場所が場所だけに、酷いものを見る可能性もあるが、聖女は意外と、そういうものに対する覚悟はある。

 とは言え、実際には、いろいろと思いもよらないことに多く遭遇した。
 一番驚いたのは、この島のもともとの住人が、自ら海賊達の元に、働きに来ていたことだ。
 なんと海賊のアジトのなかには、色を売る女達が出稼ぎに来ている店や、食い物屋、酒場、理髪店などがあり、ちょっとした街のようになっていた。
 欲に駆られて飛び出した海賊達に混じって、自分達もお宝を手にしようと、海に飛び出した漁師とかもいるらしい。
 ……勇者を止めておいてよかった。

 さて、そういう人間らしい場所もありはしたが、もちろん、賊の隠れ家に相応しい場所も多い。
 そもそも俺達の目的は、囚われている人達の救出だ。
 フォルテの案内で発見した人達は、扱い的に三つのパターンがあった。

 一つは、売り物として捕まっていた人達だ。
 臭いや食事の少なさなどの問題はあったが、この人達はほぼ体に異常はなく、元気だった。
 人数は一番多かったが、それでも今捕まっていたのは六人ほど。
 もう一つは、奴隷にされていた人達。
 酷いことに、首に鎖を繋がれ、動物のように働かされていたらしい。
 どうも、半分以上は、見せしめの意味があったようで、体の傷も多かった。

 さて、問題は最後のパターンだ。
 それが、図らずも虜囚となった者達である。

 連中と戦って生き残ったどこかの騎士や、依頼を受けて囚われた人を救出に来た冒険者などがいた。
 彼等の扱いは、拷問されたというよりも、面白半分で痛めつけられた、という状態で、聖女に治療してもらうのも、むしろ本人にとっては辛いことでしかないのでは? と感じた程だ。
 何しろ、いくら聖女の癒やしでも、時間の経過した傷を元に戻すことは出来ないからな。

 だが、いつもオドオドとしている聖女は、そういった酷い状態の者達を前に、動揺を見せることはなかった。
 テキパキと、モンクや、ときには俺やメルリルにも指示を出して、必要な手当を行い。
 俺から見て、絶望的な状態の者を、なんとか動ける状態にまで回復してみせた。
 そういう姿を見ると、さすがは聖女だと思える。

 結局、捕まっていたのは全部で十四人、そのうち、まともに歩けない者が二人程という状況だったが、一人は俺が背負い、もう一人はモンクが肩を貸して、なんとか全員で脱出する。
 しかし、あと少しで船に戻れるというところで、問題が発生した。

「俺はよう、お宝にゃ興味がないのさ。人間を切り刻んで悲鳴を上げさせたい。だから海賊の仲間になった」

 とびきりの狂人が、お宝争奪戦に参加せずに、アジトに残っていたようだ。
 突然飛び出して来て、聖女と近くにいた少女を捕まえようとしたので、気づいた瞬間、地面を断ち切ってそれを防ぐことに成功した。

「それなのに、せっかく無垢な女を刻めるチャンスを、邪魔すんなよ!」

 ヤベー奴だ。

「先に行け! 出来ればクルスを呼んで来てくれ!」

 申し訳ないが、邪魔なので、背負っていた男を地面の割れ目の向こうに投げた。

「ダスター!」

 メルリルが叫ぶ。
 しかし、振り向くことは出来ない。
 振り向いたら死ぬ。

「頼む!」

 だから、それだけを伝えた。

「お前、変なワザを使うじゃないか? 魔法か? そうは見えないが、貴族か?」
「ただの冒険者だ」
「へー、叩き上げか。実は俺もそうなんだよ。小さい頃から人を斬ることだけを考えて、実践して来た。努力して、力を得たのさ」
「一緒にすんな、反吐が出る!」

 だが言うだけあって、どう見ても、剣技ではあっちのほうが上だ。
 俺が斬るよりも先に、こいつが俺の首を掻き切るイメージしか湧かない。
 いろいろあって、俺の『断絶の剣』も出が早くなりはしたが、動く相手に当てるには、はっきりとした認識が必要となる。
 そのタメの時間はわずかなものだが、そのわずかな時間が命取りになりそうだ。

 まぁいい。
 それならそれで、やりようはあるからな。
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