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第八章 真なる聖剣

820 嵐の前の静けさ

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 船を囲む海賊船のなかから、小型の船が一艘近づいて来る。

「もう理解しているとは思うが、俺達は海賊だ。大人しくついて来てくれれば、悪いようにはしない。ただし、逃げようとしたり、抵抗するなら、俺達も攻撃させてもらう。俺達の船は小型だが、スピードが出るし、いざってときの魔寄せの玉も積んでる。……わかるよな?」

 相手のだみ声が響き渡る。
 なんらかの魔道具を使っているのだろう。

「船長さん、魔寄せの玉というのは、もしかして、魔物を引き寄せる道具か?」
「そうだ。地上では魔香とか言うんだっけか? 基本原理はあれと同じだな」

 船長に尋ねたら、案外としっかりとした答えが返って来た。
 どうやら勇者のおかげで、海賊への恐怖心はないようだ。

 魔香、あるいは魔寄せと呼ばれるものは、魔鉱石のクズと魔物の肉に瀕死の獣の気配などを魔法的に発生させる特殊な魔道具で、魔物を一定の場所に集めたいときに使うものだ。
 使い方を誤ると、大変な災害が発生してしまうので、国によっては使用を禁止されていたりする。

 デカい魔物が多いと言われる海で使ったら、さぞかし壮絶な状態になるのだろう。

「勇者さま……」

 船長が勇者に視線を向ける。
 勇者がうなずくのを見て、船長が船べりに出て相手の船へと怒鳴った。

「わかった! 言う通りにしよう! その代わり、乗務員と乗客には手を出さないと誓ってくれ!」

 おお、船長、かっこいい。
 堂々としているな。

「ああ、もちろん。おとなしくついて来てくれるなら、何も酷いことは起こらないさ」

 それに比べて海賊の代表の物言いの嘘くささよ。
 海賊が酷いことをしないとか、狼は肉を食わないみたいな話か?

「いっそ、そのなんとか玉とやらを使ってくれないかな? 今度はちゃんと斬ることの出来る魔物に出て来て欲しい」

 勇者が何やら言っているが、とりあえず今は無視である。

 そこからは海賊が一定距離を囲んでいる以外は、特に変わったこともなく過ごした。
 もし海賊一味の誰かが乗り込んで来た場合に備えて、ルフと女性達には船室に入っていてもらったのだが、そういった様子も見えない。
 普通はいくら周りを囲んでいるからと言って、相手の行動を見張るぐらいはするはずだ。
 疑問に思って船長に聞いてみると、航行中の船に高低差の大きい船から乗り移るのは、かなりの危険が伴うので、無駄な危険を冒さなかったのだろうとのこと。

 なるほど。
 相手が抵抗しないのなら、港に停泊させてから乗り込んで制圧すればいいということか。
 その時には、海賊達にとってのホームグラウンドだ。
 負ける心配など全くない、楽な仕事ということになる。

「ガウガウ!」
「うおっ! なんだ?」

 夜になって船員達がピリピリしながら夜通し見張ると言ったので、聖女に結界を張ってもらい、もし範囲内に押し入ろうとする者がいたら、連絡するということで、通常業務範囲の仕事を、交代で行ってもらうこととなった。
 あんまり海賊にばかりぴりぴりしていると、航行に問題が出そうだしな。

 もし夜中に海賊が近づいて来たら、聖女が目を覚ますことになってしまうが、こういう事態だ、すまないが頼むと言っておく。
 当の聖女は、やっと役に立ててよかったと喜んでいたので、逆に頼んでよかったようだ。

 俺としては、いつもの癖で眠れないので、どうせならと甲板のベンチに寝そべっていた。
 そうしたら、いきなり若葉が耳元でがなり立てたのだ。

「ピャ?」
「ガフン」

 フォルテが相手をして、すぐに俺を振り向いて、説明してくれる。

「クルル……」
「え? 若葉が相談があるから、フォルテと意識を合わせろって? こんなときに仕方ないな」

 まぁ俺が起きていても何がある訳でもないので、了承した。

「で、なんだ?」
「ガフガフン(アルフが急に魔力をくれなくなった)」
「そりゃあ仕方ないだろ。お前、アルフに何も言わずに勝手に伴侶とか言ってただろ?」
「ガフン?(どういうこと?)」
「どういうこともなにも、それが全てだよ。アルフは一方的に何かを押し付けられるのが嫌いなんだ」
「ガウ!(伴侶と決めたのは僕であって、アルフは関係ないよ?)」
「お前達の感覚はよくわからないが、人間において伴侶というのは、生涯を共にする相手のことを指す。そういう大事な関係性は、お互いが納得してから結ぶものなんだ」
「ガフン?(よくわからないけど、アルフが納得すればいいってこと?)」
「まぁそうだな」
「ガフッ!(わかった! ありがとう!)」

 そう言うと、若葉はキラキラと美しい輝きを残して、その場から消えてしまった。

「……神出鬼没だな」
「ピャウ」

 俺はもう、若葉のことで驚くのは止めることにしていた。
 ドラゴンなんだから転移魔法とか使えてもおかしくないだろう。

 フォルテはなんだか疲れたらしく、ごそごそと俺の首元に巻き付くように潜り込んだ。
 まるでひな鳥のようにキュウキュウと鳴いている。
 俺の下手な歌でも聴くか?

 空には満天の星が輝いている。
 周囲を海賊に囲まれているとは思えないほど、静かな夜だった。

 翌日、日が昇ると共に、海賊船と波立つ海が広がるばかりの光景に、違うものが姿を表した。
 水平線上にポツポツと浮かぶ、黒い点のような存在だ。

「あれは悪名高い海賊諸島ですね」

 甲板の上で、朝の計測を始めようとしていたタラッタが、ハッとしたように、その影を見つけて言った。
 やれやれ、やっと着いたか。
 勇者達はちゃんと眠れたかな? 楽しみにしすぎて眠れなかったみたいなことになってないといいが。
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